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わたしがわたしになるまで
【第71話:すこしずつ近づく】
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ノアとカルヴィリスは街道を進んでいる。
二人共健脚なので、馬車を使わず馬車以上に距離を稼ぐのだった。
公都エルガドールまで、残すところ街が一つだけ。
つぎの街をでればミルディス公国の首都へと至る。
そこはセルミアはじめ魑魅魍魎の跋扈する魔都であった。
「ルヴィはセルミアが嫌いでしょ?ノアも嫌い。たくさん意地悪されていた。気づかずに」
突然ノアが聞いてくる。
カルヴィリスは戸惑いながらも返答した。
「もちろん主人の宿敵だし、私自身も過去に何度か嫌な思いを掛けられているわ」
そういいながらも、主人たるダウスレムを思い出すのが辛いカルヴィリスであった。
関連する話題から逃げるように、カルヴィリスが逆に問いかける。
「ノアはどうやってセルミアに捕まったの?」
ノアは上を見て考えてから答えた。
「捕まっていない。セルミアは泣いていたわたしを助けてくれた」
セルミアをよく知るカルヴィリスには手に取るように解った。
(マッチポンプは昔からお手の物だものね)
そうして歩いていると、カルヴィリスだけが聞き取れる笛がなる。
(またギルドか。こないだの使い走りでは用に足らないと気づいたかな)
カルヴィリスのほんの些細なその変化をノアは見逃さない。
「ルヴィは時々怖い顔するよ。セルミアの話をしてる時が多いから嫌いなのだと思って聞いたの」
鋭いのか、解っていないのか微妙な指摘であった。
苦笑がカルヴィリスにできる最大の返事であった。
宿を取ったカルヴィリスとノアは、夕飯までの少しだけ散策することにした。
付近には観光客に人気のスポットがいくつかあり、ホテルで進められたコースを回る。
この街には中央を大きな川が流れており、いくつも架かった橋も観光資源となっていた。
そのうちの一つ、この街で一番大きいと聞いてきた橋をわたる二人。
「みて!ルヴィ橋の上にお店があるよ!おいしそうな匂いもしてる」
この橋は本当に大きく、馬車用の車道と歩行者用の歩道に分け、歩道には出店を出せるだけのスペースすらあった。
店と店の間には広場まであり橋上とは思えない風景だった。
橋は基本的にレンガ積みだが、各所に金属とコンクリートの補強が入った新しいものだった。
店までひっぱるノアの力は強く、カルヴィリスをして抵抗が難しいほどであった。
「まって!ノア、晩ごはんがこれからなのよ?きっと美味しいからお腹は空いていたほうがいいわよ」
理論武装で押し留める作戦に出たカルヴィリスであった。
「むぅ、りっぱなホテルだったから、きっとご飯おいしいね。わかった我慢する」
串焼きの匂いを断ち切ってすすむノアであった。
橋は近代的な工法であったが、伝統の色が濃い装飾に満ちていて、見ごたえがあった。
ちょうど夕日の時間で、ホテルで聞いた通りの絶景を見ることが出来た。
同じ歩道を戻るのに、時間が違うと表情を変えた。
橋下を艀がすぎ、小さな波紋を広げる。
そこに夕日が色を添えるので、非常に見応えがあったのだった。
カルヴィリスは過去にも似た景色を何度も見ていた。
そして、直ぐ側にはいつもあのお方がいたのだとも思い出され、意図せず沈んだ表情になっていたようだ。
ぎゅっと繋いだ手を強く握るノア。
「ルヴィは時々悲しそうにもするね。ノアがいても悲しいのは無くならない?」
ノアは単にカルヴィリスを励ましたいのだが、方法を知らないのであった。
だからストレートに尋ねるし、まっすぐに見つめてくる。
そういった無垢な姿がカルヴィリスを癒やすのであった。
「悲しいのはむかしの話よ。今はノアがいるから平気よ、ありがとう。デザート少し分けてあげるわ」
「やったー!なんだろうねデザート?わたし大好き!」
繋いだ手をぶんぶん振って歩く速度をあげるノア。
そういった子供っぽい仕草がカルヴィリスはとても気に入っていた。
まるで年の離れた妹ができた気分であった。
ディナーは最上階のラウンジで取った。
ドレスコードがあるので、ノアにも日中ドレスを買い込んでいる。
もちろんカルヴィリスは変装用に何着か持っている。
着替え終わり、化粧台で仕上げをしているカルヴィリスを後ろから見るノア。
興味津々であった。
カルヴィリスはクスっとなって聞く。
「ノアもしてみる?化粧」
「え?!いいよ!むかしメイドにされたけど、好きじゃないなわたしは」
もじもじっとするノアはほほが赤い。
照れているだけだとカルヴィリスにはお見通し。
「じゃあ少しだけにしておく?せっかくドレスだし、ちょっとくらいしたほうが自然よ」
そういってノアを鏡の前に連れてくるカルヴィリス。
本当に嫌なわけではないので、抵抗は少ない。
「ノアは素材がいいから、あまり塗らないでもいいかもね」
不思議そうにするノアは、相変わらず自分の容姿に無頓着であった。
ラウンジのちょっと大人っぽい雰囲気や、食事のレベルの高さにノアは非常に満足なようで。
最後にはカルヴィリスのデザートを半分もらいご満悦で部屋に戻ったのであった。
今はお風呂も終わり、夜着でベッドにダウンしている。
上をむいて足を広げる寝方は、何度注意しても治らないので、カルヴィリスもあきらめた。
(さて、まだ時間は早いけど一回りしてみようかしらね)
そう考えたカルヴィリスは、ドレスから巡礼服に着替え暗器を仕込むのであった。
収納には主武装たるシャムシールまで仕込んである。
今日は相手にするとしたら刺客だけであろうと、第二種戦闘配備だった。
今夜はちょうど月の出が遅いので闇が深く、影使いであるカルヴィリスにとっては有利な戦場であった。
二人共健脚なので、馬車を使わず馬車以上に距離を稼ぐのだった。
公都エルガドールまで、残すところ街が一つだけ。
つぎの街をでればミルディス公国の首都へと至る。
そこはセルミアはじめ魑魅魍魎の跋扈する魔都であった。
「ルヴィはセルミアが嫌いでしょ?ノアも嫌い。たくさん意地悪されていた。気づかずに」
突然ノアが聞いてくる。
カルヴィリスは戸惑いながらも返答した。
「もちろん主人の宿敵だし、私自身も過去に何度か嫌な思いを掛けられているわ」
そういいながらも、主人たるダウスレムを思い出すのが辛いカルヴィリスであった。
関連する話題から逃げるように、カルヴィリスが逆に問いかける。
「ノアはどうやってセルミアに捕まったの?」
ノアは上を見て考えてから答えた。
「捕まっていない。セルミアは泣いていたわたしを助けてくれた」
セルミアをよく知るカルヴィリスには手に取るように解った。
(マッチポンプは昔からお手の物だものね)
そうして歩いていると、カルヴィリスだけが聞き取れる笛がなる。
(またギルドか。こないだの使い走りでは用に足らないと気づいたかな)
カルヴィリスのほんの些細なその変化をノアは見逃さない。
「ルヴィは時々怖い顔するよ。セルミアの話をしてる時が多いから嫌いなのだと思って聞いたの」
鋭いのか、解っていないのか微妙な指摘であった。
苦笑がカルヴィリスにできる最大の返事であった。
宿を取ったカルヴィリスとノアは、夕飯までの少しだけ散策することにした。
付近には観光客に人気のスポットがいくつかあり、ホテルで進められたコースを回る。
この街には中央を大きな川が流れており、いくつも架かった橋も観光資源となっていた。
そのうちの一つ、この街で一番大きいと聞いてきた橋をわたる二人。
「みて!ルヴィ橋の上にお店があるよ!おいしそうな匂いもしてる」
この橋は本当に大きく、馬車用の車道と歩行者用の歩道に分け、歩道には出店を出せるだけのスペースすらあった。
店と店の間には広場まであり橋上とは思えない風景だった。
橋は基本的にレンガ積みだが、各所に金属とコンクリートの補強が入った新しいものだった。
店までひっぱるノアの力は強く、カルヴィリスをして抵抗が難しいほどであった。
「まって!ノア、晩ごはんがこれからなのよ?きっと美味しいからお腹は空いていたほうがいいわよ」
理論武装で押し留める作戦に出たカルヴィリスであった。
「むぅ、りっぱなホテルだったから、きっとご飯おいしいね。わかった我慢する」
串焼きの匂いを断ち切ってすすむノアであった。
橋は近代的な工法であったが、伝統の色が濃い装飾に満ちていて、見ごたえがあった。
ちょうど夕日の時間で、ホテルで聞いた通りの絶景を見ることが出来た。
同じ歩道を戻るのに、時間が違うと表情を変えた。
橋下を艀がすぎ、小さな波紋を広げる。
そこに夕日が色を添えるので、非常に見応えがあったのだった。
カルヴィリスは過去にも似た景色を何度も見ていた。
そして、直ぐ側にはいつもあのお方がいたのだとも思い出され、意図せず沈んだ表情になっていたようだ。
ぎゅっと繋いだ手を強く握るノア。
「ルヴィは時々悲しそうにもするね。ノアがいても悲しいのは無くならない?」
ノアは単にカルヴィリスを励ましたいのだが、方法を知らないのであった。
だからストレートに尋ねるし、まっすぐに見つめてくる。
そういった無垢な姿がカルヴィリスを癒やすのであった。
「悲しいのはむかしの話よ。今はノアがいるから平気よ、ありがとう。デザート少し分けてあげるわ」
「やったー!なんだろうねデザート?わたし大好き!」
繋いだ手をぶんぶん振って歩く速度をあげるノア。
そういった子供っぽい仕草がカルヴィリスはとても気に入っていた。
まるで年の離れた妹ができた気分であった。
ディナーは最上階のラウンジで取った。
ドレスコードがあるので、ノアにも日中ドレスを買い込んでいる。
もちろんカルヴィリスは変装用に何着か持っている。
着替え終わり、化粧台で仕上げをしているカルヴィリスを後ろから見るノア。
興味津々であった。
カルヴィリスはクスっとなって聞く。
「ノアもしてみる?化粧」
「え?!いいよ!むかしメイドにされたけど、好きじゃないなわたしは」
もじもじっとするノアはほほが赤い。
照れているだけだとカルヴィリスにはお見通し。
「じゃあ少しだけにしておく?せっかくドレスだし、ちょっとくらいしたほうが自然よ」
そういってノアを鏡の前に連れてくるカルヴィリス。
本当に嫌なわけではないので、抵抗は少ない。
「ノアは素材がいいから、あまり塗らないでもいいかもね」
不思議そうにするノアは、相変わらず自分の容姿に無頓着であった。
ラウンジのちょっと大人っぽい雰囲気や、食事のレベルの高さにノアは非常に満足なようで。
最後にはカルヴィリスのデザートを半分もらいご満悦で部屋に戻ったのであった。
今はお風呂も終わり、夜着でベッドにダウンしている。
上をむいて足を広げる寝方は、何度注意しても治らないので、カルヴィリスもあきらめた。
(さて、まだ時間は早いけど一回りしてみようかしらね)
そう考えたカルヴィリスは、ドレスから巡礼服に着替え暗器を仕込むのであった。
収納には主武装たるシャムシールまで仕込んである。
今日は相手にするとしたら刺客だけであろうと、第二種戦闘配備だった。
今夜はちょうど月の出が遅いので闇が深く、影使いであるカルヴィリスにとっては有利な戦場であった。
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