21 / 41
第21話 刺客
しおりを挟む
「わあ、今日の朝食も美味しそうですね。ブレイブさん」
「ああ。実は昨日、いいベーコンが手に入ってね。やっぱ朝は卵とベーコンをパンの上に乗せたやつが王道だからね。それからスクランブルエッグも作っておいた」
「私、ブレイブさんの作る料理、とっても新鮮で大好きです! 今度、色々教えてくださいね!」
「もちろん。なんだったら今日の夕食も一緒に作るか?」
「はい! ぜひぜひ!」
あれから数日。
オレは聖十騎士アリスからの任務として巫女シュリの護衛を続けていた。
彼女とはひとつ屋根の下で暮らしており、部屋は隣同士だが、なにかあれば常に動けるようにしていた。
また朝食や昼食なども一緒にとり、たまに「私にもなにか作らせてください!」と彼女が言ってきて、最初は断っていたんだが、どうしてもと迫られ一緒に料理をしたりなどもした。
そのおかげか最初よりも随分、距離が縮まり今では何気ない会話もするようになった。
「ところでブレイブさん。今日、東の広場で見世物があるそうなんです! 私、そこに行ってみたいんですが、よろしいですか?」
「もちろん。シュリの命令を聞くのもオレの任務だから」
「やったぁ! それじゃあ、早速行きましょう。ブレイブさん!」
「おっと、そんなに慌てるなよ。シュリ」
そう言ってオレは彼女に手を引かれるまま館を飛び出し、広場へと向かう。
最近ではこうして彼女を連れて街のあちらこちらを移動するのは日常茶飯事だ。
また現在、オレの任務は巫女である彼女の護衛ということでアリスのもとへ向かうことはなくなった。アリスも初日に彼女を連れて以来、姿を見せない。
オレを信頼しているのか、それとも他になにか任務があるのか。
そんなことを思っている内に、広場へ到着すると、そこでは旅の一団がなにやらサーカスのような曲芸を披露していた。
両手に何本もの剣を持った女性が器用に剣を空中に放り投げ、それをキャッチしたり、魔法使いっぽい子が炎や氷を使ったイリュージョンを見せたりと現実のサーカスにも負けず劣らずな派手なことをしている。
ほお、なかなかやるな。多分、スキルとかを使っているだろうが、それにしては練度が高い。
それを証明するように観客達からの評判もよく、彼らが芸をするたびにコインが地面に転がり、それを座長っぽい人が笑顔で拾っている。
「わー! ブレイブさん、すごいですねー! 今の消える技とかどうやったんでしょう!?」
「さあ、でも多分スキルとかじゃないかな?」
「なるほどー! でも、そうですよね。すっごいなぁ!」
そう言ってシュリはキラキラとした目で見世物を楽しんでいる。
オレはそんなシュリの横顔を見ていると、いつかの花澄を思い出す。
彼女もオレの隣で同じように顔を輝かせていたことがあった。
あれはいつだったろうか……。確か、初めて街のお祭りに行った日のことか。出店を見ては楽しそうにはしゃぎまわり、祭りの締めとして行われた花火をキラキラとした目で見つめていた。
そんなことを思い出していた瞬間であった。
それまで曲芸をしていた旅芸人達の目が一瞬、オレとシュリを睨んだ。
瞬間、オレの背筋に寒気が走る。
「! シュリ! こっちへ!」
「え?」
気づくとオレはシュリの手を引っ張り、胸に抱き寄せる。
それと同時に、それまで曲芸をひろしていた男達が手のひらから無数の玉を放り投げると、それが次々と爆発し煙幕を起こす。
「わっ! なんだこれ!?」
「これも演出か!?」
「すごーい! 何も見えないー!」
「っていうか、何が起きてるんだ!?」
周りにいた観客達は突然の煙幕に混乱しつつも、これも曲芸の一種かとまだ混乱には至っていなかった。
だが、オレにはわかっていた。
あの旅の旅団。ただの旅芸人ではない。
最初にいくつか見せた剣舞や魔法も芸にしては少し練度が高く感じた。
だが、それよりもなによりも煙幕を放つ瞬間、連中から感じたのは明確な『殺意』。
それもオレではなく、オレの隣にいたシュリに向けられたもの。つまり、連中の目的は――
「スキル『捕縛糸』!」
突如、煙幕の向こうから声が響く。それと同時にオレとシュリの体を包むように蜘蛛の糸が体中に巻きつく。
「ぐっ!?」
「ブレイブさん!?」
オレの胸で糸に絡みつかれたシュリが困惑した声を出す。
一方、オレとシュリを糸で巻きつけた男は隣にいた先程剣舞を披露していた女に命ずる。
「目標は巫女だ。一緒にいる騎士は殺していい」
「了解。速やかに目標を奪取する」
そう言って女は無数の剣をまるでブーメランのようにオレめがけ放つ。
なるほど。大した速度だ。恐らく剣術LV6はあるだろう。もしかしたら複合スキルの可能性もあるかもしれない。だが、甘く見たな。
巫女の護衛をしているオレをこの程度で縛れるわけがないだろう。
「ふんっ!」
オレは瞬時に膂力だけで巻きつけられた糸を弾く。
それに驚いたように男は吹き飛ぶ。続けて、向かってきた剣をオレは全て素手で受け取る。
「なっ!? バカな! 私のブーメランブレードを予測して受け止めるなど不可能だ!?」
「お生憎。この程度、素で出来るぜ」
驚く女に向け、先程彼女がしたのと同じように剣をブーメランのように投げ返す。それに驚く女であったが、剣はその後ろにいた魔法使いが放った魔術により凍らされ地面に落ちる。
見るとオレを取り囲むように残りの団員達も武器を構えていた。
ここで煙幕が薄れ、ようやく状況に気付いた観客達が騒ぎ出す。
「う、うわー! な、なんだあれ!?」
「せ、戦闘!? ど、どういうことだ!?」
「と、とにかく皆逃げろー!!」
各々、そのまま逃げ出す観客達。
それを合図として一斉にオレに飛びかかる団員達。
だが、遅い。その程度の動き、レベル900を超えるオレにはスローモーションだ。
「剣術LV2の真空斬り!」
いつかの山賊を倒した時のようにその場で発生させた真空の刃はオレを取り囲んでいた団員達を切り裂き、その場に倒れ伏す。
残った団長や一部団員達はそれを見て慌てたように逃げ出す。が、
「往来の場でこの騒ぎ。さすがに見過ごすことはできませんね」
「なっ!? てめえは!?」
団長達の前に一人の騎士が立ちはだかる。
それは銀色の鎧を見つけた眼鏡をかけた長身の男。あいつは確か――
「せ、聖十騎士団統括! ギルバート!?」
団長がそう叫ぶとギルバートと呼ばれた男はいつの間にか剣を抜き、それにわずかに遅れるように団長含む残りの団員達の体が切り裂かれ、その場に倒れ伏す。
「……ふむ。どうやら巫女を狙った不埒者ですか」
そう言ってギルバートは足元に倒れる団員達を一瞥した後、オレとシュリの方へと近づく。
「ブレイブ君、でしたね。どうやら任務を全うしているようですね。巫女の護衛、お見事でした」
「いえ、これが任務ですから」
どうやら相手は以前、試験場であったオレのことを覚えているようだ。
ギルバートはそのままオレとシュリを興味深そうに見つめながら、眼鏡を指先で押す
「時にあなた。その巫女とは知り合いですか?」
「え、いや、知り合いってほどでは……この街に来る際に会ったくらいで……」
「そうですか」
オレの答えになにやら考え込むギルバート。
だが、やがてオレを見つめながら別の問いを投げかける。
「では、もう一つ。あなたは以前のドラゴン退治でドラゴンを追い詰めながら、止めを刺さずに帰ったそうですが、なにゆえそのような選択をしたのですか?」
「ッ!?」
ギルバートの問いにオレは思わず固まる。
この人、知っている……。オレがドラゴンを殺さずに帰ったことを。だが、一体どこでそれを?
考えるが、それよりも先にギルバートの鋭い視線がオレを射抜く。
どう答えるべきかと逡巡するが、そんなオレを見てかギルバートはため息を吐き、背中を向ける。
「……まあ、過ぎたことはもう言いません。あなたの実力はすでに認めています。ですが“同じ過ち”は二度繰り返さないように注意するのですね」
「?」
どういうことかと問いかけようとしたが、ギルバートはその場に集まった騎士達に倒れたまま団員達を捕縛するよう命じて、オレはシュリはそのまま広場から離れることとなった。
見ると先ほどの騒ぎに恐怖心を抱いたのかシュリは俯いたまま黙っていた。
「……さっきの人達、私を狙っていたんでしょうか……」
恐る恐るといった様子で彼女は呟く。
あんな場面に出くわしたのだから、恐怖を感じるのは当たり前だ。
どう彼女に声をかけるべきかと悩むオレであったが、そんなオレに彼女は予想外の言葉を呟く。
「あの……ごめんなさい、ブレイブさん」
「え?」
なぜ謝るのかとオレは咄嗟に彼女を見る。
すると、そこには恐怖以上に罪悪感を抱くような表情を抱くシュリの顔があった。
「私のせいでこんなことに巻き込まれて……ご、ごめんなさい……迷惑ですよね……巫女の護衛なんて……そ、それに元はといえば、私が広場で見世物が見たいなんて言ったからこんなことに……護衛のブレイブさんのことも考えずごめんなさい……」
そうつぶやき、謝る彼女を見て、オレはシュリという人間の優しさに気付いた。
この子は自分が狙われたことよりも、それによって被る周りへの不幸に心を痛めているんだ。
そして、それは恐らく自分を狙って返り討ちにあった、あの賊達にも心を痛めているのかもしれない。
そんな優しい少女の謝罪に、オレはむしろ彼女を傷つけたくないという想いが強まる。
「いや、そんなことはないよ。気にするなってシュリ。それに言ったろう、シュリを守るのがオレの任務。それにお願いを聞くのだってオレの任務だよ。つーか、ここ数日は平和すぎて逆になまってたから、今回の襲撃はちょうどいいくらいだ。シュリが気にする必要なんて、何もないさ。つーか、これに懲りずにまた行きたい場所があったら遠慮なく言えよな。そのための護衛(オレ)なんだから」
そう言ってオレはシュリの頭を優しく撫でる。
それにシュリは驚いたように顔をあげるが、すぐにその顔に笑顔を浮かべる。
うん、やっぱりその表情が一番似合ってる。
オレの知る花澄と同じ、けれど、どこか違う笑顔。
そんなシュリの笑顔にオレは心が満たされるのを感じ。
任務以上に、この子を守り通さなければという想いが強まるのだった。
「ああ。実は昨日、いいベーコンが手に入ってね。やっぱ朝は卵とベーコンをパンの上に乗せたやつが王道だからね。それからスクランブルエッグも作っておいた」
「私、ブレイブさんの作る料理、とっても新鮮で大好きです! 今度、色々教えてくださいね!」
「もちろん。なんだったら今日の夕食も一緒に作るか?」
「はい! ぜひぜひ!」
あれから数日。
オレは聖十騎士アリスからの任務として巫女シュリの護衛を続けていた。
彼女とはひとつ屋根の下で暮らしており、部屋は隣同士だが、なにかあれば常に動けるようにしていた。
また朝食や昼食なども一緒にとり、たまに「私にもなにか作らせてください!」と彼女が言ってきて、最初は断っていたんだが、どうしてもと迫られ一緒に料理をしたりなどもした。
そのおかげか最初よりも随分、距離が縮まり今では何気ない会話もするようになった。
「ところでブレイブさん。今日、東の広場で見世物があるそうなんです! 私、そこに行ってみたいんですが、よろしいですか?」
「もちろん。シュリの命令を聞くのもオレの任務だから」
「やったぁ! それじゃあ、早速行きましょう。ブレイブさん!」
「おっと、そんなに慌てるなよ。シュリ」
そう言ってオレは彼女に手を引かれるまま館を飛び出し、広場へと向かう。
最近ではこうして彼女を連れて街のあちらこちらを移動するのは日常茶飯事だ。
また現在、オレの任務は巫女である彼女の護衛ということでアリスのもとへ向かうことはなくなった。アリスも初日に彼女を連れて以来、姿を見せない。
オレを信頼しているのか、それとも他になにか任務があるのか。
そんなことを思っている内に、広場へ到着すると、そこでは旅の一団がなにやらサーカスのような曲芸を披露していた。
両手に何本もの剣を持った女性が器用に剣を空中に放り投げ、それをキャッチしたり、魔法使いっぽい子が炎や氷を使ったイリュージョンを見せたりと現実のサーカスにも負けず劣らずな派手なことをしている。
ほお、なかなかやるな。多分、スキルとかを使っているだろうが、それにしては練度が高い。
それを証明するように観客達からの評判もよく、彼らが芸をするたびにコインが地面に転がり、それを座長っぽい人が笑顔で拾っている。
「わー! ブレイブさん、すごいですねー! 今の消える技とかどうやったんでしょう!?」
「さあ、でも多分スキルとかじゃないかな?」
「なるほどー! でも、そうですよね。すっごいなぁ!」
そう言ってシュリはキラキラとした目で見世物を楽しんでいる。
オレはそんなシュリの横顔を見ていると、いつかの花澄を思い出す。
彼女もオレの隣で同じように顔を輝かせていたことがあった。
あれはいつだったろうか……。確か、初めて街のお祭りに行った日のことか。出店を見ては楽しそうにはしゃぎまわり、祭りの締めとして行われた花火をキラキラとした目で見つめていた。
そんなことを思い出していた瞬間であった。
それまで曲芸をしていた旅芸人達の目が一瞬、オレとシュリを睨んだ。
瞬間、オレの背筋に寒気が走る。
「! シュリ! こっちへ!」
「え?」
気づくとオレはシュリの手を引っ張り、胸に抱き寄せる。
それと同時に、それまで曲芸をひろしていた男達が手のひらから無数の玉を放り投げると、それが次々と爆発し煙幕を起こす。
「わっ! なんだこれ!?」
「これも演出か!?」
「すごーい! 何も見えないー!」
「っていうか、何が起きてるんだ!?」
周りにいた観客達は突然の煙幕に混乱しつつも、これも曲芸の一種かとまだ混乱には至っていなかった。
だが、オレにはわかっていた。
あの旅の旅団。ただの旅芸人ではない。
最初にいくつか見せた剣舞や魔法も芸にしては少し練度が高く感じた。
だが、それよりもなによりも煙幕を放つ瞬間、連中から感じたのは明確な『殺意』。
それもオレではなく、オレの隣にいたシュリに向けられたもの。つまり、連中の目的は――
「スキル『捕縛糸』!」
突如、煙幕の向こうから声が響く。それと同時にオレとシュリの体を包むように蜘蛛の糸が体中に巻きつく。
「ぐっ!?」
「ブレイブさん!?」
オレの胸で糸に絡みつかれたシュリが困惑した声を出す。
一方、オレとシュリを糸で巻きつけた男は隣にいた先程剣舞を披露していた女に命ずる。
「目標は巫女だ。一緒にいる騎士は殺していい」
「了解。速やかに目標を奪取する」
そう言って女は無数の剣をまるでブーメランのようにオレめがけ放つ。
なるほど。大した速度だ。恐らく剣術LV6はあるだろう。もしかしたら複合スキルの可能性もあるかもしれない。だが、甘く見たな。
巫女の護衛をしているオレをこの程度で縛れるわけがないだろう。
「ふんっ!」
オレは瞬時に膂力だけで巻きつけられた糸を弾く。
それに驚いたように男は吹き飛ぶ。続けて、向かってきた剣をオレは全て素手で受け取る。
「なっ!? バカな! 私のブーメランブレードを予測して受け止めるなど不可能だ!?」
「お生憎。この程度、素で出来るぜ」
驚く女に向け、先程彼女がしたのと同じように剣をブーメランのように投げ返す。それに驚く女であったが、剣はその後ろにいた魔法使いが放った魔術により凍らされ地面に落ちる。
見るとオレを取り囲むように残りの団員達も武器を構えていた。
ここで煙幕が薄れ、ようやく状況に気付いた観客達が騒ぎ出す。
「う、うわー! な、なんだあれ!?」
「せ、戦闘!? ど、どういうことだ!?」
「と、とにかく皆逃げろー!!」
各々、そのまま逃げ出す観客達。
それを合図として一斉にオレに飛びかかる団員達。
だが、遅い。その程度の動き、レベル900を超えるオレにはスローモーションだ。
「剣術LV2の真空斬り!」
いつかの山賊を倒した時のようにその場で発生させた真空の刃はオレを取り囲んでいた団員達を切り裂き、その場に倒れ伏す。
残った団長や一部団員達はそれを見て慌てたように逃げ出す。が、
「往来の場でこの騒ぎ。さすがに見過ごすことはできませんね」
「なっ!? てめえは!?」
団長達の前に一人の騎士が立ちはだかる。
それは銀色の鎧を見つけた眼鏡をかけた長身の男。あいつは確か――
「せ、聖十騎士団統括! ギルバート!?」
団長がそう叫ぶとギルバートと呼ばれた男はいつの間にか剣を抜き、それにわずかに遅れるように団長含む残りの団員達の体が切り裂かれ、その場に倒れ伏す。
「……ふむ。どうやら巫女を狙った不埒者ですか」
そう言ってギルバートは足元に倒れる団員達を一瞥した後、オレとシュリの方へと近づく。
「ブレイブ君、でしたね。どうやら任務を全うしているようですね。巫女の護衛、お見事でした」
「いえ、これが任務ですから」
どうやら相手は以前、試験場であったオレのことを覚えているようだ。
ギルバートはそのままオレとシュリを興味深そうに見つめながら、眼鏡を指先で押す
「時にあなた。その巫女とは知り合いですか?」
「え、いや、知り合いってほどでは……この街に来る際に会ったくらいで……」
「そうですか」
オレの答えになにやら考え込むギルバート。
だが、やがてオレを見つめながら別の問いを投げかける。
「では、もう一つ。あなたは以前のドラゴン退治でドラゴンを追い詰めながら、止めを刺さずに帰ったそうですが、なにゆえそのような選択をしたのですか?」
「ッ!?」
ギルバートの問いにオレは思わず固まる。
この人、知っている……。オレがドラゴンを殺さずに帰ったことを。だが、一体どこでそれを?
考えるが、それよりも先にギルバートの鋭い視線がオレを射抜く。
どう答えるべきかと逡巡するが、そんなオレを見てかギルバートはため息を吐き、背中を向ける。
「……まあ、過ぎたことはもう言いません。あなたの実力はすでに認めています。ですが“同じ過ち”は二度繰り返さないように注意するのですね」
「?」
どういうことかと問いかけようとしたが、ギルバートはその場に集まった騎士達に倒れたまま団員達を捕縛するよう命じて、オレはシュリはそのまま広場から離れることとなった。
見ると先ほどの騒ぎに恐怖心を抱いたのかシュリは俯いたまま黙っていた。
「……さっきの人達、私を狙っていたんでしょうか……」
恐る恐るといった様子で彼女は呟く。
あんな場面に出くわしたのだから、恐怖を感じるのは当たり前だ。
どう彼女に声をかけるべきかと悩むオレであったが、そんなオレに彼女は予想外の言葉を呟く。
「あの……ごめんなさい、ブレイブさん」
「え?」
なぜ謝るのかとオレは咄嗟に彼女を見る。
すると、そこには恐怖以上に罪悪感を抱くような表情を抱くシュリの顔があった。
「私のせいでこんなことに巻き込まれて……ご、ごめんなさい……迷惑ですよね……巫女の護衛なんて……そ、それに元はといえば、私が広場で見世物が見たいなんて言ったからこんなことに……護衛のブレイブさんのことも考えずごめんなさい……」
そうつぶやき、謝る彼女を見て、オレはシュリという人間の優しさに気付いた。
この子は自分が狙われたことよりも、それによって被る周りへの不幸に心を痛めているんだ。
そして、それは恐らく自分を狙って返り討ちにあった、あの賊達にも心を痛めているのかもしれない。
そんな優しい少女の謝罪に、オレはむしろ彼女を傷つけたくないという想いが強まる。
「いや、そんなことはないよ。気にするなってシュリ。それに言ったろう、シュリを守るのがオレの任務。それにお願いを聞くのだってオレの任務だよ。つーか、ここ数日は平和すぎて逆になまってたから、今回の襲撃はちょうどいいくらいだ。シュリが気にする必要なんて、何もないさ。つーか、これに懲りずにまた行きたい場所があったら遠慮なく言えよな。そのための護衛(オレ)なんだから」
そう言ってオレはシュリの頭を優しく撫でる。
それにシュリは驚いたように顔をあげるが、すぐにその顔に笑顔を浮かべる。
うん、やっぱりその表情が一番似合ってる。
オレの知る花澄と同じ、けれど、どこか違う笑顔。
そんなシュリの笑顔にオレは心が満たされるのを感じ。
任務以上に、この子を守り通さなければという想いが強まるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。
葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。
だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。
突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。
これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる