スキル『睡眠』で眠ること数百年、気づくと最強に~LV999で未来の世界を無双~

雪月花

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第16話 ドラゴンスレイヤー

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「がああああああああああああああああ!!」

 初手はドラゴンの咆哮と共に火炎のブレスが放たれた。
 オレはそれを素の脚力だけで避け、ドラゴンに接近。そのまま『剣術スキル』LV7の奥義『七連斬』を放つ!

「ふっ!」

 ひと呼吸の間に七つの斬撃を同時に打ち込む技。
 以前、聖十騎士のアリス相手にも初手でぶっぱなした技だが、その時は彼女が張った壁に遮られて通らなかった。
 だが、ドラゴンの鱗には彼女の防御壁ほどの硬さはなかったようだ。
 オレが放った七つの斬撃はドラゴンの鱗を切り裂き、腕、足、腹と様々な箇所より血を噴き出させる。

「ぐがああああああああああ!!」

 オレの攻撃に絶叫を上げ、暴れまわるドラゴン。
 爪はもちろん、牙や尻尾と様々な攻撃をその場で仕掛けるがオレはスキル『格闘中』によって、ドラゴンの反撃をことごとく受け流し、再び懐に入ると顎めがけ拳を振り上げる。

「おらああああああ!!」

「ぐおおんッ!?」

 渾身のアッパーカットが決まり、ドラゴンの巨体が宙に浮かび、そのまま地面に倒れる。
 さすがにまだ死んではいないがすでに呼吸が荒く、傷ついた体でオレを睨みつけるドラゴン。
 やはりレベル900を超える能力値は伊達ではない。これまでは山賊が相手だったために自分の力を試せなかったが、ドラゴン相手ならば力を試すのには十分な相手のようだ。

「それじゃあ、今度はこいつだ」

 その宣言と共にオレの手から放たれたのは『炎魔法』LV10による獄炎、ゲヘナフレア。
 ドラゴンはすぐさま火炎のブレスによる対処を試みるが、オレが放った地獄の炎はドラゴンの炎を焼き尽くし、そのままドラゴンの体を焼き焦がす。

「ぐおおおおおおおおおおおお!!」

 再び絶叫をあげるドラゴン。
 さすがにもう終わりかと安心するのも束の間、ドラゴンはその場で翼による強烈な風を巻き起こし、自分の体を焼く獄炎を全て取り払う。
 が、全身に負った傷は深く、もはや息も絶え絶えの様子。
 しかし、それでもドラゴンは戦いを放棄することなく、オレを見据える。
 やがて、覚悟を決めたのかドラゴンの体が漆黒の黒から紅蓮の炎へと変化する。

「!? これは――」

 見るとドラゴンの体が真っ赤に変化し、奴の周囲の地面がまるで溶岩にとかされる岩や土のように崩れていく。
 どうやら奴自身が持つ炎の力を体全体に纏い、己自身を武器としてオレに仕掛けるつもりのようだ。
 無論、それだけの熱気を身にまとえばドラゴン自身さえも危うく、すでに角や翼が自身の炎に耐え切れず自壊している。

「ドラゴンのくせに心中覚悟の玉砕かよ……」

 その覚悟にはさすがのオレも冷や汗を流す。
 だが、恐らく己の命と引き換えにした最後の一撃。これを受けないのはいかに相手が魔物であろうと非礼に当たる。
 オレは覚悟を決め、最後の一撃を正面から受け止めるべく、剣を構える。
 そんなオレの覚悟が伝わったのか、対峙するドラゴンはその口元に笑みを浮かべる。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 咆哮と共に今やその身が灼熱の炎と化したドラゴンが突進する。
 オレは迫るドラゴンを前に静かに剣を構える。

「『無双――剣戟ぃぃぃぃぃx』!!」

 それは剣術レベル10の最強奥義。
 オレの手から放たれた剣撃は炎に包まれたドラゴンの体すら切り裂く。
 牙、右腕、左足、左翼、右目、腹、背中、尻尾。
 あらゆる箇所に致命傷というべき傷を負わせ、ドラゴンはそのまま地に倒れ伏す。
 すでにドラゴンが身にまとっていた炎は消失しており、その命をオレに差し出すべく首をこちらに向けたまま微動だにしなかった。
 オレはゆっくりと、そんなドラゴンの傍まで近寄る

「…………」

 目の前には巨大な龍の頭があり、先ほどのオレの一撃により首筋にも深い傷が入っていた。
 あとはここにとどめの一撃を浴びせればそれで終わり。
 龍は死に、この地にマナが溢れ、オレはその首を持ち帰れば、アリスに認められ、また一歩聖十騎士団――いや『四聖皇』ネプチューンに近づける。
 この時代にはいない友の消息を知るために。
 オレは剣を振り上げる。
 だが――

「…………」

 振り下ろせない。
 頭ではわかっているし、こうしなければならない。
 たとえこの龍に罪はなくとも、あの村を何百年も助け続けた恩龍でも、オレはこいつを殺さなければ……!
 苦悩するオレに声をかけたのは意外な人物であった。

『……どうした? なぜ止めを刺さない、人の子よ』

「え?」

 突然、目の前の龍が口を開いた。
 すでに左目しか開かず、その残った方の目で龍はオレを見つめながら、驚く程おだやかな声で問いかけた。

『お前は我を殺すためにここまで来たのであろう。我はお前と全力の勝負をして負けた。故に悔いはない。止めを刺すがいい』

「……お前、喋れたんだな」

 予想外に流暢な龍のセリフに軽く驚くオレ。

『これまでは特に喋る必要もなかっただけだ。それよりもなぜ我を殺すのに躊躇する?』

「…………」

 龍の問いかけに迷うオレ。
 悩んだ末にオレはあることを龍に尋ねる。

「ひとつ聞かせてくれ。なぜお前は麓にある村を助けるんだ?」

『……理由などない。気まぐれだ』

「気まぐれ?」

 なんとも曖昧な答えにオレは疑問符を浮かべる。
 答えに納得できないでいると龍はどこか昔を思い出すように告げる。

『二百年以上になるか……。たまたま我はその日、あの村の近くを旋回していた。その時、村が賊に襲われているのを見た。襲われた人間達は泣き叫び必死に誰かに対し助けを懇願していた。その時だった、森に逃げ延びた娘が賊に襲われ、命奪われる瞬間、我と目があった』

 その時の状況を思い出したのか龍は口元に笑みを浮かべる。

『その時、娘がなんといったか分かるか? ドラゴンである我に「助けてくれ」と叫んだのだ。知性や理性、ましてや人間の言葉が分かるかどうかも知らぬ獣、魔物に対して助けを懇願したのだぞ』

「それで助けたのか?」

『ああ、気まぐれだ。理由はない。ただなんとなくその小娘の懇願に答えるのも面白かと思ってな。村を襲っていた賊共を焼き払い、全てが終わった後、今度は自分達が殺されるのではと村の者達は恐怖していた。だが、ただ一人、我に助けを懇願した娘が我に駆け寄り言ったのだ「自分達を助けてくれて、ありがとう」と』

「…………」

『魔物の気まぐれに娘は心の底から礼を言っていた。その後も我が住むこの洞窟の入口まで時折、来ては果実や肉などお礼の品のようなものを渡す。まったく龍の気まぐれにあそこまで感謝するとはな』

「……それで村をずっと守り続けたのか?」

『言っただろう。気まぐれだ。だが、あの娘は死ぬまで我への捧げ物を続けた。連日贈られた果実や肉は悪くない味であった。その分の礼を返すまではあの村を“気まぐれ”に救ってやると、そう思っただけだ』

 話はそれでおしまいとばかりに龍は口を閉ざした。
 正直なところ、オレの迷いは晴れるどころかむしろ強くなった。
 戦う前は単に強大な力を持つ魔物という認識しかなかったが、人の言葉を話し、こんなにも人間臭い龍だとは……。
 そう悩んでいると龍は更に驚くべきことを口にした。

『……時にお前、転移者か?』

「え?」

 その言葉にオレは驚いて顔をあげる。すると龍は懐かしいものでも見るように目を細めた。

『そうか、やはりな。お前からはどことなく懐かしい匂いがする。かつてこの地を訪れた二人の転移者……お前を見ているとあの二人を思い出す』

「二人の転移者? それって一体――」

 問いかけた瞬間、龍は思いもよらぬ名を口にした。

『名か……。なんと言ったかなあの二人の兄妹。たしか、そう……ミヤノ・ミナト……カスミ、だったか。そのような名を名乗っていたな……』
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