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第一部ヴァルキュリャ編 第二章 コングスベル
ベッド最高。
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「……」
「そ、そんな目で見るのもう勘弁してくれよぉ」
暗く、長く続く廊下。
黒い石の腕輪をはめた右手で顔の下半分を掴んだまま俺は呟いた。
これ以上ないくらい小さな声でだ。
「何事かと思ったのですよ。何の前触れもなく、いきなり、『助けてぇっっ!』ですよ?! それが、飛んできてみれば……」
呆れるように吐き捨てられた。
はい、何も言えません。
可愛い女の子に見つかって、自己紹介を求められただけです。
騒がれも暴れもされず、俺の身に危険なんて皆無でした。
助けてぇっ、はないわなぁぁ~あ゛。
「ごめんなさい、反省してます。すぐ来て、結界で消してくれてアリガトウゴザイマシタ。テンパってた俺の代わりに、……助けてくれてくれてアリガトウゴザイマシタ」
俺の右手首の腕輪。
ソグンがオンライン状態に設定すると、近距離無線みたいに使えるらしい。
ソグンは声を出さなくても俺に話しかけられるけれど、俺からは声以外に話しかける方法がねぇだろ?
脱獄作戦を実行するにあたって、この問題を耳に囁く方法でクリアしようとしてたら、白い目で却下されてこの方法を教えられた。
あるなら早く言えっ! なんかガッカリ感と恥ずかしい感が凄いわっっ!
「シノヴァと名乗ったのなら、ガンバトルの異母妹です。エルドフィンを見たことは忘れるよう促しましたから、ガンバトルに伝わることはないと思いますが……エルドフィンが彼女と再度相みえることがあればそれも難しいでしょう」
「異母妹? 良さげなもの身に付けてるし親族かなとは思ったけど。それなら、あの肌も納得かぁ」
「ガンバトルには異母弟妹が何人もいるのです」
「ふぅん、タクミさんの例があるから別に驚かねぇけど。エネルギュシュな当主様だったんだろ? 息子を見てるから、普通に想像つくわ。異母妹はまともそうで助かったなぁ~。あんな方法で上手くいくとはねぇ、ヴァルキュリャってチート過ぎんだろ」
シノヴァは俺が消えてもまるで動揺してなかった。
しばらく呆然と俺の方を見ていたけど、すぐに何事もなかったように夜空を眺め始めた。
むしろ、あわあわしたのは俺だ。
ソグンに「助けて」コールの理由を問い詰められて、しどろもどろ経緯を説明した。
よくよく考えれば、シノヴァに騒ぎ立てる気がないのは分かりそうなもんだよな。
異母妹殿は、屋敷内に知らねぇ奴がいても、即敵って思考回路ではないらしい。
完っ全に俺の空回りだ。
とはいえ、名乗ったら軟禁から抜け出したことがバレちまう。
信用を得なきゃならんのに、アセウスの足をひっぱるなんて絶っっ対イヤだった!
「……『どうしよぉ、どぉしよぉぉ~、アセウスの足ひっぱる訳にはいかねぇよぉ~』って泣きついてきた人は誰でしたか。あんな風に直接人間に関わることなんて、わたしはしたことがありませんっ。わたしだって不本意なのに、エルドフィンか泣きつくから仕方なくしたというのに、その言い方」
「えっ?」
ソグンが頬を膨らませて俺を睨んでいる。
お、怒ってる?!
俺、なんか、マズいこと言ったらしい?!
「だ、だから感謝してるって。言わなかった? あ、あれ? ナイス機転だったよー。俺の姿がパッと消えてさ、で頭に直接声が響いてくるわけだろ? 『お前は見てはならぬものを見た、忘れろ』ってさ! そりゃあ、人知を超えた何かだと信じちゃうよな。シノヴァも俺達に答えるように言ってたし。『わたしが見たのは幻、他言はしません』だっけ? 完璧な対応だったじゃん、ソグン賢いっ、良かったよー、最高だよー」
おかしい。
人を褒め慣れてないせいか、言葉を並べれば並べるほど胡散臭いカメラマンみたいになっている。
こんなんでついつい脱いじゃうとか嘘だろ。
イケメンカメラマン限定だな。
普通の男が言っても、事務の女に消耗品一つ融通して貰えそうにない。
テメェ馬鹿にしてんのかって逆にシメられ……
身構えようとソグンに目をやると、頬を染めたソグンと目があった。
え?
「ですがっ、エルドフィンが何者か分かってしまえば、部屋を抜け出したと疑われてしまいます。その時は白を切り通してください」
パッと顔を逸らして、照れを隠している、よな、これ。
えー! なに? これは本当なの?
俺は心のメモに刻み込む、『女の子は、褒め言葉に弱い』。
大事なことだ、二回書こう。『女の子は、褒め言葉に弱い』。
「いいですかっ? 何を言われても、知らない、部屋にずっといた、そう言い張れば、見られたのは幻になります。寝てる間に魂が迷い出たとでもなんとでも言えます。アセウス・エイケンに迷惑はかかりません」
「うん。分かったよ。ソグン、やさしー」
おっ。
まためっちゃ照れてる。
これ、結構オモロイかも。
胡散臭くならない褒め言葉の語彙力増やしとこう!
*
*
*
出た時と同じ手順で、監視兵を眠らせ、扉の見張り兵に憑依したソグンに扉を開けさせ、俺は難なく監獄部屋へと戻った。
ヴァルキュリャさまさまだ。
ちょろっと聞いたら、ある一定の振動波を与えると人間は眠りに落ち易いんだと。
憑依は生物なら大概できるらしいが、生物によって抵抗力に差があり、もともとの意識を抑え込むのにも物凄く魔力を使うらしい。
腕輪オンラインも、常時魔力を要するらしく、ずっとしててよ、と頼んだらすげぇ冷たく断られた。
結界も同じように魔力消費が高いようだ。
今日、いつもより感情豊かに見えたのは、魔力を使いまくって疲れてたのかもしれないな。
俺は疲れると素が出るから、ソグンのことも勝手にそう推測した。
しかし、困ったぞ。
ヴァルキュリャ無しだと、俺、ほんとに何にもすることがない。
ヨルダール家のヴァルキュリャ、どうやって会えばいいんだ?
というか、ヨルダール家に限らずこれからのヴァルキュリャ一族訪問すべてに言える。
これはやっぱりソグンに協力して貰わなきゃ無理じゃねぇ?
頭を悩ませ考えているうちに、俺はひさびさの屋内での睡眠に落ちていった。
……ベッド最高……。
「そ、そんな目で見るのもう勘弁してくれよぉ」
暗く、長く続く廊下。
黒い石の腕輪をはめた右手で顔の下半分を掴んだまま俺は呟いた。
これ以上ないくらい小さな声でだ。
「何事かと思ったのですよ。何の前触れもなく、いきなり、『助けてぇっっ!』ですよ?! それが、飛んできてみれば……」
呆れるように吐き捨てられた。
はい、何も言えません。
可愛い女の子に見つかって、自己紹介を求められただけです。
騒がれも暴れもされず、俺の身に危険なんて皆無でした。
助けてぇっ、はないわなぁぁ~あ゛。
「ごめんなさい、反省してます。すぐ来て、結界で消してくれてアリガトウゴザイマシタ。テンパってた俺の代わりに、……助けてくれてくれてアリガトウゴザイマシタ」
俺の右手首の腕輪。
ソグンがオンライン状態に設定すると、近距離無線みたいに使えるらしい。
ソグンは声を出さなくても俺に話しかけられるけれど、俺からは声以外に話しかける方法がねぇだろ?
脱獄作戦を実行するにあたって、この問題を耳に囁く方法でクリアしようとしてたら、白い目で却下されてこの方法を教えられた。
あるなら早く言えっ! なんかガッカリ感と恥ずかしい感が凄いわっっ!
「シノヴァと名乗ったのなら、ガンバトルの異母妹です。エルドフィンを見たことは忘れるよう促しましたから、ガンバトルに伝わることはないと思いますが……エルドフィンが彼女と再度相みえることがあればそれも難しいでしょう」
「異母妹? 良さげなもの身に付けてるし親族かなとは思ったけど。それなら、あの肌も納得かぁ」
「ガンバトルには異母弟妹が何人もいるのです」
「ふぅん、タクミさんの例があるから別に驚かねぇけど。エネルギュシュな当主様だったんだろ? 息子を見てるから、普通に想像つくわ。異母妹はまともそうで助かったなぁ~。あんな方法で上手くいくとはねぇ、ヴァルキュリャってチート過ぎんだろ」
シノヴァは俺が消えてもまるで動揺してなかった。
しばらく呆然と俺の方を見ていたけど、すぐに何事もなかったように夜空を眺め始めた。
むしろ、あわあわしたのは俺だ。
ソグンに「助けて」コールの理由を問い詰められて、しどろもどろ経緯を説明した。
よくよく考えれば、シノヴァに騒ぎ立てる気がないのは分かりそうなもんだよな。
異母妹殿は、屋敷内に知らねぇ奴がいても、即敵って思考回路ではないらしい。
完っ全に俺の空回りだ。
とはいえ、名乗ったら軟禁から抜け出したことがバレちまう。
信用を得なきゃならんのに、アセウスの足をひっぱるなんて絶っっ対イヤだった!
「……『どうしよぉ、どぉしよぉぉ~、アセウスの足ひっぱる訳にはいかねぇよぉ~』って泣きついてきた人は誰でしたか。あんな風に直接人間に関わることなんて、わたしはしたことがありませんっ。わたしだって不本意なのに、エルドフィンか泣きつくから仕方なくしたというのに、その言い方」
「えっ?」
ソグンが頬を膨らませて俺を睨んでいる。
お、怒ってる?!
俺、なんか、マズいこと言ったらしい?!
「だ、だから感謝してるって。言わなかった? あ、あれ? ナイス機転だったよー。俺の姿がパッと消えてさ、で頭に直接声が響いてくるわけだろ? 『お前は見てはならぬものを見た、忘れろ』ってさ! そりゃあ、人知を超えた何かだと信じちゃうよな。シノヴァも俺達に答えるように言ってたし。『わたしが見たのは幻、他言はしません』だっけ? 完璧な対応だったじゃん、ソグン賢いっ、良かったよー、最高だよー」
おかしい。
人を褒め慣れてないせいか、言葉を並べれば並べるほど胡散臭いカメラマンみたいになっている。
こんなんでついつい脱いじゃうとか嘘だろ。
イケメンカメラマン限定だな。
普通の男が言っても、事務の女に消耗品一つ融通して貰えそうにない。
テメェ馬鹿にしてんのかって逆にシメられ……
身構えようとソグンに目をやると、頬を染めたソグンと目があった。
え?
「ですがっ、エルドフィンが何者か分かってしまえば、部屋を抜け出したと疑われてしまいます。その時は白を切り通してください」
パッと顔を逸らして、照れを隠している、よな、これ。
えー! なに? これは本当なの?
俺は心のメモに刻み込む、『女の子は、褒め言葉に弱い』。
大事なことだ、二回書こう。『女の子は、褒め言葉に弱い』。
「いいですかっ? 何を言われても、知らない、部屋にずっといた、そう言い張れば、見られたのは幻になります。寝てる間に魂が迷い出たとでもなんとでも言えます。アセウス・エイケンに迷惑はかかりません」
「うん。分かったよ。ソグン、やさしー」
おっ。
まためっちゃ照れてる。
これ、結構オモロイかも。
胡散臭くならない褒め言葉の語彙力増やしとこう!
*
*
*
出た時と同じ手順で、監視兵を眠らせ、扉の見張り兵に憑依したソグンに扉を開けさせ、俺は難なく監獄部屋へと戻った。
ヴァルキュリャさまさまだ。
ちょろっと聞いたら、ある一定の振動波を与えると人間は眠りに落ち易いんだと。
憑依は生物なら大概できるらしいが、生物によって抵抗力に差があり、もともとの意識を抑え込むのにも物凄く魔力を使うらしい。
腕輪オンラインも、常時魔力を要するらしく、ずっとしててよ、と頼んだらすげぇ冷たく断られた。
結界も同じように魔力消費が高いようだ。
今日、いつもより感情豊かに見えたのは、魔力を使いまくって疲れてたのかもしれないな。
俺は疲れると素が出るから、ソグンのことも勝手にそう推測した。
しかし、困ったぞ。
ヴァルキュリャ無しだと、俺、ほんとに何にもすることがない。
ヨルダール家のヴァルキュリャ、どうやって会えばいいんだ?
というか、ヨルダール家に限らずこれからのヴァルキュリャ一族訪問すべてに言える。
これはやっぱりソグンに協力して貰わなきゃ無理じゃねぇ?
頭を悩ませ考えているうちに、俺はひさびさの屋内での睡眠に落ちていった。
……ベッド最高……。
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