少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました

猫むぎ

文字の大きさ
19 / 98

イヴ視点9

しおりを挟む
俺だけがその微かな変化に気付いて、胸に触れた。

心臓の鼓動を感じる、生きているのにまるで死んでいるようだ。

大きな黒い魔物が居なくなったら、人を襲っていた小さな黒い魔物も消滅した。
まるで魔物だけが、そこに存在していなかったかのようだ。

何故消えたか分からないが、ユーリの体温が戻ってきて嬉しかった。

俺の腕の中で眠るユーリを優しく包み込むように抱きしめる。

顔色も戻り、スースーと可愛らしい寝息が聞こえる。
まさか、こんな時に間近で寝顔が見れるとは思わなかった。
触れる事も、もっと別のタイミングが良かった。

雰囲気は大切だが、こうして傍にユーリがいる事は変わらない。
頬に触れて、愛しげにユーリの名を口にすると少しだけ反応した。
小さな言葉ではない寝ぼけたような声でも、俺にとっては特別だ。

もう一度ユーリの名を呼ぼうと思ったら、突然周りの歓声に邪魔をされた。
今のこの状況を、綺麗さっぱり忘れていた。

周りは俺を帝国を救った英雄だと盛り上がっていた。
俺の肩に触れる騎士団の男が誰よりも鬱陶しい。
皆で勝利の喜びを分かち合いたいんだろうという事は分かる。

そんな事より、せっかくユーリに触れられたんだから二人っきりにさせてくれ。
勝利が嬉しいなら、勝手にやってくれ…俺を巻き込むな。

もう少し、この温もりを感じたかったがそうもいかなくなった。

俺のところにユーリの友人達とユーリの母親がやって来た。
泣きそうな顔で頭を下げられて、俺も無意識に頭を下げていた。

「聖騎士様!息子を助けていただきありがとうございます!」

「……いや、それは」

「なんてお礼をしたらいいか…」

お礼なんていい、俺がしたいからそうしただけだ。
お礼を言うのは俺の方だ、ユーリと出会わせてくれてありがとう。

それを口にするのは変だろうか、やっぱり確実にユーリを俺のものにしてからだ。

それなら何の不思議もない筈だ、挨拶しに行くのは当然だ。

後の事は自分達でやるとユーリを奪われてしまった。
手の温もりが俺から離れていくのに、ぽっかりと大きな穴が開く。

これが全く知らない他人だったら、どんな手段でも奪い返す。
でも、目の前にいるのはユーリを大切に育ててくれた家族。

ユーリを奪われてもこの人には何も言えない。
今は、悔しいけど俺より家族が傍にいた方がユーリは安心だろう。

ユーリに付き添いたいが、ユーリを見送っていたらグレイグがやって来た。

「イヴ様!ご無事ですか!?」

「……」

ユーリと別れるのは名残惜しいが、グレイグと一緒に歩き出した。
人々の盛り上がる声に眉を寄せながら、城に戻った。

待っていたのか、俺を見るなりエマ様が駆け寄ってきた。
どうにかしてほしくてグレイグを見るが、温かい目で見ていてどうしようもない。
騎士の仕事に王族のお守りも含まれていただろうか。

今日はユーリに会えないならゆっくりと休みたい。

ユーリにこんな情けない顔は見せられない。

グレイグは俺の疲労にやっと気付いたのか、エマ様を離れさせてくれた。

この日から、俺は聖騎士だけではなく帝国の英雄になり本当の意味の唯一無二となった。
今までは聖騎士と呼ばれていたが、公に力を見せた事はなかった。
元々見せるつもりはなかったが、より聖騎士に対しての憧れが強くなった。

目立つのは嫌だが、後悔しているわけではない。
ユーリを守った、その事実は絶対に変わらない。

俺の銅像を広場に立てるとか言っていて、それだけは全力で拒絶した。
俺は英雄だとか言われても、これ以上目立つ事には反対だ。
さすがにそれは恥ずかしい、ユーリにしか俺という存在を見せたくないのに…

騎士団の中には国民に対して威張ったりする奴がいる。
元々貴族出身の騎士が多いから、その延長だろう。

何を勘違いしているのか、騎士団は国を守るために命を差し出す存在……影の存在なのによく威張れるな。
そんなに威張りたいなら帝王になればいい、エマ様は一人娘だから結婚したら帝王になれるだろう。
エマ様と結婚するのは騎士でもいいみたいだし。

帝王は何故か俺を気に入り、エマ様と結婚させたがっている。
聖騎士だからそうしないといけないというなら、今すぐにでもやめてやる。

散々心に決めた人がいると言っているのに、まだ独り身だからとしつこい。
独り身の騎士なんて同じ歳なら腐るほどいる。

エマ様だって選ぶ権利があるだろ、俺にだってある筈だ。
幼少期からエマ様の騎士として護衛をしていたのが理由だろうか、今すぐにでもやりたい奴に譲る。

でも、ユーリは強くてカッコいい俺が好きだから…やっぱり最後まで責任を持った方がもっとユーリに好きになってもらえるかもしれない。
だから俺は続けている、エマ様の護衛も聖騎士として人前に出る事も…ユーリのためなら苦ではない。

ユーリは病院に行ってすぐに元気になったようで、元気に走り回っていた。
良かった、ユーリが無事で…でもやっぱりユーリと離れるのは危険すぎる。

俺が守らないと、ユーリを…やはり離れるべきではない。

ユーリはまだ16歳、子供だ…もっと大人にならないといけない。
大丈夫、もう10年以上ユーリを毎日想っている。
数年くらい、我慢出来る…瞳に映さなくても俺とユーリの心はいつも寄り添っているよ。

城のバルコニーから街の全体を見渡せる、ユーリが住んでいる平民街を見つめて微笑む。

「聖騎士様!!」

下から俺を呼ぶ声が聞こえて、目線を下に向けると城に届け物をしている商人が手を振っている。
無視も出来るが、聖騎士の評判を下げるとユーリもガッカリするかもしれない。
軽く手を振ると、商人が嬉しそうにしていた。

これのなにがいいのか分からない、ため息を吐いて…もうバルコニーに出るのはやめようと思って部屋に戻った。

それにしても、黒い魔物は何故突然普通の人にも見えるようになったのか…ユーリに関係ない事なら特に気にする事はないが…また魔物を見てパニックになったら面倒だ。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる

桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」 首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。 レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。 ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。 逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。 マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。 そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。 近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン

人気俳優に拾われてペットにされた件

米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。 そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。 「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。 「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。 これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

魔法使い、双子の悪魔を飼う

yondo
BL
「僕、魔法使いでよかった」 リュシーは宮廷専属の優秀な魔法使い。 人が寄りつけない程強い自身の力のせいで常に孤独なリュシーは、ある日何気なく街を歩いていた際に闇商人の話を聞いてしまう。貴重で価値ある''モノ''を高値で買い取る悪趣味な会が近くであるらしく気になったリュシーは其処で不思議な双子と出逢いを果たす。 本の見よう見まねで無償の愛を与え続けるリュシーに育てられた双子はいつしか胸の内に何とも言えない感情を抱く様になり... 独りぼっちだった魔法使いが出逢いを通して彼等と関係を紡いでいき幸せを知る微闇要素有りのBLファンタジー。 (※) 過激描写のある話に付けています。 *** 攻め視点 ※不定期更新です。 ※誤字脱字の報告助かるので嬉しいです。 ※何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様 (無断転載×)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...