弱気な剣聖と強気な勇者

プーヤン

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第7話

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「………ラング。お前は私が剣聖になるのが嫌で私に嫌がらせをしていた。そして私という存在が邪魔だった。これで合ってるな?」

私はとりあえず、先入観をすべて取っ払って、事態を把握するために一旦、冷静になり彼に確認する。

ラングは私が問いかけると、恭しく礼をしてから開口一番謝ってきた。

「これまでのご無礼、誠に申し訳ございませんでした。
いえ、私は貴方にこれまで色々と失礼な言葉を吐き、あまつさえあなたの母君のことまで侮辱しました。
人様の家を馬鹿にする行為は万死に値するとする国家まであるというのに、あのような発言を許してほしいとは言いません。
しかしながら、私は貴方に対して好意的な行動をとることは出来なかったのです」

彼は頭を垂れて、そうつらつらと謝罪を口にする。

私は面食らったように言葉も出ず、閉口したまま彼の言葉を聞き、その後、深いため息を漏らした。

そして、息子に続き、ゼーラも「本当にごめんね。女の子にあんなことを促すのは辛かったよ。本当にごめん」と平謝りを繰り返す。

いや、お前ら誰だよ?と納得できぬ自分を置き去りにラングは話を続ける。

「まずはじめに事の真相を話すべきですね。えっとどこから話したものやら。
うーむ。まず、前剣聖グラン・ロードですね。彼が貴方の母君に援助をしていた話しは聞いていますよね?」

「愚問だ。それは周知の事実だろ?私はそれで貴方たちにあんなことを言われ、噂まで立てられたのだからな?」

私は事の次第が分からぬため酷く苛立った心から一本一本、棘を抜くように落ち着けていくが、やはり今の彼らの表情が猿芝居に思えて、チクりと苦言を呈す。

「いえ、それは誠に………」

ラングはすぐに謝る体勢に入る。

「いや、ちょっと愚痴を言いたかっただけだ。続けてくれ」

「くくく。息子がいじめられてるのは久々に見た。お父ちゃん楽しい」

その時、麦酒を煽り、頬が赤らんでいるゼーラがその林檎のような赤く丸みを帯びた頬を揺らして笑う。

「お前も麦酒を置け。ゼーラ。」

「あ、はい。すいません」

「それでは、話を続けますね。そのグラン・ロードは実に20人近い女性と遊んでいたわけでして、その後、度重なる女関係を清算すべく、我が一族は……」

「は?20人?なんだそれは?」

「いえ、だからその英雄、色を好むといいますか。彼はその甘いマスクから無類の女好きでして。
それでまぁ清算すべくロード一族の資産を食い散らかした彼は俺が剣聖として稼いだ金だ好きに使ってなにが悪いと宣っていました。
まぁその資産は前剣聖だけでなく今までの剣聖が血と汗を流し積み上げてきたロード家の資産でしたので、彼の悪行を責めたのが我が父であって、まぁそんなこともあって彼と父は犬猿の仲だったわけです。」

「えらい急に大雑把な説明になったな。というよりにわかには信じがたい。そこの全剣聖の弟を見ていると甘いマスクって」

「いえ、父も昔は結構な美男子だったそうです。しかしながら、あまりにモテるものだからこんな太った醜い体に自分からしたそうですよ。父は今でも母にゾッコンですしね」

「要らない情報ありがとう」と擦れた瞳で彼を見ると、「いえいえ」と短い返事が来た。
そういえば、このラングも下士官学校ではモテていたなと思い出す。

「まあ他にも色々、前剣聖の伝説はあったらしいですけど、酒場で暴れたり、無理やり子供を孕ませたりと。
まぁそれで彼の悪行を清算するまで、彼は一時、ロード家にて幽閉されていたわけです。
それでやっとその幽閉が解かれたときには、彼はもう年老いていて、そこから後継ぎ問題に発展したわけです」

彼は話を一度途切らせると少し苦笑いする。私はその顔を真顔で見つめて、酷く冷めた声が口から出ていた。

「すごい馬鹿みたいな話だと自覚しているよな?」

「それは、はい」

私は彼の馬鹿しい話に相槌をうちながら、フィーネが不意に勧めてきた、野菜スープを小休止にと一口飲んだ。
その時後ろの騒がしさに気がつく。

「うはーアニメ観て~!!」

と魔王が酔っぱらって騒ぎ、勇者がマルクスと飲み勝負を始めているところをしり目に私たちだけが真剣に話し合っていた。

おい、僧侶よ。何、酒を飲んでいるんだ?お前は神に仕える身だろうが?と至極どうでもいいことに気が逸れそうになるも、ラングを促す。

「はい。続けて」

「それで、彼の子供はまぁ沢山いたわけですが、皆、剣聖に手を出された女性は子供を明け渡さなかったのです。
それはそうです。
剣聖の修業とは常人では耐えることなど到底不可能な超人の修業ですから」

「ほー。なるほど。ん?」

「はい、そうです。そういうことです。貴方が剣聖になることを断っていれば、貴方は剣聖にならずにロード家の援助を受けて、普通の生活を送れていたのです。」

「いやしかし、ロード家は私を脅してきたぞ?話を受けねば援助を辞めると」

私は先の見えぬ話にうんざりしながらも、おかしな点に対し疑問を口にする。

「ああ。それは本家の人達の意見はそうですが、その場合は私の家から援助をしていましたよ。叔父の不始末ですから」

「そうか………が、まぁそれは過ぎた話だ」

「そうですか。それで、かねてより私が剣聖になればすべて丸く収まるという話だったのですが、貴方が出てきたことで、話は変わりました。
どこぞの平民の子供ならば普通ならすぐに修行も中止になると思って私たちは静観していたのにある誤算があったのです。それは私たちが想像を遥かに越えた出来事だったのです」

急な物語口調に、ラングはこの話に対しては何か思うところがあるのかと感じて、私も姿勢を正し、改めて聞く。

「えっとそれは?」

「ここまで言ってもわかりませんか?いや分かるはずだ。何かロード家の養子になった際思ったことがあったでしょう?それが答えです。」

「ああ。ちっとも分からん」

私は何が誤算だったのか考えあぐねていると、ラングはため息混じりにこちらに視線を移す。

「はぁ。えっと。シエラさん。
結論を言うと、貴方は誰よりも剣聖に向いていたのですよ。
才能過多です。
いや、おかしいです。
貴方はおかしい。
なんであんな修行をケロッとこなせるのか。
それになんでレプリカの剣から波動が出るんですか?おかしいんですよ。全てがおかしい。」

ラングは言葉を重ねて、自分を納得させるようにつぶやく。

「人を化け物みたいに………。え?レプリカ?」

「そうですよ。あの龍剣はレプリカです。
だから魔王討伐の前の日に流石にレプリカの剣で戦地に送り出すことは出来ないと私は貴方に本当の龍脈の剣を渡しに行ったのです。門前払いを食らいましたが」

えっと……話がおかしな方向に向かっていないか?

それと、私の異常性とやらと今までの話がつながらない。
私はよく分からない話についていけず、手元にあったスープをまた一口飲んだ。その時、フィーネと目が合う。

その時、この空間の中で最も話の通じそうなフィーネに話を投げる。

「フィーネ。私って変なのか?」

フィーネは葡萄酒をちょびちょび飲んでいたが、口を離しグラスを揺らす。そして、私の顔をまじまじと見つめながら、その小さな口を開いた。

「えっと私、魔王を見た時、咄嗟に力の差を感じたの。これは勝てないって。戦意喪失ですよ。
でもシエラちゃんあの時、なんて言った?」

急な話題に私は戸惑いながらも、あの時のことを思い出す。

「えっと……大丈夫的な?」

「そうそう。レプリカの剣持って、勝てるって思ってたんだよね?勇者もあの時、魔王に勝てるか分からないって焦った顔してたのに。でも、シエラちゃんは余裕って顔してたよ?」

「いや、もっと切羽詰まってただろ?」

「うん。まぁそれでもいいんだけど、勇者が結構魔王と競ってるときに、シエラちゃん特大魔法をそのレプリカで消し去ってたよ。
あの魔王の魔法って黒炎って言う地上で最強の魔法なんだよ。普通は誰も止められないの。
でもシエラちゃんはそれをいともたやすく消し去ってしまった。これっておかしいって分かるよね?」

「えっと………」

勇者はマルクスとの飲み勝負が終わったのか、こちらに来ると陽気な態度で話に加わる。

「なんだ?まだ気づいてなかったのか?シエラ。ある時、俺には剣技で劣るとか言ってただろ?
それ、レプリカの剣使ってるからだぞ?そもそもお前、その剣捨てて、すてごろで殴りかかっても俺に勝てるしな。
逆にそのガラクタのおかげで今までの町が破壊されなくて良かったのかもしれないな。本気で攻撃したら地形変わりそうだし」

「えっと冗談?」

その時、隣にいた酔っ払いも楽しそうに口を開いた。

「いやいや。君な?おかしいで?なんかファンタジーもんには戦力のバランスっちゅうもんがあるんよ。
君はその枠組みを超えとる。
俺、君と戦う時、普通に怖かったしな。だから、勇者ばっかり狙ってん。君、一人で魔王城落とせるレベルやで?」

「えっと………話が見えない。何言ってるのか全然わからん。ワタシツヨクナイヨ?」

「おいおい。嬢ちゃんがなんか壊れた話し方してるやんけ。とりあえず、今のところこの世界で君が一番強いっていうこっちゃ」

「な。俺等みたいな転移した奴がチートで最強だと思ってたのにな?なんか結局、どこの世界も才能ってやつは求めるやつには巡ってこないように出来てんのかね?」

勇者と魔王は二人して「チートハーレムってどこにあるん?」「そのへんにあるだろ?買ってこいよ」と雑談するなか、私は未だ見えない話の全貌をラングに促す。

というよりも、もう訳が分からないので、誰かこの状況を客観的、かつ論理的に説明できる人間に説明してほしい。

「ラング、話を続けて。お願い」

私は到頭、ラングに救いの手を求めた。

 

 

 
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