強い女は好きですか?

おおらぎ

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 そしてたどり着いた現場。
 そこで幸人は信じられない光景を目にすることになる。

「おらぁ! 市警や! 出て来いや! 逃げとんとちゃうぞ! 開けぇ! 聞いとんのか! 黙っとらんとさっさと出てこんかい、ワレぇ! こっちは大家の了承もらっとんねん! 鍵壊して扉蹴やぶって、修理請求お前らに回すぞ! 聞いとんか! ビビッて布団被っとるんとちゃうんか! あぁ!」

 いち子の怒号が飛んだ。その眼は猛る興奮に爛々と輝き、その細腕のどこにそんな力があるのかと思うほど強く扉を叩いてしならせる。
 強面も、歴戦も、先輩も、後輩も、私服も、制服も、居合わせる男性警察官たちは皆、建物の扉の前に立ついち子の背後に控えている。いち子の口の悪さはますますエスカレートしていき、扉の外もたぶん中も、男性全員の心を折りにかかる。テレビ中継でもしたのなら、確実にピーピー警告音が鳴り響き続けるに違いない下品なボキャブラリーだった。
 その内容もさることながら、殺すぞこら! という本能に訴える恐怖の裏のメッセージを伴って野太く尖った声があたりに響き渡る。
 そうしているうちに内鍵の外れる音がして、ゆらりと扉が開かれる。
 立っていたのは熊のように筋骨隆々の若者だ。この寒いのにタンクトップで、金髪の短い髪を撫で上げている。なにかヤバいものでもやっているのか息遣いは荒く、黒目の小さな三白眼は少々血走っていた。

「クソ女! 女やからて舐めとんちゃうぞ!」
「それはこっちのセリフじゃ、ドサンピンが!」

 男が棍棒のような腕を振り上げて殴りかかる。しかしそれはいち子によっていともたやすく薙ぎ払われて、バランスを崩したところで膝、肘、腰などの曲がるとこは次々にたたまれて、あっという間にドアの横に石のように蹲ることになった。
 さっきまでの口の悪さは何だったのか、と思うほどに丁寧かつ事務的な口調でいち子はあたりに聞こえるように言った。

「確保しました。公務執行妨害、並びに暴行未遂、現行犯。友永君、手錠かけて」
「は、はい!」

 いち子に命令されて慌てて幸人は腰に下げた手錠を取ると、もたもたしながらも警察人生初の手錠をかける。

「突入!」

 係長の一声で背後に控えた男たちが無言で建物の中に入っていく。
 すぐに怒号、喧騒、モノの割れる音、制圧の宣言が聞こえてきて、幸人はそれが漏れてくるは薄暗がりの先を唖然と見つめていた。
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