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35 迷える刑部姫
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「あれ? あそこにいるのって……刑部姫さん?」
その日、雪芽はたまたま買い物のために外を歩いていた。
そんな時、街中のとある喫茶店の窓から中にいる人物を見た雪芽はそれが刑部姫だと分かる。
「誰かと一緒にお茶しているのかな……? もしかして佳祐さん?」
佳祐のこととなると思わず首を突っ込みたくなるのが彼女の出来心であり、そのため喫茶店の中にも思わず入ってしまう。
だが、中に入って刑部姫と対峙している相手が佳祐でないと分かると雪芽は驚く。
しかもそれが彼女が知る、とあるあやかしだったと知るやいなや驚きは二倍である。
「あれって……ぬらりひょん!?」
思わず大声を出しそうになるのを雪芽は慌てて口を塞いで近くの席に座る。
幸い、二人はこちらに気づいた様子はなく、雪芽は二人の会話を盗み聞きするように集中する。
(どうしてぬらりひょんさんがここに……ううん。それよりもどうして刑部姫さんと一緒に……?)
思わぬ展開に嫌な予感を感じる雪芽。
その予測を頷かせるように二人の会話を聞いていた雪芽に驚くべきセリフが飛び込んでくる。
「それで儂の小説『戦国千国』のコミカライズ担当……漫画を描く気になったと考えていいのじゃな? 刑部姫よ」
「……はい」
(!? 刑部姫さんがぬらりひょんさんの小説を漫画に!?)
驚きのあまり注文したアイスティーをこぼしそうになる雪芽であったが、それをなんとか踏みとどまり二人の会話に集中する。
「ほっほっほっ、良い心がけじゃ。なあに儂の小説『戦国千国』は出版部数一千万を越える人気の小説。これが漫画化されると知れば原作ファンは勿論新規の読者も獲得できる。しかもお主の画力があれば瞬く間に人気漫画としてすぐに売上を伸ばすであろう。どこぞの名も知らぬ三流漫画家と組んで細々とやるよりもあやかしはあやかし同士、共にこうして協力し合い、互いの夢を叶えるのが理想じゃよ」
「……夢……」
上機嫌に笑うぬらりひょんとは対照的に刑部姫はどこか暗い表情で迷っているように雪芽には感じられた。
それは目の前で談笑しているぬらりひょんも感じ取ったのか、どこか釈然としない様子で刑部姫に問う。
「どうした刑部姫よ。まさかとは思うが、まだあの人間に未練があるのか?」
「そ、それは……」
「言ったであろう。人間と我らあやかしが共存することなど出来ぬと。お主もかつて幾度となくそうした目にあったはずじゃ。その男もお主を利用して自分の漫画をいいように描かせようとしていたと言ったではないか」
「…………」
(佳祐さんが刑部姫さんを利用して……? そ、そんなことあり得るはずがないです……)
二人の会話を聞いていた雪芽はその場で首を振り、ぬらりひょんの言葉を否定する。
だが、肝心の刑部姫はどういうことか苦悩するようにただ下を向いて黙ったまま、否定も肯定もしなかった。
そんな彼女に呆れたのかぬらりひょんはため息と共に告げる。
「まあ、よい。いずれにしても来月から儂の館で仕事に入ってもらうぞ。勿論、儂の館にいる間はお主の自由にして良い。これまでは様々なマンションや家を転々としたそうじゃが、もうその心配はないぞ。同じあやかし同士、ましてやこれから儂らは原作、漫画と共に協力し合う仲になるのじゃ。今後は儂の館でゆっくりと過ごすが良い。もうこれからはお主は誰に追い立てられることも利用されることもない。好きなように漫画を描き、お主の自由な生を得るがいい。刑部姫よ」
「…………」
ぬらりひょんはそう告げると一人先に会計を済まして出て行く。
そのぬらりひょんの後に、やはり俯いたままの刑部姫が出て行く。
二人が出て行ったのを確認すると雪芽もまた慌てた様子で喫茶店を後にするが、どうするべきか彼女は迷っていた。
「ど、どうしよう……。刑部姫さんとぬらりひょんさんが……」
先程の会話だけでは全てが分かったわけではないが、少なくとも二人が組んで漫画を描こうとしているのは分かった。
しかも、そのために刑部姫が今住んでいるマンションを出て行き、ぬらりひょんのいる館へ行こうとしている。
果たしてこのことを佳祐さんは知っているのか?
もしも知っていないのなら、教えるべきではないのか?
どうするべきかとアタフタと慌て、悩む雪芽であったが、彼女は佳祐に対し恩がある。
その恩を返すためにもここで見たことは教えなければいけない。
そう思った瞬間、彼女の行動は早かった。
すぐさまカバンからスマホを取り出すと登録していた佳祐の番号へと電話をかける。
『はい、もしもし。雪芽さんですか? どうかしまし――』
「佳祐さん! 今から話すことを落ち着いて聞いてください!」
『はい?』
電話の向こうで何事かと首を傾げる佳祐。
だが、次に告げられた雪芽からの内容に佳祐は思わず握っていたスマホを床に落とすのであった。
その日、雪芽はたまたま買い物のために外を歩いていた。
そんな時、街中のとある喫茶店の窓から中にいる人物を見た雪芽はそれが刑部姫だと分かる。
「誰かと一緒にお茶しているのかな……? もしかして佳祐さん?」
佳祐のこととなると思わず首を突っ込みたくなるのが彼女の出来心であり、そのため喫茶店の中にも思わず入ってしまう。
だが、中に入って刑部姫と対峙している相手が佳祐でないと分かると雪芽は驚く。
しかもそれが彼女が知る、とあるあやかしだったと知るやいなや驚きは二倍である。
「あれって……ぬらりひょん!?」
思わず大声を出しそうになるのを雪芽は慌てて口を塞いで近くの席に座る。
幸い、二人はこちらに気づいた様子はなく、雪芽は二人の会話を盗み聞きするように集中する。
(どうしてぬらりひょんさんがここに……ううん。それよりもどうして刑部姫さんと一緒に……?)
思わぬ展開に嫌な予感を感じる雪芽。
その予測を頷かせるように二人の会話を聞いていた雪芽に驚くべきセリフが飛び込んでくる。
「それで儂の小説『戦国千国』のコミカライズ担当……漫画を描く気になったと考えていいのじゃな? 刑部姫よ」
「……はい」
(!? 刑部姫さんがぬらりひょんさんの小説を漫画に!?)
驚きのあまり注文したアイスティーをこぼしそうになる雪芽であったが、それをなんとか踏みとどまり二人の会話に集中する。
「ほっほっほっ、良い心がけじゃ。なあに儂の小説『戦国千国』は出版部数一千万を越える人気の小説。これが漫画化されると知れば原作ファンは勿論新規の読者も獲得できる。しかもお主の画力があれば瞬く間に人気漫画としてすぐに売上を伸ばすであろう。どこぞの名も知らぬ三流漫画家と組んで細々とやるよりもあやかしはあやかし同士、共にこうして協力し合い、互いの夢を叶えるのが理想じゃよ」
「……夢……」
上機嫌に笑うぬらりひょんとは対照的に刑部姫はどこか暗い表情で迷っているように雪芽には感じられた。
それは目の前で談笑しているぬらりひょんも感じ取ったのか、どこか釈然としない様子で刑部姫に問う。
「どうした刑部姫よ。まさかとは思うが、まだあの人間に未練があるのか?」
「そ、それは……」
「言ったであろう。人間と我らあやかしが共存することなど出来ぬと。お主もかつて幾度となくそうした目にあったはずじゃ。その男もお主を利用して自分の漫画をいいように描かせようとしていたと言ったではないか」
「…………」
(佳祐さんが刑部姫さんを利用して……? そ、そんなことあり得るはずがないです……)
二人の会話を聞いていた雪芽はその場で首を振り、ぬらりひょんの言葉を否定する。
だが、肝心の刑部姫はどういうことか苦悩するようにただ下を向いて黙ったまま、否定も肯定もしなかった。
そんな彼女に呆れたのかぬらりひょんはため息と共に告げる。
「まあ、よい。いずれにしても来月から儂の館で仕事に入ってもらうぞ。勿論、儂の館にいる間はお主の自由にして良い。これまでは様々なマンションや家を転々としたそうじゃが、もうその心配はないぞ。同じあやかし同士、ましてやこれから儂らは原作、漫画と共に協力し合う仲になるのじゃ。今後は儂の館でゆっくりと過ごすが良い。もうこれからはお主は誰に追い立てられることも利用されることもない。好きなように漫画を描き、お主の自由な生を得るがいい。刑部姫よ」
「…………」
ぬらりひょんはそう告げると一人先に会計を済まして出て行く。
そのぬらりひょんの後に、やはり俯いたままの刑部姫が出て行く。
二人が出て行ったのを確認すると雪芽もまた慌てた様子で喫茶店を後にするが、どうするべきか彼女は迷っていた。
「ど、どうしよう……。刑部姫さんとぬらりひょんさんが……」
先程の会話だけでは全てが分かったわけではないが、少なくとも二人が組んで漫画を描こうとしているのは分かった。
しかも、そのために刑部姫が今住んでいるマンションを出て行き、ぬらりひょんのいる館へ行こうとしている。
果たしてこのことを佳祐さんは知っているのか?
もしも知っていないのなら、教えるべきではないのか?
どうするべきかとアタフタと慌て、悩む雪芽であったが、彼女は佳祐に対し恩がある。
その恩を返すためにもここで見たことは教えなければいけない。
そう思った瞬間、彼女の行動は早かった。
すぐさまカバンからスマホを取り出すと登録していた佳祐の番号へと電話をかける。
『はい、もしもし。雪芽さんですか? どうかしまし――』
「佳祐さん! 今から話すことを落ち着いて聞いてください!」
『はい?』
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だが、次に告げられた雪芽からの内容に佳祐は思わず握っていたスマホを床に落とすのであった。
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