わたしのねがう形

Dizzy

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わたしのつなぎたい手

【閑話:ただ一つ祈ったこと】

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 ユアは目をつぶって俯いていた。
そこに何があるのか、見たくなかったのだ。
少しの間のあと目を開き、顔を上げて左右をすっと見る。
もちろんそこには誰もいなかった。
最初から解っていた事だった。

(そうだよね。)
(もう解っていた事。そろそろ気持ちを整理しないと。)

 しばらく動かないユア。目を再び閉じ祈るように頭を下げた。
通路を圧する質量が、沈黙として漂う。

(おかあさん、さようなら)
(いままでありがとう)

それは祈りであったか、黙祷であったか。
ただユアは静かに立っていた。うつむきながら。

どれくらいたっただろうか、暗闇の中では時を測ることはかなわない。
何かを感じたわけでもなく、すっと顔を上げもう一度左右を見るユア。

(あれ?魔石灯が点いたままだ)
右の通路はしばらく行ってさらに右に曲がる。
その曲がり角の先に、明かりがある。
もれる灯の中で、角に向かい影が伸びていた。
(何か灯の前に置いてある?)
角から漏れる薄い灯の中に細長い影がある。
視力も優れているユアは、そのわずかな違和感に気付いた。

ゆっくりと角の手前まで歩くユア。
通路の床は整えられた石材でできている。
このあたりでよくとれる玄武岩であろう。
コツコツと靴音をたてて進んだ。

やがて光の中に立つ影の形がはっきりと解った。
十字の影。
ユアも持っている短剣と同じシルエット。
細身である。

角を曲がりユアは剣を見た。
固い石材の床に突き立つ一本の剣。
どれだけの手練れであろうか、継ぎ目でもないつややかな床面に垂直に突き立っている。
(こんなこと出来るのおかあさんだけだ)
先ほど決別したはずのユアの心がまた揺れる。

(どうしておかあさんの剣がここに?)
剣の先で通路はまた曲がるが、少し広がり小さな部屋になっている。
そこには魔石灯を置いてある細いテーブル。
目をやったユアはそこに一通の封書をみつける。
近付き確認した。
(おかあさんの字だ)



手紙はユア宛だった。
どのような状況だったかは解からないが。
あまり時間はなかったのだろう、簡潔な文面だった。
読み下したユアは丁寧にたたみ封をした。
そっと懐に封筒をしまい、剣を見る。


じっと見つめるユアの目が赤くなっていく。
唇をかみしめて堪えているのだ。
涙を。

(さみしいよ…)
心に思いがあふれた瞬間、母の言葉を思い出した。

ーーーユア、お姉さんは泣かないのよ。

ぐっと拳を握った。
ユアはこの村で生まれた初めての子供だった。
何人か後を追うように生まれた子供はすべて弟、妹達。

期待もされていた。期待に応えたいとも思っていた。
自分が姉なのだと。

自分が泣いては、弟妹達も泣いてしまうと。

ただぐっと拳を握りこみ、心の痛みに耐える。
掌の痛みなど耐える必要もなかった。

しんしんと静寂が耳に辛くなった頃。
突然気配がわき、ささやくような声が聞こえた。

「ユア…いますか?」

ビクっとユアの肩が揺れる。
アミュアの声だ。
ユアに気付いたようで、先ほどより少し声に力がこもる。

「アミュアです、そちらですか?ユア?」

ユアは俯きただただ耐えることしかできなかった。
心のなかで祈りを一つだけ持ち。
どうか涙よこぼれないでと。






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