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第一部ヴァルキュリャ編 第二章 コングスベル
相棒seasonオフ
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翌日、暇をもて余した俺は朝からストレッチと筋トレをしてみた。
向上心の塊ってのはエルドフィンのことだな。
使えそうなエクササイズは、記憶映像の中にごまんとあった。
アセウスが真似したり、一緒にトレーニングしてるものが分かりやすいので、そこからチャレンジしていったが、一部を再現しただけで軽く一日が過ぎた。
筋肉たちが、嬉しそうに悲鳴をあげる。
なんだそりゃって思わなかった? 俺は思ってた、今日までは。
これか~っっ! て分かってにやにやするっ。
筋肉って、ついてれば必ず使うってもんじゃないのな。
大半が「使う」って意識して動かさないと使わないとか、知らなかった。
ダン持て、流し読み派だったからなぁ。
こんな風に自分の身体と向き合う機会がなかったら、前世の懐かしい肉体を取り戻していた。
軟禁状態に感謝でしょコレ。
アセウスと一緒にトレーニングすることも、習慣になっていたんだと知った。
俺になってからは当然してねぇけど。
……初めの頃、アセウスのやつ、ぎこちなく誘ってきてたよなぁ。
何度となく断った時の記憶が蘇る。
断ることに煩わしさを感じ始めた頃から、アセウスは口にしなくなった。
……また一緒にトレーニングしたほうがいいよなぁ……。
物思いにふけるネタはたくさんあるのに、筋肉疲労した身体は心地好い眠りにあっさり吸い込まれていった。
これがまたとてつもなく快感で、たまらね……
…………
……
筋トレ二日目。
作業的にあてがわれた朝食を済ました後のことだ。
「ガンバトル様が御呼びだ」
兵士Aに俺は部屋から連れ出された。
監獄部屋を出て案内されたのは、二日前と同じ応接間だった。
扉を開けた兵士Aが、中へ入るように促す。
室内に足を踏み入れると、大きな存在感を放つガンバトルが目に入った。
前回と同じ、上座の椅子に深く腰掛けている。
既視感が二日前の奴を思い出させる。
不快感も蘇り、奴の方へと運び進められていた足が止まった。
嫌だなぁ。
俺、めんどい奴とは関わらない主義なんだけど。
ってっ、な、なんだコイツっ、すっげーうぜぇんだけどっ。
一昨日とは違う。
ほぼほぼ俺を無視していた当主様が、今日は俺を見ていた。
無遠慮な品定めの視線。
人を見下すような冷淡な目。
しょっ、正面切ってガン見かよっっ。
人をジロジロ見てはいけませんっておかんに教わらなかったのかっ?!
そんなにっ、俺の、どこを、見るところがあんだよっ!
いい加減っ、見てんじゃねぇよっっ!!
不快感に胸がざわざわざわざわざわざわ。
逃げてぇえっっ。こいつの視線から外れたいっっ。
「エルドフィン」
名を呼ばれて、もう一つ、俺に向けられている視線に気づく。
ガンバトルから少し離れたところに、振り向くように立つ人影があった。
いつものように、穏やかな笑顔。
なんだ、アセウスもいたのか。
元気だったか? 相棒。
返事をする代わりに、俺はアセウスの傍へと足を進める。
近くまで寄って状況を聞くつもりが、ガンバトルが大仰に立ち上がって水を差した。
「ついて来い」
尊大に言い放ち、俺らの横を素通りすると、ずんずんと応接間を外へと向かう。
「なんだ? あいつ」
「とりあえず、ついて行こう」
アセウスに言われて、仕方なしにガンバトルの後に続き歩き出した。
廊下へ出ると、どこからか兵士Aと顔の濃い兄ちゃんがわいて来て、俺とアセウスの後ろに続いた。
「エルドフィン、ホフディに見せて貰った織物覚えてるか?」
「ん? あぁ、ヨルダール家からの贈り物だっけか、確か」
周囲に気を取られている俺を、引き戻すようにアセウスが話し掛けてきた。
アセウスの表情は落ち着いている。
こいつはきっと性善説思想だからなぁ。
「正解。その話をしたら、ヨルダール家に伝わる織物を見るかって。ヴァルキュリャに関わるものらしい」
「ま? つかお前、あいつと話したの? いつ。なんでお前だけなんだよ! あの野郎、そーゆー魂胆かっ」
「っ聞こえるよっ。話したっていうか、前回のやり直しみたいなもんだよ。一昨日は話をする気はなかったみたいだ。話をするか、しないで追い返すか、判断するためだけだったんだ、たぶん」
「会話になってなかったもんな。頭イカれてるのかと心配しちゃったぜ俺は。で、いつ俺抜きで話をする時間を作ってくださったんだ? 昨日か?」
「今日だよ、エルドフィンが来るほんのちょっと前だ。ヴァルキュリャのことで知ってることを教えて欲しいって言ったら、その目的と俺達が知ってることを全部教えろって言われた」
「交換条件か。好きだねぇ~この世界の奴は」
で、どーせ自分は教えてやる気はねぇんだ。
都合良く情報だけ掠め取ろうと思ってんだろ。
いつぞやの体験を思い出して、鼻を鳴らしてしまった。
「魔物を倒すのが目的だって話した。そのために、方法がないかヴァルキュリャ一族を訪ねて回ってるってことも。それで、……この帯と織物のことを教えた」
アセウスを見ると、意味深な表情で微笑った。
「……随分思いきりましたねぇー、アセウスさん」
「彼、見た目通り手強くてさ。要求通り全部教えた方が早いかなって」
なるほどね。
帯と織物のこと以外は何一つ教える気はないってことか。
ガンバトルや後ろの追随達には聞こえないくらいの声で話しているとはいえ、相手のいるところで、聞かれて困る話をするほど緊張感のない幼馴染みじゃないんだよな。
「ほんと、お前って……」
首を小さく横に振ると、軽くため息が漏れた。
無意識に口角が上がってしまう。
「勝手に決めることになって悪い。まずかったかな?」
「いいんじゃねぇ? 賢明な判断だと思うよ」
性善説思想で、人を疑うってことをしない、基本な。
そんないい奴だけど、悪意や非礼を向けてくる相手に対してバカ正直でいられない程度には、拗らせているってわけだ。
こーゆーとこ。
「大して話もしてないうちに、織物の話から見に行くって流れになって。エルドフィンもって頼んだら、呼んでくれた」
「へーぇ。多少は話が通じるんかな、今日以降は独房監禁解除してくださるとか?」
「望みは薄いかなー、頼んでみるつもりではいるけど」
「一人部屋は大歓迎なんだけどね。覗き穴装飾のない真面な客室が良いんだ、俺は」
「! まぢか?」
「二回言おうか?」
「……いや、聞かれてたら嫌味だろ」
「聞いてる方が嫌味だと思いますけどねぇ」
反応を窺うように、前を進むガンバトルを注視する。
ガンバトルの背中は何も答えず、広大な邸宅内を奥へ奥へと導いていった。
向上心の塊ってのはエルドフィンのことだな。
使えそうなエクササイズは、記憶映像の中にごまんとあった。
アセウスが真似したり、一緒にトレーニングしてるものが分かりやすいので、そこからチャレンジしていったが、一部を再現しただけで軽く一日が過ぎた。
筋肉たちが、嬉しそうに悲鳴をあげる。
なんだそりゃって思わなかった? 俺は思ってた、今日までは。
これか~っっ! て分かってにやにやするっ。
筋肉って、ついてれば必ず使うってもんじゃないのな。
大半が「使う」って意識して動かさないと使わないとか、知らなかった。
ダン持て、流し読み派だったからなぁ。
こんな風に自分の身体と向き合う機会がなかったら、前世の懐かしい肉体を取り戻していた。
軟禁状態に感謝でしょコレ。
アセウスと一緒にトレーニングすることも、習慣になっていたんだと知った。
俺になってからは当然してねぇけど。
……初めの頃、アセウスのやつ、ぎこちなく誘ってきてたよなぁ。
何度となく断った時の記憶が蘇る。
断ることに煩わしさを感じ始めた頃から、アセウスは口にしなくなった。
……また一緒にトレーニングしたほうがいいよなぁ……。
物思いにふけるネタはたくさんあるのに、筋肉疲労した身体は心地好い眠りにあっさり吸い込まれていった。
これがまたとてつもなく快感で、たまらね……
…………
……
筋トレ二日目。
作業的にあてがわれた朝食を済ました後のことだ。
「ガンバトル様が御呼びだ」
兵士Aに俺は部屋から連れ出された。
監獄部屋を出て案内されたのは、二日前と同じ応接間だった。
扉を開けた兵士Aが、中へ入るように促す。
室内に足を踏み入れると、大きな存在感を放つガンバトルが目に入った。
前回と同じ、上座の椅子に深く腰掛けている。
既視感が二日前の奴を思い出させる。
不快感も蘇り、奴の方へと運び進められていた足が止まった。
嫌だなぁ。
俺、めんどい奴とは関わらない主義なんだけど。
ってっ、な、なんだコイツっ、すっげーうぜぇんだけどっ。
一昨日とは違う。
ほぼほぼ俺を無視していた当主様が、今日は俺を見ていた。
無遠慮な品定めの視線。
人を見下すような冷淡な目。
しょっ、正面切ってガン見かよっっ。
人をジロジロ見てはいけませんっておかんに教わらなかったのかっ?!
そんなにっ、俺の、どこを、見るところがあんだよっ!
いい加減っ、見てんじゃねぇよっっ!!
不快感に胸がざわざわざわざわざわざわ。
逃げてぇえっっ。こいつの視線から外れたいっっ。
「エルドフィン」
名を呼ばれて、もう一つ、俺に向けられている視線に気づく。
ガンバトルから少し離れたところに、振り向くように立つ人影があった。
いつものように、穏やかな笑顔。
なんだ、アセウスもいたのか。
元気だったか? 相棒。
返事をする代わりに、俺はアセウスの傍へと足を進める。
近くまで寄って状況を聞くつもりが、ガンバトルが大仰に立ち上がって水を差した。
「ついて来い」
尊大に言い放ち、俺らの横を素通りすると、ずんずんと応接間を外へと向かう。
「なんだ? あいつ」
「とりあえず、ついて行こう」
アセウスに言われて、仕方なしにガンバトルの後に続き歩き出した。
廊下へ出ると、どこからか兵士Aと顔の濃い兄ちゃんがわいて来て、俺とアセウスの後ろに続いた。
「エルドフィン、ホフディに見せて貰った織物覚えてるか?」
「ん? あぁ、ヨルダール家からの贈り物だっけか、確か」
周囲に気を取られている俺を、引き戻すようにアセウスが話し掛けてきた。
アセウスの表情は落ち着いている。
こいつはきっと性善説思想だからなぁ。
「正解。その話をしたら、ヨルダール家に伝わる織物を見るかって。ヴァルキュリャに関わるものらしい」
「ま? つかお前、あいつと話したの? いつ。なんでお前だけなんだよ! あの野郎、そーゆー魂胆かっ」
「っ聞こえるよっ。話したっていうか、前回のやり直しみたいなもんだよ。一昨日は話をする気はなかったみたいだ。話をするか、しないで追い返すか、判断するためだけだったんだ、たぶん」
「会話になってなかったもんな。頭イカれてるのかと心配しちゃったぜ俺は。で、いつ俺抜きで話をする時間を作ってくださったんだ? 昨日か?」
「今日だよ、エルドフィンが来るほんのちょっと前だ。ヴァルキュリャのことで知ってることを教えて欲しいって言ったら、その目的と俺達が知ってることを全部教えろって言われた」
「交換条件か。好きだねぇ~この世界の奴は」
で、どーせ自分は教えてやる気はねぇんだ。
都合良く情報だけ掠め取ろうと思ってんだろ。
いつぞやの体験を思い出して、鼻を鳴らしてしまった。
「魔物を倒すのが目的だって話した。そのために、方法がないかヴァルキュリャ一族を訪ねて回ってるってことも。それで、……この帯と織物のことを教えた」
アセウスを見ると、意味深な表情で微笑った。
「……随分思いきりましたねぇー、アセウスさん」
「彼、見た目通り手強くてさ。要求通り全部教えた方が早いかなって」
なるほどね。
帯と織物のこと以外は何一つ教える気はないってことか。
ガンバトルや後ろの追随達には聞こえないくらいの声で話しているとはいえ、相手のいるところで、聞かれて困る話をするほど緊張感のない幼馴染みじゃないんだよな。
「ほんと、お前って……」
首を小さく横に振ると、軽くため息が漏れた。
無意識に口角が上がってしまう。
「勝手に決めることになって悪い。まずかったかな?」
「いいんじゃねぇ? 賢明な判断だと思うよ」
性善説思想で、人を疑うってことをしない、基本な。
そんないい奴だけど、悪意や非礼を向けてくる相手に対してバカ正直でいられない程度には、拗らせているってわけだ。
こーゆーとこ。
「大して話もしてないうちに、織物の話から見に行くって流れになって。エルドフィンもって頼んだら、呼んでくれた」
「へーぇ。多少は話が通じるんかな、今日以降は独房監禁解除してくださるとか?」
「望みは薄いかなー、頼んでみるつもりではいるけど」
「一人部屋は大歓迎なんだけどね。覗き穴装飾のない真面な客室が良いんだ、俺は」
「! まぢか?」
「二回言おうか?」
「……いや、聞かれてたら嫌味だろ」
「聞いてる方が嫌味だと思いますけどねぇ」
反応を窺うように、前を進むガンバトルを注視する。
ガンバトルの背中は何も答えず、広大な邸宅内を奥へ奥へと導いていった。
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