33 / 46
33 零れた本音
しおりを挟む
「………佳祐。その話、作り話じゃないんだよな?」
「ああ、一語一句嘘偽りない本当の事だ」
「……マジかよ」
あのあと佳祐が南雲に対し、打ち明けた話は刑部姫の事であり、彼女が人間ではなくあやかしだという事実。
その彼女が佳祐の描く漫画に惚れ、自分も漫画を描きたいと宣言したこと。
さらにその彼女と組んで漫画家を目指すことになったこと。
これまでの経緯の全てを佳祐は南雲へと話す。
話を聞き終えた後、南雲は長いため息と共に、目の前に置かれた酒をゆっくりと飲み干す。
「……妖怪だのあやかしだの、そういう話はオレ達のような職種が生み出す創作かと思っていたんだが、現実にいたんだなぁ……」
「ああ、オレも正直驚いている」
酒を仰ぎながらそう呟く南雲に佳祐も今更ながら頷く。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「どう、って?」
「そのあやかしと組んで本気で連載を狙うつもりなのか?」
南雲からのはっきりとしたその問いかけに佳祐は一瞬息を呑む。
「それは……」
確かに相手が普通の人間ではなく、あやかしだというのならそれと組んで漫画家を目指すというのは、いつかどこかで何らかの弊害を生み出す。
事実、今もなぜだか分からないが刑部姫はイラついた様子で自分に早く原作を書けとせがむようになった。
これまではそんなことはなく、こちらのペースに合わせてくれていたのに。
「……けど案外、そいつがあやかしで良かったかもな。佳祐」
「え?」
しかし思わぬ南雲のセリフに佳祐はどういうことかと顔を向ける。
するとそこにはいつか見せたような南雲の打算に満ちた表情があった。
「前に言っただろう。チャンスがあるならそれを利用しろって。あの時はあの子がただの絵の上手い素人だと思ってそう言った。けれど、相手が人間じゃないあやかしだって言うなら、話はもっと単純じゃねえか。そいつを今のままうまく利用して、お前は原作だけを考えて、そいつに絵を描かせろ。そうすればお前は出世できるぜ」
「なっ、なに言ってんだよ……南雲」
「まあ聞けよ。そいつが何にイラついてるかは知らないが、ようは漫画が描きたいってことだろう? なら、描かせればいい。お前は次で連載を取るつもりで原作を煮詰めているようだが、そんな必要はない。今できてる分で十分だ。出来た端からそいつに原作を渡して、とにかく描かせまくれ」
「それってどういう……」
南雲の意図が分からず戸惑う佳祐であったが、しかし南雲の答えは単純なものであった。
「いいか、お前の話を聞いて一つ分かったのは『あやかしには休みは必要ない』ってことだ。聞けば、そいつ不眠不休で三日で原稿を仕上げたんだろう?」
「あ、ああ……」
「その時、そいつは疲れた様子はあったか? 睡眠の他に食事はどうだ?」
「そういえば……そんなに疲れた様子はなかったな……。食事もあやかしには基本不要でたまに食べるだけで十分とか……。ただ味覚はあるみたいで、食べるのは一種の娯楽みたいなのを言っていた」
「なら、決まりじゃねえか。前に言ったオレのセリフ撤回するぜ。そいつは才能を持った漫画家じゃねぇ。それ以上の存在だ。漫画家なら誰でも喉から手が出るほど欲しい、漫画を描かせるための機械だ」
「き、機械……?」
なにを言っているんだと思わず呟きそうになった佳祐であったが、そんな佳祐のセリフを遮って南雲は続ける。
「だって、そうだろう? オレ達漫画家に取って一番の壁は作業時間だ。ぶっちゃけ、漫画で一番時間がかかる作業は作画だ。原稿に下書きをしてペン入れをする。その作業が漫画制作で最も重要で同時に一番時間を食う。オレ達は毎日毎日睡眠を削って、それを仕上げるが、それでもいつもギリギリだ。そもそもオレ達は人間なんだ。何十時間もずっと働くわけにはいかない。だが、あやかしってのは人間とはそうした作りが違うんだろう? なら、漫画において一番時間のかかる作業をそいつに負担してもらえれば、お前は原作を考えるだけでいい。たとえそれがイマイチな出来や自分では納得出来ない形でも仕上げてしまえば、それは漫画になるんだ。そして、それを大量に仕上げて、出来た端から、それらを担当や編集部に持ち込めばいい。つまりは納得のいく一つの作品よりも多くの漫画を仕上げること。そうすればそのうちの一つが当たって連載……いや大ヒットも夢じゃねえ。しかも、その負担のほとんどが絵を描くあやかしがになってくれる。それもお前の言う話が本当ならノーギャラで利用できるってことだ」
それは聞く人が聞けば、かなりのブラックな労働。いや、それ以上の押しつけであった。
それを一人の漫画家、作画担当にぶつけるなど普通ならば違法労働も甚だしい。だが、
「相手はあやかしなんだろう? それも単に漫画が描きたいだけの。なら、それを利用しろ。幸い、今そいつはとにかく漫画が描きたくてイラついてるんだろう? なら、お前が没にしたやつも含めて全てそいつに描かせろ。漫画は確かにアイディアも大事だが、それ以上に数だ。百本の駄作も集まれば一つの名作に変化する。佳祐。相手が人間じゃないなら、違法労働もなにもない。お前は最高の道具を手に入れたんだ。そいつを有効利用しろ」
「道具……」
そうハッキリと刑部姫を宣言する南雲に対し、佳祐は僅かに顔を曇らせる。
彼に取って刑部姫とはそういう存在ではなく、あくまでも対等なパートナー。そのつもりでいた。だが、
「おいおい、今更やめろよ。佳祐。お前だって本心ではそう思って、そいつを利用していた部分もあるだろう?」
「い、いや、そんなことは……」
「なら、聞くがよ。お前、オレとこの間ここで話した時から、その刑部姫にストーリーの描き方教えたか?」
「…………」
そう問われ、佳祐は沈黙する。
それを見て、南雲は酒をあおりながら頷く。
「つまりはそういうことだろう。あいつにストーリーを作り力ができたら、それこそ、そいつはお前の元から離れる。せっかく手に入れた自分の代わりに作画を描いてくれる便利な奴がいなくなる。それが嫌だったから教えなかった。そういうことだろう」
「……そう、かもしれないな」
南雲のセリフに頷く佳祐。
そのまま彼は目の前にあった酒を飲み干すのだった。
「ああ、一語一句嘘偽りない本当の事だ」
「……マジかよ」
あのあと佳祐が南雲に対し、打ち明けた話は刑部姫の事であり、彼女が人間ではなくあやかしだという事実。
その彼女が佳祐の描く漫画に惚れ、自分も漫画を描きたいと宣言したこと。
さらにその彼女と組んで漫画家を目指すことになったこと。
これまでの経緯の全てを佳祐は南雲へと話す。
話を聞き終えた後、南雲は長いため息と共に、目の前に置かれた酒をゆっくりと飲み干す。
「……妖怪だのあやかしだの、そういう話はオレ達のような職種が生み出す創作かと思っていたんだが、現実にいたんだなぁ……」
「ああ、オレも正直驚いている」
酒を仰ぎながらそう呟く南雲に佳祐も今更ながら頷く。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「どう、って?」
「そのあやかしと組んで本気で連載を狙うつもりなのか?」
南雲からのはっきりとしたその問いかけに佳祐は一瞬息を呑む。
「それは……」
確かに相手が普通の人間ではなく、あやかしだというのならそれと組んで漫画家を目指すというのは、いつかどこかで何らかの弊害を生み出す。
事実、今もなぜだか分からないが刑部姫はイラついた様子で自分に早く原作を書けとせがむようになった。
これまではそんなことはなく、こちらのペースに合わせてくれていたのに。
「……けど案外、そいつがあやかしで良かったかもな。佳祐」
「え?」
しかし思わぬ南雲のセリフに佳祐はどういうことかと顔を向ける。
するとそこにはいつか見せたような南雲の打算に満ちた表情があった。
「前に言っただろう。チャンスがあるならそれを利用しろって。あの時はあの子がただの絵の上手い素人だと思ってそう言った。けれど、相手が人間じゃないあやかしだって言うなら、話はもっと単純じゃねえか。そいつを今のままうまく利用して、お前は原作だけを考えて、そいつに絵を描かせろ。そうすればお前は出世できるぜ」
「なっ、なに言ってんだよ……南雲」
「まあ聞けよ。そいつが何にイラついてるかは知らないが、ようは漫画が描きたいってことだろう? なら、描かせればいい。お前は次で連載を取るつもりで原作を煮詰めているようだが、そんな必要はない。今できてる分で十分だ。出来た端からそいつに原作を渡して、とにかく描かせまくれ」
「それってどういう……」
南雲の意図が分からず戸惑う佳祐であったが、しかし南雲の答えは単純なものであった。
「いいか、お前の話を聞いて一つ分かったのは『あやかしには休みは必要ない』ってことだ。聞けば、そいつ不眠不休で三日で原稿を仕上げたんだろう?」
「あ、ああ……」
「その時、そいつは疲れた様子はあったか? 睡眠の他に食事はどうだ?」
「そういえば……そんなに疲れた様子はなかったな……。食事もあやかしには基本不要でたまに食べるだけで十分とか……。ただ味覚はあるみたいで、食べるのは一種の娯楽みたいなのを言っていた」
「なら、決まりじゃねえか。前に言ったオレのセリフ撤回するぜ。そいつは才能を持った漫画家じゃねぇ。それ以上の存在だ。漫画家なら誰でも喉から手が出るほど欲しい、漫画を描かせるための機械だ」
「き、機械……?」
なにを言っているんだと思わず呟きそうになった佳祐であったが、そんな佳祐のセリフを遮って南雲は続ける。
「だって、そうだろう? オレ達漫画家に取って一番の壁は作業時間だ。ぶっちゃけ、漫画で一番時間がかかる作業は作画だ。原稿に下書きをしてペン入れをする。その作業が漫画制作で最も重要で同時に一番時間を食う。オレ達は毎日毎日睡眠を削って、それを仕上げるが、それでもいつもギリギリだ。そもそもオレ達は人間なんだ。何十時間もずっと働くわけにはいかない。だが、あやかしってのは人間とはそうした作りが違うんだろう? なら、漫画において一番時間のかかる作業をそいつに負担してもらえれば、お前は原作を考えるだけでいい。たとえそれがイマイチな出来や自分では納得出来ない形でも仕上げてしまえば、それは漫画になるんだ。そして、それを大量に仕上げて、出来た端から、それらを担当や編集部に持ち込めばいい。つまりは納得のいく一つの作品よりも多くの漫画を仕上げること。そうすればそのうちの一つが当たって連載……いや大ヒットも夢じゃねえ。しかも、その負担のほとんどが絵を描くあやかしがになってくれる。それもお前の言う話が本当ならノーギャラで利用できるってことだ」
それは聞く人が聞けば、かなりのブラックな労働。いや、それ以上の押しつけであった。
それを一人の漫画家、作画担当にぶつけるなど普通ならば違法労働も甚だしい。だが、
「相手はあやかしなんだろう? それも単に漫画が描きたいだけの。なら、それを利用しろ。幸い、今そいつはとにかく漫画が描きたくてイラついてるんだろう? なら、お前が没にしたやつも含めて全てそいつに描かせろ。漫画は確かにアイディアも大事だが、それ以上に数だ。百本の駄作も集まれば一つの名作に変化する。佳祐。相手が人間じゃないなら、違法労働もなにもない。お前は最高の道具を手に入れたんだ。そいつを有効利用しろ」
「道具……」
そうハッキリと刑部姫を宣言する南雲に対し、佳祐は僅かに顔を曇らせる。
彼に取って刑部姫とはそういう存在ではなく、あくまでも対等なパートナー。そのつもりでいた。だが、
「おいおい、今更やめろよ。佳祐。お前だって本心ではそう思って、そいつを利用していた部分もあるだろう?」
「い、いや、そんなことは……」
「なら、聞くがよ。お前、オレとこの間ここで話した時から、その刑部姫にストーリーの描き方教えたか?」
「…………」
そう問われ、佳祐は沈黙する。
それを見て、南雲は酒をあおりながら頷く。
「つまりはそういうことだろう。あいつにストーリーを作り力ができたら、それこそ、そいつはお前の元から離れる。せっかく手に入れた自分の代わりに作画を描いてくれる便利な奴がいなくなる。それが嫌だったから教えなかった。そういうことだろう」
「……そう、かもしれないな」
南雲のセリフに頷く佳祐。
そのまま彼は目の前にあった酒を飲み干すのだった。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる