わたしのねがう形

Dizzy

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わたしのつなぎたい手

【第6話:二人をつなげる連携】

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キュパッ!
ユアの体が横回転しながら着地。ふわりと風がまい、明るい茶髪が回る。
さっと確認したショートソードの刃には血のりはない。能力をまとう右手には赤い光が薄く這う。

「アミュ、いま!」

 ユアの直前に引き付けられ、何度も傷を入れられた岩蛇。もたげたかま首だけでもユアより大きい。太さはユアの胴よりも太かっただろう。その素材は岩、たやすく刃をはじき矢を受け付けない。そのヘイトは綺麗にユアに向いている。バディの勝利は近い。

「わかりました」

少しだけ離れた場所に、一抱えの巨岩。その上にアミュア。ユアはこの位置に岩蛇を見事に運んだ。
一瞬であふれだした白銀の魔力は、半眼で呪文を唱えたアミュアのちいさな体を若干浮き上がらせる。普段詠唱しない魔法を丁寧に口の中で唱え、一本の光り輝くアイスジャベリンとなす。少しだけ岩から離れたアミュアの頭上でそれは高速回転している。
 オリジナルの強化魔法である。

ヒュゴォーーードン!
 空気が震え、耳の奥に鈍い衝撃が残った。
それは放たれた槍というには早すぎる、目で追うのは難しい速度だ。そして綺麗に頭部に突き立ち、回転を止めた時には貫通していた。
事前の打ち合わせではなく、現場の動きをみながら双方がカバーしあう。見本のような連携がそこにはあった。

「やったね!」「ばっちりです」パチン。
いつの間にかアミュアのそばまで来ていたユアが、笑顔でアミュアとハイタッチ。
危うげなく討伐対象をクリアした二人は、素材回収の手は止めずに、話し出す。
「これ、食べれるところないし。素材も目の宝石みたいのと魔石だけ」
 魔物と呼ばれている、この不思議な生物たちは、ゆえんは解らないが世界中にあちこちいた。中には美味とされる食材が採れる魔物もいた。
 魔物は特定部位に必ず魔力をためた魔石を持つ。ハンターの主な収入源にもなっていた。
「最近のユアは食にこだわりすぎています。防具がきつくなったら大変ですよ?」
「お…おそろしいこと言わないで…」
 薄い皮革の防具をふるえながらまさぐるユア。軽いながらもちゃんと急所をカバーできる作りだ。赤茶色のそれはユアのお気に入りである。
 ふざけ合いながらも、ちゃんと依頼の素材も回収した二人であった。


 帰り道の山間部。
原生林の合間、虫の声だけが響く。静かな午後の道を、二人は帰っていく。
少しだけ難しい顔のユア、ぽつりとつぶやく。
「そろそろもらった力が減ってきてる感じがする…」
並んで歩いているが、身長差から少し見上げるアミュアがつぶやきを拾い上げる。
「前に教えてくれた、ラウマ神のお力ですか?それって減るものなのですか?」
「うん…まだまだたくさん残ってて、ラウマさまとの約束でこれを使い切らないといけないの」
アミュアはすこし考え込んで、腰にさした銀のロッドに触れた。
「魔法を使うとこころが疲労する、あの感じとおなじなのかな?」
「でもまだまだしばらくは使えるし、今は心配ないよ!」
ユアの気遣いが少しだけ不自然で、気になるアミュアであった。
(戦力のていかではなく、あなたのことが心配なんだけどな)
 心の声が音をなす日は、まだ先の様である。

「ユアとまって…おかしい」
しばらく無言で進んでいたアミュアが静かに止まり、伝える。
空は少しづつ紫を帯びてきている。夕闇が近い。
「なに?気配でもあった?」
答えるユアの声も抑え気味で、すでに左腰の剣に右手が伸びている。

一瞬の沈黙。

「虫の声がしない」
 緊張したアミュアの声。
 聞いた直後には抜剣しているユア。静かに剣先を降ろしながら背中合わせになる位置に動く。
「…アミュ戦闘準備…」
 互いの背を守り合う二人の横手、濃い林の奥に気配がある。
山手の斜面だ。濃い下草が視界を遮る。
 何か居る。
 かさかさと静かに近づく気配が。

 二人の立ち位置はすでに戦闘態勢。
 アミュアをかばうようにユアがにじり出る。ユアで射線が切れないよう微調整するアミュア。
 己が二の腕と等しい長さの真っすぐな剣先を、右の耳横で気配に向けるユア。その右手には強化魔法たるラウマの力が赤く纏われている。


 ついに道の横まできた気配が林を割り、滲みだすように静かに現れる。

ーーー影の獣。
 そう呼ばれる魔物は、四足獣の姿を取りその輪郭を黒い炎で縁取っていた。




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