わたしのねがう形

Dizzy

文字の大きさ
160 / 161
わたしがわたしになるまで

【第73話:終わりと始まり】

しおりを挟む
 カルヴィリスはノアの入浴している気配で目が覚めた。
(おどろいた、こんなにちゃんと寝たのひさしぶりだわ)
カルヴィリスは寝ていても起きているタイプの睡眠しか取らない。
これは単独任務につく刺客ならできて当然の技術以前の常識だ。
それが意識を完全に手放していた。
自分の変化に驚いたのだった。
(ノアはお風呂か、次に私も入らないとな)
武装は外したが、服は着替えずに寝てしまった。
くんくんと嗅いでみたが、汗の匂いはせず、臭くはなかった。
ノアがなかなか寝付かず、カルヴィリスもノアから離れがたかったのだ。
ノアが寝た頃には、カルヴィリスも眠くなりそのまま隣のベッドで寝たのだった。
色々反省しているとノアが上がって出てきた。
驚いたことに髪を乾かしている。
「ノア自分で髪を洗ったの?」
ちょっと自慢げに腰に手を当て答えた。
「ノアは全部一人でできた。これからはちゃんとルヴィが言ったようにするよ」
手を離したので、ぽろっとタオルが落ちてしまい、あわてて拾い上げるノア。
クスクスとカルヴィリスは笑いながら告げる。
「じゃあ今度から一人でお風呂はいっていいわよ」
そう告げながらカルヴィリスもシャワーに向かう。
こうして二人の関係は新しい形となったのであった。



 なぜだか少し照れくさくお互いに視線を合わせず、食事をしチェックアウトした。
ホテルをでてすぐの公園で、ノアとカルヴィリスはベンチに座り話すこととなった。
ノアが話があると言い出したのだ。
今日はノアがせがんでカルヴィリスに三つ編みをみてもらい、自分でゆって背に流していた。
きりっとした目になりノアが話し始める。
「まえにルヴィがこう聞いたの。ノアはどうしたいかと」
なんの話だ?と思いながらも続きを待つカルヴィリス。 
「ノアはもう一度戦いに行こうと思う。ラウマのところに」
「はい?」
何一つ理解できなかったカルヴィリスはぽかんとする。
そこからノアは一所懸命に自分の事、ラウマのこと、なまいきな銀色アミュアのことなどを伝えた。
一度ラウマに自分の元に戻るよう迫られ、逃げ出したことも。
出会った時は、自分が自分では無くなる恐怖に泣いたのだと。
セルミアから逃げたのはその前だとも。
こうしてついにノアは自分のことを全て、カルヴィリスに告げたのであった。

 ノアの告白が終わり、結論に戻る。
「もう一度立ち向かって、ノアがノアだと言わなければどこにも向かえない」
まっすぐで真剣な視線であった。
カルヴィリスはノアが初めて一人の人間に見えた。
いままであなどっていた訳では無いが、どこかで子供だと決めつけていた。
「次はカルヴィリスの番。教えてどうしたいか」
ノアは名前を略さなかった。
甘えはないのだと突きつけられた気がした。
とても大事な秘密を沢山聞いてしまったが、カルヴィリスに話せることは少ないと改めて気付き愕然とする。
「私は死ぬことを禁じられているの。主を守れなかったあの日に」
すっと本音がでた。
それこそがカルヴィリスを縛っている呪だった。
無き主人よりいただいた最後の言葉。
「ルヴィが死ぬのはノアも禁止したい」
まっすぐにノアが見つめている。
嘘や誤魔化しでは通りそうにない。
「わかった全部一度話すわ」
ノアが理解できるか解らなかったが、今の自分が置かれた立場や、先日昨夜と2度警告されたこと。
自分と一緒にいればノアにも危険が及び、ノアも自分も守りきれない怖い敵がいること。
これから先、人里を離れ逃げ出そうと思っていること。
それらを包み隠さず、大人に話すように伝えてみた。
「おそらくギルドは私が邪魔なのだと思う。消そうとして反撃されるのも嫌って脅してきた」
そう締めくくったのだった。
ノアは瞬きもせず見つめていたが、理解できたのかは読み取れない。
すっとノアが立ち上がり前に正面に来る。
「わたしは前にしっぱいして、お礼もごめんなさいも出来ずわかれてしまった恩人がいる。同じ間違いをしたくないので今伝えます」
ぺこりとお辞儀をして話す。
「ありがとうカルヴィリスたくさん助けてもらったよ。大変な時に迷惑もかけたのかも知れない。ごめんなさい」
それだけ一気にはなすとすっと近寄り抱きついてきた。
カルヴィリスの頭を胸に抱き寄せ、耳元に囁く。
「そしてこれ以上無理は言わないので、ルヴィの好きにして欲しい」
とても大人びた言葉であった。
手を話して正面からまた見つめる。
「ノアはこれから自分を助けてくる。助かったらルヴィを探すよ」
にこっとはにかんで続ける。
「きっと見つけるから、それまで死んだりしてはダメよ」
どことなく聞いたフレーズは、自分がよくノアに注意する口調であった。
クスっと笑顔がもれて、カルヴィリスも素直になれた。
「ノアがやりたいことを応援している。いいと言うまで側にいると誓ったのにごめんなさい」
そして詫びの言葉も素直に出た。
「ルヴィはわたしが泣いていたから、助けてくれた。ちゃんとノアは解っていた」
笑顔のまま答えたノアが、真剣な顔に戻し告げる。
「ルヴィはとてもいい人だと思う。わたしはルヴィがだいすき」
すっとノアが右手を出す。
わずかに間をおいてカルヴィリスはその手を握り帰した。
「ありがとう。わたしも大好きよノア」
カルヴィリスも今日一番の笑顔になるのであった。

そうして不思議な出会いから始まった二人の旅が終わりを告げた。
すこしづつ高くなる空が薄い雲を引き、視界の果まで続いていた。
彼方まで続く雲に未来を見て、二人は旅を終え、旅を始めるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

これでもう、『恥ずかしくない』だろう?

月白ヤトヒコ
恋愛
俺には、婚約者がいた。 俺の家は傍系ではあるが、王族の流れを汲むもの。相手は、現王室の決めた家の娘だそうだ。一人娘だというのに、俺の家に嫁入りするという。 婚約者は一人娘なのに後継に選ばれない不出来な娘なのだと解釈した。そして、そんな不出来な娘を俺の婚約者にした王室に腹が立った。 顔を見る度に、なぜこんな女が俺の婚約者なんだ……と思いつつ、一応婚約者なのだからとそれなりの対応をしてやっていた。 学園に入学して、俺はそこで彼女と出逢った。つい最近、貴族に引き取られたばかりの元平民の令嬢。 婚約者とは全然違う無邪気な笑顔。気安い態度、優しい言葉。そんな彼女に好意を抱いたのは、俺だけではなかったようで……今は友人だが、いずれ俺の側近になる予定の二人も彼女に好意を抱いているらしい。そして、婚約者の義弟も。 ある日、婚約者が彼女に絡んで来たので少し言い合いになった。 「こんな女が、義理とは言え姉だなんて僕は恥ずかしいですよっ! いい加減にしてくださいっ!!」 婚約者の義弟の言葉に同意した。 「全くだ。こんな女が婚約者だなんて、わたしも恥ずかしい。できるものなら、今すぐに婚約破棄してやりたい程に忌々しい」 それが、こんなことになるとは思わなかったんだ。俺達が、周囲からどう思われていたか…… それを思い知らされたとき、絶望した。 【だって、『恥ずかしい』のでしょう?】と、 【なにを言う。『恥ずかしい』のだろう?】の続編。元婚約者視点の話。 一応前の話を読んでなくても大丈夫……に、したつもりです。 設定はふわっと。

処理中です...