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わたしのつなぎたい手
【第69話:健やかな心が 前編】
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アミュアはかつて無いほど絶好調だった。
(これでししょうのロッドがあればよかったのにな)
飛翔魔法で飛びながら無詠唱ではなった光上級魔法の光線が8本、弧を描きダウスレムに向かう。
直後にダウスレムは高速で横滑りし回避、追従し避け切れなかった光は両手で支える魔剣がはじく。
アミュアは自分の中にあふれる魔力を感じていた。
それはかつて師匠の元で研鑽していた頃の魔力量だった。
(やっぱりここは、あの世界に似ている)
次々魔法を撃ちながらもアミュアは冷静に考えていた。
回避に専念したダウスレムの隙を突きユアのクレイモアがうなり飛ぶ。
その刀身はクレイモアを起点にダウスレムの魔剣を越え長大な金色を放っていた。
少し体制を崩していたダウスレムが、剣は間に合わないと判断し左手の小手で受ける。
ギン!
本来小手ごときで止められるはずのない一撃、神の雷だ。
それを止める。
鎧の性能かダウスレムの能力か。
禍々しい獣のような爪をはやした小手はギリギリと唸り削られながらもユアの縦切りを止めいなした。
ズン!
ユアの剣が流され地面に当たる。
この地面も不思議で多少切り込まれたがユアの剣を止める。
地に剣を打った死に体のユアに追撃の魔剣が横凪に来る。
ユアは剣の後ろに回りクレイモアで受けるが、その威力を支えきれず吹き飛ぶ。
体の流れたユアに追撃をしようと踏み込んだ先に極太の光線が落ちてくる。
アミュアの光魔法だ。
その輝きはかつての師匠ソリスの魔法に匹敵する太さを持ち突き立った。
「くっくっくやるではないか癒し手の娘よ」
崩れたユアを待つように剣先をそらしアミュアに話しかけるダウスレム。
「くそお、余裕あるなまだ?!」
ユアはとても悔しそうで、とても楽しそう。
激しく打ち合い、技と駆け引きのすべてを惜しみなくぶつける。
その上で届かない。
まるで村にいた頃につけてもらった母の稽古のようにも感じていた。
アミュアもまた楽しんでいた。
激しく動き回るダウスレムとユアは、かつて何度か師匠が見せてくれた高度な駆け引きを持った魔法戦闘を要求してくる。
たとえ魔法が追従してもこの速度では先読み無しにはかすりもしない。
(とてもこうどな課題のようです!)
そうしてひとしきり戦った3人は、魔力切れのアミュアが地に落ち、ユアが剣で体を支え立っているのが限界だと言うところで幕を引いた。
「はあはあはあはあ」
ユアは心臓が限界まで鼓動を打ち、気力も尽きてひざを付いた。
一足先にギブアップしたアミュアが着せてもらったシャツの、お腹部分でユアの額の汗を拭いてくれる。
「はあはあ、あり、がとうはあはあ」
ユアはまだ言葉が出ない。
そうして休憩している二人の少し離れた横で、ダウスレムが鎧とマントを外した。
汗はだらだらと流れているが、呼吸に乱れは少なく話しかけてくる。
「見事な練度であった。ここまで力を出したのは何年振りか、楽しませてもらった事、礼を言おう」
むき出しになった彫刻のような鍛えられた浅黒い上半身が汗で光っている。
魔剣も地に下ろし無手となったダウスレムが、静かに詠唱を始める紫の魔力は闇魔法か。
すっと右手を突き出すとアミュアの両手をひとまとめに縛り、空中に持ち上げ固定した。
「アミュア!」
おどろいたユアが手を伸ばすが、背に殺気を感じ飛び上がるのを堪えた。
ジリジリと視線の圧があるが、攻撃は来ない。
ゆっくり振り返りユアがダウスレムをにらむ。
「アミュアをはなして!」
きっと睨みつける瞳には赤い光が漏れている。
ダウスレムの殺気はアミュアに向けられている。
「ユア!これはカースリング、魔法を封じられた!」
丁寧に説明してくれるアミュアのお陰で、状況が把握できるユア。
その両目の光がじわじわと強くなっていく。
しばらくのにらみ合いの上、ダウスレムが語りだす。
「ユアよ、我は遥か悠久とよべる昔からここに存在していた。」
ゆっくりとダウスレムが説明をつづける。
ユアはアミュアを守れる札が無く、だまって聞いていた。
ダウスレムはこの場所の守護者として作られたのだと、この場所を離れることも滅びることも許されていないと言う。そうして長い年月を部下たちを送り出すことで過ごしたのだと。
「亡き陛下を滅ぼし、我が息子たちも滅ぼしたというその力」
じっとユアの右手にあるクレイモアが放つ金色を見つめるダウスレム。
「悲しみもあった、辛さもあった。それ以上に憧れたのだよ終わりを迎えることを」
ユアは両目の光を弱める。
ダウスレムの中に深い悲しみと疲れを見出してしまったのだ。
「振るってほしい、その力を。神なる雷を…」
話すべきことを終えたのか、口をつむぐダウスレム。
しばらく間を置きユアがつぶやく。
「滅ぼしてほしいってこと?この力で」
ユアの目が揺らぐ。
怒りも悲しみも無く人を殺せるほど、ユアは擦り切れてはいないのだ。
父母の望んだような健やかな心がそこにはあった。
「あたしには出来ない悲しそうな人を切れないよ」
ユアの顔もダウスレムの悲しみを受けゆがむ。
「訊ねてはいけない」
その時意外なところから声が落ちてきた。
「ユアが考えて決めなければいけない」
アミュアだった。
「ユアが本当に望んだことを選んでほしい。たとえわたしがしんだとしても」
吊り下げられたままのアミュアがユアに言葉を落としたのだ。
「アミュア?どうしたの?」
悲しそうな眼のままアミュアを見るユア。
「このままではわたしがわたしでいられなくなります」
無表情なアミュアが言葉を続ける。
「ここにはラウマさまがみちています、わたしがしねばラウマさまのもとにかえるでしょう」
アミュアの瞳に光はなく、すみれいろの瞳はただ宙をみていた。
(あの瞳を知っている!最初にみたラウマ様だ!)
(これでししょうのロッドがあればよかったのにな)
飛翔魔法で飛びながら無詠唱ではなった光上級魔法の光線が8本、弧を描きダウスレムに向かう。
直後にダウスレムは高速で横滑りし回避、追従し避け切れなかった光は両手で支える魔剣がはじく。
アミュアは自分の中にあふれる魔力を感じていた。
それはかつて師匠の元で研鑽していた頃の魔力量だった。
(やっぱりここは、あの世界に似ている)
次々魔法を撃ちながらもアミュアは冷静に考えていた。
回避に専念したダウスレムの隙を突きユアのクレイモアがうなり飛ぶ。
その刀身はクレイモアを起点にダウスレムの魔剣を越え長大な金色を放っていた。
少し体制を崩していたダウスレムが、剣は間に合わないと判断し左手の小手で受ける。
ギン!
本来小手ごときで止められるはずのない一撃、神の雷だ。
それを止める。
鎧の性能かダウスレムの能力か。
禍々しい獣のような爪をはやした小手はギリギリと唸り削られながらもユアの縦切りを止めいなした。
ズン!
ユアの剣が流され地面に当たる。
この地面も不思議で多少切り込まれたがユアの剣を止める。
地に剣を打った死に体のユアに追撃の魔剣が横凪に来る。
ユアは剣の後ろに回りクレイモアで受けるが、その威力を支えきれず吹き飛ぶ。
体の流れたユアに追撃をしようと踏み込んだ先に極太の光線が落ちてくる。
アミュアの光魔法だ。
その輝きはかつての師匠ソリスの魔法に匹敵する太さを持ち突き立った。
「くっくっくやるではないか癒し手の娘よ」
崩れたユアを待つように剣先をそらしアミュアに話しかけるダウスレム。
「くそお、余裕あるなまだ?!」
ユアはとても悔しそうで、とても楽しそう。
激しく打ち合い、技と駆け引きのすべてを惜しみなくぶつける。
その上で届かない。
まるで村にいた頃につけてもらった母の稽古のようにも感じていた。
アミュアもまた楽しんでいた。
激しく動き回るダウスレムとユアは、かつて何度か師匠が見せてくれた高度な駆け引きを持った魔法戦闘を要求してくる。
たとえ魔法が追従してもこの速度では先読み無しにはかすりもしない。
(とてもこうどな課題のようです!)
そうしてひとしきり戦った3人は、魔力切れのアミュアが地に落ち、ユアが剣で体を支え立っているのが限界だと言うところで幕を引いた。
「はあはあはあはあ」
ユアは心臓が限界まで鼓動を打ち、気力も尽きてひざを付いた。
一足先にギブアップしたアミュアが着せてもらったシャツの、お腹部分でユアの額の汗を拭いてくれる。
「はあはあ、あり、がとうはあはあ」
ユアはまだ言葉が出ない。
そうして休憩している二人の少し離れた横で、ダウスレムが鎧とマントを外した。
汗はだらだらと流れているが、呼吸に乱れは少なく話しかけてくる。
「見事な練度であった。ここまで力を出したのは何年振りか、楽しませてもらった事、礼を言おう」
むき出しになった彫刻のような鍛えられた浅黒い上半身が汗で光っている。
魔剣も地に下ろし無手となったダウスレムが、静かに詠唱を始める紫の魔力は闇魔法か。
すっと右手を突き出すとアミュアの両手をひとまとめに縛り、空中に持ち上げ固定した。
「アミュア!」
おどろいたユアが手を伸ばすが、背に殺気を感じ飛び上がるのを堪えた。
ジリジリと視線の圧があるが、攻撃は来ない。
ゆっくり振り返りユアがダウスレムをにらむ。
「アミュアをはなして!」
きっと睨みつける瞳には赤い光が漏れている。
ダウスレムの殺気はアミュアに向けられている。
「ユア!これはカースリング、魔法を封じられた!」
丁寧に説明してくれるアミュアのお陰で、状況が把握できるユア。
その両目の光がじわじわと強くなっていく。
しばらくのにらみ合いの上、ダウスレムが語りだす。
「ユアよ、我は遥か悠久とよべる昔からここに存在していた。」
ゆっくりとダウスレムが説明をつづける。
ユアはアミュアを守れる札が無く、だまって聞いていた。
ダウスレムはこの場所の守護者として作られたのだと、この場所を離れることも滅びることも許されていないと言う。そうして長い年月を部下たちを送り出すことで過ごしたのだと。
「亡き陛下を滅ぼし、我が息子たちも滅ぼしたというその力」
じっとユアの右手にあるクレイモアが放つ金色を見つめるダウスレム。
「悲しみもあった、辛さもあった。それ以上に憧れたのだよ終わりを迎えることを」
ユアは両目の光を弱める。
ダウスレムの中に深い悲しみと疲れを見出してしまったのだ。
「振るってほしい、その力を。神なる雷を…」
話すべきことを終えたのか、口をつむぐダウスレム。
しばらく間を置きユアがつぶやく。
「滅ぼしてほしいってこと?この力で」
ユアの目が揺らぐ。
怒りも悲しみも無く人を殺せるほど、ユアは擦り切れてはいないのだ。
父母の望んだような健やかな心がそこにはあった。
「あたしには出来ない悲しそうな人を切れないよ」
ユアの顔もダウスレムの悲しみを受けゆがむ。
「訊ねてはいけない」
その時意外なところから声が落ちてきた。
「ユアが考えて決めなければいけない」
アミュアだった。
「ユアが本当に望んだことを選んでほしい。たとえわたしがしんだとしても」
吊り下げられたままのアミュアがユアに言葉を落としたのだ。
「アミュア?どうしたの?」
悲しそうな眼のままアミュアを見るユア。
「このままではわたしがわたしでいられなくなります」
無表情なアミュアが言葉を続ける。
「ここにはラウマさまがみちています、わたしがしねばラウマさまのもとにかえるでしょう」
アミュアの瞳に光はなく、すみれいろの瞳はただ宙をみていた。
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