あやかしが漫画家を目指すのはおかしいですか?

雪月花

文字の大きさ
9 / 46

09 あやかしがこっそりついてきたらダメですか?

しおりを挟む
「なっ、なっ、なっ、なっ……!」

 突然現れた刑部姫を前に佳祐は全身を震えさせ、そんな佳祐を刑部姫は小首をかしげながら尋ねる。

「ん? どうしたのじゃ佳祐? そのように震えて?」

「なんでお前がここにいるんだああああああああああああああ!!」

 叫ぶと同時に刑部姫を掴み、奥へ移動する佳祐。
 そんな佳祐を刑部姫は不思議そうな顔で見つめる。

「なぜってお主の後をついてきたからじゃ」

「ついてきた!? どうやって!? たまに後ろ振り返っていたけれど、いなかったぞ!?」

「当然じゃ。わらわはあやかしじゃぞ。透明化の術くらい心得ておる。姿を消して、お主の後をそっとついてきたのじゃ。するとなにやらこの大きな建物の中に入ってきて、そこにいる女に原稿を見せておるではないか。あやつがお主のいう担当というやつなのじゃろう。最初は出る気はなかったのじゃが話の流れからわらわが必要だと分かってな。こうして姿を現したわけじゃ」

 ふんっと自慢げに鼻息を吐いて胸を張る刑部姫。
 だが、佳祐はそんな刑部姫を見て頭を抱えるのであった。

「あのなぁ……部屋で待機してろって言っただろう」

「そんなことできるわけがなかろう! わらわが漫画を描けるかどうかの一大事じゃぞ! どうなるのか結果はこの眼で見たい!」

「それは分かるがお前がいると話がややっこしくなるんだよ!?」

「何故じゃ? 先程のそちらの担当が言うには作画担当のわらわがいた方が話がスムーズになると言っておったぞ」

「そうだけど、自分の格好を見ろ! 明らかに浮いてるだろう! つーか、耳と尻尾くらい隠せよ! あやかしだとバレたら漫画どころの騒ぎじゃないぞ!」

「な、なに!? も、もしやあやかしとバレると漫画は描かせてもらえないのか……!?」

「まあ、その可能性は……ある」

 佳祐の返答に「ひいいいいい!」と尻尾を逆立たせ、怯える刑部姫。
 無論、あくまでもそうなる可能性が高いだけであったが、それ以上にあやかしなどという非日常的な存在をまともに受け入れられる人間がどれほどいるであろうか。
 最悪パニックが起こり、漫画を書くどころではなくなる。

「……佳祐君……その子……」

「ひっ!?」

 そう思った矢先であった。佳祐の背後からゆらりと幽鬼のように担当の美和が刑部姫を覗き込んだのは。

「あ、み、美和さん! こ、この子はその……決して怪しいものではなく! そ、そう! この子はオレの従姉妹でオレに憧れた漫画を描き始めた子で、それで――」

 と説明も途中のまま、美和は「がばりっ」と刑部姫の肩に両手を置く。
 あやかしだとバレた!? そう佳祐が思った瞬間であった。

「~~~~~~~か、かわいいいいいいいいいい!!」

「へっ?」

「えー、なに、この子ー! ちょーかわいい! ちょータイプ! マジ好み! いや~~! お肌つるつる~! ちっこい~! なにこの銀髪綺麗~! それにこの耳も尻尾も巫女服もコスプレー!? っていうかそれって前に佳祐君が描いていた『巫女っ娘探偵カグヤちゃん』のコスプレでしょ!? ねっ、ねっ!?」

「あー……はい、そうですね」

「や~~ん、やっぱりそうよね~! 可愛い~~!!」

 美和は刑部姫を抱きしめたまま、その頭を撫で眼はすっかりハートマークとなっていた。
 担当の思わぬ豹変に呆気に取られる佳祐であったが、そういえばこの人は割と可愛いもの好きで、前回の『巫女っ娘探偵カグヤちゃん』の主人公カグヤのデザインも担当の美和が一押しだったのを思い出し、刑部姫の外見が彼女の好みにがっちり一致していることに気づく。

「ええい! 離せー! 離さぬかー! 貴様、わらわを誰と心得ているー!!」

 なお、そんな美和に抱きしめられたままの刑部姫は彼女の腕の中で必死に暴れていた。

「やーん! ちょっと生意気な口調なのも可愛いー! ねえねえ、本当にあの漫画、君が描いたのー!?」

「当然じゃー! わらわが描いたー! それはいいから離せー!!」

「本当!? すごーい! 君、天才だよー! 可愛い上に漫画も上手いなんてずるすぎー! っていうかいくつなのー? 中学生? 小学生……ってのはなさそうだと思うけれど、ひょっとして高校生とか!?」

「ええい、なんじゃその中学とか小学とか! わらわはお主なんかよりもずっと年上じゃー!!」

「えー!? 嘘ー!? もしかして大学生!? その外見でー!? ひょっとして成人済みー!? でも、それもありー! というかギャップ萌えで可愛いいいいいい!!」

「ええーい! いいから離せー!!」

 暴れる刑部姫と、それを抱きしめたまま離さない美和。
 そんな二人を呆れた様子で見守る佳祐。
 月刊アルファの編集部の一室はしばらくそんなやかましい声を周囲に響かせたという。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...