わたしのねがう形

Dizzy

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わたしのつなぎたい手

【第29話:ひろがるあたたかさ】

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 ユアとアミュアの放った光は、カーニャの実家を覆いつくすほどの光だったという。
何故か家中の使用人たちも、家人も不調のあったものはすべて癒されていた。
長年痛かった老人の膝も、先日転んでできた痣も。すべて無差別に治っていた。



「ねえさまあ!」
「ミーナ…」
しっかりとベッドの横で抱き合う姉妹。
あまねく家中を癒した奇跡は、もちろんミーナにも届き分け与えられていた。
しっかりと抱き合い、涙する二人を見ながらのんびりとユア。
「よかったよかった、うんうん」
満面のにこにこ顔であった。
「ほんとうによかったです」
こちらも珍しくにっこりのアミュア。
全てが終わり幸せが溢れている中で、不思議そうに自分の左手をみるアミュア。
「どしたの?アミュア左手まだ痛いの?」
ちょっと心配そうにみるユアに答えた。
「いえ…ただ不思議だなと」
言葉にはしなかったが、心の中で付け足す。
(たしかにつながったと思ったのですが…)
アミュアには力が使えた手応えがなかった。ただただ大きな力を通してユアの心にまで触れた安心感だけが残っていた。
普段使う魔法のような、自分の力だとは感じられなかったのである。
「なんだかお腹空いちゃったな。おやつの時間なんじゃないかな!」
 場違いなほど明るいユアの声に、ミーナですらクスクス笑みをこぼした。



 あの奇跡の朝から3日が経過していた。
その間に医師や魔導士が何人か診断に来たが、ミーナの回復に納得できる理由はついに見つからなかった。
ユアとアミュアはミーナが落ち着くまでと、滞在を延長し街を散策したり、近辺の討伐依頼を堪能したりと観光に余念がない。
押さえつけられていた気持ちの反動か、ひまわりパワーは全開だった。
ハンターオフィスを中心にユアとアミュアの名前が広まりつつあった。
微笑みとともに。

 さらに翌日には、車椅子が要るが外に出られるようになったミーナと、どうしてもお礼がしたいからと言うカーニャと4人で買い物をした。
「ねえねえみて!アミュア」
声の出力からして違う。本当に元気になったミーナが、背格好が似てるのもあり距離を詰めているアミュアを呼んだ。ちいさな小物屋の店先だ。
ショーウインドゥには細やかな木工のアクセサリーが並んでいた。
素材の種類による違いか、思いがけず色とりどりのそれは少女達の興味を大いに引いた。
「これは木製ですね、いろんな色があります」
車椅子を押すアミュアが答えた。
そのさらに後ろでは、カーニャとユアが微笑ましく二人に視線を送っていた。
「いやいやほんとうに良かった。なんだか見ているだけで幸せになる二人だね」
クスっと笑いながらカーニャの声も明るい。
「なんでそんなしみじみ言うのよ。年寄りっぽいわよ」
「ひどーい」
 全体でみれば4人共、同じような微笑ましさだと、本人たちには判らないのであった。



 そのまた翌日のスリックデンの駅舎。
4階建ての立派な建物は、ルメリナのそれより大分大きい。
線路も奥の方まで何列もあり、列車もそれぞれに停まっていた。
 スリックデンからは四方に大きな街があり、製造だけではなく流通の要としても機能しているのだ。
今日は粉雪交じりの冷たい風が吹いていた。
そのいくつもあるホームのうちの一つに、ルメリナ行きの汽車が停まっていた。
 昨夜初雪が降り、うっすらと雪化粧をほどこしたスリックデンを発つ者たちがいる。
ユアとアミュアだ。
見送りに来てくれているミーナとカーニャ。
車椅子の上のミーナはこらえきれず涙を流している。
短い間にとてもアミュアが好きになってしまったのだ。
「クスン、またきっと遊びに来てねアミュア」
「もちろん、こちらに来たらかならずよります」
指切をする二人の指には、おそろいの木の指輪。
昨日お互いに選び合ったのだ。
ユアとカーニャも最後の握手。
「本当に助かった。私もあなた達二人のためなら、何を置いても駆けつけるわ」
たのもしいカーニャの宣言に、いつもの調子で返すユア。
「あたしも、なんだかすっきりして前に進んでいける。カーニャのお陰だよ」
「なにもしていないわ」
ふっと可笑しくなり見つめ合いながらクスクスする二人。
「落ち着いたらまた手紙をだすわ」
 右手が無意識かピアスに触れ、ユアの耳にも揺れる同じ形のそれを見る。
おそろいの小さな木製のピアス。
カーニャの耳には赤いもの、ユアのそれはオレンジの鮮やかなピアス。
うなずくユアの後ろではついにこらえきれず車椅子から立ち上がり、アミュアに縋りつくミーナ。
まだまだこれからリハビリが必要だろうが、ちょっとの間ならミーナも立ち上がれるようになった。
日光よけの鍔広帽子すら落としてしまいシクシクとアミュアにすがるミーナ。
背中をぽんぽんしてあげるアミュアはちょっとおねーさんぶるのであった。
「またすぐに会えますミーナ。リハビリがんばるのです」
「うん…今度会うときには一緒に歩きたいな」
「きっと歩けます」
発車時間が迫り、ホームにアナウンスが流れていく。
そろそろ別れの時だ。
そっと車椅子にミーナを座らせたアミュアが、もう一度手を取る。
言葉はもうないが、互いに選んだ指輪が確かな絆を感じさせてくれた。
「じゃあまたね!」
最後も元気にユアがステップを上がる。
「かならずまたきます」
ちょっと涙目になっているアミュアも乗り込んでいった。



互いが互いを思い合った。
そこになんの打算も悪意もなくただ労わりあった。
そんなあたたかな思いが満ちたとき、不思議な奇跡は成されたのだった。
少しずつ速度を上げる列車は、真っ白な雪原へと消えていく。
あたたかい思いだけ残して。
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