【コミカライズ】人違いで求婚された令嬢は、円満離縁を待ち望む

渡波みずき

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 動力を使った噴水ならば他国にもあると聞くが、そちらは施設の維持と作動に莫大な金がかかる。常時動かすわけにはいかず、権力者の威信を示さねばならないときにだけ動かしてみせる。自然すら支配下に置けることを見せつけるわけだ。

 その点、およそ五十年前に作られた我が国の噴水には、動力はいっさい用いられていない。かわりに当時の技術の粋を凝らしてあり、いま現在に至るまで休むことなく動き続けている。自然をねじふせるのではなく、その力を最大限に引き出し、人間の思いどおりの動きを取らせた噴水は、極めて優秀で優雅で経済的な代物だ。

 人目がないのをよいことに、コルネリアは膝を折り、ドレスの裾を手でまとめてかがみこんだ。噴水のレリーフを間近で見たかったのだ。いつか読んだ本によれば、ここにはぐるりと一周かけて連続した情景が描かれているらしい。噴水ができあがるまでの経緯が文字なしで記されているというのだが、肝心の図案は本には出ていなかった。

 始まりの絵はどこだろう。しゃがんだまま見てまわったが、明かりが足りないせいで、うまく読み取れない。もどかしく感じていると、すぐ背後で葉擦れの音がした。ハッとして、立ちあがろうとしたコルネリアにかけられたのは、若い男性の声だった。

「失礼。驚かせてしまって申し訳ない。──何かをお探しですか、レディ?」

 レディと呼ばれるには、コルネリアの身分は低すぎる。見かけない女性に対するていねいな声かけに過ぎないことは、すぐ察された。けれども、完全な敬語も使われなかったことに、相手の身分の高さを感じとる。
 今度こそ立ちあがろうとしたところに、彼は思いがけない行動を取った。近くにかけられていたカンテラを外して、こちらに近づいてきたのだ。

「落としたのはどんなものですか? 指環? それとも耳飾り?」
「……違うんです」

 あまりの恥ずかしさに屈んだまま顔を覆って、消えいるような声音で答えたコルネリアのそばに膝をつき、彼は気遣わしげにする。令嬢らしからぬ振る舞いなのは承知していた。見られたばかりか、行動を勘違いされるだなんて、もう、どうしたらいいかわからなかった。でも、心配される時間が長引けば長引くほど、真実は打ち明けにくくなる。
 えい! と、気合いを入れて、コルネリアは顔を隠していた手をどけ、相手の顔を見上げた。

「わたくし、落としものはしておりません。どうしても、この噴水のレリーフの図案を近くで見たかったんですっ!」

 勇気を振り絞った告白に、返ってきたのは明るい笑い声だった。
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