償い

UZUKI

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3年生、日曜日

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 僕は歩いていた。お菓子がほしかった。たまに貰えるお小遣いをポケットに入れて、街に唯一ある小さな駄菓子屋さんに向かって歩いていた。
 僕には好きな子がいる。ここちゃんっていうんだ。初めは仲が良かっただけだけど、もっと笑顔が見たい、一緒にいたいって思う様になった。これって「好き」って言うんだよね?
 とにかく、お菓子を買った帰りにその子の家に寄るつもりだ。そしてあの子が大好きなお菓子をあげる。きっと喜ぶに違いない。出来たらその後一緒に遊ぼう。

「陽君」
その時誰かが僕の名前を呼んだ。振り向くと、近所のおばちゃんだった。
「おばちゃんこんにちは」
「丁度いい所だよ、今陽君の家に柿をおすそ分けしようと思ってねぇ。ほら袋に入れたから、持てる?」
「ありがとう!」
柿はあんまり好きじゃない。
「でもおばちゃん、僕これからお出かけするんだ。すぐ帰ってくるから帰り道でもいい?」
「お使い?まだ小学二年生なのに偉いねぇ」
「3年生だよ」
「あれまぁ大きくなって」
この話何回目かな…と思いながらおばちゃんと別れた。
ビニール袋いっぱいの柿があるから、一回帰らなきゃいけない。駄菓子屋の後すぐここちゃんの家に行くのはやめよう。

駄菓子屋は開いていた。たまに閉まっているから油断出来ない。たくさんのお菓子を見て、悩んでる時だった。
「あっ!!!!」
ヒカルンジャーのプレミアムカードだ。お母さんにねだっていろんなお店に連れていってもらったのに、全然見つからなかった、欲しくてたまらないカードだ。
しかしこういう時に限ってお金が無い。

誰もいない。

……いや、ダメだ。
僕は頭をふって一瞬浮かんだ考えをかき消す。
この瞬間ポケット入れてしまえば問題ない、誰も見てない。誰も見てないけどそんなことしたらダメな事くらい分かってる。
でも今手に入れなければ、次はないかもしれない。


気付いたら僕のポケットには、カードが入っていた。

うとうとしながらテレビを見ている、レジのおじさんの所に行く。

手が震える。

僕はカードのあった棚に戻った。盗むなんて勇気は無かったのだ。ポケットからカードを出して、少し眺めて、元の棚に戻した。
お金を払う時、別に手は震えなかった。

「おばちゃーん」
「あら陽君。そうだ柿だねぇ、はいはい。……あれ?駄菓子屋だったのかい?」
「あ、うん」
さっき駄菓子屋さんで考えていたことを思い出して、僕は少しぎこちない返事をした。
「あぁそうだちょっとおいで」
おばちゃんに呼ばれて家の中に入る。柿とお菓子の袋には玄関に置く。扉を閉めたかったがおばちゃんは待ってくれない。せっかちなんだ、きっと。
「ほら食べてご覧」
「むぐっ……おいしい!」
「大学芋だよ。これも持っておかえり」
「ありがとう」
荷物がまた増えてしまった。でもダイガクイモは美味しかったので、この入れ物は全然大丈夫。
「お邪魔しましたー」
手にいっぱい袋を持って、おばちゃんの家を出た。

家に帰って机の上に柿とダイガクイモを置く。ダイガクイモはちょっとだけつまむ。ここちゃんの好きなお菓子だけ持って、とりあえずまた家を出た。

ピンポン
「ここちゃんいますか?」
……誰もいない。もう一度チャイムを押す。
ピンポン
……静かだ。お出かけかな。
仕方ない、帰ることにした。

家に帰って自分の部屋でお菓子を広げる。一番好きなお菓子は少しだけつまむ。もう一度お菓子の袋をひっくり返した。



カードが、ひらりと舞った。
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