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本編
卑怯な魔法をかけるのだ
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コンビニを出たあとも、りーちゃんはぶつくさ不満を並べていた。
いきなり先輩に対してタメ口で話し始めたわたしにりーちゃんは怪訝な顔をしていたが、すぐに先輩からのゴリ押しに流されたのだと察して、先輩への文句からわたしへのお小言にシフトチェンジしたのだ。
りーちゃんは流されやすいわたしを心配しているようで、同い年なのにお姉ちゃんみたいだった。
わたしの姉より、姉っぽい。
わたしと違って、りーちゃんは一人っ子だったと記憶しているけど、貫禄のある体格と相まって同級生とは思えない安心感があるのだ。
りーちゃんと別れたあと、墨色の電柱を何本も見送ったけど、先輩は未だにわたしの隣を歩いている。
しっかりと家の前まで送り届けるつもりらしい。
「先輩って、何か。部活に所属してたりするの?」
わたしの対話能力は相変わらずクソザコナメクジである。
その肌には一点の濁りもなかった、とまではいかないけれど、先輩は色が白い。
運動部ではなさそうだ。
そもそも、運動系の部活なら放課後も学校に残って練習三昧である。よく知らないけど。
わたしは運動があまり得意じゃない。むしろ、苦手な分類に入る。
小学校の頃から、体育の授業以外ではスポーツというジャンルに関わらないようにして生きてきたのだ。
「あー。アマチュア無線部。ほぼ人数合わせの幽霊部員だけど」
「へえ。……もしかして、盗聴とかできるの?スパイみたい」
ちょっと意外である。部活内容がよくわからないせいだと思うけど。先輩に言われるまでわたしはアマチュア無線部の存在すら知らなかった。
「盗聴っていうか、ランダムチャットみたいなもんだからな。一応、第四級アマチュア無線技士の資格は持ってる。顧問と風祭に取れって言われたからだけど……」
「風祭さん?美化委員会の風祭さん?……仲良いの?」
「そういや、アイツ美化委員会だったか。……幼馴染なんだよ。ほとんど腐れ縁みたいなもんだけど」
先輩はニコニコ顔を打ち消して、眉根を寄せた。
わたしには幼馴染という存在がいないのでよくわからないけど、付き合いの長い相手がいるのは少し羨ましいと思う。
「いいね。わたしも美化委員だからたまに話すんだけど。風祭さんって良い人だよね。怒るとめっちゃ怖そうだけど」
「まあな。……あーちゃんはアルバイトとかしてるの?」
「えっ、わたし?してるしてるー。お寿司屋さんでバリバリ働いてるぜ」
「そうなんだ。帰りは遅いのか?」
先輩はわたしの顔を覗き込むように首を傾ける。赤い瞳には鋭利な硬さがあった。
「うーん。八時くらい?そんなに遅くないよ」
「ふうん?心配だから、これからは迎えに行くよ。女の子一人だと危ないからな」
「えっ、そう?」
「うん。何かあってからじゃ遅いからな。あーちゃんは可愛いから」
「先輩って意外と心配性なんだね。わたしのこと大好きかよ」
「好きだよ」
間髪入れない返答だ。異性に、それもイケメンに女の子扱いをされるというのは悪い気はしない。むしろ、良い気分だ。
跳ねて飛んで、トランポリンでぴょんぴょんしたくなる。しないけど。
自分の両頬に触れると焼け火箸のように火照っていた。あちちちっ。
「あ、」
先輩は立ち止まる。コンクリートが靴で摺れる音がした。
いつの間にか新興住宅地の中心部を通り、わたしの住むマンションの前まで来ていたのだ。
このまま歩き続けていたら隣町まで行ってしまったかもしれない。お喋りすると時間を忘れてしまう。大袈裟ではない。
誰かと一緒に自宅の前まで来たのは初めてのことだった。
「あっ、ありがとうございました!」
身体を二つに折ってお辞儀をする。
自分から頼んだことではないけど、高校からわたしの家までは中々距離があるのだ。今から逆走するとなると先輩が自宅に帰る頃には日が暮れているだろう。
「ああ、うん?お礼なんて良いよ。明日から自転車通学にするね。朝、迎えに行くから。悪いとか思わないでね。俺がやりたいだけだし。ね?」
「えっ、は、はい……」
にこっ、と笑った先輩は手をヒラヒラ振る。
わたしの返事は脊髄反射のようなものだ。
先輩の後ろ姿が小指の爪くらいの大きさになってから、しまった!と後悔の念が湧いてきた。
いくら後悔したって一度口から出た言葉は取り戻せないし、現状が少しも良くなるわけではないけど。
今更、断ることも出来ない。というか、わたしは先輩の連絡先さえ知らないのだった。詰んだ。
「おはよう」
洗い立てのような太陽の光を浴びながら先輩は宣言通りにマンションの前にいた。
自転車のペダルに片足をかけて、もう片方の足は地面を踏み締めている。
写真に撮って額縁に入れたら名画と称して美術館に飾っても嘘偽りないだろう。美形は何をやっても様になる。
朝のぼんやりとした思考も相まって、ぽーっと見惚れてしまう。
「乗るよね?身体、掴まって良いよ」
「は、はい……」
自転車の後ろに跨る。お言葉に甘えて、先輩の腰に腕を通した。
男の子の身体に抱きつくなんて初めての体験だ。心臓がドキドキして、ちっとも落ち着かない。
震度はいくつだ。このままでは日本列島が沈んでしまう。関東大震災も白目を剥くだろう。先輩ってば、めっちゃ良い匂いがするし。はわわ。
「先輩って、いつも何時頃に起きてるんですか?」
「あーちゃん、敬語」
「あ、ごめん」
しかし、わたしが緊張していたのは最初だけだった。
髪が風に靡いてなんだか気持ちが良い。
人様の運転する自転車に乗って移動する楽さに気づいてしまった。味を占めてしまう。
二人乗りしている自転車は、ビニール袋を掲げて犬の散歩をしているおじいさんや、小学生の子供たち、折り畳み式携帯を弄りながら歩くスーツのサラリーマンの間を縫って、スイスイと走っていく。
「そんなことより、あーちゃんは今朝何食べた?」
「えー?めんどくさいから、食パンに目玉焼きとレタス乗せて食べたー。あと、ヨーグルト」
「へえ。朝食はパン派なんだ。あーちゃんのお昼は購買?」
「そうだよー、よく分かったね。うちのお母さんは料理とかあんまりしないし、購買かコンビニー。先輩はー?」
「あーね。俺は弁当の余り物だな。あーちゃんは苦手な食べ物ってある?」
「えー?食べれればなんでも良いかな。あ、でも、唐揚げに無断でレモンかける人とは和解できない」
「ふうん。わかった。……うん。俺が明日からあーちゃんの分の弁当も作ってくるよ」
マジかよ。
いきなり先輩に対してタメ口で話し始めたわたしにりーちゃんは怪訝な顔をしていたが、すぐに先輩からのゴリ押しに流されたのだと察して、先輩への文句からわたしへのお小言にシフトチェンジしたのだ。
りーちゃんは流されやすいわたしを心配しているようで、同い年なのにお姉ちゃんみたいだった。
わたしの姉より、姉っぽい。
わたしと違って、りーちゃんは一人っ子だったと記憶しているけど、貫禄のある体格と相まって同級生とは思えない安心感があるのだ。
りーちゃんと別れたあと、墨色の電柱を何本も見送ったけど、先輩は未だにわたしの隣を歩いている。
しっかりと家の前まで送り届けるつもりらしい。
「先輩って、何か。部活に所属してたりするの?」
わたしの対話能力は相変わらずクソザコナメクジである。
その肌には一点の濁りもなかった、とまではいかないけれど、先輩は色が白い。
運動部ではなさそうだ。
そもそも、運動系の部活なら放課後も学校に残って練習三昧である。よく知らないけど。
わたしは運動があまり得意じゃない。むしろ、苦手な分類に入る。
小学校の頃から、体育の授業以外ではスポーツというジャンルに関わらないようにして生きてきたのだ。
「あー。アマチュア無線部。ほぼ人数合わせの幽霊部員だけど」
「へえ。……もしかして、盗聴とかできるの?スパイみたい」
ちょっと意外である。部活内容がよくわからないせいだと思うけど。先輩に言われるまでわたしはアマチュア無線部の存在すら知らなかった。
「盗聴っていうか、ランダムチャットみたいなもんだからな。一応、第四級アマチュア無線技士の資格は持ってる。顧問と風祭に取れって言われたからだけど……」
「風祭さん?美化委員会の風祭さん?……仲良いの?」
「そういや、アイツ美化委員会だったか。……幼馴染なんだよ。ほとんど腐れ縁みたいなもんだけど」
先輩はニコニコ顔を打ち消して、眉根を寄せた。
わたしには幼馴染という存在がいないのでよくわからないけど、付き合いの長い相手がいるのは少し羨ましいと思う。
「いいね。わたしも美化委員だからたまに話すんだけど。風祭さんって良い人だよね。怒るとめっちゃ怖そうだけど」
「まあな。……あーちゃんはアルバイトとかしてるの?」
「えっ、わたし?してるしてるー。お寿司屋さんでバリバリ働いてるぜ」
「そうなんだ。帰りは遅いのか?」
先輩はわたしの顔を覗き込むように首を傾ける。赤い瞳には鋭利な硬さがあった。
「うーん。八時くらい?そんなに遅くないよ」
「ふうん?心配だから、これからは迎えに行くよ。女の子一人だと危ないからな」
「えっ、そう?」
「うん。何かあってからじゃ遅いからな。あーちゃんは可愛いから」
「先輩って意外と心配性なんだね。わたしのこと大好きかよ」
「好きだよ」
間髪入れない返答だ。異性に、それもイケメンに女の子扱いをされるというのは悪い気はしない。むしろ、良い気分だ。
跳ねて飛んで、トランポリンでぴょんぴょんしたくなる。しないけど。
自分の両頬に触れると焼け火箸のように火照っていた。あちちちっ。
「あ、」
先輩は立ち止まる。コンクリートが靴で摺れる音がした。
いつの間にか新興住宅地の中心部を通り、わたしの住むマンションの前まで来ていたのだ。
このまま歩き続けていたら隣町まで行ってしまったかもしれない。お喋りすると時間を忘れてしまう。大袈裟ではない。
誰かと一緒に自宅の前まで来たのは初めてのことだった。
「あっ、ありがとうございました!」
身体を二つに折ってお辞儀をする。
自分から頼んだことではないけど、高校からわたしの家までは中々距離があるのだ。今から逆走するとなると先輩が自宅に帰る頃には日が暮れているだろう。
「ああ、うん?お礼なんて良いよ。明日から自転車通学にするね。朝、迎えに行くから。悪いとか思わないでね。俺がやりたいだけだし。ね?」
「えっ、は、はい……」
にこっ、と笑った先輩は手をヒラヒラ振る。
わたしの返事は脊髄反射のようなものだ。
先輩の後ろ姿が小指の爪くらいの大きさになってから、しまった!と後悔の念が湧いてきた。
いくら後悔したって一度口から出た言葉は取り戻せないし、現状が少しも良くなるわけではないけど。
今更、断ることも出来ない。というか、わたしは先輩の連絡先さえ知らないのだった。詰んだ。
「おはよう」
洗い立てのような太陽の光を浴びながら先輩は宣言通りにマンションの前にいた。
自転車のペダルに片足をかけて、もう片方の足は地面を踏み締めている。
写真に撮って額縁に入れたら名画と称して美術館に飾っても嘘偽りないだろう。美形は何をやっても様になる。
朝のぼんやりとした思考も相まって、ぽーっと見惚れてしまう。
「乗るよね?身体、掴まって良いよ」
「は、はい……」
自転車の後ろに跨る。お言葉に甘えて、先輩の腰に腕を通した。
男の子の身体に抱きつくなんて初めての体験だ。心臓がドキドキして、ちっとも落ち着かない。
震度はいくつだ。このままでは日本列島が沈んでしまう。関東大震災も白目を剥くだろう。先輩ってば、めっちゃ良い匂いがするし。はわわ。
「先輩って、いつも何時頃に起きてるんですか?」
「あーちゃん、敬語」
「あ、ごめん」
しかし、わたしが緊張していたのは最初だけだった。
髪が風に靡いてなんだか気持ちが良い。
人様の運転する自転車に乗って移動する楽さに気づいてしまった。味を占めてしまう。
二人乗りしている自転車は、ビニール袋を掲げて犬の散歩をしているおじいさんや、小学生の子供たち、折り畳み式携帯を弄りながら歩くスーツのサラリーマンの間を縫って、スイスイと走っていく。
「そんなことより、あーちゃんは今朝何食べた?」
「えー?めんどくさいから、食パンに目玉焼きとレタス乗せて食べたー。あと、ヨーグルト」
「へえ。朝食はパン派なんだ。あーちゃんのお昼は購買?」
「そうだよー、よく分かったね。うちのお母さんは料理とかあんまりしないし、購買かコンビニー。先輩はー?」
「あーね。俺は弁当の余り物だな。あーちゃんは苦手な食べ物ってある?」
「えー?食べれればなんでも良いかな。あ、でも、唐揚げに無断でレモンかける人とは和解できない」
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マジかよ。
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