あやかしが漫画家を目指すのはおかしいですか?

雪月花

文字の大きさ
39 / 46

39 道理

しおりを挟む
 当然現れた雪芽は佳祐と刑部姫を交互に見た後、これまでにない強気な表情を浮かべ、目の前に座るぬらりひょんへと近づく。

「道山さん……いえ、ぬらりひょんさん。その契約待ってもらいます」

「ほお、というと」

「そもそもあやかし同士の契約とは口頭の上で、と言いましたが、それは契約の誓いと呼ばれる儀式でのみ適用されるものです。聞きますが、そちらの刑部姫とぬらりひょんさんは儀式を行い、その上で口頭の約束をしたのですか?」

「…………」

 雪芽のその追求に道山は明らかに顔をしかめ、僅かに舌打ちをする。
 それを聞いて刑部姫も何かを思い出したようにハッとする。

「そう、じゃったな……。口頭と言ってもそれはちゃんとした儀式を踏まえた上であった……。だいぶ前にそうした儀式が風化したが厳密に言えばそうじゃ……。我らあやかしにも人と同じように我らの世界の法や手続きはある……」

「それにその契約書も刑部姫本人のサイン、印鑑もありませんよね? まあ、仮にあったとしてもあなたのやり方はかなり横暴です。人間社会のルールにおいても貴方の言う一千万円の罰金を払えというのはいささか難しいのではないですか? むしろ人間側の法が適用されるのなら、あなたの方こそ詐欺罪という罪状がつくのではないですか?」

「…………」

 現れた雪芽からの的確な指摘にさしもの道山も苦い顔をする。
 やがて、観念したかのように「くつくつ」とその顔に笑みを漏らす。

「くっくっくっ、田舎育ちの雪女かと思っておれば案外頭が回るのぉ……。あやかしというのは無駄に年月を生きて頭の柔軟性がなく、古臭い考え方の世間知らずが多いのじゃが、お前はそちらの刑部姫よりも多少は世俗に精通しておるようじゃな」

「お生憎ですが、私は雪国の辺鄙な生まれですが、その代わり色んな本を呼んで勉強していました。その中にはあなたのような詐欺を働く人物を真っ向から言い負かす法廷漫画や詐欺漫画なんかもありました。漫画の知識というのも侮れませんよ」

 鼻息を荒くドヤ顔でそう宣言する雪芽。
 一方の刑部姫は自分の無知さに少し恥じ入っているのか顔を赤くしたまま、なにやら納得していない様子で頬を膨らませていた。

「まあ、確かに儂のやり方は少々横暴かもしれぬ。しかし、先に約束を破ろうとしたのはそちらの刑部姫に変わりはあるまい? 少なくとも儂や出版社に対する迷惑を多少なりとも謝罪してもらわなければな」

「それならオレがこれから編集部に行って頭を下げて説明します。道山先生」

 そう告げたのは他ならない佳祐であり、彼はその場で道山に対し土下座をし、頭を下げ、謝罪をする。

「け、佳祐! お、お主何を……!」

「彼の言うことは最もだ。すでに決まっていた『戦国千国』のコミカライズ担当を横から掠め取ったんだから、ここは素直にオレが謝罪するべきなんだ。もともとそのつもりでオレはここに来た。これから編集部にも事情を説明する。だから、お願いします。刑部姫を……彼女をオレと組ませてください」

「佳祐さん……」

「佳祐……」

「…………」

 そう必死に頭を下げる彼を前に刑部姫も雪芽もその場を動けず、また道山もそんな佳祐の謝罪をただつまらなさそうに眺め、手に持ったキセルで一服するとため息と共に漏らす。

「……もうよい。下がれ」

「! 許して……もらえるんですか?」

 その道山の発言に慌てて頭を上げる佳祐。
 道山は瞳をつぶったまま、土下座で額を赤くした佳祐を一瞥しながら告げる。

「これ以上、お主らと話していても拉致が明かぬ。刑部姫が使えぬのなら、儂は別の作画を探さねばならぬ。お主らの相手をしている暇はないということじゃ」

「道山……」

 その道山の発言に佳祐と刑部姫は互いに顔を見つめ、静かに道山に対し頭を下げる。
 その後、雪芽を連れたままこの場より離れてようとするが、そんな彼らの背中に道山の声がかかる。

「――刑部姫よ。必ずお主を後悔させてやるぞ」

 この声に慌てて振り返る刑部姫であったが、道山の表情は変わらず。
 キセルをくわえたまま、ただ静かに煙を吐くだけであった。

◇  ◇  ◇

「雪芽さん、ありがとうございました」

「う、うむ。わらわからも礼を言うぞ。助かった、雪芽よ」

「いえ、お二人のお役に立てて私も嬉しいです」

 道山の屋敷から出てしばらく、佳祐と刑部姫は先ほど二人を救出するべく現れた雪芽に対し、そうお礼を告げる。

「ですがその……気をつけてください。道山……ぬらりひょんは執念深いあやかしと聞きます。一度自分が目をつけた相手はどんな手を使ってでも罠に嵌めるとも……」

 雪芽のその注意に佳祐も刑部姫も思わず唾を飲み込み緊張した様子を見せる。
 が、すぐにそれに気づいた雪芽が「と、と言ってもあれだけ言ったのですから多分大丈夫ですよ……た、多分……」とフォローを付け加える。

「……まあ、なんにしてもオレ達はオレ達に出来ることをするだけです。これから編集部に行って事情を説明しますし、その時にあの道山が邪魔をしにくれば正面から説き伏せます」

「うむ、そのとおりじゃ。もはやわらわ達の漫画制作を止めることは誰にもできない」

「ふふっ、確かにそうみたいですね」

 そう言って胸を張る二人の姿を見て雪芽は思わずその顔に笑みを浮かべる。

「それでは私も自分の連載がありますので、これで失礼しますね。あっ、それから最後に二人の漫画楽しみにしています。次はぜひ一緒に『月刊アルファ』で連載して競い合いましょう!」

 二人にエールを送りながら、マンションへと帰宅する雪芽を見て佳祐も刑部姫も改めて負けられない思いを募らせる。
 その後、二人はそのままの足で『月刊アルファ』の編集部へと向かい、道山のコミカライズの件に関する謝罪と説明に向かうのだった。

◇  ◇  ◇

「よし、それじゃあ漫画制作と行くか。刑部姫」

「うむ!」

 その後、編集部とのやり取りをなんとか穏便に終わらせ、刑部姫は正式に道山の『戦国千国』のコミカライズ担当を降りることになり、佳祐とタッグを組み漫画を描くことを許可してもらった。
 そうなってしまえば二人が狙うものは一つ。
 次の連載会議に向けた、今のネームを原稿にすること。
 幸いというべきか、次の連載会議は来月であり、担当の美和いわく現状これと言った候補もないため次こそは行ける可能性が高いとのこと。

「なによりも今回のお主のこのネームは面白い! これでならば、その連載会議とやらも次こそは通るであろう! いや、むしろ通らせる! わらわの画力でお主のこの物語を百二十パーセントの面白さに押し上げてくれるわ!」

「おう! 勿論オレも手伝うぜ! まだトーンとか、その辺の技術はオレの方が上手いだろうし、二人で限界ギリギリまでこの作品を良くしよう」

「もちろんじゃ! しかし佳祐。お主は無理はするなよ。わらわはあやかしゆえ、眠らなくても平気じゃが原作者のお主が倒れられては連載の時に困るからのぉ」

「そういう刑部姫こそ無理はするなよ。不眠不休が可能と言っても体力は落ちるだろうし、集中力だって途切れるだろう? あとで好物のプリンを買ってきてやるから、それを食べる際はゆっくり休めよ」

「な、なに!? プリンじゃと!? よ、よし! 分かった! では、それが来るまでは全力でやらせてもらおう! うむ! 美味しいプリンのために頑張るぞー!!」

 そんな掛け声と共に二人の漫画制作は開始される。
 途中、南雲の誘いがあったがそれを佳祐が断ったり。
 二人の様子を心配して手料理を持ってきてくれた雪芽であったが、そのどれも美味しくはあったが見事に冷えた料理ばかりであり温かいものが欲しくなったりと、二人を心配する周りの声もあり、それらに支えられながら二人は漫画を描き続けた。

 そうして、一ヶ月後。
 遂に二人の連載会議に向けた至極の一本、今できる最高傑作の漫画を描き上げるのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...