5 / 46
05 そのあやかし、話作りは滅茶苦茶であった
しおりを挟む
「し、ショックだ……。絵を書き始めた素人にデッサン、画力で負けるなんて……」
「まあ、素人と言ってもわらわはあやかしじゃ。こう見えて何百年も生きておる。これも経験のなせる才能じゃのぉ」
うんうんと頷く刑部姫の隣ではうちひしがれた佳祐の姿があった。
「というか、こういってはなんじゃがお主、話は面白いのじゃが絵は少しいい加減じゃのぉ。ほれ、このコマのこの絵とか明らかに腕が変な方向に曲がっておるぞ。あと、このポーズも人体の観点から言うとおかしいぞ。このような動きなどできないぞ。あと、この走ってるコマも踊っているようにしか見えぬぞ」
グサグサと佳祐の体に突き刺される言葉の刃。
だがそれらは佳祐が気にしているからこそ、刺さる言葉であり、刑部姫の漫画を見る目は確かであり事実を伝えていた。
「……そう、なんですよね……。実はオレの漫画、担当や読者からも言われてるんですけど絵が……下手くそなんです……」
ばたりと手に持った原稿を落とし倒れる佳祐。
その原稿を拾う刑部姫は「うーん」とうなり、そこに描かれた絵を見る。
「確かになんというか……人物の頭と体の均衡がおかしいのぉ。変に腕だけ大きくなったり、あとお主の漫画を見ていて気になったのじゃが主役の髪の毛がどの方向を向いてても同じなのは何故じゃ? 正面、真横と髪型が全く変わらないのは不自然じゃろう。この髪型ならば正面はこう、横向きならこうなるのが自然ではないか?」
とパラパラと刑部姫はその場で紙に主役の髪を描き、正面と横向きの違いをキッチリと書き分ける。
なお、それを見た途端、佳祐は再び血を吐いて倒れた。
「う、ううっ……妖怪にデッサン力で負けるなんて……」
「なるほど。これをデッサン力というのか、ふむふむ。というこは佳祐よ! お主の漫画はこのデッサン力がなっておらぬのじゃ!」
ビシリとトドメを告げられ、佳祐は後ろ向きに倒れる。
そうなのだ。これまで彼の漫画が打ち切られた要因の一つに彼のデッサン力のなさ、イラストの下手さがあった。
読者アンケート、またはファンレターなどでも、それらを指摘され、彼自身、必死にデッサン力やイラスト能力をあげようと必死になった。
が、染み付いたイラストは思うように上達せず、彼の画力が連載中に上がることはなかった。
そして、その画力の低さからも現在、新連載をさせてもらえずにいたのだ。
「う、ううううっ……オレに刑部さんくらいの画力があれば新連載の立ち上げもできるのに……」
「ふっふっふっ、どうやらわらわはいわゆる天才というやつかもしれぬな」
そう言ってドヤ顔でペンを握り笑う刑部姫。だが、そんな彼女に対し、佳祐は先ほど彼女が描いた短編の漫画、ネームを見ながら呟く。
「……でも話作りは滅茶苦茶ですね」
「うっ!?」
その佳祐の一言に刑部姫は胸を抑える。
「これ……話、桃太郎ですよね? でもいきなり桃から桃太郎が出るのはいいんですが、お供の部分はしょって次のページでいきなり鬼を退治してますよ。前後の話が飛びすぎな上に滅茶苦茶です。あと最後もなんかすごい投げっぱで終わってるんですが……」
「し、仕方ないじゃろう! そんないちいち話の説明など面倒くさいわ! わらわは描きたいところだけ描きたいのじゃ!」
「にしてもこれはやりすぎですよ。というか桃太郎をここまで支離滅裂に描ける人初めて見ましたよ」
「え、ええい! うるさい! 話作りとかよくわからないのじゃー!」
佳祐からの的確な突っ込みにそう叫ぶ刑部姫。
やがて、自分の弱点を認めるのか力なくうなだれながら頷く。
「……まあ、確かにお主の言う通り、わらわには話作りのセンスがない。絵は描けるのじゃが肝心の話がなー……。まあ、お主の漫画は逆に絵はそこまででもないが話自体はとても面白いからのぉ。逆に言えばその話に絵が付いて来ていない状態か」
「ですねー。ははっ、オレ達二人共、絵と話。その片方が欠如しているから漫画としては不完全な感じですね」
「じゃなー。逆に言えば、その片方が埋まれば漫画として完璧な形になりそうじゃな。奇しくもお互いに欲しいものの才能を相手が持っている状態じゃなー。儂にお主のような話を考える力があれば完璧じゃったなー」
「それを言うならオレの方こそ刑部さんの画力が欲しかったですよー。そうすれば人気漫画家かも夢じゃなかったですよ」
「確かにそうじゃなー。はははははっ」
「ですよねー。あははははははっ」
笑い合うことしばし、二人は「ハッ」と何かに気づく。
「刑部さん!?」
「佳祐!?」
「オレが話を考えるから刑部さんが絵を描くのはどうですか!?」
「わらわが絵を描くからお主が話を考えるのはどうじゃ!?」
全く同時にしかも、互いに同じ考えを言い合い、それを言い放つと同時に二人の顔に満面の笑みが溢れる。
その後、二人は迷うことなく握手をしあい、互いの得意分野を活かす漫画制作をすることとなった。
それは原作:田村祐介、漫画:刑部姫という、人間とあやかし二人の種族が織り成す原作と作画、二つの種族の合わさった、かつてない漫画家の誕生でもあった。
「まあ、素人と言ってもわらわはあやかしじゃ。こう見えて何百年も生きておる。これも経験のなせる才能じゃのぉ」
うんうんと頷く刑部姫の隣ではうちひしがれた佳祐の姿があった。
「というか、こういってはなんじゃがお主、話は面白いのじゃが絵は少しいい加減じゃのぉ。ほれ、このコマのこの絵とか明らかに腕が変な方向に曲がっておるぞ。あと、このポーズも人体の観点から言うとおかしいぞ。このような動きなどできないぞ。あと、この走ってるコマも踊っているようにしか見えぬぞ」
グサグサと佳祐の体に突き刺される言葉の刃。
だがそれらは佳祐が気にしているからこそ、刺さる言葉であり、刑部姫の漫画を見る目は確かであり事実を伝えていた。
「……そう、なんですよね……。実はオレの漫画、担当や読者からも言われてるんですけど絵が……下手くそなんです……」
ばたりと手に持った原稿を落とし倒れる佳祐。
その原稿を拾う刑部姫は「うーん」とうなり、そこに描かれた絵を見る。
「確かになんというか……人物の頭と体の均衡がおかしいのぉ。変に腕だけ大きくなったり、あとお主の漫画を見ていて気になったのじゃが主役の髪の毛がどの方向を向いてても同じなのは何故じゃ? 正面、真横と髪型が全く変わらないのは不自然じゃろう。この髪型ならば正面はこう、横向きならこうなるのが自然ではないか?」
とパラパラと刑部姫はその場で紙に主役の髪を描き、正面と横向きの違いをキッチリと書き分ける。
なお、それを見た途端、佳祐は再び血を吐いて倒れた。
「う、ううっ……妖怪にデッサン力で負けるなんて……」
「なるほど。これをデッサン力というのか、ふむふむ。というこは佳祐よ! お主の漫画はこのデッサン力がなっておらぬのじゃ!」
ビシリとトドメを告げられ、佳祐は後ろ向きに倒れる。
そうなのだ。これまで彼の漫画が打ち切られた要因の一つに彼のデッサン力のなさ、イラストの下手さがあった。
読者アンケート、またはファンレターなどでも、それらを指摘され、彼自身、必死にデッサン力やイラスト能力をあげようと必死になった。
が、染み付いたイラストは思うように上達せず、彼の画力が連載中に上がることはなかった。
そして、その画力の低さからも現在、新連載をさせてもらえずにいたのだ。
「う、ううううっ……オレに刑部さんくらいの画力があれば新連載の立ち上げもできるのに……」
「ふっふっふっ、どうやらわらわはいわゆる天才というやつかもしれぬな」
そう言ってドヤ顔でペンを握り笑う刑部姫。だが、そんな彼女に対し、佳祐は先ほど彼女が描いた短編の漫画、ネームを見ながら呟く。
「……でも話作りは滅茶苦茶ですね」
「うっ!?」
その佳祐の一言に刑部姫は胸を抑える。
「これ……話、桃太郎ですよね? でもいきなり桃から桃太郎が出るのはいいんですが、お供の部分はしょって次のページでいきなり鬼を退治してますよ。前後の話が飛びすぎな上に滅茶苦茶です。あと最後もなんかすごい投げっぱで終わってるんですが……」
「し、仕方ないじゃろう! そんないちいち話の説明など面倒くさいわ! わらわは描きたいところだけ描きたいのじゃ!」
「にしてもこれはやりすぎですよ。というか桃太郎をここまで支離滅裂に描ける人初めて見ましたよ」
「え、ええい! うるさい! 話作りとかよくわからないのじゃー!」
佳祐からの的確な突っ込みにそう叫ぶ刑部姫。
やがて、自分の弱点を認めるのか力なくうなだれながら頷く。
「……まあ、確かにお主の言う通り、わらわには話作りのセンスがない。絵は描けるのじゃが肝心の話がなー……。まあ、お主の漫画は逆に絵はそこまででもないが話自体はとても面白いからのぉ。逆に言えばその話に絵が付いて来ていない状態か」
「ですねー。ははっ、オレ達二人共、絵と話。その片方が欠如しているから漫画としては不完全な感じですね」
「じゃなー。逆に言えば、その片方が埋まれば漫画として完璧な形になりそうじゃな。奇しくもお互いに欲しいものの才能を相手が持っている状態じゃなー。儂にお主のような話を考える力があれば完璧じゃったなー」
「それを言うならオレの方こそ刑部さんの画力が欲しかったですよー。そうすれば人気漫画家かも夢じゃなかったですよ」
「確かにそうじゃなー。はははははっ」
「ですよねー。あははははははっ」
笑い合うことしばし、二人は「ハッ」と何かに気づく。
「刑部さん!?」
「佳祐!?」
「オレが話を考えるから刑部さんが絵を描くのはどうですか!?」
「わらわが絵を描くからお主が話を考えるのはどうじゃ!?」
全く同時にしかも、互いに同じ考えを言い合い、それを言い放つと同時に二人の顔に満面の笑みが溢れる。
その後、二人は迷うことなく握手をしあい、互いの得意分野を活かす漫画制作をすることとなった。
それは原作:田村祐介、漫画:刑部姫という、人間とあやかし二人の種族が織り成す原作と作画、二つの種族の合わさった、かつてない漫画家の誕生でもあった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる