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花弁舞う季節 《誠一郎side》
プロローグ
しおりを挟む澄清の空を櫻色の花弁が流れる。野山を駆け回る少年は、ふと空を見上げた。渡辺誠一郎5歳惜春の候である。
鹿児島の田舎で僕は生まれ育った。父は農家、母は専業主婦とよくある一般家庭に生まれ持病もなく元気な男の子であった。
そして小学校に入る頃に、町外れの日本屋敷に彼女が越してきた。蝋を固めたような滑らかな肌は身に着けている白のワンピースより尚白く、日に照らされて艷めく黒髪は肌の色によく映えている。血色のよい頬は大人びた顔立ちに少女らしさを与え、クリクリとした瞳は真っ直ぐに相手の瞳を見上げる。
名前を聞けば、1度目を伏せて右へ左へと黒目を動かし、おずおずと顔をあげて「…島崎咲子」と消え入るようなか細い声で言うのであった。
家が近かったこともあり彼女とは直ぐに打ち解けた。
それからは学校が終われば日が傾くまで山を駆け、雨の降る日は彼女の家の本を読んだりした。
小学校を出れば咲子は女学校に通い、自分は親の農家の手伝いをしながら咲子に女学校仕込みの勉強を教えて貰っていた。
そしてそれから時が経ち2人は二十歳となる。
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