推しはそのスジの中の人

おおらぎ

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5.全て世は大団円

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 染谷はてっきり殴られると思っていた。

「座れ」

 黒部はすぐに配信を終わらせるよう顎で指示すると鋭く吠えた。リスナーのざわつきに見送られる形で配信を急遽終了させて染谷は椅子を立つ。ソファにどかっと腰を据えた黒部の前で、染谷は床に正座で直座りした。

 正直、怖い。

 染谷がそう感じるのは三度目だ。
 初めては売掛金の返済計画をどうするのか、と迫られた時。次は風俗で働かせるためといって黒部に初めて仕込まれた時。そして今である。
 二人の間に黒部が持ってきた薄い本がバサッと置かれた。
 『極道四十歳、可愛いあの子がタマ狙ってます』と描かれた表紙を前に、染谷の背筋がぞわわわわと波打つ。あとから炎のような羞恥が体を熱くした。もうどこから弁明していいものか、わからなかった。
 そんな染谷を前に黒部は大きくため息をついた。

「それは、おまえが描いたもんだな?」

 染谷はためらう。
 そうだ、とは答えたくない。答えればすべてを認めることになる。一つ認めれば、隠していることが露呈して、それらすべてを認めることになる。その結果がスペア用臓器コース以外には考えられなかった。
 ただ染谷のためらいなど黒部はもうお見通しで、いたずらを見つかった子供を見る親のように、また大きくため息をついた。

「隠しても無駄だろ。おまえがユメミちゃんのアフレコしてんの、俺は見ちまったんだから」

 黒部は先ほどまで自身のスマートフォンに映っていた配信画面のスクリーンショットを染谷に突きつける。

『さすがユメミちゃんだな』

 おとうふさんの投げたコメントが映っている。
 染谷はちらりと上目遣いで黒部を見る。薄々気がついていたこととはいえ、黒部が自分から正体を暴露してきたのだから、隠しておくのはフェアではない。こくり、と頷いた。

「……怒ってます?」 
「怒っては……ないな。困ってはいるが……」 
「すいません……困らせちゃって」

 自分の借金の件が事のメインではあるが、黒部の役に立ちたいと思うところもあった。そのための稼ぎでもあった。それがバレて、黒部に迷惑をかけている事実に、染谷はしゅんと肩を落とす。
 ああ、スペア用臓器(輸出用)……。
 そんな覚悟まで染谷がしていると、くしゃっと髪を黒部の肉厚の手に乱された。

「ばぁか。謝んなよ」

 思いがけもしない優しい声でそう言って黒部が微笑む。
 ときめきが胸の内でキラキラ輝いてきゅんきゅん揺れた。
 染谷は黒部の顔を見上げ、ゆっくりと犬のように顔を近づける。
 それを見る黒部の目はヤクザ組織の兄貴分ではなく、艶やかな男としての色気を感じさせた。

「黒部さん……俺……」 
「おめえ、俺に惚れっちまったのか?」

 染谷の顎にすいっと黒部の手が添えられる。指先が軽く顎下を撫で、染谷は心地よさにうっとりと目を閉じて、泣きたいような気持を抱えて白状した。

「黒部さんのこと、俺、好きです」 
「俺を抱きたいのか? あの本みたいによぉ」 
「抱きたい。抱いて、鳴かせたい。俺が黒部さんにしてもらってるみたいに気持ちよくしたい。ぎゅってして胸の中にすっぽり抱きしめて、そのまま俺しか考えられないくらい夢中にさせたい。その気持ちが止められなかったんです」

 欲望が走るまま本を描いてしまった。生成AIがなければ創作にかかる時間がその気持ちを少しはクールダウンさせたかもしれない。なのに、次々とあふれ出る妄想がテクノロジーの力を借りて瞬時に形になった。止められなくなった。それが飛ぶように売れるとさらに脳内に変な麻薬があふれ出して、染谷の理性は完全に麻痺していった。

「ま、俺も欲望よくを飯の種にしてる側だからな、わからなくはねえけどよ」

 ふうっとまたため息をついて黒部が視線を逸らす。目を閉じたまま、染谷はぐすぐすと情けなく半泣きになっていた。

「ごめんなさい」 
「だぁかぁら。謝んなよ。そんなに抱きたきゃ抱かせてやるから」 
「え?」

 今、なんと、おっしゃいましたか?

 染谷の頭が真っ白になった。まつげを湿らせていた涙も引っ込む。かわりに調子のいい股間が途端にいきり立った。
 黒部はけだるげにソファから立ち上がると、普段は綺麗に撫で上げた髪をばりばりと乱しながら風呂場へと向かっていく。

「今はその煮えた頭をとりあえず一発ヤッておちつかせようぜ。その件に絡んでいろいろと考えなきゃならねえ話もあるんでな」

 ベッドの支度をしていろと命令し、黒部が風呂場に消えていく。
 リビングの床の上にとり残された染谷は、信じられない据え膳に股間を堅くとがらせて、行き場のなくなった片手をあげたまま、呆然とその背を見送った。
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