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わたしがわたしになるまで
【第67話:少し様子を見ることに】
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男は監視を命じられていた。
セルミア麾下のレヴァントゥス麾下の家令の一人が使う、使い走りだ。
レヴァントゥスにノアの監視を命じられた家令の一人は、レヴァントゥスから策を授けられていた。
「どうせカルヴィリスには見つかるから、囮に一人つけて本命として君が動きな」
つまり、捨て駒であった。
使い走りの男は命じられた通り、ノアの泊まっているホテルを監視している。
交代要員が一人いるので、2交代制だ。
その男を含め、部屋やホテルの出口が見えるところとなると、場所は限られてしまうのだ。
そのうちの2つ目でカルヴィリスは家令を発見した。
(見え透いた捨て駒を置きすぎたわね。こっちが本命とみた)
すっと影に消えるカルヴィリス。
影魔法だ。
家令の後ろに現れたときには、長いシャムシールは喉を貫いていた。
声も出させない手練れの技であった。
(さて、あっちの囮は動かないでしょうから、セルミア側はこれで終わりね)
すっとまた影を経由して移動。
殺した相手は音もなく跪いたままである。
問題の暗殺者ギルドの方は、接触を待つしかない。
戦いやすく逃げやすい立地を選び、待つことにした。
町の外れにある廃墟となった教会だ。
墓地と併設してあり、そちらはまだ利用しているようだ。
教会の屋根に登り暫し待つ。
すっと教会の屋根に人影が現れた。
カルヴィリスの間合いの少し先である。
(なるほどこのレベルか)
カルヴィリスはギルドでもトップ5に入る腕前だ。
同じレベルを寄越すのは不可能であろう。
あるとすればカルヴィリスを消すときだけであろう。
影は足元に手紙を置きすっと下がる。
下がった拍子に眼の前にカルヴィリスがいた。
「!!」
驚愕に黒装束から唯一出ていた目が見開かれる。
喉元にはすでにシャムシールの抜き身が有った。
カルヴィリスの左手には影が置いた手紙があった。
それを拾い、剣を抜きここにいるのだ。
「誰からの指示だったの?」
静かなささやくような声。
答えることが出来ず固まる影。
答えなければ死ぬであろうし、答えても後に死ぬのだ。
影にとっての沈黙はいつもの数倍重かった。
「こたえられません」
それだけ告げると、すっとカルヴィリスが下がった。
ほっと息を付いた影は自分の喉がひやりと風を受けて固まる。
下がったカルヴィリスから声が来る。
「間違っても私の連れに手を出さないでね。次は手が滑っちゃうかも知れないわよ」
すいっと影に沈んで消えるカルヴィリス。
跪いた影も訓練を受けた刺客だが、レベルが違いすぎた。
おそるおそる手を上げ確認すると、喉元の布だけが切られていた。
中の皮膚一枚切らずにだ。
移動の速度と手練れの攻撃。
何一つ理解も及ばないレベルで、影はそのまましばらく動けないのであった。
ホテルのそばに戻ったカルヴィリス。
念の為殺したセルミアの手下も確認してきたが、変化はなかった。
相変わらず捨て駒の男は下手くそな監視を続けていた。
(ついでにあれも始末しようかしら?)
物騒なことを考えつつ部屋を確認する。
ノアは変わらず寝ている気配があった。
ホテルの屋根に移動して、監視を監視しながら手紙を確認する。
魔法的にも特に異常はなかったので封を切る。
文面は一行であった。
『公都エルガドールに近づくな』
これだけであった。
(これだけであのレベルの影を捨て駒とは。ギルドは流石に手厚いわね)
殺した家令よりは、数段上のギルドの影であった。
特に隠した意味や符号もなかったので、闇魔法ですっと手紙を消す。
いろいろ跡形なく処分するための魔法であった。
警告の意味がなければ、最初の家令も手紙と同じ運命を辿っていたのだ。
(もう少し情報が欲しいわね)
すうと影に入りながら様子をみることとするカルヴィリスであった。
翌朝ノアと朝食を宿で済ますと、チェックアウトし町へ出た。
「ノアはこれからどうしたい?ただセルミアから逃れられたらいい?」
歩きながらカルヴィリスがたずねた。
「特に決めてなかったけど、それでいいかな」
カルヴィリスは行動方針に悩んだ。
昨日のギルドからの手紙が、セルミア絡みなのかギルド単体の話なのかで随分かわる。
(直接聞きに行ったほうが早いのだけど)
さすがにセルミアにもギルドにも一人で立ち向かう気にはなれなかった。
ギルドの手紙にしろただの警告だ。
意図も伝えてこないし、匂わせもしない。
これでは何も決められないと悩むのであった。
(ここはもう少し様子をみましょうかね)
カルヴィリスは方針を保留することとした。
「ではもう少し進んでみて考えましょう。大きな街まで行けば何か変わるかも?」
不思議そうにカルヴィリスを見るノア。
「ルヴィは行きたい所ないの?ノアはそこでもいいよ」
ノアの質問にカルヴィリスは答えられない。
それこそ今のカルヴィリスにしたいことなど何もないのだ。
しいて言えばノアを見守りたいと今は思っていた。
そんなカルヴィリスに自主性などあるはずがなかった。
カルヴィリスが答えないので、別の質問をするノア。
「大きな街は何か面白いことがあるの?わたし行ったことが無いからわからない」
ちょっと考えてからカルヴィリスは答えた。
「街にはいままで通った町や村よりも多くの人がいてね、沢山のお店や遊ぶ所もあるのよ」
やっとカルヴィリスにも笑みが浮かぶ。
「きっとノアは楽しめると思うけど」
そう行って微笑んだカルヴィリス。
その柔らかで温かい感触を感じながらノアは思う。
(ルヴィが楽しいか聞きたかったのだけどな)
こうして微妙にすれ違いながらも、次の街を目指すのであった。
セルミア麾下のレヴァントゥス麾下の家令の一人が使う、使い走りだ。
レヴァントゥスにノアの監視を命じられた家令の一人は、レヴァントゥスから策を授けられていた。
「どうせカルヴィリスには見つかるから、囮に一人つけて本命として君が動きな」
つまり、捨て駒であった。
使い走りの男は命じられた通り、ノアの泊まっているホテルを監視している。
交代要員が一人いるので、2交代制だ。
その男を含め、部屋やホテルの出口が見えるところとなると、場所は限られてしまうのだ。
そのうちの2つ目でカルヴィリスは家令を発見した。
(見え透いた捨て駒を置きすぎたわね。こっちが本命とみた)
すっと影に消えるカルヴィリス。
影魔法だ。
家令の後ろに現れたときには、長いシャムシールは喉を貫いていた。
声も出させない手練れの技であった。
(さて、あっちの囮は動かないでしょうから、セルミア側はこれで終わりね)
すっとまた影を経由して移動。
殺した相手は音もなく跪いたままである。
問題の暗殺者ギルドの方は、接触を待つしかない。
戦いやすく逃げやすい立地を選び、待つことにした。
町の外れにある廃墟となった教会だ。
墓地と併設してあり、そちらはまだ利用しているようだ。
教会の屋根に登り暫し待つ。
すっと教会の屋根に人影が現れた。
カルヴィリスの間合いの少し先である。
(なるほどこのレベルか)
カルヴィリスはギルドでもトップ5に入る腕前だ。
同じレベルを寄越すのは不可能であろう。
あるとすればカルヴィリスを消すときだけであろう。
影は足元に手紙を置きすっと下がる。
下がった拍子に眼の前にカルヴィリスがいた。
「!!」
驚愕に黒装束から唯一出ていた目が見開かれる。
喉元にはすでにシャムシールの抜き身が有った。
カルヴィリスの左手には影が置いた手紙があった。
それを拾い、剣を抜きここにいるのだ。
「誰からの指示だったの?」
静かなささやくような声。
答えることが出来ず固まる影。
答えなければ死ぬであろうし、答えても後に死ぬのだ。
影にとっての沈黙はいつもの数倍重かった。
「こたえられません」
それだけ告げると、すっとカルヴィリスが下がった。
ほっと息を付いた影は自分の喉がひやりと風を受けて固まる。
下がったカルヴィリスから声が来る。
「間違っても私の連れに手を出さないでね。次は手が滑っちゃうかも知れないわよ」
すいっと影に沈んで消えるカルヴィリス。
跪いた影も訓練を受けた刺客だが、レベルが違いすぎた。
おそるおそる手を上げ確認すると、喉元の布だけが切られていた。
中の皮膚一枚切らずにだ。
移動の速度と手練れの攻撃。
何一つ理解も及ばないレベルで、影はそのまましばらく動けないのであった。
ホテルのそばに戻ったカルヴィリス。
念の為殺したセルミアの手下も確認してきたが、変化はなかった。
相変わらず捨て駒の男は下手くそな監視を続けていた。
(ついでにあれも始末しようかしら?)
物騒なことを考えつつ部屋を確認する。
ノアは変わらず寝ている気配があった。
ホテルの屋根に移動して、監視を監視しながら手紙を確認する。
魔法的にも特に異常はなかったので封を切る。
文面は一行であった。
『公都エルガドールに近づくな』
これだけであった。
(これだけであのレベルの影を捨て駒とは。ギルドは流石に手厚いわね)
殺した家令よりは、数段上のギルドの影であった。
特に隠した意味や符号もなかったので、闇魔法ですっと手紙を消す。
いろいろ跡形なく処分するための魔法であった。
警告の意味がなければ、最初の家令も手紙と同じ運命を辿っていたのだ。
(もう少し情報が欲しいわね)
すうと影に入りながら様子をみることとするカルヴィリスであった。
翌朝ノアと朝食を宿で済ますと、チェックアウトし町へ出た。
「ノアはこれからどうしたい?ただセルミアから逃れられたらいい?」
歩きながらカルヴィリスがたずねた。
「特に決めてなかったけど、それでいいかな」
カルヴィリスは行動方針に悩んだ。
昨日のギルドからの手紙が、セルミア絡みなのかギルド単体の話なのかで随分かわる。
(直接聞きに行ったほうが早いのだけど)
さすがにセルミアにもギルドにも一人で立ち向かう気にはなれなかった。
ギルドの手紙にしろただの警告だ。
意図も伝えてこないし、匂わせもしない。
これでは何も決められないと悩むのであった。
(ここはもう少し様子をみましょうかね)
カルヴィリスは方針を保留することとした。
「ではもう少し進んでみて考えましょう。大きな街まで行けば何か変わるかも?」
不思議そうにカルヴィリスを見るノア。
「ルヴィは行きたい所ないの?ノアはそこでもいいよ」
ノアの質問にカルヴィリスは答えられない。
それこそ今のカルヴィリスにしたいことなど何もないのだ。
しいて言えばノアを見守りたいと今は思っていた。
そんなカルヴィリスに自主性などあるはずがなかった。
カルヴィリスが答えないので、別の質問をするノア。
「大きな街は何か面白いことがあるの?わたし行ったことが無いからわからない」
ちょっと考えてからカルヴィリスは答えた。
「街にはいままで通った町や村よりも多くの人がいてね、沢山のお店や遊ぶ所もあるのよ」
やっとカルヴィリスにも笑みが浮かぶ。
「きっとノアは楽しめると思うけど」
そう行って微笑んだカルヴィリス。
その柔らかで温かい感触を感じながらノアは思う。
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