少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました

猫むぎ

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貧民堕ち

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家族が貧民堕ちしたなんて、信じられなかった。

貴族、平民、貧民という国の階級は家族全員の階級だ。
両親が平民で子供が貴族という事はなく、資産の多さで決まる。
そして、家族の誰か一人でも貧民だと貴族階級であっても貧民に堕ちる。
もし家族がバラバラに過ごしていたら見逃される事もあるが、貧民堕ちした家族だと知られたら貧困街に入れられる。

貧困街は犯罪者が数多くいて、無法地帯だと言われている。
貧民堕ちした奴は自業自得だと言われて、街に出ると怯えられて石を投げられたりしている。
だから貧民は滅多に街にいない、いる時は犯罪を犯す時だと街の人達からなんでも屋の仕事の休憩で聞いた事があった。

だから俺は貧民はどんなところか分からなかった。

体を投げられて、体が擦れて痛くて意識が戻った。
視界に騎士がいて、すぐに俺に背を向けて行ってしまった。
ズキズキと痛む体を庇いながら目の前を見ると、目を見開いた。

さっきから時間がそんなに経っていなかったのに、薄暗い世界が広がっていた。
灯りは小さな蛍のような光だけだ。

店は露店がいくつもあり、子供達が走り回ったりして…話し声があちこちから聞こえた。

空を見ると、魔法陣が見えて…まるで屋根があるように空を隠していた。
服はぼろぼろで、お金がなさそうな街だが住んでいる人の知恵で暮らしているらしい。

騎士に連れられた此処は、もしかして…

「おいお前、新入りか?」

「…あ、の…」

「ようこそ、俺達の国へ!」

俺の目の前に現れた、そばかすが印象的な明るい青年が手を差し伸ばしてきた。
差し出された手を握って、立ち上がる。

ここは、貧困街なんだ…初めて来た。
勝手に怖い人達がいっぱいいると思っていたが、見た感じ怖い人は見当たらなかった。
それどころか、楽しげな声が聞こえる。

俺が聞いていた噂とは違って見えた。
噂を聞いていなかったら犯罪者達が集まる場所だとは思えなかった。

それに、両親が犯罪に手を染めたと考えたくもない。
ギュッと手を握りしめると前を歩こうとしていた青年は足を止めた。

「貧困街に来た奴らは皆そういう顔をするんだ、お前も嫌な噂を聞いたんだろ?」

「……ごめんなさい」

「お前が噂を広めたわけじゃないんだから気にするなよ!分かってくれる奴だけ分かってくれたらそれで…」

まだ来たばかりだから貧困街がどういうところか分からない。
とりあえず今は貧困街にいるはずの家族に会いたい。
貧民堕ちしたというなら、必ずこの街の何処かにいるはずだ。

俺は青年に「グリモアって人を探しています、知りませんか?」と聞いた。
すると青年はキョトンとした顔をされて、苦笑いされた。
あれ?また変な事を言ってしまったか?

「敬語なんていらねぇよ、俺の名前はリラだ…この街の中で捨てられて…俺にとってここにいる奴らが家族のようなものだ」

「俺はユーリ・グリモア、両親が貧民堕ちしたって聞いて確かめたいんだ」

「なるほどな、そういえばグリモアって名乗る新入りが確かいたって聞いた事があったな」

「本当!?」

俺は両親の手がかりを見つけて、嬉しくてリラに向かって一歩近付いた。
少し引いていたが、リラは両親のいる場所を教えてくれた。

まだ会わないと俺の家族か分からない。

リラの案内で後ろから着いていく。

この街一つが小さな国のようになっている。
貴族や平民の力には頼らないという意思を感じる。

リラに案内された場所は、木造の家だった。

壁の木が少し剥がれていて、ドアノブは錆び付いていて屋根は木の板を乗せただけの危うい感じがする。
少し強いレベルの風の魔術ですぐに吹っ飛んでしまいそうだ。

リラは気を利かせて、歩いて何処かに行ってしまった。

軽くドアを叩いただけで、びっくりするほど大きな音が出た。
壁もドアも薄いんだな、雨除けにはなるとは思うけど……見た目だけだと雨漏りしそうだ。

家から誰かの声が聞こえた、その声を聞いてとても悲しい気持ちになった。

「はい、どちら様で………ユーリ」

「母さん」

ドアが開いて、目の前に立っていたのは間違いようもない母の姿だった。
俺が家から出た時とあまり変わっていないが、顔色は悪かった。
寝ていないのか目元にある黒いクマが凄かった。

とりあえず家の中で話す事になり、外装ほど酷い中ではなくて少しホッとした。
家具という家具はなくて、布団だけ床に敷いているだけだった。
座る場所がなくて、布団の上にお邪魔して座った。

「ユーリ、仕事先からこっちに来たの?」

「え?なんで?」

「貧民堕ちした家族は別に暮らしていても、名前を知られるとここに連れてこられるのよ」

そうか、俺はなんでも屋の事務所にいるから先輩達は俺の名前を知っている。
貧民を庇うと自分まで危害が及ぶから俺を庇う事はしない。
グリモアの家の家族情報は騎士が握っているから勤め先も全て調べられている筈だ。

見逃される場合もあるが、それはこの国にいないとか運良く職業を変えていたら足はつかないのかもしれない。

なんでも屋の事務所にもきっと騎士が来ていた。
でも、俺の前に騎士は現れなかった…学校も…なんでだろう。

イヴの家で雇われたからか?イヴはなんでも屋の事務所と正式に契約を交わしていないという事か?
イヴが全部すると言っていたから全て任せてしまった…今までそれで不自由はなかった。
俺が今まで何も知らなかったのは、イヴが守ってくれたからなのか。

学校には来る筈だけど、一度も騎士は見た事なかった。
この国の人が大勢通う学校で、たった一人を探す労力は使わないという事なのかもしれない。
教師でさえ生徒の名前なんていちいち覚えていないし、俺の場合は選択授業だ…今日受ける生徒の名簿があるわけではなく、自由参加だから探すのはさらに困難だ。
授業を受けていないサボる生徒もいるし、学校は外したのだろう。

貧民堕ちをする騎士だが、そこまで真面目ではない。

俺は手紙を送ったけど返事が来なくて、前の家に向かったらこうなった事を説明した。

「そう…ごめんなさい、手紙を送ったのだけど引っ越していたのね」

「俺ももっと早く母さんに知らせておけば」

イヴの家にいる事は言わずに、引っ越したとだけ言った。
何故、突然貧民堕ちしたのか…聞きたかった。

決して裕福ではなかったが、父さんの稼ぎだけで食っていけるほどのお金はあったのに…

それを母さんに言うと、母さんは目線を下に向けて一つ一つ話してくれた。

父さんは人が良くて、人望もそれなりにあった。
商売をしているといろんな人に出会うわけで、ある日父さんは借金を背負った。

自分が使った金ではなく、30年以上仲良くしていた親友の肩代わりだ。
そして親友は父さんに借金を押し付けて国から出て行った。
父さんとの友情よりも、自分を大切にした結果だった。

よくある話だが、まさかこの世界の自分の家族がこうなるとは思わなかった。
両親は借金のせいで貧民堕ちをして、ここで稼いで少しずつ借金を返しているそうだ。

正直、貧困街で仕事をするより普通の街に出て仕事をした方がすぐに返せる。
俺も使用人の仕事を頑張って返す、家族の借金は俺も無関係ではない。

そう提案するが、母さんは首を横に振っていた。

「ダメなのよ、この街に入った者は出る事が出来ない」

「…どういう事?」

「街の入り口に結界があるのを知ってる?その結界は雷の魔法陣で魔力レベルが3じゃないと通れないのよ」

魔力レベルが3…騎士しか通れない理由が納得出来た。
高魔術を持つ人が少ないと言われている魔術は雷使いだ。
他の魔術ならレベル3は平民にもそれなりにいる。

でも雷の魔術は戦闘に特化した魔術と言われていて、騎士の中でも一握りしか雷の魔力レベルが3以上はいない。
そしてレベル5はイヴ…聖騎士と魔騎士しかいないと言われている。
だから自由に出入り出来るのは騎士だけ、本当に貧困街は隔離されたところのようだ。

「でも街で貧困街の人を見かけた事があったよ」

「たまに抜け出す人がいるみたいよ、どうやってかは知らないけど……でもあの街では家がない者に仕事は与えられないし、騎士に見つかったら酷い目に合わされて貧困街に戻ってくる、その人は二度と街には出ないそうよ」

そうだったんだ、知らなかった…貧民堕ちをする人にはいろんな事情がある、俺の家族のような事情も少なくはない筈だ。
だからこの街が独立して一つの国を作り出しているそうだ。

この街から出れないなら、イヴに知らせる事も出来ない。
きっと貧困街を管理している騎士がいる筈だ…イヴは聖騎士だから知らされていなくても不思議ではない。

でも、必死に貧困街から逃げ出したのにわざわざ街で罪を犯して捕まるような事をするだろうか。
まだまだなにかあるのかもしれない、ここにいたらきっと分かってくる。

母さんが何度も謝ってきたが、俺は既になってしまったものは受け入れなくてはいけないと思っている。
ここで嫌だと喚いても何も始まらない、だったら馴染む事から始めないと…

ここでも仕事があるなら、俺は貧困街のなんでも屋をやる…母さんの話によればそういう仕事をしている人はいないらしい。

母さんは情報屋という人が貧困街にいる事を教えてくれた。
その人はこの街に一番詳しくて、困った事があったらその人に聞いた方が分かると言っていた。

両親もまだここに来たばかりだから、詳しくは知らないらしい。

「わかった、聞いてみるよ」

「リラさんっていう人で、そばかすの…」

「あ、俺その人にさっき会ったよ…ここに案内してくれたのもその人なんだよ」

まさか彼が情報屋だとは思わなかった、彼なら分かるから後で訪ねてみよう。
イヴに連絡する手段がなにかないかな、直接会う事が出来なくてもなにか…

母さんに水晶型の通信機を貸してほしいとお願いしたら首を横に振られた。
それは嫌というわけではなくて、売ってしまったと言っていた。

貧困街では魔導機が全て使えなくて、ガラクタなんだそうだ。
魔導機が使えない、生活に一番必要なものなのに…

ほとんどの人は畑を作って自給自足の生活をしているらしい。
風呂も自分で水の魔術と火の魔術を使っている。
ずっと魔導機のある生活をしていたから、魔導機がない生活に慣れるには時間が掛かるだろう。

街を見て回りたくて母さんに出かけてくると言って家を出た。
伝書鳥もいないかな、イヴさんに帰るって言ったのにこれじゃあ誤解されてしまう。

外にはリラがいて、俺を見ると大きく手を振っていた。

「どうだった?ユーリの家族だった?」

「うん、ありがとう…リラのおかげだよ」

「へへっ!俺に何でも聞けよ、この街に関しては情報通なんだぜ!」

リラの頼もしい言葉に頷いて、街を見て回りながらいろいろ聞く事にした。
まずは伝書鳥の扱っているお店はあるか聞いてみた。

伝書鳥でなくても外と連絡が取れればそれでいい。
でもリラは首を横に振っていて、イヴと連絡する手段はなさそうだ。

何故魔導機が動かないのか、上を見ながら教えてくれた。
上には魔法陣がある、あれのせいで空は見えないし魔術も妨害されて貧困街は隔離状態になっているらしい。

「俺はいつか、ここを抜け出すんだ…ここにいる奴らは皆そう思っている」

「……俺も出たい」

「あぁ、一緒に逃げ出そうぜ!」

イヴに会いたい、会えないと分かった瞬間に俺の中でその気持ちが大きくなっていった。
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