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1.バ美肉やくざ
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ゲーム実況、雑談、歌、ASMR、教育など、動画配信の分野は多岐にわたる。
その中で「鳥籠ユメミ」が選んだのは“雑談”だった。
あまりにも人と話す機会がない環境に長く置かれていたせいで、社会性や言語感覚が衰えているのではないかという不安があったからだ。
アバターは染谷自身の手によるものだった。
もともとIT系に進んだのは、学生時代から生成AIを使ってライティングやイラスト、動画制作、プログラミングなど、オタク的な趣味に没頭していたからだ。最初はAIに命令を出して結果を受け取るだけだったが、出力されたものを分析し、そこから技術を吸収して自分のスキルとして身につけていった。
そうした試行錯誤の末に生まれたのが、「鳥籠ユメミ」という存在だった。
基本は雑談配信なので、特別な見どころがあるわけではない。時折ゲーム実況のようなこともするが、視聴者からの質問やお悩みに答える程度の内容だ。配信初期は、使用している機材や“中の人”についての話題が多かった。
「こんばんわ!」
画面に「おとうふさん」からのコメントが表示される。投げ銭の金額は5000円からだった。
「わー。こんばんわ、おとうふさん。今夜は仕事で参加できないって言ってたのに。嬉しい」
「だるい会議がサクッと終わったからね」
「よかったぁ。久しぶりに一人漫談しなきゃならないかと思って不安だったんですよね。よろしくお願いします」
染谷は、ユメミの声を通して返事をした。
このリスナーが現れてから、チャンネルの方向性が少しずつ変わってきた。 相手が男性か女性かはわからないが、どうやら染谷と同じ“界隈”の人間らしく、話題の内容がかなり際どい。染谷にとっては日常会話の延長のようなやり取りだが、それが他のリスナーには新鮮で面白く映るらしい。まるでラジオ番組のパーソナリティとアシスタントのような掛け合いに、視聴者がコメントで参加するスタイルが定着し、運よく登録者数も増えていった。
染谷の属する世界は、社会の表には出てこない裏側だ。ニュースでは語られない暴露話や裏事情に触れることもある。また、染谷自身の社会に対する独特な感性も、「おとうふさん」をはじめとする多くのリスナーの心に響いたようだった。
配信が盛り上がると、投げ銭の金額もどんどん跳ね上がる。「おとうふさん」以外にもユメミを推すリスナーは多く、スパチャ合戦になることも珍しくなかった。
その結果、黒部への上納金の大部分は、この配信による収益でまかなえるようになっていた。
配信時間はいつも17時から19時までと決めている。20時を過ぎると、その日の実績確認のために黒部がやってくるからだ。 染谷はちらりと時計を見た。すでに19時を少し過ぎていた。
「あっと……ごめんねぇ。そろそろ終わりにしなきゃ」
『彼氏?』(1万円)
『旦那だ!』(3万円)
『子供のお迎えとか?』(3000円)
「うふふふ。ご主人様♡ それじゃあまた、明日ね~。おやすみなさ~い」
配信ソフトをやや急ぎ気味に終了させ、再び時計を確認する。
まずい。 早く機材を片付けなければ、黒部の兄貴が来てしまう。
PCをはじめ、機材一式とそのアップデート分も含め、すべて組の経費で購入していた。
もちろん名目上はモザイク加工に必要なものということになっているが、実際には動画配信用の機材もこっそり混ぜている。幸い、組の人間はIT機器に疎く、マイクやカメラが何に使われるかなど想像もつかない。明細に型番だけが記載されていれば、なおさら気づかれにくい。
とはいえ、現物を見られれば業務外の支出だと疑われるのは確実だった。それだけは避けたかった。
「これで……大丈夫、っかな?」
デスク周りを見回し、機材を鍵付きの引き出しにしまい、施錠する。 その瞬間、玄関のインターホンが鳴った。
「はい」
『俺だ。あけろ』
「あ、すぐに」
ドアホンの小さな画面には、黒いスーツを着た四十代の男が、染谷を鋭く睨みつけていた。
その中で「鳥籠ユメミ」が選んだのは“雑談”だった。
あまりにも人と話す機会がない環境に長く置かれていたせいで、社会性や言語感覚が衰えているのではないかという不安があったからだ。
アバターは染谷自身の手によるものだった。
もともとIT系に進んだのは、学生時代から生成AIを使ってライティングやイラスト、動画制作、プログラミングなど、オタク的な趣味に没頭していたからだ。最初はAIに命令を出して結果を受け取るだけだったが、出力されたものを分析し、そこから技術を吸収して自分のスキルとして身につけていった。
そうした試行錯誤の末に生まれたのが、「鳥籠ユメミ」という存在だった。
基本は雑談配信なので、特別な見どころがあるわけではない。時折ゲーム実況のようなこともするが、視聴者からの質問やお悩みに答える程度の内容だ。配信初期は、使用している機材や“中の人”についての話題が多かった。
「こんばんわ!」
画面に「おとうふさん」からのコメントが表示される。投げ銭の金額は5000円からだった。
「わー。こんばんわ、おとうふさん。今夜は仕事で参加できないって言ってたのに。嬉しい」
「だるい会議がサクッと終わったからね」
「よかったぁ。久しぶりに一人漫談しなきゃならないかと思って不安だったんですよね。よろしくお願いします」
染谷は、ユメミの声を通して返事をした。
このリスナーが現れてから、チャンネルの方向性が少しずつ変わってきた。 相手が男性か女性かはわからないが、どうやら染谷と同じ“界隈”の人間らしく、話題の内容がかなり際どい。染谷にとっては日常会話の延長のようなやり取りだが、それが他のリスナーには新鮮で面白く映るらしい。まるでラジオ番組のパーソナリティとアシスタントのような掛け合いに、視聴者がコメントで参加するスタイルが定着し、運よく登録者数も増えていった。
染谷の属する世界は、社会の表には出てこない裏側だ。ニュースでは語られない暴露話や裏事情に触れることもある。また、染谷自身の社会に対する独特な感性も、「おとうふさん」をはじめとする多くのリスナーの心に響いたようだった。
配信が盛り上がると、投げ銭の金額もどんどん跳ね上がる。「おとうふさん」以外にもユメミを推すリスナーは多く、スパチャ合戦になることも珍しくなかった。
その結果、黒部への上納金の大部分は、この配信による収益でまかなえるようになっていた。
配信時間はいつも17時から19時までと決めている。20時を過ぎると、その日の実績確認のために黒部がやってくるからだ。 染谷はちらりと時計を見た。すでに19時を少し過ぎていた。
「あっと……ごめんねぇ。そろそろ終わりにしなきゃ」
『彼氏?』(1万円)
『旦那だ!』(3万円)
『子供のお迎えとか?』(3000円)
「うふふふ。ご主人様♡ それじゃあまた、明日ね~。おやすみなさ~い」
配信ソフトをやや急ぎ気味に終了させ、再び時計を確認する。
まずい。 早く機材を片付けなければ、黒部の兄貴が来てしまう。
PCをはじめ、機材一式とそのアップデート分も含め、すべて組の経費で購入していた。
もちろん名目上はモザイク加工に必要なものということになっているが、実際には動画配信用の機材もこっそり混ぜている。幸い、組の人間はIT機器に疎く、マイクやカメラが何に使われるかなど想像もつかない。明細に型番だけが記載されていれば、なおさら気づかれにくい。
とはいえ、現物を見られれば業務外の支出だと疑われるのは確実だった。それだけは避けたかった。
「これで……大丈夫、っかな?」
デスク周りを見回し、機材を鍵付きの引き出しにしまい、施錠する。 その瞬間、玄関のインターホンが鳴った。
「はい」
『俺だ。あけろ』
「あ、すぐに」
ドアホンの小さな画面には、黒いスーツを着た四十代の男が、染谷を鋭く睨みつけていた。
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