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5.全て世は大団円
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かつん。
庭に面した二十畳ほどの和室から眺める日本庭園で、鹿威しが水音を響かせて鳴った。 開け放たれた障子戸から麗らかな初春の光が差し込む。幸いに風はなく、冷えた空気があたりに漂っていた。 再びカツン、と鹿威しの音が鳴る。
「君が……染谷君か」
今日は渋い灰銀のスーツを着た本家組長は、畳三枚分を挟んで正座する染谷を舐めるように見た。対する染谷は神妙に、少し俯き加減でじっとしている。 いつもずらりと並ぶ若頭や組長衆はそこにいない。染谷の近くに控えているのは黒部一人で、組長の傍らには若頭が座していた。
「でかい男やのう」
組長がにやにやと笑う。
基本的には、明確な問いがあったとき以外は答えるな、と黒部には言い含められていた。まるで妖怪に対する扱いのようだ。しかし、何も返さないのも組長の機嫌を損ねるだろうか、と染谷は軽く頭を下げた。
きれいに撫でつけられた前髪が、サラリと一房額にかかる。ろくに外に出ることもないせいで伸びっぱなしだった髪は、何年かぶりに散髪店で整えられていた。その散髪店は、本家の組長や若頭もよく利用するところで、店主の親父は本家組長の好みをよく知っているらしい。その髪型で、長い手足によく似合う黒いスーツを着こなしていた。
組長の視線には好色な興味が湧きたち、隣に座る若頭からの殺気に満ちた視線が染谷に向けられた。その若頭に対して、黒部の牽制する睨みが向けられている。三竦みならぬ四竦みの状態に、染谷は居心地の悪さから胃が痛くなってきた。
「アイテー使うてるて聞いとるけど、儲かるんかいな?」
「使い方によっては」
「具体的には?」
「株とか……動画配信、とか……創作とか……」
「今、どこに住んどるん?」
「黒部の兄貴の持ってるマンションで暮らしてます」
「贅沢させてもろとるか?」
「それなり、には……」
「それなり、か。どや、不動産とかに興味はないか?」
「は?」
「管理が必要な物件がいくつかある。そこに住みながら、そのアイテーいうのを使うて、本家の管財をしてほしいんや」
「それは……」
染谷はちらっと黒部を見る。前評判通りの展開に、黒部はギリッと歯を食いしばっていた。
断れば、組長の機嫌を損ねる。
受ければ、若頭の嫌がらせを受ける。
どちらにしても地獄しかない。
どうするか。
染谷が返答を迷う、その時だった。
「若頭……ッ!!」
外廊下を黒服の組員が足早に入ってくる。彼は鋭く若頭に声をかけると、恐れと命令による心理的規制を踏み越えて彼に近づき、何かを耳打ちした。
ニヤリ……。
誰にも気づかれないように少々俯いた染谷は、いやらしい笑みを浮かべる。
すぐに無遠慮な足音が近づいてきた。それを押しとどめようとする一団の怒号と、それを押しのけようとする一団の怒号がぶつかり合う。どちらかが、いわゆるマル暴とか刑事課なんて呼ばれる国家権力機関であるはずだが、言葉遣いだけを聞いていると、どちらがどちらなのか染谷にはわからなかった。
その一団の中から、一番貫禄がある男が飛び出してくる。
「おどれ! 誰の前に立っとると思とるんや!」
組長が恫喝するが、男は目もくれない。胸元から取り出した令状を若頭の前に広げ、彼を逮捕しに来た旨を告げた。
罪状は『ラーメン店店主殺害の容疑』だった。
庭に面した二十畳ほどの和室から眺める日本庭園で、鹿威しが水音を響かせて鳴った。 開け放たれた障子戸から麗らかな初春の光が差し込む。幸いに風はなく、冷えた空気があたりに漂っていた。 再びカツン、と鹿威しの音が鳴る。
「君が……染谷君か」
今日は渋い灰銀のスーツを着た本家組長は、畳三枚分を挟んで正座する染谷を舐めるように見た。対する染谷は神妙に、少し俯き加減でじっとしている。 いつもずらりと並ぶ若頭や組長衆はそこにいない。染谷の近くに控えているのは黒部一人で、組長の傍らには若頭が座していた。
「でかい男やのう」
組長がにやにやと笑う。
基本的には、明確な問いがあったとき以外は答えるな、と黒部には言い含められていた。まるで妖怪に対する扱いのようだ。しかし、何も返さないのも組長の機嫌を損ねるだろうか、と染谷は軽く頭を下げた。
きれいに撫でつけられた前髪が、サラリと一房額にかかる。ろくに外に出ることもないせいで伸びっぱなしだった髪は、何年かぶりに散髪店で整えられていた。その散髪店は、本家の組長や若頭もよく利用するところで、店主の親父は本家組長の好みをよく知っているらしい。その髪型で、長い手足によく似合う黒いスーツを着こなしていた。
組長の視線には好色な興味が湧きたち、隣に座る若頭からの殺気に満ちた視線が染谷に向けられた。その若頭に対して、黒部の牽制する睨みが向けられている。三竦みならぬ四竦みの状態に、染谷は居心地の悪さから胃が痛くなってきた。
「アイテー使うてるて聞いとるけど、儲かるんかいな?」
「使い方によっては」
「具体的には?」
「株とか……動画配信、とか……創作とか……」
「今、どこに住んどるん?」
「黒部の兄貴の持ってるマンションで暮らしてます」
「贅沢させてもろとるか?」
「それなり、には……」
「それなり、か。どや、不動産とかに興味はないか?」
「は?」
「管理が必要な物件がいくつかある。そこに住みながら、そのアイテーいうのを使うて、本家の管財をしてほしいんや」
「それは……」
染谷はちらっと黒部を見る。前評判通りの展開に、黒部はギリッと歯を食いしばっていた。
断れば、組長の機嫌を損ねる。
受ければ、若頭の嫌がらせを受ける。
どちらにしても地獄しかない。
どうするか。
染谷が返答を迷う、その時だった。
「若頭……ッ!!」
外廊下を黒服の組員が足早に入ってくる。彼は鋭く若頭に声をかけると、恐れと命令による心理的規制を踏み越えて彼に近づき、何かを耳打ちした。
ニヤリ……。
誰にも気づかれないように少々俯いた染谷は、いやらしい笑みを浮かべる。
すぐに無遠慮な足音が近づいてきた。それを押しとどめようとする一団の怒号と、それを押しのけようとする一団の怒号がぶつかり合う。どちらかが、いわゆるマル暴とか刑事課なんて呼ばれる国家権力機関であるはずだが、言葉遣いだけを聞いていると、どちらがどちらなのか染谷にはわからなかった。
その一団の中から、一番貫禄がある男が飛び出してくる。
「おどれ! 誰の前に立っとると思とるんや!」
組長が恫喝するが、男は目もくれない。胸元から取り出した令状を若頭の前に広げ、彼を逮捕しに来た旨を告げた。
罪状は『ラーメン店店主殺害の容疑』だった。
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