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わたしのつなぎたい手
【第33話:アミュアと魔法と】
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呪文は己の中の魔力に、形と役目を与える命令書。
静かにゆっくりと詠唱をつづけるアミュア。
そうしてイメージした必要な分だけ魔力を出していく。キラキラと白い粒子が舞いだす。
いまアミュアが唱えるのは今朝ソリスに教えてもらった初級魔法『アイスニードル』だ。
初めて使った時は加減が判らず、そこにあった魔力全てを槍のように構成し打ち出した。
アミュアには呪文が命令に感じられなかったのだ。
それは願い。
祈りとも呼べるような魔力へのささやき。
それだけであふれんばかりに力を出してくれる魔力。
だがそれは制御出来ず、同じ過ちを繰り返すだけ。
今は呪文というすごく面倒な手順で魔力を操っていた。ジワジワと粒子が濃度を増す。
わずかに滲む青白い魔力がアミュアの全身をつつむ。
アミュアの伸ばした右手の前に己が腕程度の長さを持つ矢が作られた。
声に出すようソリスに言われていたので、発声しながら魔法を放った。
「アイスニードル」
キュン
矢よりも早く飛んだそれは、ソリスの用意した普通の的に刺さって止まった。
指3本ほどの厚みを持つ木の的だ。
その的を矢羽にあたる部分まで貫通し停まった。
まもなく矢は魔力に戻りチリチリと空気中に散っていく。
少し後ろで見ていたソリスが尋ねる。
「どうだ?あと何回今のを撃てそうだ?」
伸ばしていた右手を戻し手のひらを見ながら答えるアミュア。
「よくわかりませんが、何回でも撃てそうです」
うなずきながらアミュアの横まで進むソリス。
「魔力の変換工程に無駄が少なくなった。昨日とは大違いだな」
右手を的に向けたソリスが詠唱を始める。
アミュアよりもかなり早く正確な因を踏んでいる。
右手の前には無数の矢が現れる。10本以上はあるだろうか。
「アイスニードル」
キュキュキュン
それぞれが少しづつ違う軌道を取り的に収束する。
矢はそれぞれ的を貫通し通り抜けていった。
後にはほぼ粉々の的の残骸。
「おおー」パチパチパチ
少しだけ表情に驚きの成分があるアミュアが拍手している。
アミュアを向いて手を降ろしながらソリスが伝える。
「基本の詠唱をしながら頭の中で別の式を足していく。慣れれば今くらいのことは難しくはない」
ふむふむと頷くアミュア。
「大事なことは制御すると言うことだ。昨日のような魔力の使い方は危険だ。二度とはしないように」
冷静なソリスの言葉にうなずきながらも違和感は残ったアミュア。
(とてもめんどうだ魔法)
そんなことを心では思っていた。
三日もそのような指導を続けたソリス。
アミュアの資質はやはりすばらしく、見る見るうちにソリスの技術を理解し使いこなしていった。
そもそも通常の魔法の学び方が通用しないのだ。
当たり前の見習い魔法士ならば、まずは魔力を制御し外に出すところから始める。
その効率や速度を上げることをこそ鍛錬するのだ。
一方のアミュアは呼吸するように魔力を放出できる。
今しているのは式になぞらせ制御し収めるための修練だ。
必要以上に多くの魔力を出させないためである。
庭の木の下で瞑想しながら、アミュアの鍛錬を見るソリスの目には観察だけではない何かがこもり始めていた。
「アイスジャベリン」
ひゅひゅひゅひゅーーードドドドン
アミュアの魔法は段階的に威力を上げていき、今は中級であれば4発まで同時に出せるようになっていた。その射出軌道も若干だが制御可能なようで弧を描く。
的はソリス専用の丈夫な的に変えられている。
顔色も変えず魔法を撃つゴーレムの様な動き。
だがアミュアの表情には色々な感情が隠されている。
「どうした?なにか問題があるのか?」
その微妙な感情のかけらをソリスは読み取り始めている。
「いえ同じことをくりかえすのはつまらないなと」
ソリスの表情にも動きが出る。
にやと笑みながら言った。
「つまらないことを続けるから、鍛錬になるのだよアミュア」
少しだけ口を尖らせるアミュア。
自分でもその感情が何かわからず、視線を木々へと逃した。
静かにゆっくりと詠唱をつづけるアミュア。
そうしてイメージした必要な分だけ魔力を出していく。キラキラと白い粒子が舞いだす。
いまアミュアが唱えるのは今朝ソリスに教えてもらった初級魔法『アイスニードル』だ。
初めて使った時は加減が判らず、そこにあった魔力全てを槍のように構成し打ち出した。
アミュアには呪文が命令に感じられなかったのだ。
それは願い。
祈りとも呼べるような魔力へのささやき。
それだけであふれんばかりに力を出してくれる魔力。
だがそれは制御出来ず、同じ過ちを繰り返すだけ。
今は呪文というすごく面倒な手順で魔力を操っていた。ジワジワと粒子が濃度を増す。
わずかに滲む青白い魔力がアミュアの全身をつつむ。
アミュアの伸ばした右手の前に己が腕程度の長さを持つ矢が作られた。
声に出すようソリスに言われていたので、発声しながら魔法を放った。
「アイスニードル」
キュン
矢よりも早く飛んだそれは、ソリスの用意した普通の的に刺さって止まった。
指3本ほどの厚みを持つ木の的だ。
その的を矢羽にあたる部分まで貫通し停まった。
まもなく矢は魔力に戻りチリチリと空気中に散っていく。
少し後ろで見ていたソリスが尋ねる。
「どうだ?あと何回今のを撃てそうだ?」
伸ばしていた右手を戻し手のひらを見ながら答えるアミュア。
「よくわかりませんが、何回でも撃てそうです」
うなずきながらアミュアの横まで進むソリス。
「魔力の変換工程に無駄が少なくなった。昨日とは大違いだな」
右手を的に向けたソリスが詠唱を始める。
アミュアよりもかなり早く正確な因を踏んでいる。
右手の前には無数の矢が現れる。10本以上はあるだろうか。
「アイスニードル」
キュキュキュン
それぞれが少しづつ違う軌道を取り的に収束する。
矢はそれぞれ的を貫通し通り抜けていった。
後にはほぼ粉々の的の残骸。
「おおー」パチパチパチ
少しだけ表情に驚きの成分があるアミュアが拍手している。
アミュアを向いて手を降ろしながらソリスが伝える。
「基本の詠唱をしながら頭の中で別の式を足していく。慣れれば今くらいのことは難しくはない」
ふむふむと頷くアミュア。
「大事なことは制御すると言うことだ。昨日のような魔力の使い方は危険だ。二度とはしないように」
冷静なソリスの言葉にうなずきながらも違和感は残ったアミュア。
(とてもめんどうだ魔法)
そんなことを心では思っていた。
三日もそのような指導を続けたソリス。
アミュアの資質はやはりすばらしく、見る見るうちにソリスの技術を理解し使いこなしていった。
そもそも通常の魔法の学び方が通用しないのだ。
当たり前の見習い魔法士ならば、まずは魔力を制御し外に出すところから始める。
その効率や速度を上げることをこそ鍛錬するのだ。
一方のアミュアは呼吸するように魔力を放出できる。
今しているのは式になぞらせ制御し収めるための修練だ。
必要以上に多くの魔力を出させないためである。
庭の木の下で瞑想しながら、アミュアの鍛錬を見るソリスの目には観察だけではない何かがこもり始めていた。
「アイスジャベリン」
ひゅひゅひゅひゅーーードドドドン
アミュアの魔法は段階的に威力を上げていき、今は中級であれば4発まで同時に出せるようになっていた。その射出軌道も若干だが制御可能なようで弧を描く。
的はソリス専用の丈夫な的に変えられている。
顔色も変えず魔法を撃つゴーレムの様な動き。
だがアミュアの表情には色々な感情が隠されている。
「どうした?なにか問題があるのか?」
その微妙な感情のかけらをソリスは読み取り始めている。
「いえ同じことをくりかえすのはつまらないなと」
ソリスの表情にも動きが出る。
にやと笑みながら言った。
「つまらないことを続けるから、鍛錬になるのだよアミュア」
少しだけ口を尖らせるアミュア。
自分でもその感情が何かわからず、視線を木々へと逃した。
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