推しはそのスジの中の人

おおらぎ

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4.暴かれた中の人

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 本家の若頭が来るらしい。
 その話が黒部の耳にもたらされたのは、ある日の午後のことだった。

「俺に話?」

 事務所でパソコンに向かっていた黒部はあからさまに顔をしかめる。向こうにどんな用件があるかは知らないが、こちらには向こうとなんらか話をする用はない。ただ本家からの訪問者であるから、断ることも出来ない。
 律儀に時間通りに黒塗りのセダンが事務所の前に止まるのを確認して、黒部は事務所から応接室へ移動した。

「話があるなら、そっちが本家に呼び出せば良いでしょうよ」

 ローテーブルを挟んで革張りのソファに座り、黒部は不機嫌にゆっくりと低い声で言った。 いつもなら双方の背後には弾よけの若いのが何人か控えているものだが、今日は本家若頭の方が黒部と二人きりにしてくれと人払いがされている。

「親父はいずれそうするつもりらしい。ただ肝心要のお前さんが、飼い犬の躾がなっちゃいねえようだから、お披露目の前に助言してやろうと思ってよ」
「大きなお世話だ」

 黒部と本家の若頭は歳が近い。それぞれが若頭補佐と若頭という立場になる前は、時々会合で話をする程度には面識があった。 だから親しい、というわけではない。 特に本家の前若頭が不慮の死を遂げて彼が後釜に座り、その後、親父の愛人だと陰口を叩かれるようになってからはすっかり縁が切れてしまっていた。
 そんな彼が何の用なのか。いぶかしむ黒部の前で、傍らの本革のブリーフケースを開けて、中に手を入れる。黒部は銃やドスの類を想定して、身を固くして構えた。

「まあそういきり立つなよ。あんたらのシノギを追ってたら、おもしろいものを手に入れてね」

 本家若頭はにやにやと笑ったまま、ブリーフケースから薄い本を一冊取り出す。

「なんだいこりゃ?」
「この入墨、見覚えがないか?」

 言われて黒部は表紙をまじまじと眺める。

「……同じじゃねえが……知ってる、な」

 若頭によるとこの本の中で40歳のヤクザを狙っているのは、どうやらその隣に書かれた女の子、鳥籠とりかごユメミであるらしい。
 逆レイプ? と黒部は首をかしげた。女性上位の話は珍しくはない。SMクラブの女王様と同じコンセプトだ。驚きもない。

「この本は全編にわたって生成AIが利用されている。生成AIには学習モデルっていう、元になるデータがあるらしいじゃないか」
「そうだ」

 黒部は余裕綽々で答える。その件は数日前に染谷から聞いたところだったからだ。

「ということはこの画像は作者のオリジナルではなく、どこかから仕入れた図柄だ、って話になる。似たような図柄はネットでも見かけることがあるが、基本俺たちの背中に針を入れるような職人は、使った図柄を公にしたりしない」
「何が言いてぇんだ?」
「この本の作者、おまえんところの染谷だろ?」

 本家若頭の探りに、黒部はあえて態度を崩さずに無言を貫いた。知らないからである。

「このこと……本家の親父には?」
「見せてない。だが腹の立つことに、あの人はお前の情人イロが欲しくてしかたないらしい」
情人イロじゃねえよ」
「だがこの本が奴の作ったものなら、そこに書かれてる手管は、俺たちもよく知ってる『兄貴』の技だ。まさか実地もせずに、そこまで詳しく描けるもんかね?」

 黒部はまた黙る。 本家若頭はそれをどう取ったのかは知らない。ただ黒部の目にはたいそう満足そうに見えたので、彼の中で納得のいく答えを自ら得たのだろうと思われた。

「どうするつもりだ?」
「どうもこうもねえよ。親父が会いたがってる。近いうちに招待してやるから、染谷おめかしさせて、来させろ」

 本家若頭の声は不機嫌に重く低かった。
 本当は会わせたくないのだと、黒部は理解する。彼は嫉妬深い。自分の地位組長の愛人の座を脅かす相手を許さない。言うことを聞いてもこの男の不興を買い、抵抗すれば組長の不興を買う。二人の痴話げんかに巻き込まれて、どっちにしても命を狙われるのだから迷惑な話だった。

「ラーメン屋と同じ運命を辿りたいなら好きにすればいい」

 かすかに鼻で笑って若頭はゆっくりと立ち上がる。ご丁寧にも持ってきた薄い本は土産とばかりに置いていった。
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