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「良かった! てっきり、家宝でもお探しなのかと思いました」
そんなに必死なようすに見えたとは。恥じ入りながらも、馬鹿にした風ではなく清々しく笑い飛ばされたことで少し気が軽くなる。コルネリアは、あらためて男性を見つめた。
まず目についたのは、茶褐色の肌だ。異国の血が入っているのは間違いない。年のころは二十歳前後か。あまり、年齢差は感じない。きりっとした眉と通った高い鼻筋、薄めのくちびるが凛々しい顔立ちを形作る。目は青い。胸元まで長く伸ばされた直毛の黒髪は、うなじでひとつにまとめられている。
髪留めの飾り紐が彼の肩に垂れているのを見て、コルネリアは目を見開き、ついポツリとつぶやいた。
「すてき、糸紐細工だわ……」
こちらの声に、彼の眉が寄った。不快そうな気配に、コルネリアは首を傾げた。
「ミクラマって、ペレグリーニの伝統工芸品、でしたよね?」
「それが何か?」
とつぜんの警戒したような声音に戸惑いつつ、コルネリアは噴水を手で示して勢い込んだ。
「すばらしい偶然です! ご存じのとおり、王都の水は遠い異国、ペレグリーニの技術者を招聘して作られた水路によってもたらされております。その水路の完成を記念した噴水の前で、ペレグリーニの工芸品をお持ちのかたに声をかけていただくなんて、そうそうない巡り合わせでございましょう?」
同意を求めて青い目を覗き込むと、彼は呆気に取られたような表情をしたあと、くしゃっとした顔で人懐っこく笑った。
「そうだな、確かに。でも、水路建設がペレグリーニの技術だと、よくご存じでしたね」
「王国貴族として当然に知っておくべきことですわ。国の発展とあれほど密接に結びついた事業は、ほかに類を見ません」
わずか数十年前までは、王都の人口増加のせいで、水は枯渇しかけていた。また、雇用が創出できずに貧困が広がりかけていた。その両方を救ったのが水路建設だ。王都には常に水がもたらされるようになり、人夫として雇われたことで技術を得た人々はいま、各地で同じように水路を掘り、遠くの町を潤している。
「この噴水ひとつ取っても、ペレグリーニの技術はずば抜けています。噴き上がる水は目に楽しく、装飾はうつくしく庭に調和していて、しかも実用的です。王宮の防火用水でもございますし、この噴水が止まるということは、すなわち水位不足が起きているということ。国の危機を宮殿に居ながらにして把握できるのです。人類の叡智が詰まっておりますわ」
力説したコルネリアに、彼はカンテラを差し出して問いかける。
「それで、レディ? あなたは何をごらんになりたいのでしたか。微力ながら、お手伝いしましょう」
近くから照らされたことで、レリーフがはっきりと見える。申し出に喜んだコルネリアに、彼はやわらかな微笑みをみせた。
そんなに必死なようすに見えたとは。恥じ入りながらも、馬鹿にした風ではなく清々しく笑い飛ばされたことで少し気が軽くなる。コルネリアは、あらためて男性を見つめた。
まず目についたのは、茶褐色の肌だ。異国の血が入っているのは間違いない。年のころは二十歳前後か。あまり、年齢差は感じない。きりっとした眉と通った高い鼻筋、薄めのくちびるが凛々しい顔立ちを形作る。目は青い。胸元まで長く伸ばされた直毛の黒髪は、うなじでひとつにまとめられている。
髪留めの飾り紐が彼の肩に垂れているのを見て、コルネリアは目を見開き、ついポツリとつぶやいた。
「すてき、糸紐細工だわ……」
こちらの声に、彼の眉が寄った。不快そうな気配に、コルネリアは首を傾げた。
「ミクラマって、ペレグリーニの伝統工芸品、でしたよね?」
「それが何か?」
とつぜんの警戒したような声音に戸惑いつつ、コルネリアは噴水を手で示して勢い込んだ。
「すばらしい偶然です! ご存じのとおり、王都の水は遠い異国、ペレグリーニの技術者を招聘して作られた水路によってもたらされております。その水路の完成を記念した噴水の前で、ペレグリーニの工芸品をお持ちのかたに声をかけていただくなんて、そうそうない巡り合わせでございましょう?」
同意を求めて青い目を覗き込むと、彼は呆気に取られたような表情をしたあと、くしゃっとした顔で人懐っこく笑った。
「そうだな、確かに。でも、水路建設がペレグリーニの技術だと、よくご存じでしたね」
「王国貴族として当然に知っておくべきことですわ。国の発展とあれほど密接に結びついた事業は、ほかに類を見ません」
わずか数十年前までは、王都の人口増加のせいで、水は枯渇しかけていた。また、雇用が創出できずに貧困が広がりかけていた。その両方を救ったのが水路建設だ。王都には常に水がもたらされるようになり、人夫として雇われたことで技術を得た人々はいま、各地で同じように水路を掘り、遠くの町を潤している。
「この噴水ひとつ取っても、ペレグリーニの技術はずば抜けています。噴き上がる水は目に楽しく、装飾はうつくしく庭に調和していて、しかも実用的です。王宮の防火用水でもございますし、この噴水が止まるということは、すなわち水位不足が起きているということ。国の危機を宮殿に居ながらにして把握できるのです。人類の叡智が詰まっておりますわ」
力説したコルネリアに、彼はカンテラを差し出して問いかける。
「それで、レディ? あなたは何をごらんになりたいのでしたか。微力ながら、お手伝いしましょう」
近くから照らされたことで、レリーフがはっきりと見える。申し出に喜んだコルネリアに、彼はやわらかな微笑みをみせた。
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