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34 すれ違うあやかしと人間
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「まっ、当然のことだよ。オレだってそうするさ」
佳祐の肯定に頷く南雲。だが、佳祐は飲み干したコップを力強くテーブルに叩きつける。
「――確かにその気持ちはあった。全くないと言えば嘘になる。けれども今はオレの最高の原作をあいつに最高の形で漫画にして欲しい。その気持ちしかない」
そう言って佳祐は僅かに酒に酔った赤い顔を両手で擦りながら、南雲に宣言する。
「南雲。すまないが、オレはさっきのお前の意見には従えない。確かに連載を狙うならそれが一番いいんだろう。ヒット作を出すのも刑部姫の画力を利用すれば、それでいつかは狙える。けれど、そうじゃないんだ。どんな作品でもいいわけじゃない。オレは、いやオレと刑部姫は最高の漫画で連載を狙いたい。今、月間アルファで連載されている『スノーアイドルフェアリー』。あれ以上の作品を作って連載したいんだ! なによりも刑部姫にはオレの最高の漫画を描いて欲しい。それがオレの漫画を見て、漫画に惚れ、漫画家を目指そうとしたあやかしに対する最大限の礼儀なんだ!」
そう思わず熱く語ってしまった佳祐だが、すぐさま隣の部屋に迷惑がかかると声を落とし、その場に正座をする。
そんな彼の演説を見ていた南雲はその口元に笑みをこぼす。
「ぷっ、ふははははは、相変わらずだな。お前は」
「わ、笑うなよ」
そう言ってひとしき笑い声を上げた南雲は目の前の佳祐を眺めながら、残った酒をあおぐ。
「……まっ、そういうことならこれ以上オレが口を挟むことはできないか。あーあー、しかし勿体無いな。もしもそいつがオレのところに来ていたら、マジで作画のほとんどそいつに任せてオレはネタ出しだけする楽な生活する予定だったのにー」
「お前は普通に絵うまいだろうが」
「まあ、確かに。オレは絵もストーリーもお前より上だからな」
「それはどうかな? 以前のオレならともかく今のオレには刑部姫がいる。言ったように次のオレの連載はお前にも負けないぞ。南雲」
そう言って笑みを浮かべる佳祐に、南雲もまた笑みを返す。
その後の彼らは残った酒を飲みながら、食事をつまみ、いつものつまらない雑談に花を咲かせるのであった。
◇ ◇ ◇
そんな佳祐と南雲の会話の十分ほど前――。
「……そう、かもしれないな」
そのあやかしを利用していただけだろうという南雲のセリフに頷く佳祐。
それを透明化の術を使い、彼の傍で聞いていた刑部姫は震える体を必死に支えながら、彼らのいた部屋をあとにし、その居酒屋より飛び出す。
『相手はあやかしなんだろう? それも単に漫画が描きたいだけの。なら、それを利用しろ』
『そいつは才能を持った漫画家じゃねぇ。それ以上の漫画を描かせるための機械だ』
『なら、聞くがよ。お前、オレとこの間ここで話した時から、その刑部姫にストーリーの描き方教えたか?』
『つまりはそういうことだろう』
『……そう、かもしれないな』
「…………ッ」
気づくと刑部姫は夜の街を走っていた。
すでに精神の乱れにより透明化の術は切れており、夜の街を巫女服のままかける少女の姿がある。
時折、街を歩く人とぶつかるが、それを気にする様子もなく刑部姫は走る。走る。走る。
場所の目的はない。
ただ、ここではないどこか。もっと言えば佳祐達がいたあの場所からもっと遠くに逃げたかった。
夜の街を走る刑部姫の頭の中はぐちゃぐちゃであった。
信じていた。ずっと信じていた。
それでも時折、頭の隅にチラつき、考えていたことがあった。
彼――佳祐に取って自分は都合のいい道具ではないのかと。
かつて城の城主達に未来を告げていた時のように彼らにとっての自分は都合のいい道具であった。
その道具が凶兆しか告げないと分かれば、彼らは切り捨てた。
人間とはそのようなもの。
あやかしとはそもそも価値観が違う。
人間に対する情や接し方とは違う。
最後にはあやかしは人の手により捨てられる。
それはこれまでの刑部姫の人生が物語っている。
それでも、そんな彼女が人が作ったものに夢を見た。
あの佳祐という人間が生み出した作品、漫画なるものに夢を抱いた。
だから、あの人間とならやっていける。
これまでとは違う夢の共存をできると信じていた。
だが――
気づくと彼女は道山より渡された名刺に書かれた彼がいる屋敷へと訪れる。
山に入ったすぐの場所にその屋敷はあった。
昔ながらの日本屋敷。そう呼んでいい大きな敷地に建てられた屋敷。その門の前で立ち尽くす刑部姫。
周りに街灯はなく、月の光だけが彼女を照らしていた。
そんな誰もが気づかない場所で、しかし彼女が門の前に立つと扉が開く。
顔を上げると、そこには屋敷の扉を開き、彼女を迎える一人の老人の姿があった。
「やはり来たか。待っておったぞ、刑部姫」
「……ぬらり、ひょん……」
顔いっぱいに涙を溜め込んだ刑部姫。
そんな彼女をぬらりひょんはまるで菩薩のような優しい笑みを浮かべ、迎え入れる。
「さあ、来るがよい。あやかしはあやかし同士、共に夢を叶えようぞ」
「…………」
差し伸べられたぬらりひょん――道山の手を刑部姫は迷うことなく、手に取るのだった。
佳祐の肯定に頷く南雲。だが、佳祐は飲み干したコップを力強くテーブルに叩きつける。
「――確かにその気持ちはあった。全くないと言えば嘘になる。けれども今はオレの最高の原作をあいつに最高の形で漫画にして欲しい。その気持ちしかない」
そう言って佳祐は僅かに酒に酔った赤い顔を両手で擦りながら、南雲に宣言する。
「南雲。すまないが、オレはさっきのお前の意見には従えない。確かに連載を狙うならそれが一番いいんだろう。ヒット作を出すのも刑部姫の画力を利用すれば、それでいつかは狙える。けれど、そうじゃないんだ。どんな作品でもいいわけじゃない。オレは、いやオレと刑部姫は最高の漫画で連載を狙いたい。今、月間アルファで連載されている『スノーアイドルフェアリー』。あれ以上の作品を作って連載したいんだ! なによりも刑部姫にはオレの最高の漫画を描いて欲しい。それがオレの漫画を見て、漫画に惚れ、漫画家を目指そうとしたあやかしに対する最大限の礼儀なんだ!」
そう思わず熱く語ってしまった佳祐だが、すぐさま隣の部屋に迷惑がかかると声を落とし、その場に正座をする。
そんな彼の演説を見ていた南雲はその口元に笑みをこぼす。
「ぷっ、ふははははは、相変わらずだな。お前は」
「わ、笑うなよ」
そう言ってひとしき笑い声を上げた南雲は目の前の佳祐を眺めながら、残った酒をあおぐ。
「……まっ、そういうことならこれ以上オレが口を挟むことはできないか。あーあー、しかし勿体無いな。もしもそいつがオレのところに来ていたら、マジで作画のほとんどそいつに任せてオレはネタ出しだけする楽な生活する予定だったのにー」
「お前は普通に絵うまいだろうが」
「まあ、確かに。オレは絵もストーリーもお前より上だからな」
「それはどうかな? 以前のオレならともかく今のオレには刑部姫がいる。言ったように次のオレの連載はお前にも負けないぞ。南雲」
そう言って笑みを浮かべる佳祐に、南雲もまた笑みを返す。
その後の彼らは残った酒を飲みながら、食事をつまみ、いつものつまらない雑談に花を咲かせるのであった。
◇ ◇ ◇
そんな佳祐と南雲の会話の十分ほど前――。
「……そう、かもしれないな」
そのあやかしを利用していただけだろうという南雲のセリフに頷く佳祐。
それを透明化の術を使い、彼の傍で聞いていた刑部姫は震える体を必死に支えながら、彼らのいた部屋をあとにし、その居酒屋より飛び出す。
『相手はあやかしなんだろう? それも単に漫画が描きたいだけの。なら、それを利用しろ』
『そいつは才能を持った漫画家じゃねぇ。それ以上の漫画を描かせるための機械だ』
『なら、聞くがよ。お前、オレとこの間ここで話した時から、その刑部姫にストーリーの描き方教えたか?』
『つまりはそういうことだろう』
『……そう、かもしれないな』
「…………ッ」
気づくと刑部姫は夜の街を走っていた。
すでに精神の乱れにより透明化の術は切れており、夜の街を巫女服のままかける少女の姿がある。
時折、街を歩く人とぶつかるが、それを気にする様子もなく刑部姫は走る。走る。走る。
場所の目的はない。
ただ、ここではないどこか。もっと言えば佳祐達がいたあの場所からもっと遠くに逃げたかった。
夜の街を走る刑部姫の頭の中はぐちゃぐちゃであった。
信じていた。ずっと信じていた。
それでも時折、頭の隅にチラつき、考えていたことがあった。
彼――佳祐に取って自分は都合のいい道具ではないのかと。
かつて城の城主達に未来を告げていた時のように彼らにとっての自分は都合のいい道具であった。
その道具が凶兆しか告げないと分かれば、彼らは切り捨てた。
人間とはそのようなもの。
あやかしとはそもそも価値観が違う。
人間に対する情や接し方とは違う。
最後にはあやかしは人の手により捨てられる。
それはこれまでの刑部姫の人生が物語っている。
それでも、そんな彼女が人が作ったものに夢を見た。
あの佳祐という人間が生み出した作品、漫画なるものに夢を抱いた。
だから、あの人間とならやっていける。
これまでとは違う夢の共存をできると信じていた。
だが――
気づくと彼女は道山より渡された名刺に書かれた彼がいる屋敷へと訪れる。
山に入ったすぐの場所にその屋敷はあった。
昔ながらの日本屋敷。そう呼んでいい大きな敷地に建てられた屋敷。その門の前で立ち尽くす刑部姫。
周りに街灯はなく、月の光だけが彼女を照らしていた。
そんな誰もが気づかない場所で、しかし彼女が門の前に立つと扉が開く。
顔を上げると、そこには屋敷の扉を開き、彼女を迎える一人の老人の姿があった。
「やはり来たか。待っておったぞ、刑部姫」
「……ぬらり、ひょん……」
顔いっぱいに涙を溜め込んだ刑部姫。
そんな彼女をぬらりひょんはまるで菩薩のような優しい笑みを浮かべ、迎え入れる。
「さあ、来るがよい。あやかしはあやかし同士、共に夢を叶えようぞ」
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