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第5話 私のパパは魔王
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「七海……? 七海か~~~!! 大きくなったなぁ~!! 一瞬、美人すぎてパパ誰だか分かんなかったぞ~!!」
私が絶叫を上げると同時に、すぐさま目の前の魔王ことパパが私に抱きつき、昔のように頬ずりをしてくる。
「ち、ちょっとやめてよ! もう私、子供じゃないんだから! お父さんの匂いが移ったらどうするの!」
「な、なななな、なんてひどいことを言うんだ、七海! パパの匂いは常にフレグランスな香りで加齢臭には人一倍気をつけてるんだぞ! というか、昔はいつも素直に頬ずりさせてくれてたじゃないか! あの素直な七海はどこに行ったの!?」
「そんな小さい頃の私と今の私を一緒にしないでよねー!!」
なおも私に抱きついたまま顔を寄せてくるパパを無理やり引き剥がし、すぐさま距離を取る。
目の前ではショックのあまり涙目を浮かべて、その場に崩れ落ちているパパを背後の魔族っぽい人達が慰めている。
な、なに、この異様な光景……。
「ううっ……。噂には聞いていたが娘が思春期を迎えるとお父さんに対し反抗的になるというのは本当だったんだな……。きっとこのままじゃパパと一緒にお風呂入ったり、パパのお嫁さんになるとかも言わなくなるのか……想像するだけで辛い……」
「もうなってるわよ! 言っとくけどパパとはお風呂も入らないし、お嫁さんになるとかも言わないから! あと洗濯物も別で洗うからね!」
思わず反射的にそう言い放つと、それを受けたパパがまるでこの世の終わりのような表情を浮かべ、そのまま仰向けに倒れる。
周囲では相変わらず魔族の集団が「王様、気をしっかりー!」などと、倒れたパパの心配をしている。本当になんだこの光景。
「う、ううっ、だ、大丈夫だ……。こ、これくらい父親になる者として覚悟はしていた……」
ヨロヨロと起き上がるパパだったが、その唇からは血が噴き出して明らかに瀕死の様子であった。
というか、パパ昔と変わらず親バカのままだ……。いや、昔よりもひどくなってる気がする。
「そ、それはともかくだ。うむ、改めて久しぶりだな、七海。大きくなったお前を見れてパパは嬉しいぞ」
と、何事もなかったかのように挨拶をしてきた。
いや、この状況でそんな爽やかに父親の笑顔を向けられてもこっちは困惑しかないんだけど。
パパはなんか異世界の魔王だし、背後には凶悪な人相の魔物やら魔族やらがたくさんいるし。
あとなによりも街を襲撃に来てる最中だし。
「それにしても転生は無事に済んだようだな。いやー、よかったよかった。パパも心配したんだが、無事にこうして会えてホッとしてるぞ」
ん!?
ちょっと待って。思わず、パパのそのセリフに引っかかってしまう。
転生って、どういうこと? それに無事に済んだとか、会えてよかったとか、まるでこっちの事情を知ってるみたいな言い回しに問いかけてみると――
「ん、ああ、だってそれは七海の転生をそっちの堕天使に頼んだのはパパだから。ちなみにその堕天使はパパの部下だよ」
アッサリと私の隣に立つ堕天使を指でさす。
慌てて私が堕天使の方を見ると、彼女はさもしらばっくれた様子で、
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
とかほざきやがった。
ちょっと待てや。色々待て。とにかく待て。落ち着け、そして落ち着け。
呼吸だ。呼吸を整えるんだ。
七三で吸っては吐いてを繰り返すんだ。
すーはー。すーはー。
……ふぅ、ちょっと落ち着いたような気がする。
よし、それじゃあ、改めて。
「お前のせいかあああああああああああああああああああああ!!!」
私は迷うことなくパパの肩に馬乗りになって、そのままパパの頭を揉みくちゃにしながら暴れだす。
「ちょ、な、七海!? そ、そんなことをしたら、危な……! い、いたー!!」
「パパのせいで私は平凡な生活から一変! こんな訳の分からない異世界に送られたってことー!? 親の都合で転校だとか、海外に行くとかはよくある話だけど、親の都合で異世界転生とか聞いたことないぞこらあああああああああ!!!」
あまりの無茶苦茶な事実に、暴走した私はパパの頭を揉みくちゃにするだけでは飽き足らず、あっちこっちを怒りに任せるまま噛んだり、殴ったりした。
その度にパパから制止の悲鳴が飛び出したが、構わず私はこれまでに溜まった理不尽への鬱憤を晴らすように、魔王のパパに対し色々ぶつけてやった。
「い、いたー!! ちょ、七海ちゃん! そこマジで噛んでるから!! パパ、本気で痛いから!!」
先程とは違う意味で涙目になってるパパだが、そんなもん知ったことか。
なおも暴れだす私だったが、しばらくしてから後ろで咳払いを一つした堕天使が私の首根っこを掴み、パパから引き離す。
「もうその辺でよろしいでしょう。まだ説明の続きですし、暴れるのはこちらの魔王様の言い分を全て聞いてからでもよろしいのでは」
「ふしゅー! きしゃー!」
まるで野良猫のように威嚇を続ける私だったが、引き離されたことで少し頭が冷えて、堕天使の言うとおり、とりあえず最後までパパの言い分を聞いてみようと先を促す。
「……えーとだね。七海、小さい頃にパパに言ったお願い事覚えてるかな?」
お願い事?
「というよりも七海の夢だね」
夢? 何か言ったっけ?
パパの言うことが思い当たらず眉を潜ませていると、優しげにパパが昔を思い出しながら呟く。
「ほら、言ってたじゃないか。七海の夢は世界一のお姫様になることだって」
お姫様……。
そういえば、うんと小さい頃に当時朝にやっていたアニメの影響でお姫様に憧れたことがあった。
確かに、その時、パパに大きくなったら何になりたいかって言われて「お姫様」と答えた記憶がある。うん、ぼんやりだけど思い出して来た。
「そうそう! それでね、パパも悩んだわけだよ。地球じゃお姫様なんて難しいだろうし、それに世界一と言われるとますます難しい。そこでパパは閃いたんだ!」
ビシッと人差し指を立てて高らかに宣言する。
「異世界を征服すればパパの娘である七海も自動的に世界一のお姫様になるだろう! というわけでパパは魔王となって日夜世界征服に勤しんでるってわけだ! 分かってもらえたかな?」
満面の笑みを浮かべて、パパはサプライズとばかりに両手を広げて私にそう打ち明ける。
「……えーと、じゃあなんですか。パパは小さい頃に私が言った世界一のお姫様になりたいって夢を叶えるために魔王になったと?」
「そうそう」
「それでこの異世界を日夜侵略していると?」
「そうそう」
「人間の国とか平然と蹂躙して、その領土を奪ったり支配していると?」
「そうそう! どうだいパパの七海に対する深~い愛情を理解してもらえたかな!」
キラキラと悪意の欠片もないパパの笑顔に対し、私は渾身の右ストレートを思いっきりブチ込むのだった。
私が絶叫を上げると同時に、すぐさま目の前の魔王ことパパが私に抱きつき、昔のように頬ずりをしてくる。
「ち、ちょっとやめてよ! もう私、子供じゃないんだから! お父さんの匂いが移ったらどうするの!」
「な、なななな、なんてひどいことを言うんだ、七海! パパの匂いは常にフレグランスな香りで加齢臭には人一倍気をつけてるんだぞ! というか、昔はいつも素直に頬ずりさせてくれてたじゃないか! あの素直な七海はどこに行ったの!?」
「そんな小さい頃の私と今の私を一緒にしないでよねー!!」
なおも私に抱きついたまま顔を寄せてくるパパを無理やり引き剥がし、すぐさま距離を取る。
目の前ではショックのあまり涙目を浮かべて、その場に崩れ落ちているパパを背後の魔族っぽい人達が慰めている。
な、なに、この異様な光景……。
「ううっ……。噂には聞いていたが娘が思春期を迎えるとお父さんに対し反抗的になるというのは本当だったんだな……。きっとこのままじゃパパと一緒にお風呂入ったり、パパのお嫁さんになるとかも言わなくなるのか……想像するだけで辛い……」
「もうなってるわよ! 言っとくけどパパとはお風呂も入らないし、お嫁さんになるとかも言わないから! あと洗濯物も別で洗うからね!」
思わず反射的にそう言い放つと、それを受けたパパがまるでこの世の終わりのような表情を浮かべ、そのまま仰向けに倒れる。
周囲では相変わらず魔族の集団が「王様、気をしっかりー!」などと、倒れたパパの心配をしている。本当になんだこの光景。
「う、ううっ、だ、大丈夫だ……。こ、これくらい父親になる者として覚悟はしていた……」
ヨロヨロと起き上がるパパだったが、その唇からは血が噴き出して明らかに瀕死の様子であった。
というか、パパ昔と変わらず親バカのままだ……。いや、昔よりもひどくなってる気がする。
「そ、それはともかくだ。うむ、改めて久しぶりだな、七海。大きくなったお前を見れてパパは嬉しいぞ」
と、何事もなかったかのように挨拶をしてきた。
いや、この状況でそんな爽やかに父親の笑顔を向けられてもこっちは困惑しかないんだけど。
パパはなんか異世界の魔王だし、背後には凶悪な人相の魔物やら魔族やらがたくさんいるし。
あとなによりも街を襲撃に来てる最中だし。
「それにしても転生は無事に済んだようだな。いやー、よかったよかった。パパも心配したんだが、無事にこうして会えてホッとしてるぞ」
ん!?
ちょっと待って。思わず、パパのそのセリフに引っかかってしまう。
転生って、どういうこと? それに無事に済んだとか、会えてよかったとか、まるでこっちの事情を知ってるみたいな言い回しに問いかけてみると――
「ん、ああ、だってそれは七海の転生をそっちの堕天使に頼んだのはパパだから。ちなみにその堕天使はパパの部下だよ」
アッサリと私の隣に立つ堕天使を指でさす。
慌てて私が堕天使の方を見ると、彼女はさもしらばっくれた様子で、
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
とかほざきやがった。
ちょっと待てや。色々待て。とにかく待て。落ち着け、そして落ち着け。
呼吸だ。呼吸を整えるんだ。
七三で吸っては吐いてを繰り返すんだ。
すーはー。すーはー。
……ふぅ、ちょっと落ち着いたような気がする。
よし、それじゃあ、改めて。
「お前のせいかあああああああああああああああああああああ!!!」
私は迷うことなくパパの肩に馬乗りになって、そのままパパの頭を揉みくちゃにしながら暴れだす。
「ちょ、な、七海!? そ、そんなことをしたら、危な……! い、いたー!!」
「パパのせいで私は平凡な生活から一変! こんな訳の分からない異世界に送られたってことー!? 親の都合で転校だとか、海外に行くとかはよくある話だけど、親の都合で異世界転生とか聞いたことないぞこらあああああああああ!!!」
あまりの無茶苦茶な事実に、暴走した私はパパの頭を揉みくちゃにするだけでは飽き足らず、あっちこっちを怒りに任せるまま噛んだり、殴ったりした。
その度にパパから制止の悲鳴が飛び出したが、構わず私はこれまでに溜まった理不尽への鬱憤を晴らすように、魔王のパパに対し色々ぶつけてやった。
「い、いたー!! ちょ、七海ちゃん! そこマジで噛んでるから!! パパ、本気で痛いから!!」
先程とは違う意味で涙目になってるパパだが、そんなもん知ったことか。
なおも暴れだす私だったが、しばらくしてから後ろで咳払いを一つした堕天使が私の首根っこを掴み、パパから引き離す。
「もうその辺でよろしいでしょう。まだ説明の続きですし、暴れるのはこちらの魔王様の言い分を全て聞いてからでもよろしいのでは」
「ふしゅー! きしゃー!」
まるで野良猫のように威嚇を続ける私だったが、引き離されたことで少し頭が冷えて、堕天使の言うとおり、とりあえず最後までパパの言い分を聞いてみようと先を促す。
「……えーとだね。七海、小さい頃にパパに言ったお願い事覚えてるかな?」
お願い事?
「というよりも七海の夢だね」
夢? 何か言ったっけ?
パパの言うことが思い当たらず眉を潜ませていると、優しげにパパが昔を思い出しながら呟く。
「ほら、言ってたじゃないか。七海の夢は世界一のお姫様になることだって」
お姫様……。
そういえば、うんと小さい頃に当時朝にやっていたアニメの影響でお姫様に憧れたことがあった。
確かに、その時、パパに大きくなったら何になりたいかって言われて「お姫様」と答えた記憶がある。うん、ぼんやりだけど思い出して来た。
「そうそう! それでね、パパも悩んだわけだよ。地球じゃお姫様なんて難しいだろうし、それに世界一と言われるとますます難しい。そこでパパは閃いたんだ!」
ビシッと人差し指を立てて高らかに宣言する。
「異世界を征服すればパパの娘である七海も自動的に世界一のお姫様になるだろう! というわけでパパは魔王となって日夜世界征服に勤しんでるってわけだ! 分かってもらえたかな?」
満面の笑みを浮かべて、パパはサプライズとばかりに両手を広げて私にそう打ち明ける。
「……えーと、じゃあなんですか。パパは小さい頃に私が言った世界一のお姫様になりたいって夢を叶えるために魔王になったと?」
「そうそう」
「それでこの異世界を日夜侵略していると?」
「そうそう」
「人間の国とか平然と蹂躙して、その領土を奪ったり支配していると?」
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