日本円から始まる異世界造り

雪月花

文字の大きさ
21 / 45

第21話 邂逅

しおりを挟む
「……う、ううん……こ、ここは……?」

「お、目が覚めたか」

「君は……? ここはどこだ?」

 オレはベッドの上で目を覚ましたその男性の顔を一緒にいたケルちゃん、アメジストと共に見つめる。

「ここはオレの館です。すぐ近くには街と村があります」

「館? 街と村? だが、ここは何もない無平原のはずだが……? それに確かオレは平原をわたっていたはずだが……」

 男性は困惑した様子を見せる。
 そんな彼にオレは事情を説明する。

「確かにあなたは平原を移動していました。ですが、途中で力尽きて気を失ったのです。そこを通りかかったオレ達がたまたま見つけて、ここに運んだのです」

「なるほど、そういうことだったのか……。それならば礼を言わなければな。感謝する」

 男性はオレの話に納得し頭を下げる。
 しかし、その後、ベッドから立ち上がるとなにやら慌てた様子で自分の腰をまさぐる。

「!? すまない、君! 私の腰にあったバッグを知らないか!? その中に重要なものが入っているのだが……!」

「バッグならそちらにありますよ」

 慌てる男性にアメジストが冷静に答える。
 少し離れた机の上に男性が持っていた荷物を置いており、それを見るやいなやすぐさま男性はそれを手に取り、中身を確認し安心した様子を見せる。

「……よかった。すまない、慌ただしい姿を見せて」

「いえ、それよりもその中身、よっぽど重要なものなんですね」

 何気ないオレの質問に対し、男性は深刻な表情を浮かべて頷く。

「……ああ。これは我が国を救うための道しるべなんだ」

「道しるべ?」

 思わぬセリフにオレもケルちゃんもアメジストも思わず首をかしげるが、それを見て男性が慌てた様子で否定する。

「いや、今のはもののたとえだ。気にしないでくれ!」

「はあ?」

 まあ、気にするなというのなら追求はやめておこう。
 とりあえず、男性の体が無事なようで安心した。とは言え、まだ弱った様子に変わりはないため、オレはアメジストにに用意させた食事を男性に運ぶよう指示する。
 すぐさまアメジストがキッチンへと移動し、そこからワゴンに乗せた料理をこの部屋へと運んでくる。

「ずっと気を失っていてお腹が空いているでしょう。よければ、こちらをお食事ください」

「いや、しかし、見ず知らずの君達にそこまでしてもらうわけには……」

 と、断る男性であったが、料理を隠していた蓋を取ると、そこからは香ばしい匂いが漂い、そこに用意された豪華絢爛な料理を見ると男性の表情が変わった。

「こ、これは……!? こ、こんな豪勢な料理を本当にいいのかね!?」

「ええ、遠慮せずにどうぞ」

 笑顔で勧めるオレに対し、男性は僅かに躊躇するが、目の前に並んだ料理を前にゴクリと唾を飲み込むと、そのままフォークを片手に目の前の分厚いステーキを口に入れていく。

「!? う、美味い! なんだ、この肉は!? いや、調理法も並みの者によるものではない!? い、一体どのようなコックを雇っているのですか!?」

「いやー、うちはコックは雇っていなくて。ここにいるメイドのアメジストとあとはケルちゃんに家事を任せています」

「そ、そちらの少女二人がこれを料理したのかね……!?」

「正確にはこっちのアメジストですが」

 オレの紹介にアメジストはちょっと照れた様子で頷く。
 あと少女じゃなく少年です。と心の中で付け足す。
 しかし、そんなオレの心の声が聞こえるわけはなく、男性は信じられないといった表情でオレとアメジスト、更にはケルちゃんを見比べる。

「驚いた……。こんな何もない平原に君達のような人がいるとは……そういえば先ほど街や村があると言っていたが、それは本当なのかい?」

「ええ、どちらもまだ発展途上ですけど」

 オレ返答に男性は考え込むような仕草をする。

「……よければでいいのだが、あとでその村や街を見せてもらってもいいかな?」

 男性からの問いにオレはアメジストやケルちゃんを見るが、二人共オレに任せるといった表情をし、それを受けてオレは男性の方を振り向く。

「構いませんよ。その料理を食べた後にでも案内しますよ」

「本当か? 助かる。それではぜひお願いするよ」

 そう言って男性は目の前の料理を美味しそうに平らげるのであった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。 転生チートを武器に、88kgの減量を導く! 婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、 クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、 薔薇のように美しく咲き変わる。 舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、 父との涙の再会、 そして最後の別れ―― 「僕を食べてくれて、ありがとう」 捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命! ※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中 ※表紙イラストはAIに作成していただきました。

処理中です...