32 / 46
32 苛立つあやかし
しおりを挟む
「どうしたものか……」
あれから佳祐は悩んでいた。
というのも出版社に刑部姫が呼び出され、それに彼女が応じて向かって帰ってきてから、彼女の態度が変である。
なにやら必要に自分に対し、次の原稿のネタを出せだの。早く漫画を仕上げてデビューさせろだの。前にも増して漫画家になることに対し焦っている様子であった。
佳祐自身、勿論すぐにでも連載を始めたいし、そのための原稿を書き上げて、担当の美和に見せたい。
だが、連載を狙うのなら中途半端な作品を描くわけにはいかない。
それこそ「これぞ」という物語を作り、それを刑部姫に描いて欲しいと願っていた。
そのため、現状の話ではまだ完成とは言えず、そのような状態の話を刑部姫に原稿として描かせるわけにはいかなかった。
これは佳祐なりの連載を目指すためのこだわりでもあり気遣いでもあった。
納得のいく話として仕上がってから、刑部姫に渡したい。
彼女に中途半端なものを描かせたくないと佳祐は思っていた。
「まだ話は出来ぬのか、佳祐よ……。お主本当に連載を狙う気があるのか?」
だが、そんな佳祐の心情とは裏腹に今日も刑部姫は苛立った様子で佳祐をせっつく。
「そうは言うけど、こういうのはキチンとまとまってから取り掛かって欲しいんだ。今の中途半端な状態で話を描かせてもいいものにはならない。最後のオチがキチンと決まってから原稿に取り掛からないと一ページ目からの入りも全然違うんだよ。刑部姫」
「そう言いながらも昨日もあの雪芽とかいう女と話していたではないか」
「あれはちょっとした気分転換だよ。それに話すといっても休憩時間にちょっとだけだよ。漫画作りでこんを詰めすぎるのもよくは――」
「ええい、分かったわ! 言い訳する暇があるのなら、いいから早く話をまとめよ!」
そう言って佳祐を急かす刑部姫。
やはりどこか彼女の様子がおかしい。そう佳祐が思い始めた時であった。
「……ん?」
ふとスマホにメールが入る。
それは南雲からの誘いであり、少し話さないかといった内容であった。
正直、このタイミングで外に出るのは刑部姫を刺激しかねないが、佳祐としては現状の煮詰まった状態ではアイディアも出ないのも事実。
一旦、思考を変えるために外で誰かに会うというのはアイディアを出すのに対し有用な手段の一つでもある。
なによりも現状の刑部姫との関係に対して、誰かに相談したいというのも佳祐の本音の一つであった。
「すまん、刑部姫。今日はオレちょっと外で食事してくるよ。料理は昨日の残りが冷蔵庫にあるし、買いだめしたインスタント食品もあるから、もしお腹が減ったらそれを食べてくれ」
「……分かった」
「それじゃあ、ちょっと出かけてくるから。すぐに戻るな」
そう言って支度をして慌てて部屋を飛び出す佳祐。
だが、この時の彼は気づいていなかった。
そんな彼の背中から、姿を消した刑部姫がこっそりとついてきていたのを。
◇ ◇ ◇
「よお、すまんな。急に呼び出して」
待ち合わせの場所に行くと、そこにはいつもの居酒屋で指定の席を取ってくつろいでいる南雲の姿がいた。
佳祐はそんな南雲と向かい合うように座る。
「いや……正直オレも助かったよ。実はちょっとお前に相談したいことがあって……」
「へえ、佳祐の方からオレに相談か。珍しいな。なんだ?」
「それはその……刑部姫のことで」
「あの嬢ちゃんか。あの子がどうかしたのか? まさかケンカしたとかか?」
「案外、その推測当たっているかもな」
「……マジ?」
佳祐からの相談に笑ってそう答える南雲であったが、真剣な様子の佳祐を見て思わず素のトーンを下げる。
「一体なにやらかしたんだ、佳祐」
「それがその……オレにもよく分からなくて……いや、もしかしたら刑部姫の事情にも関わっているのかもしれない……」
「事情? なんだそりゃ?」
「それは……」
話すべきかどうか悩む佳祐であったが、目の前の男が高校からの親友であり、これまでも自分の話を聞いて相談に乗っていくれたのを思い出し、佳祐は意を決して南雲へと打ち明ける決意をする。
「実は刑部姫は――」
あれから佳祐は悩んでいた。
というのも出版社に刑部姫が呼び出され、それに彼女が応じて向かって帰ってきてから、彼女の態度が変である。
なにやら必要に自分に対し、次の原稿のネタを出せだの。早く漫画を仕上げてデビューさせろだの。前にも増して漫画家になることに対し焦っている様子であった。
佳祐自身、勿論すぐにでも連載を始めたいし、そのための原稿を書き上げて、担当の美和に見せたい。
だが、連載を狙うのなら中途半端な作品を描くわけにはいかない。
それこそ「これぞ」という物語を作り、それを刑部姫に描いて欲しいと願っていた。
そのため、現状の話ではまだ完成とは言えず、そのような状態の話を刑部姫に原稿として描かせるわけにはいかなかった。
これは佳祐なりの連載を目指すためのこだわりでもあり気遣いでもあった。
納得のいく話として仕上がってから、刑部姫に渡したい。
彼女に中途半端なものを描かせたくないと佳祐は思っていた。
「まだ話は出来ぬのか、佳祐よ……。お主本当に連載を狙う気があるのか?」
だが、そんな佳祐の心情とは裏腹に今日も刑部姫は苛立った様子で佳祐をせっつく。
「そうは言うけど、こういうのはキチンとまとまってから取り掛かって欲しいんだ。今の中途半端な状態で話を描かせてもいいものにはならない。最後のオチがキチンと決まってから原稿に取り掛からないと一ページ目からの入りも全然違うんだよ。刑部姫」
「そう言いながらも昨日もあの雪芽とかいう女と話していたではないか」
「あれはちょっとした気分転換だよ。それに話すといっても休憩時間にちょっとだけだよ。漫画作りでこんを詰めすぎるのもよくは――」
「ええい、分かったわ! 言い訳する暇があるのなら、いいから早く話をまとめよ!」
そう言って佳祐を急かす刑部姫。
やはりどこか彼女の様子がおかしい。そう佳祐が思い始めた時であった。
「……ん?」
ふとスマホにメールが入る。
それは南雲からの誘いであり、少し話さないかといった内容であった。
正直、このタイミングで外に出るのは刑部姫を刺激しかねないが、佳祐としては現状の煮詰まった状態ではアイディアも出ないのも事実。
一旦、思考を変えるために外で誰かに会うというのはアイディアを出すのに対し有用な手段の一つでもある。
なによりも現状の刑部姫との関係に対して、誰かに相談したいというのも佳祐の本音の一つであった。
「すまん、刑部姫。今日はオレちょっと外で食事してくるよ。料理は昨日の残りが冷蔵庫にあるし、買いだめしたインスタント食品もあるから、もしお腹が減ったらそれを食べてくれ」
「……分かった」
「それじゃあ、ちょっと出かけてくるから。すぐに戻るな」
そう言って支度をして慌てて部屋を飛び出す佳祐。
だが、この時の彼は気づいていなかった。
そんな彼の背中から、姿を消した刑部姫がこっそりとついてきていたのを。
◇ ◇ ◇
「よお、すまんな。急に呼び出して」
待ち合わせの場所に行くと、そこにはいつもの居酒屋で指定の席を取ってくつろいでいる南雲の姿がいた。
佳祐はそんな南雲と向かい合うように座る。
「いや……正直オレも助かったよ。実はちょっとお前に相談したいことがあって……」
「へえ、佳祐の方からオレに相談か。珍しいな。なんだ?」
「それはその……刑部姫のことで」
「あの嬢ちゃんか。あの子がどうかしたのか? まさかケンカしたとかか?」
「案外、その推測当たっているかもな」
「……マジ?」
佳祐からの相談に笑ってそう答える南雲であったが、真剣な様子の佳祐を見て思わず素のトーンを下げる。
「一体なにやらかしたんだ、佳祐」
「それがその……オレにもよく分からなくて……いや、もしかしたら刑部姫の事情にも関わっているのかもしれない……」
「事情? なんだそりゃ?」
「それは……」
話すべきかどうか悩む佳祐であったが、目の前の男が高校からの親友であり、これまでも自分の話を聞いて相談に乗っていくれたのを思い出し、佳祐は意を決して南雲へと打ち明ける決意をする。
「実は刑部姫は――」
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる