転生少女は前世の幼馴染に恋焦がれている

ヴァイス・トパーズ

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錬金術

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夕食の時間まで暇だったから、家の中でアンソニーとボール遊びをして時間を潰していたのだが。

自分の視界は窓に張り付いた結露のようにボヤけているように感じた。
 
(うーん…目が疲れたのかな)
 
自分の目が疲れてるのかなと思い、撫で回すように優しく、マッサージをしたのだが、一向に視力が回復する気配がなかった。
 
(となると、もしかして)

 窓の向こう側を眺めてみると、そこにはさっきまであんなに明るかった太陽の姿はどこにでもなく、いまは薄暗い輝きを放つ、お月様がこれから夜が来ることを知らせてくれている。
 
(うん、思った通り、わたしの目が悪くなったんじゃなくて暗くなっただけか。そう言えばお腹すいた…もう、そろそろ夕食かな)
 
いままで、遊びに付き合ってくれたアンソニーにお別れの挨拶を済ませ、二人が待つリビングに向かった。
 
この家の構造は木材を中心とした2階建になっており、港町なら当たり前のように揃えてある、電気、ガス、水道、といった便利な物はない。
 
昔ながらの生活を楽しむことができるといえば聞こえはいいのだが、冬は暖炉の前で毛布をくるんで寒さに耐えるのがほとんどだし。ラルフに言いくるめられて薪割りを1日中させられたこともあった。

 
夏なんてもっと悲惨なもので、熱い日差しに熱せられ続けたことにより、逃げ場のない熱が充満し、まるで蒸し器の中に入れられたかのように熱苦しい。
よく蚊が入ってくるから、知らないうちに身体中、虫に刺されてしまうなんてしょっちゅうだ。
 
中でも一番大変だったのは【黒光りするアイツ】が大量発生したあの日、この時、わたしは気持ちよく夢の中へと旅たっていたのに、現実世界から泣きじゃくるイヅナの声が聞こえが聞こえててたから、飛び起きて理由を尋ねたら「ゴキブリ」がでたとかなんとか…
 
働かない頭を休めるため、適当な返事をして再び眠りについたのだが、今度はラルフに叩き起こされてしまい。
結局、二人で部屋の隅々まで調べて駆除して周ったんだっけ…
 
(こう思うのもなんだけど、残りの土地うっぱらってさっさと港町に引っ越せばいいのに)
 
大人なりの事情を知らないわたしは無邪気なもんで、叶うはずのないアイデアを次から次から考えては、その先の未来はどうなるかと子供らしい妄想をし始める。
 
こんなバカなことを考えていたら、あっという間にリビングの前まで来ていたので、無意識にドアノブに手を伸ばしていた。
 
ドアを開けた途端、部屋を覆い尽くすかのように漂う、デミグラスソースの芳醇な香りが空きっ腹を刺激し、こんなくだらない妄想の世界より、魅力溢れる現実へ連れ戻してくれた。
 
「あら、グレイ、そんなところで何やってるの???早く席に着いちゃいなさい」
 
「丁度よかったな、いま、おまえを呼ぶところだったんだぞ」

ラルフとイヅナは既に席についており、どうやらわたしが来るのを待っててくれていた。
 
「よかった、もう、お腹ぺこぺこだよ!!」
 
いますぐにでもがっつきたい気持ちを抑えながら席に座り、テーブルの上を眺めると、そこには大好物のビーフシチューが綺麗に三つのお皿に分けられている。
 
この、素晴らしいスープにこそふんわりとできあがったばかりのパンがふさわしいのだが…
 
残念なことに、目の前に積み重ねるように盛られているこのパンは少しでも日持ちするために硬く作られており。
わたしが考える【嫌いな味じゃないけど食べ難いものランキング】では他を寄せ付けない怒涛の一位だったため、どうしてもガッカリを隠しきれない。
 
最初は頑張って、この石のように硬いパンを千切っていたが、ヤスリのようにザラザラとした部分が剥き出しとなり、どうしても口に放り込むことを躊躇してしまう。
 
(こんなもの食べたら、口の中がボロボロになっちゃうよ……)
 
しょうがないので、千切ったパン切れをしばらくシチューに浸してから、口に運ぶ事にした。
 
(うん、トマトの酸味と相まって美味しい!!やっぱりイヅナが作る、料理は美味しいや)
 
実際、彼女が作る煮込み料理はどれも美味しく。
そこらへんにいる料理人が口にしたらどうやって作ったのか、是非、レシピを教えてくれっとせがんでくるに違いない。
 
そんな美味しい料理のおかげで、普段なら、なんも感じない何気ない雑談も楽しく感じるはずだが、ラルフは険しい顔を見ながら愛用のフォークと睨めっこしていた。
 
(うーん、確かあのフォークは2~3日前、壊れた小物入れをこじ開けるために使った奴だっけ…曲がったことにでも気がつい直しているのかな)
 
彼女が持っているフォークはいままで酷使してきたことで限界が近かったのか、はたまた、急に力んだせいで耐えることごできなかったのか、持っていたフォークは板チョコのように折れ、床の上に転がった。
 
「あっ……!!」

咄嗟の出来事でラルフは間抜けツラを浮かべるけど、イヅナは対照的に頰を少しだけ膨らませていた。
 
「もう、ラルフ意地汚いわよ!!どうするつまり、代わりのフォークなんてないわよ」

 イヅナはプリプリと怒っているけど、横から見ているわたしから見ると全然怖いと感じられない。

 むしろ、怒った顔が可愛くて。モフモフとした小動物を思い描いてしまう。

 湧き上がる撫でたくなる感情を抑えるわたしだけど。怒られているラルフはタジタジになりながら、必死に謝っていた。
 
「す…すまないイヅナ…その、できたらでいいんだけど、【錬金術】で治してくれないか…ついでに前の時よりずっと丈夫な物にして欲しい」
 
「もーー!!しょうがないわね」

イヅナがラルフのフォークを受け取ろうとする、やりとりを眺めるや否。わたしは、大はしゃぎで二人のやり取りに割込んだ。
 
「ちょっと待って!!魔法…【錬金術】をするんだよね。なら、わたしにやらせて!!」

イヅナとラルフはお互いの顔を見つめ合いながら、「しまった!!」という表情を浮かべているけど、必死にお願いし続けるわたしに根負けをして渋々と承諾をしてくれた。
 
「えっと、その…グレイ、無理だけはしないでね」
 
「ああ…無理だと思ったらすぐに中止するんだぞ」

心配する二人の気持ちを払拭すように、満面の笑顔で返事をし、床に落ちたフォークを拾い上げるとラルフが眉間にしわを寄せながら、もう片方のフォークを差し伸べてきたので「ありがとう」っと一言添えてから受け取った。
 
なぜ、二人がこんなに心配するかのように見守っているのかというと。

 
幼いころ、興味本位で二人の真似事をしたいと思って見様見真似で真似たところ、いままで感じたことのない、強い目眩に襲われその場で気を失ってしまったことがある。
 
だからこそ、わたしはいまここで成功して、二人に成長したわたしを知ってもらいたい。何度も否定された夢を追いかける事を許して欲しいと、成功できる未来を信じて着々と準備を進めた。
 
(大丈夫、今度は失敗しないからね…)
 
壊れたフォークを両手で固定しながら、安定させるため、ポケットから文字がビッシリと書かれた一枚の紙を取り出して、テープで固定するかのようにグルグル巻きに覆い隠した。
 
「行くよ二人とも!!」
 
体の内側に流れる生命力の源である【魔力】を、車のエンジンを回すかのように血流を使って循環させ、背中にある【刻印】に向わせた。
 
(もっと…狙いを定めて…よし、結合開始!!)
 
心の掛け声と共に固定しているフォークは徐々に熱された鉄の様に赤く染まっていき、音と共に形が崩れ初めていく。
 
間違いなく、このフォークは得体の知らないエネルギーにより熱せられているはず、だが、不思議と握っているわたしの手はこれっぽっちも熱くない。
 
(よし!!後はこのまま形を整えて、仕上げに物質変換をするだけ!!)
 
より、高度な魔法を使うため、力むように意識を集中させ続けると体に流れる血の一滴、一滴が化学反応が起きたかのように熱くなり。
鈍い痛みとも取れる熱さがわたしの目と脳を襲う。
 
息は無意識に荒くなり、体から汗か滝のように流れ、なんとも言えない強い不快感に襲われ続けるが、この魔法を成功させるため、唇を噛み締め、必死でこらえた。
 
「でっ…できた…」
 
わたしの無意識に口にした言葉と同時に、巻きつけていた紙は勢いよく燃え上がり、黒い蝶が飛び立った後のようにちり一つ残らず消え去った。
 
そこには捨てられる未来しかなかったスプーンの姿などなく、新品同然のように蒼く輝きを放っているスプーンが、元から握っていたかのようにわたしの手の中にあった。
 
「ラルフ、イヅナみて…」

 不安を感じる。もし、魔法が上手くいかなかっ可能性が怖くて。恐る恐る、努力の結果が詰まっているフォークを二人に見せた。
 
「うーん…見た感じは大丈夫そうだか…」

 指を顎に抑える、細めにしながらラルフは見ていたけど。イヅナが「ちょっと貸してね」と、フォークを受け取るなり、フォークをテーブルに小突くように、トントンと叩き始める。

 どうやら、強度を確認しているようで。指先に伝わる感覚、金属の音を聞き分けているらしい。

 イヅナの厳重な審査が終わるなり、私の顔を見ながら笑顔で話しかけてくれた。

 
「うん!!思ってた以上のできよ!!なにも問題ないわ」

 その一言を聞いたラルフは、まるで自分が褒められたみたいに大喜びではしゃぎ始めていた。
 
「やったな!!グレイ!!凄いぞ!!いつのまに魔法の腕を上げてたんだ!?」

 隠れて練習してきた努力が報われ、嬉しさの余り私が1番知りたい事を軽い気持ちで聞いてしまった。

 
「えへへ、ありがとう!!二人とも!!ねえ、わたし、いまもこうして努力を続けたら、ラルフがよく聞かせてくれるお話に出てくる。あの、魔法使いのようになれるかな!?」

 本当に軽い気持ちで聞いた事だった。幼い頃、ある魔法使いに憧れ。必死になれるようにと努力を積み重ねていった。

 今だって、二人は私の努力を認めてくれたんだから、この場かぎりの嘘だとしても優しい言葉を投げかけてくれて、淡い夢を見させてくれるはずと思った。


それなのに、先ほどまでの緩やかな雰囲気が嘘だったように消え去り、張り詰めた重い空気がこの場に漂い始めた。

 
無邪気ではしゃいでたわたしでも、二人はなにかを隠していることだけは伝わってきた。
 
「グレイ、あのね…そのことなんだけど…」

 イヅナが言いづらそうに説明してくれそうだったけど、ラルフが静止するように口を塞いだ。
 
「いや、イヅナそれは改めてわたしから説明する。まあ、とりあえず今日は疲れただろグレイ、今はゆっくり休みな」
 
「う…うん、わかった…」
 
ラルフが気を使ってくれた通り、わたしの体はさっきの魔法のおかげでくたくた、押し寄せてくる疲れのせいで平衡感覚を奪われ、生まれたての子鹿にでもなったかのように自分の寝室へと向かった。
 
あとはベットので横になるだけなのだが、どうしても二人のあの反応が気になり中々寝付けなかった…
 
(私が憧れる、あのお話に登場するような魔法使いになれるかな……)

 
そう祈りながら、わたしは夢の世界へと落ちていく…
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