命の記憶

桜庭 葉菜

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大切な記憶 1

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 あれから1週間。

 こうちゃんとは一度も連絡をとっていない。

 この辛い気持ちを隠すように、夏休みの宿題をやり続ける日々を過ごした。

 そのおかげで宿題は全て終わったが、今度は何もやることがなくなってしまった。

 もうこれでこうちゃんとは終わりだろう。

 このまま連絡も取らず、もう2度と会うこともない。

 この気持ちもまた、いつか後悔に変わってしまうのだろうか。

 自分がどうしたいのか、どうしたらいいのか、なにもわからない。

 たった少しの間の夢のような時間を思い出すと涙が溢れてくる。

 例え記憶がなくても、こうちゃんと過ごした時間は楽しかった。

 私が何も言わずにいれば、今でもまだ仲良くできていたのかな……

 1人で部屋にいると延々に悲しいことを考え続けてしまう。

 少し気持ちを変えようと携帯を手に取ると2件の通知が来ていた。

「桃子かな?」

 最近連絡をしていなかったのできっと心配していることだろう。

 案の定、1件は桃子からで、もう1件はこうちゃんからだった。

 恐る恐る、こうちゃんとのトーク画面を開く。

 最後に話したのは確かに1週間前で、図書館で勉強する約束をした時だった。

 この話をしている時は、まさかあんなことになるなんて思っていなかっただろうな。

 無意識にため息が出た。

 悲しむためにこの画面を開いたわけではなかったのに、すっかり浸ってしまった。

 気を取り直し、新しくこうちゃんから来た文を見る。

『俺の忘れていること全部教えてほしい
明日の14時、あの公園で待ってる』

 いいのか悪いのか、明日は1日中空いている。

 このことを相談するため、久々に桃子に電話をかけた。

『もー! ずっと連絡なくて心配してたんだよー!』

 変わらない桃子の声。

 それを聞くだけで少しだけ安心できた。

「ごめん、ちょっと色々あって、それを相談しようと思って」

 桃子は私の声の雰囲気がいつもと違うことを察したようだ。

『何があったんだい?』

 優しくなった桃子の声に、私はぽつぽつと話を始めた。

 こうちゃんと遊んだ日のこと、勉強した日のこと、私が怒ってその場を立ち去った日のこと、そして今日こうちゃんから久々に連絡がきたこと──

 泣きそうになるのを必死に堪えながら、あったことを全て桃子に話した。

「私、明日行くべきなのかわからない……全部話したところで私のことを思い出してくれるわけじゃない。
もうこれ以上こうちゃんのことで辛い思いをしたくない……」

 我慢していた涙が落ちる。

 この涙は何の涙なんだろう。

 こうちゃんが私を思い出してくれないから?

 こうちゃんとの楽しかった日々を思い出して?

 理由のわからない涙がポロポロとこぼれ落ちる。

 泣きながら黙っている私に、桃子がゆっくりと話し始めた。

『琴音がさ、私に彼の話をしてきた時、まずなんて言ったか覚えてる?』

 まず言ったこと……

「好きな人がいるんだ──とか?」

 正直なんて言ったのか全く覚えていなかった。

 そんな私に桃子が続きを話し始める。

『気持ちを伝えることが出来なくて後悔している人がいるんだ、って。
琴音、そう言ったんだよ』

 気持ちを伝えることができなくて後悔している人……

 桃子の言葉が私の心の中に入ってくる。
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