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43 運命の結果
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「今日は連載会議……そろそろ美和さんからの結果がかかってくるんだが……やけに遅いな……」
「ううむ。もう朝からずっと待っていてわらわも疲れたぞぉ」
「確かに朝、昼、夕方とずっと待機していますけれど、やたらと遅いですね……。もうお夕飯も食べましたし、そろそろ夜食でもお作りしましょうか?」
「そ、そうだな。オレは美和さんからの電話がかかってくるまではこの場を離れられないから、作ってもらえると助かるかも」
「分かりました! お任せ下さい、佳祐さん」
そこはあやかしが住まうマンションの一角、佳祐と刑部姫が住む部屋である。
二人は今日が連載会議のある日と聞いており、朝から目が覚めてからずっとスマホを机に置いたまま、そこからの美和の連絡を待っていた。
佳祐の先程の発言通り、彼は朝からその場所をほとんど動いておらず、刑部姫も珍しく緊張した面持ちで部屋をウロウロしたり、気晴らしに漫画を読んだり、描いたりしたものの、全然集中できず最終的には佳祐と一緒に机に置かれたスマホを凝視している。
そのため、二人の世話や食事はその日、佳祐の部屋に訪ねてきた雪芽に一任されていた。
「というか雪芽よ。なぜにお主までここにいる?」
「え、だってそれは今日が連載会議だって私も自分の担当さんから聞いていましたから。いよいよ、あの佳祐先生と一緒に雑誌の載れるんです! その喜びを表すためにもお二人と一緒にここで結果を聞こうと思ってきました!」
「はは、ありがとう、雪芽さん。……とはいえ、それが叶うとも限らないけれどね」
そう言って佳祐は緊張した面持ちでスマホを見る。
「……ぬらりひょんと画霊さん、ですね」
「ああ……」
雪芽の呟きに佳祐は頷く。
すでに雪芽にもぬらりひょん――道山が画霊なるあやかしを連れて連載会議に自分の作品を提出したことを話していた。
雪芽も画霊が絵に関するあやかしであることは知っており、そのため二人同様にそれがいかに強敵かを熟知していた。だが、
「でも、大丈夫ですよ。私はお二人の作品を信じています」
雪芽は何の心配もいらないとばかりにドヤ顔で二人に笑顔を見せる。
そんな雪芽の励ましに佳祐も刑部姫もほんの少し肩の荷が降りるように笑う。
「それじゃあ、私はなにかお夜食をお作りしますね」
「ああ、頼むよ。雪芽さん」
そう言って雪芽が台所に移動しようとした瞬間であった。
『ピリリリリリリリリリッ!』
突然、机に置かれたスマホの音が鳴る。
その音にこの場にいた三人は心臓が飛び出るように驚くと、佳祐は慌ててスマホを手に取り、受信ボタンを押す。
「は、はい! こちら田村佳祐です! 美和さん、結果はどうでした!?」
携帯を手に取り慌ててそう問いかける佳祐。
電話の向こうではそんな佳祐の声が聞こえているのかいないのか美和が沈黙したまま答えない。
「み、美和さん? ど、どうなったんですか?」
恐る恐る震える声で問いかける佳祐。
だが、次の瞬間それは最悪の形で答えられた。
『――残念だが佳祐。ダメだったよ』
「え……?」
「なっ!?」
「ふえっ!?」
電話の向こうから聞こえた落胆するような声。
その声に佳祐は思わず廃人のように真っ白となる。
そして、電話の向こうの声をすぐ傍で聞いていた刑部姫と雪芽も同じように顔を凍らせて、その場で固まる。
終わった。自分達の連載をかけた二度目の挑戦がこれで再び終わった……。
そう一行に絶望が降りかかった瞬間、電話の向こうで『――ぷっ』と吹き出す声が聞こえた。
『だーはっはっはっはっはっ! おいおい、佳祐! なーにマジで受け取ってんだよ!? オレだよ、オレ。南雲だよ。お前、電話受け取るのはいいけど、ちゃんと相手が誰か確認してから出ろよなー。いやー、軽い冗談のつもりだったのにお前マジで声失ってんじゃんー。つーか男の声と担当の声間違えるか、普通ー? だーはっはっはっはっはっは!!』
「……南雲ォ」
そう電話の向こう側でこれ幸いとばかりに爆笑している親友に対し、佳祐は本気でこいつとの縁を切ってやろうかと思った。
刑部姫に至っては額に全身から妖気をほとばしりながら、尻尾と耳をこれ以上ないほど逆立たせていた。
「ちょっとこれからあいつを絞めてくるかのぉ……」
などと物騒なことを言っており、佳祐も「そうだなー」と曖昧に頷いている。
唯一、理性が残った雪芽だけが「あ、あの、そ、それはちょっとやめておいたほうが」と止めてくれた。
『お、おいおい、なにやら物騒な話してるが、ちょっとした冗談だろう。悪い悪い、佳祐。お前も緊張してるだろうと思って、それをほぐそうとジョークを言ってみたつもりなんだよ』
「いいか、南雲。この世には言っていい冗談と悪い冗談がある。しかもそれは時と場所による。今度同じような真似したらマジで親友の縁切るからな」
なおも軽口を叩く南雲に対し、珍しく本気で切れる佳祐にさしもの南雲も『す、すまん……』と素の声を抑えて謝罪する。
『……で、マジな話、その様子だとまだ結果は出てないのか?』
「ああ、どうも会議が長引いてるみたいだ。これまでだと遅くても夕方には美和さんが知らせてきていたんだけど……」
『もう九時を回って十時になるな……。ってことはよっぽどの会議になってんだな。オレの時でもここまでかからなかったからな……』
互いに時計を見て、いかに編集部が熱く議論をしているのかを察する。
無論、その内容は恐らくあの道山による小説『戦国千国』のコミカライズの件が含まれているのだろう。
彼の新連載立ち上げについては南雲も担当を通して聞いていた。
『……けどま、オレはお前に勝って欲しいと思ってるぜ。これは冗談でもお世辞でもなくマジだ。今度こそオレとお前の作品で競いあおうぜ』
「南雲……」
そう言って背中を押してくれる親友兼ライバルに佳祐は薄い笑みを浮かべ答える。
「アニメ化作家が余裕かよ。すぐに連載して追いついてやるから、そっちで待ってろ」
『おーおー、待っててやるよ。お前もすぐにこっちの高みまで来てみな』
佳祐からの返答に電話の向こうの南雲も薄い笑みを浮かべながら電話を切る。
不思議と南雲と会話したせいか、先程までの緊張や焦りが少し落ち着いたのを佳祐は感じる。
先程のタチの悪い冗談はともかく、こうして声をかけてくれた親友に佳祐は心の中で僅かに感謝する。
「――よし、こうなったらジタバタしてもしょうがない。あとはどっしりと構えるだけだ」
そう言ってスマホを机においてその場に座り込む佳祐。
もう自分に動揺はない。あとは電話が鳴るその瞬間までこうして落ち着いて――と彼が心の中で思った瞬間であった。
『ピリリリリリリリリリッ!』
再びスマホの音が鳴る。
「なんだよ、また南雲か?」
いい加減にしろよと思いつつスマホを取り画面を見ると、そこに映った文字は担当の美和であった。
「み、美和さん!?」
「つ、遂に来たのか!?」
「あ、あわわわわわ!」
美和の文字が見えた瞬間、アタフタと手に持つスマホを動かす佳祐。
先程のどっしりと構えるの言葉はどうしたと思わず突っ込みたくなるほどの狼狽である。
だが、すぐさま刑部姫と目を合わせると、静かにその場で深呼吸を一つし、佳祐は手に持ったスマホを握り、受信ボタンを押す。
「――はい、佳祐です」
そうして、遂に運命の結果が佳祐の耳に入る。
「ううむ。もう朝からずっと待っていてわらわも疲れたぞぉ」
「確かに朝、昼、夕方とずっと待機していますけれど、やたらと遅いですね……。もうお夕飯も食べましたし、そろそろ夜食でもお作りしましょうか?」
「そ、そうだな。オレは美和さんからの電話がかかってくるまではこの場を離れられないから、作ってもらえると助かるかも」
「分かりました! お任せ下さい、佳祐さん」
そこはあやかしが住まうマンションの一角、佳祐と刑部姫が住む部屋である。
二人は今日が連載会議のある日と聞いており、朝から目が覚めてからずっとスマホを机に置いたまま、そこからの美和の連絡を待っていた。
佳祐の先程の発言通り、彼は朝からその場所をほとんど動いておらず、刑部姫も珍しく緊張した面持ちで部屋をウロウロしたり、気晴らしに漫画を読んだり、描いたりしたものの、全然集中できず最終的には佳祐と一緒に机に置かれたスマホを凝視している。
そのため、二人の世話や食事はその日、佳祐の部屋に訪ねてきた雪芽に一任されていた。
「というか雪芽よ。なぜにお主までここにいる?」
「え、だってそれは今日が連載会議だって私も自分の担当さんから聞いていましたから。いよいよ、あの佳祐先生と一緒に雑誌の載れるんです! その喜びを表すためにもお二人と一緒にここで結果を聞こうと思ってきました!」
「はは、ありがとう、雪芽さん。……とはいえ、それが叶うとも限らないけれどね」
そう言って佳祐は緊張した面持ちでスマホを見る。
「……ぬらりひょんと画霊さん、ですね」
「ああ……」
雪芽の呟きに佳祐は頷く。
すでに雪芽にもぬらりひょん――道山が画霊なるあやかしを連れて連載会議に自分の作品を提出したことを話していた。
雪芽も画霊が絵に関するあやかしであることは知っており、そのため二人同様にそれがいかに強敵かを熟知していた。だが、
「でも、大丈夫ですよ。私はお二人の作品を信じています」
雪芽は何の心配もいらないとばかりにドヤ顔で二人に笑顔を見せる。
そんな雪芽の励ましに佳祐も刑部姫もほんの少し肩の荷が降りるように笑う。
「それじゃあ、私はなにかお夜食をお作りしますね」
「ああ、頼むよ。雪芽さん」
そう言って雪芽が台所に移動しようとした瞬間であった。
『ピリリリリリリリリリッ!』
突然、机に置かれたスマホの音が鳴る。
その音にこの場にいた三人は心臓が飛び出るように驚くと、佳祐は慌ててスマホを手に取り、受信ボタンを押す。
「は、はい! こちら田村佳祐です! 美和さん、結果はどうでした!?」
携帯を手に取り慌ててそう問いかける佳祐。
電話の向こうではそんな佳祐の声が聞こえているのかいないのか美和が沈黙したまま答えない。
「み、美和さん? ど、どうなったんですか?」
恐る恐る震える声で問いかける佳祐。
だが、次の瞬間それは最悪の形で答えられた。
『――残念だが佳祐。ダメだったよ』
「え……?」
「なっ!?」
「ふえっ!?」
電話の向こうから聞こえた落胆するような声。
その声に佳祐は思わず廃人のように真っ白となる。
そして、電話の向こうの声をすぐ傍で聞いていた刑部姫と雪芽も同じように顔を凍らせて、その場で固まる。
終わった。自分達の連載をかけた二度目の挑戦がこれで再び終わった……。
そう一行に絶望が降りかかった瞬間、電話の向こうで『――ぷっ』と吹き出す声が聞こえた。
『だーはっはっはっはっはっ! おいおい、佳祐! なーにマジで受け取ってんだよ!? オレだよ、オレ。南雲だよ。お前、電話受け取るのはいいけど、ちゃんと相手が誰か確認してから出ろよなー。いやー、軽い冗談のつもりだったのにお前マジで声失ってんじゃんー。つーか男の声と担当の声間違えるか、普通ー? だーはっはっはっはっはっは!!』
「……南雲ォ」
そう電話の向こう側でこれ幸いとばかりに爆笑している親友に対し、佳祐は本気でこいつとの縁を切ってやろうかと思った。
刑部姫に至っては額に全身から妖気をほとばしりながら、尻尾と耳をこれ以上ないほど逆立たせていた。
「ちょっとこれからあいつを絞めてくるかのぉ……」
などと物騒なことを言っており、佳祐も「そうだなー」と曖昧に頷いている。
唯一、理性が残った雪芽だけが「あ、あの、そ、それはちょっとやめておいたほうが」と止めてくれた。
『お、おいおい、なにやら物騒な話してるが、ちょっとした冗談だろう。悪い悪い、佳祐。お前も緊張してるだろうと思って、それをほぐそうとジョークを言ってみたつもりなんだよ』
「いいか、南雲。この世には言っていい冗談と悪い冗談がある。しかもそれは時と場所による。今度同じような真似したらマジで親友の縁切るからな」
なおも軽口を叩く南雲に対し、珍しく本気で切れる佳祐にさしもの南雲も『す、すまん……』と素の声を抑えて謝罪する。
『……で、マジな話、その様子だとまだ結果は出てないのか?』
「ああ、どうも会議が長引いてるみたいだ。これまでだと遅くても夕方には美和さんが知らせてきていたんだけど……」
『もう九時を回って十時になるな……。ってことはよっぽどの会議になってんだな。オレの時でもここまでかからなかったからな……』
互いに時計を見て、いかに編集部が熱く議論をしているのかを察する。
無論、その内容は恐らくあの道山による小説『戦国千国』のコミカライズの件が含まれているのだろう。
彼の新連載立ち上げについては南雲も担当を通して聞いていた。
『……けどま、オレはお前に勝って欲しいと思ってるぜ。これは冗談でもお世辞でもなくマジだ。今度こそオレとお前の作品で競いあおうぜ』
「南雲……」
そう言って背中を押してくれる親友兼ライバルに佳祐は薄い笑みを浮かべ答える。
「アニメ化作家が余裕かよ。すぐに連載して追いついてやるから、そっちで待ってろ」
『おーおー、待っててやるよ。お前もすぐにこっちの高みまで来てみな』
佳祐からの返答に電話の向こうの南雲も薄い笑みを浮かべながら電話を切る。
不思議と南雲と会話したせいか、先程までの緊張や焦りが少し落ち着いたのを佳祐は感じる。
先程のタチの悪い冗談はともかく、こうして声をかけてくれた親友に佳祐は心の中で僅かに感謝する。
「――よし、こうなったらジタバタしてもしょうがない。あとはどっしりと構えるだけだ」
そう言ってスマホを机においてその場に座り込む佳祐。
もう自分に動揺はない。あとは電話が鳴るその瞬間までこうして落ち着いて――と彼が心の中で思った瞬間であった。
『ピリリリリリリリリリッ!』
再びスマホの音が鳴る。
「なんだよ、また南雲か?」
いい加減にしろよと思いつつスマホを取り画面を見ると、そこに映った文字は担当の美和であった。
「み、美和さん!?」
「つ、遂に来たのか!?」
「あ、あわわわわわ!」
美和の文字が見えた瞬間、アタフタと手に持つスマホを動かす佳祐。
先程のどっしりと構えるの言葉はどうしたと思わず突っ込みたくなるほどの狼狽である。
だが、すぐさま刑部姫と目を合わせると、静かにその場で深呼吸を一つし、佳祐は手に持ったスマホを握り、受信ボタンを押す。
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