命の記憶

桜庭 葉菜

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こうちゃんとの日々 1

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 体育の授業までに手の豆も少し良くなり、私は逆上がりを成功させることができた。

「次お母さんのところに行った時、こうちゃんに報告しなきゃ!」

 そしてその次の土曜日、私はいつものようにお母さんの家に行き、そこから公園に向かう。

 そこには先週逆上がりを教えてくれた少年が──

「こうちゃん!」

 私は走りながらその名を呼んだ。

「おお、ことね!」

 こうちゃんも私に気づいて名前を呼んでくれる。

 私の名前を覚えていてくれた。

 ただそれだけで胸の奥底から嬉しさがぐーっと込み上げてきた。

「こうちゃんその子だれ?」

 こうちゃんの近くにいた知らない男の子が言う。

 よく見れば男の子と女の子が何人かいて、こうちゃんはその子たちと遊んでいたようだ。

 そっか、2人きりじゃないんだ──

 ついさっきまで喜んでいたのにすぐ悲しい気持ちになった。

「俺の友達のことね。ことねも入れてみんなで遊ぼ!」

 こうちゃんがそう言うとみんなは快く私を仲間に入れてくれる。

 みゆちゃん、ゆうきくん、あきとくん、ともかちゃん、ひろゆきくん、それぞれ自己紹介をしてくれた。

 みんな、こうちゃんと同じ学校のお友達で、休みの日や放課後、みんなで遊んでいることが多いらしい。

 そしてその日はみんなで鬼ごっこや鉄棒など、公園で沢山遊び、結局こうちゃんと2人きりになることはなかった。

 ──逆上がりできたこと、報告したかったな。

 それから次の週もその次の週もみんなで遊んだ。

 最初は他のみんなと遊ぶことに抵抗や緊張を感じていた私も、少しずつ慣れて楽しくなってきた。

 公園で遊ぶだけでなく、時には誰かの家で遊んだり、出かけたりもした。

 そんな充実した生活が、小学校を卒業するまで続いた。

 こうちゃんたちはみんな同じ中学校に進学し、私だけが別の学校になった。

 中学に上がってからはみんな忙しくなってしまったようで、こうちゃんとも、次第に会えなくなってしまった。

 その頃はまだ携帯も持っていなくて、連絡を取ることも出来なかった。

「ことね、ちょっと仕事行ってくるね」

 そう言ってお母さんが仕事の準備を始める。

 中学に上がって、初めての夏休みが終わった。

 私が週末にお母さんの家に泊まるのは変わっていなかった。

 さすがに中学生にもなったのでお母さんが急遽会社に行くことになってももう寂しくはない。

 私は1人になった家で学校の宿題を進めた。

 中学に上がると、小学校の時とは違って宿題が増え、勉強自体も難しくなった。

「疲れた~」

 現在午後2時過ぎ。

 テレビのチャンネルを回してみてもいまいち見たいものもなく、学校の宿題にも飽きてきた頃だった。

 そこで私は久しぶりにみんなで遊んでいた公園に行こうと思い、外に出た。

 そんなに長い間行っていなかった訳では無いが少しだけ懐かしく感じる。

 初めてこうちゃんと会ったこと、みんなと遊んだこと、色々なことを思い出す。

 あの時の鉄棒を見て、自分が大きくなったことを実感した。

「また会いたいなー」

「誰に?」

 私の独り言に対して背後から返事が来た。

 慌てて後ろを振り返る。

 そこには私とほぼ身長の変わらない男の人。

 青い見たことの無いユニフォームのような服を着ているが、この顔と声は間違いなく──

「こ、こうちゃん!?」

 ビックリしすぎて声が裏返った。

 独り言を聞かれた上に恥ずかしい声まで出してしまった。

「久しぶり」

 相変わらずの調子で言われる。

「久しぶり……」
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