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46 一人の漫画家と一人のあやかし
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それから、しばらく。
「お、おおー! おおおおおおー! すごい……! すごいすごいすごい! すごいぞーーー!!!」
歓喜の声を上げる刑部姫。
それもそのはずであり、今日は待ちに待った彼らの描いた漫画『暁の龍』が載った月刊アルファが発売される日。
その日に先駆けて見本誌が刑部姫の手に届いたのである。
「つ、遂に……遂にわらわの描いた漫画が雑誌に載った……! すごい、すごいすごい! すごいぞー! 佳祐ー!」
「ああ、そうだな。刑部姫」
目の前でそう言ってまるで童のようにはしゃぐ刑部姫を見て佳祐は思わず笑みを漏らす。
(そういえばオレも自分の漫画が初めて載った時、こんな風にはしゃいでいたな)
「おおー! このコマはこのように雑誌に映されるのかー! ううむ、しかしここの絵は少し原稿の時と印象が違うのぉ。こうなるのなら、ここはこのように描いて、こっちはああして、ううむ! 嬉しい半面反省点も色々見えてくるぞー! なんじゃこの感情はー!?」
「はは、雑誌に載ると描いた時との印象が違うからね。漫画家あるあるだな」
そう言って床に転げ回り、悶えている刑部姫を佳祐は笑いながら見つめる。
そんな折、彼のスマホに一通のメールが入る。
メールの送り主は南雲周一郎。
『連載おめでとう。せいぜいオレに追いつくよう頑張って連載し続けろよ』
「……言ってろよ。すぐに追い抜いてやる」
南雲からのいつもの挑発混じりのメールに対し、佳祐は笑みを浮かべてスマホを収める。
「なんじゃ? もしかしてあの南雲からか? 一体どんなメールじゃったのじゃ」
「ああ、それが――」
「佳祐さんー! おめでとうございまーす!」
説明するよりも早く部屋の扉が開かれ、その先より雪芽が現れ、どういうことか佳祐にそのまま抱きつく。
「ちょ、雪芽さん!? な、なにしてるんですか!?」
「あっ、ご、ごめんなさい! や、やっと佳祐さんと一緒に雑誌に載れるのかと思うとテンションが上がってしまって……! で、でも抱きつけて嬉しかったです……」
そう頬を赤く染めながら呟く雪芽であったが、そんな彼女に対し刑部姫は殺意のこもった目で睨みつける。
「おい、それよりも雪女。お主どうやってこの部屋に入った? 鍵はどうした?」
「鍵……ですか。それなら、ここ最近佳祐さんの食事を運ぶ際にいちいち開けるのも面倒なのでと合鍵をもらっていますが」
「なんじゃとーーー!? 佳祐、どういうことじゃー!?」
「い、いや、そうは言うけれど雪芽さんとはもう会ってしばらく経つし、何かと彼女にはお世話になったし、それに料理もそうだけど今もたまに話作りの相談に来るから、それでつい合鍵を渡して……」
「ついではないわー! お主はそうやってわらわ以外のあやかしにも手を出すつもりかー!?」
「ご、誤解だってば刑部姫ー!」
「あ、あわわ、なにやら大変な事態に……! お、刑部姫さん、落ち着いてくださいー!」
そう言って二人の間に割って入る雪芽。
しばしのひと悶着の後、刑部姫も気が済んだのか少々のご立腹の様子だが納得した様子を見せる。
そんな二人を見ながら雪芽は、彼女も買ってきたであろう最新号の月刊アルファを両手で抱きながら呟く。
「けれど……不思議です。佳祐さんと刑部姫さんが連載したのは嬉しいです。本当に。だけど、それと同時に今はこう思います。――負けたくない。私、お二人のことはとても尊敬しています。けれども、それ以上に今の自分が描く漫画が好きになっています。だからこれからはただ憧れて応援するだけじゃありません。私もお二人と勝負して連載していきます!」
そんな雪芽の思わぬ宣戦布告に対し、しかし佳祐も刑部姫も笑みを浮かべて返す。
「望むところじゃ」
「だな。これからもいいライバル、そして同じ漫画家として切磋琢磨しよう。雪芽さん」
「はいっ!」
そうして互いに手を取り合う佳祐達と雪芽。
二人は月刊アルファに載った自分達の漫画をその後、何度も見返す。
無論そこには嬉しさもあったが、それと同じくらい、まだこれでは満足できない。もっと上を目指したいという向上心が芽生える。
「長かったな、佳祐。じゃが、わらわ達の本当の戦いはここからじゃな」
「ああ」
まるでよくある打ち切り漫画のようなセリフを刑部姫は吐くが、実際そのとおりであることを佳祐は理解していた。
漫画家とは漫画を描く人物のことではない。
その漫画で一生食っていける人物。それを言うのだ。
「今はまだ連載が始まったばかりなんだ。まずはここからドンドン人気を取っていかないと話にならない。南雲や雪芽さんは勿論、半年後にはあの道山の連載も来るらしいからな。それらに負けないようオレ達の漫画も更に面白く連載していくぞ」
「勿論じゃ。なんと言っても夢は――」
『アニメ化!!』
二人の声がハモる。
そうして互いの顔を見ながら笑い合う。
「それじゃあ、早速次のネームを描くか。刑部姫」
「うむ、もちろんじゃ! 佳祐よ!」
人間とあやかし。
二人の異なる種族による漫画制作。
その夢はまだ最初に一歩を通過したばかり。
彼らの夢は、制作は、まだここからずっと続いていく。
これは同じ夢に憧れた一人の人間と、一人のあやかしの物語である。
「お、おおー! おおおおおおー! すごい……! すごいすごいすごい! すごいぞーーー!!!」
歓喜の声を上げる刑部姫。
それもそのはずであり、今日は待ちに待った彼らの描いた漫画『暁の龍』が載った月刊アルファが発売される日。
その日に先駆けて見本誌が刑部姫の手に届いたのである。
「つ、遂に……遂にわらわの描いた漫画が雑誌に載った……! すごい、すごいすごい! すごいぞー! 佳祐ー!」
「ああ、そうだな。刑部姫」
目の前でそう言ってまるで童のようにはしゃぐ刑部姫を見て佳祐は思わず笑みを漏らす。
(そういえばオレも自分の漫画が初めて載った時、こんな風にはしゃいでいたな)
「おおー! このコマはこのように雑誌に映されるのかー! ううむ、しかしここの絵は少し原稿の時と印象が違うのぉ。こうなるのなら、ここはこのように描いて、こっちはああして、ううむ! 嬉しい半面反省点も色々見えてくるぞー! なんじゃこの感情はー!?」
「はは、雑誌に載ると描いた時との印象が違うからね。漫画家あるあるだな」
そう言って床に転げ回り、悶えている刑部姫を佳祐は笑いながら見つめる。
そんな折、彼のスマホに一通のメールが入る。
メールの送り主は南雲周一郎。
『連載おめでとう。せいぜいオレに追いつくよう頑張って連載し続けろよ』
「……言ってろよ。すぐに追い抜いてやる」
南雲からのいつもの挑発混じりのメールに対し、佳祐は笑みを浮かべてスマホを収める。
「なんじゃ? もしかしてあの南雲からか? 一体どんなメールじゃったのじゃ」
「ああ、それが――」
「佳祐さんー! おめでとうございまーす!」
説明するよりも早く部屋の扉が開かれ、その先より雪芽が現れ、どういうことか佳祐にそのまま抱きつく。
「ちょ、雪芽さん!? な、なにしてるんですか!?」
「あっ、ご、ごめんなさい! や、やっと佳祐さんと一緒に雑誌に載れるのかと思うとテンションが上がってしまって……! で、でも抱きつけて嬉しかったです……」
そう頬を赤く染めながら呟く雪芽であったが、そんな彼女に対し刑部姫は殺意のこもった目で睨みつける。
「おい、それよりも雪女。お主どうやってこの部屋に入った? 鍵はどうした?」
「鍵……ですか。それなら、ここ最近佳祐さんの食事を運ぶ際にいちいち開けるのも面倒なのでと合鍵をもらっていますが」
「なんじゃとーーー!? 佳祐、どういうことじゃー!?」
「い、いや、そうは言うけれど雪芽さんとはもう会ってしばらく経つし、何かと彼女にはお世話になったし、それに料理もそうだけど今もたまに話作りの相談に来るから、それでつい合鍵を渡して……」
「ついではないわー! お主はそうやってわらわ以外のあやかしにも手を出すつもりかー!?」
「ご、誤解だってば刑部姫ー!」
「あ、あわわ、なにやら大変な事態に……! お、刑部姫さん、落ち着いてくださいー!」
そう言って二人の間に割って入る雪芽。
しばしのひと悶着の後、刑部姫も気が済んだのか少々のご立腹の様子だが納得した様子を見せる。
そんな二人を見ながら雪芽は、彼女も買ってきたであろう最新号の月刊アルファを両手で抱きながら呟く。
「けれど……不思議です。佳祐さんと刑部姫さんが連載したのは嬉しいです。本当に。だけど、それと同時に今はこう思います。――負けたくない。私、お二人のことはとても尊敬しています。けれども、それ以上に今の自分が描く漫画が好きになっています。だからこれからはただ憧れて応援するだけじゃありません。私もお二人と勝負して連載していきます!」
そんな雪芽の思わぬ宣戦布告に対し、しかし佳祐も刑部姫も笑みを浮かべて返す。
「望むところじゃ」
「だな。これからもいいライバル、そして同じ漫画家として切磋琢磨しよう。雪芽さん」
「はいっ!」
そうして互いに手を取り合う佳祐達と雪芽。
二人は月刊アルファに載った自分達の漫画をその後、何度も見返す。
無論そこには嬉しさもあったが、それと同じくらい、まだこれでは満足できない。もっと上を目指したいという向上心が芽生える。
「長かったな、佳祐。じゃが、わらわ達の本当の戦いはここからじゃな」
「ああ」
まるでよくある打ち切り漫画のようなセリフを刑部姫は吐くが、実際そのとおりであることを佳祐は理解していた。
漫画家とは漫画を描く人物のことではない。
その漫画で一生食っていける人物。それを言うのだ。
「今はまだ連載が始まったばかりなんだ。まずはここからドンドン人気を取っていかないと話にならない。南雲や雪芽さんは勿論、半年後にはあの道山の連載も来るらしいからな。それらに負けないようオレ達の漫画も更に面白く連載していくぞ」
「勿論じゃ。なんと言っても夢は――」
『アニメ化!!』
二人の声がハモる。
そうして互いの顔を見ながら笑い合う。
「それじゃあ、早速次のネームを描くか。刑部姫」
「うむ、もちろんじゃ! 佳祐よ!」
人間とあやかし。
二人の異なる種族による漫画制作。
その夢はまだ最初に一歩を通過したばかり。
彼らの夢は、制作は、まだここからずっと続いていく。
これは同じ夢に憧れた一人の人間と、一人のあやかしの物語である。
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44話より...刑部姫が「お主がないてどうするか刑部姫」って言ってますよ!
道山さん殴っちゃ駄目です笑笑笑
本当だ(笑) ありがとうございます(笑)
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それとご指摘の方、ありがとうございます。