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数人に抱えられ、屋根裏部屋に運び込まれ、粗末な敷布団のうえに座らされる。しゃがみ込んでコルネリアの顔を覗き込むのは、若い女中だ。そういえば、香り付きの石けんをいちばん喜んでいたのは彼女だった。
「お嬢さん、女中頭には話しておいたから。今日はこのまま休んでいいって」
まばたきしかできずにいると、屋根裏への階段を乱れた足音が駆け上がってくるのが聞こえた。女中たちがビクッと肩を震わせる。けれど、音は木戸の前でぴたりと止まり、かわりに高いノックが響く。同時に懐かしい声がした。
「お休みのところ失礼いたします。リヌスでございます、お嬢様」
執事だ。屋根裏部屋に移ってからは、顔を合わせることも声を聞くこともなかった。彼がいったい何の用だろうか。いっこうに開かれない戸を見つめ、相手の求めることばを理解して、コルネリアはゆるゆると口を開く。
「……入室を許します」
許可とともに、居住まいを正した。慇懃に木戸を開けたリヌスはこちらに一礼すると、一歩踏み出し、また深く頭を下げた。
「すべては私の力不足でございます」
「いいのよ、いずれ個人資産を得たら、出ていくつもりだったもの。18歳までここで辛抱するか、いま嫁がされるかにさしたる違いはないわ」
執事のかわりにコルネリアが叔父を諌める役割を担ったせいで、要らぬ誤解を生んだか、不興を買ったと思っているのだろう。だが、それは誤りだ。だれが説明したところで、彼らは理解しないだろう。
人生で初めて、本気で匙を投げるような相手に遭遇した。同じ言語を話しているはずなのに、ことばが通じない。そんな絶望感を今後も味わい続けるくらいならば、たとえディアナを求める男だとしても、ドミティウス伯爵のほうが話せるだろう。フェリクスとは、あんなに会話が弾んだのだ。追い出されさえしなければ、なんとか18歳まで凌げる場所が手に入るかもしれない。
──そのためには、何が必要かしら。
案外、悪くない状況に思えて、コルネリアは苦笑した。場を取り繕う笑みにでも見えたか、リヌスはさらに恐縮する。
「私にできるかぎりの償いをさせてくださいませ」
「それであなたの気が済むなら、わたくしからいくつかお願いをしましょう。──できることならば、婚姻証明書に署名するときに公証人を立ち合わせたいの。あと、わたくしの管財人に連絡を取りたいわ。あとで手紙を取り次いでくれるかしら」
「それくらいのことでしたら、すぐにも手配いたします。他には、何がご入用でしょうか」
「そうね。では、」
言いさして、コルネリアはこぶしを握った。切り換えるのだ。彼は夜会で出会った青年ではない。自分が生き延びるための踏み台だ。いっさいの隙を与えてはならない。
「……フェリクス・アウレリウスというかたについて、リヌスの知る情報を教えてくれる?」
問いかけに、執事は心得たようにうなずいた。
「お嬢さん、女中頭には話しておいたから。今日はこのまま休んでいいって」
まばたきしかできずにいると、屋根裏への階段を乱れた足音が駆け上がってくるのが聞こえた。女中たちがビクッと肩を震わせる。けれど、音は木戸の前でぴたりと止まり、かわりに高いノックが響く。同時に懐かしい声がした。
「お休みのところ失礼いたします。リヌスでございます、お嬢様」
執事だ。屋根裏部屋に移ってからは、顔を合わせることも声を聞くこともなかった。彼がいったい何の用だろうか。いっこうに開かれない戸を見つめ、相手の求めることばを理解して、コルネリアはゆるゆると口を開く。
「……入室を許します」
許可とともに、居住まいを正した。慇懃に木戸を開けたリヌスはこちらに一礼すると、一歩踏み出し、また深く頭を下げた。
「すべては私の力不足でございます」
「いいのよ、いずれ個人資産を得たら、出ていくつもりだったもの。18歳までここで辛抱するか、いま嫁がされるかにさしたる違いはないわ」
執事のかわりにコルネリアが叔父を諌める役割を担ったせいで、要らぬ誤解を生んだか、不興を買ったと思っているのだろう。だが、それは誤りだ。だれが説明したところで、彼らは理解しないだろう。
人生で初めて、本気で匙を投げるような相手に遭遇した。同じ言語を話しているはずなのに、ことばが通じない。そんな絶望感を今後も味わい続けるくらいならば、たとえディアナを求める男だとしても、ドミティウス伯爵のほうが話せるだろう。フェリクスとは、あんなに会話が弾んだのだ。追い出されさえしなければ、なんとか18歳まで凌げる場所が手に入るかもしれない。
──そのためには、何が必要かしら。
案外、悪くない状況に思えて、コルネリアは苦笑した。場を取り繕う笑みにでも見えたか、リヌスはさらに恐縮する。
「私にできるかぎりの償いをさせてくださいませ」
「それであなたの気が済むなら、わたくしからいくつかお願いをしましょう。──できることならば、婚姻証明書に署名するときに公証人を立ち合わせたいの。あと、わたくしの管財人に連絡を取りたいわ。あとで手紙を取り次いでくれるかしら」
「それくらいのことでしたら、すぐにも手配いたします。他には、何がご入用でしょうか」
「そうね。では、」
言いさして、コルネリアはこぶしを握った。切り換えるのだ。彼は夜会で出会った青年ではない。自分が生き延びるための踏み台だ。いっさいの隙を与えてはならない。
「……フェリクス・アウレリウスというかたについて、リヌスの知る情報を教えてくれる?」
問いかけに、執事は心得たようにうなずいた。
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