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第16話 四天王・爆炎使いのグレン
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その日は爆音と共に始まりました。
ドゴオオオオオオオオオオオンッ!!
「な、なに!?」
耳をつんざくような爆音と、地震のように激しい揺れに思わず飛び起きる私。
しばらく呆然としていると私の部屋を激しく叩く音が聞こえてくる。
「き、救世主様ー! た、大変ですー!」
それは宿の主人の声であり、何やら慌てた様子にすぐさま扉を開くと、そこから出てきたセリフに私は思わず仰天する。
「ま、街中に魔王軍が……! 魔王軍の最高幹部、四天王の一人が救世主様を名指ししておりますー!」
◇ ◇ ◇
「聞こえているかー! 救世主とやらー! 我が名は魔王四天王が一人! 爆炎使いのグレン!!」
見るとそこには街の中心に巨大なクレーターを作り、その身に紅蓮の炎を纏わせている男がいた。
見た目は人間と変わらないが、少し尖った耳に、逆立った赤い髪にバンダナを巻いており、パンクな衣装がよく似合っていた。
なんだろう。乙女ゲーで言うところの不良系キャラっぽい。
学校での素行の悪さが強調される反面、雨の日に捨てられた子犬に傘をさしそうなタイプだ。
などと思っていると、そのグレンと名乗った男は身にまとった炎を更に上昇させ、周囲の温度を上げながら更に叫び続ける。
「ここにデュラハンを倒した救世主がいるという噂は聞いているぞー! さっさと出てくるがいい! デュラハンを倒したお前の力! この四天王の一人グレン様が直々に試してくれるわー! もしも、出てこないというのなら……」
一拍置き、グレンは右手に巨大な炎の塊を生み出したかと思うと、それを遥か彼方に存在する山目掛け投げる。
明らかに数キロは離れているだろう山に炎の塊が触れたかと思った瞬間、巨大な爆発が起こり、瞬時に山が消滅した。
その有様を目の前で見ていた私や街人達はあまりのスゴさに思わず腰を抜かして倒れてしまう。
「わかったな? 早く出てこなければ今度は今のをあの城に向けて放つぞ!」
そう宣言すると同時に再びグレンの右手に先程と同じ炎の塊が生み出される。
じ、冗談じゃないぞ! あ、あんなの城に直撃でもしようものなら即座に城は崩壊! この場所もタダじゃすまねーぞ!
などと思っていると、兵士の一人がグレンの前に立ちはだかる。
「そこまでだ! 四天王グレン!」
見るとそれは何度か私に気さくに話してくれた兵士さんであった。
彼は私の方を振り向くと、その顔に「任せてくれ」という笑顔を浮かべる。
あ、ありがとう! 兵士さん! やはり持つべきはこの国を守る兵士さん!
「お前の暴挙もここまでだ! ここにお前が望む救世主さまがいる! さあ、覚悟するがいい! 今すぐお前を救世主様の拳が跡形もなく砕いてくれるぞー!!」
そう言って兵士さんはすぐさま私を引っ張り出すと、グレンの前に差し出す。
前言撤回。もうこの街、滅びてもいいや。
「ほう、てめぇがデュラハンを殺った勇者か……」
いや! 殺ってません!
なに!? 魔王軍の方でも私の噂って誇張されてるの!? お願いだからやめて!!
とか心の叫びを上げていると、私を前にしたグレンがやたらと緊張した表情のまま、何やらボソリと呟く。
「……なるほど。デュラハンを殺った奴がどれほどかと思っていたが、どうやらこちらの想像以上だったか」
見ると、グレンの額には脂汗みたいなものが出ており、その表情はまるで不可解なものを見るかのように顔をしかめていた。
え? なんで? 私何もしてないのに?
「今までも勇者を名乗る連中とは戦ってきた。連中も対峙した際には、どれだけの力を秘めてるか最初は隠すもんだ、だが上手く隠そうとしても、そいつが持つ強さの底ってものは隠せねぇ。特に相手が強ければ強いほどな――だが」
グレンは私を上から下までなぞるように観察しながら続ける。
「てめぇからは何も感じねぇ。これほどまでに自分自身の強さを完全に隠してる奴は初めてだ。目の前に対峙しながら強さの底が全く見えない相手はお前が初めてだぜ。……おもしれぇ、確かにデュラハン如きでは役不足だったな」
そう言って楽しそうな笑みを浮かべながら首の骨を鳴らすグレンであったが、いや! それは過大評価しすぎです!
単に私が弱すぎて、強さの実力が見えないだけだから!
などと心の中で叫んでいると、目の前のグレンはすっかりやる気になったのか、先程以上の炎をその身に纏い出す。
「てめぇとはじっくりと勝負をつけたい。こんな場所じゃ、お互いに実力を出すのには狭すぎるだろう。来な、オレ達の戦場に相応しい場所へと案内してやる」
全力でお断りします!! と叫ぶ間もなく、私とグレンの間を包むような結界が生まれたかと思うと、次の瞬間、景色が一変した。
先程まで街中にいたはずが見知らぬ荒野のような場所に移動していた。
あたりには何もなく、ただ地平線が広がるばかり。
た、確かに障害物も何もなくって、戦うには良さそうだけど……。
「さあ、これでてめぇも周囲に気遣う必要はないだろう」
そう宣言して目の前ではグレンが大きく両手を広げて、私に催促をする。
「見せてみな、てめぇの力を。全てこのオレが真っ向からねじ伏せてやるよ!」
いや、そんなこと言われましても私にはそういう隠された力とかないですから。
というかマジでどうしよう。
今までで限りない死亡フラグで詰んでる気がする。
ドゴオオオオオオオオオオオンッ!!
「な、なに!?」
耳をつんざくような爆音と、地震のように激しい揺れに思わず飛び起きる私。
しばらく呆然としていると私の部屋を激しく叩く音が聞こえてくる。
「き、救世主様ー! た、大変ですー!」
それは宿の主人の声であり、何やら慌てた様子にすぐさま扉を開くと、そこから出てきたセリフに私は思わず仰天する。
「ま、街中に魔王軍が……! 魔王軍の最高幹部、四天王の一人が救世主様を名指ししておりますー!」
◇ ◇ ◇
「聞こえているかー! 救世主とやらー! 我が名は魔王四天王が一人! 爆炎使いのグレン!!」
見るとそこには街の中心に巨大なクレーターを作り、その身に紅蓮の炎を纏わせている男がいた。
見た目は人間と変わらないが、少し尖った耳に、逆立った赤い髪にバンダナを巻いており、パンクな衣装がよく似合っていた。
なんだろう。乙女ゲーで言うところの不良系キャラっぽい。
学校での素行の悪さが強調される反面、雨の日に捨てられた子犬に傘をさしそうなタイプだ。
などと思っていると、そのグレンと名乗った男は身にまとった炎を更に上昇させ、周囲の温度を上げながら更に叫び続ける。
「ここにデュラハンを倒した救世主がいるという噂は聞いているぞー! さっさと出てくるがいい! デュラハンを倒したお前の力! この四天王の一人グレン様が直々に試してくれるわー! もしも、出てこないというのなら……」
一拍置き、グレンは右手に巨大な炎の塊を生み出したかと思うと、それを遥か彼方に存在する山目掛け投げる。
明らかに数キロは離れているだろう山に炎の塊が触れたかと思った瞬間、巨大な爆発が起こり、瞬時に山が消滅した。
その有様を目の前で見ていた私や街人達はあまりのスゴさに思わず腰を抜かして倒れてしまう。
「わかったな? 早く出てこなければ今度は今のをあの城に向けて放つぞ!」
そう宣言すると同時に再びグレンの右手に先程と同じ炎の塊が生み出される。
じ、冗談じゃないぞ! あ、あんなの城に直撃でもしようものなら即座に城は崩壊! この場所もタダじゃすまねーぞ!
などと思っていると、兵士の一人がグレンの前に立ちはだかる。
「そこまでだ! 四天王グレン!」
見るとそれは何度か私に気さくに話してくれた兵士さんであった。
彼は私の方を振り向くと、その顔に「任せてくれ」という笑顔を浮かべる。
あ、ありがとう! 兵士さん! やはり持つべきはこの国を守る兵士さん!
「お前の暴挙もここまでだ! ここにお前が望む救世主さまがいる! さあ、覚悟するがいい! 今すぐお前を救世主様の拳が跡形もなく砕いてくれるぞー!!」
そう言って兵士さんはすぐさま私を引っ張り出すと、グレンの前に差し出す。
前言撤回。もうこの街、滅びてもいいや。
「ほう、てめぇがデュラハンを殺った勇者か……」
いや! 殺ってません!
なに!? 魔王軍の方でも私の噂って誇張されてるの!? お願いだからやめて!!
とか心の叫びを上げていると、私を前にしたグレンがやたらと緊張した表情のまま、何やらボソリと呟く。
「……なるほど。デュラハンを殺った奴がどれほどかと思っていたが、どうやらこちらの想像以上だったか」
見ると、グレンの額には脂汗みたいなものが出ており、その表情はまるで不可解なものを見るかのように顔をしかめていた。
え? なんで? 私何もしてないのに?
「今までも勇者を名乗る連中とは戦ってきた。連中も対峙した際には、どれだけの力を秘めてるか最初は隠すもんだ、だが上手く隠そうとしても、そいつが持つ強さの底ってものは隠せねぇ。特に相手が強ければ強いほどな――だが」
グレンは私を上から下までなぞるように観察しながら続ける。
「てめぇからは何も感じねぇ。これほどまでに自分自身の強さを完全に隠してる奴は初めてだ。目の前に対峙しながら強さの底が全く見えない相手はお前が初めてだぜ。……おもしれぇ、確かにデュラハン如きでは役不足だったな」
そう言って楽しそうな笑みを浮かべながら首の骨を鳴らすグレンであったが、いや! それは過大評価しすぎです!
単に私が弱すぎて、強さの実力が見えないだけだから!
などと心の中で叫んでいると、目の前のグレンはすっかりやる気になったのか、先程以上の炎をその身に纏い出す。
「てめぇとはじっくりと勝負をつけたい。こんな場所じゃ、お互いに実力を出すのには狭すぎるだろう。来な、オレ達の戦場に相応しい場所へと案内してやる」
全力でお断りします!! と叫ぶ間もなく、私とグレンの間を包むような結界が生まれたかと思うと、次の瞬間、景色が一変した。
先程まで街中にいたはずが見知らぬ荒野のような場所に移動していた。
あたりには何もなく、ただ地平線が広がるばかり。
た、確かに障害物も何もなくって、戦うには良さそうだけど……。
「さあ、これでてめぇも周囲に気遣う必要はないだろう」
そう宣言して目の前ではグレンが大きく両手を広げて、私に催促をする。
「見せてみな、てめぇの力を。全てこのオレが真っ向からねじ伏せてやるよ!」
いや、そんなこと言われましても私にはそういう隠された力とかないですから。
というかマジでどうしよう。
今までで限りない死亡フラグで詰んでる気がする。
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