ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

文字の大きさ
79 / 123
第一部ヴァルキュリャ編  第二章 コングスベル

ベッド最高。

しおりを挟む
「……」
 
「そ、そんな目で見るのもう勘弁してくれよぉ」
 
 
 暗く、長く続く廊下。
 黒い石の腕輪ブレスレットをはめた右手で顔の下半分を掴んだまま俺は呟いた。
 これ以上ないくらい小さな声でだ。
 
 
「何事かと思ったのですよ。何の前触れもなく、いきなり、『助けてぇっっ!』ですよ?! それが、飛んできてみれば……」
 
 
 呆れるように吐き捨てられた。
 はい、何も言えません。
 可愛い女の子に見つかって、自己紹介を求められただけです。
 騒がれも暴れもされず、俺の身に危険なんて皆無でした。
 助けてぇっ、はないわなぁぁ~あ゛。
 
 
「ごめんなさい、反省してます。すぐ来て、結界で消してくれてアリガトウゴザイマシタ。テンパってた俺の代わりに、……助けてくれてくれてアリガトウゴザイマシタ」
 
 
 俺の右手首の腕輪ブレスレット
 ソグンがオンライン状態に設定すると、近距離無線みたいに使えるらしい。
 ソグンは声を出さなくても俺に話しかけられるけれど、俺からは声以外に話しかける方法がねぇだろ?
 脱獄作戦を実行するにあたって、この問題を耳に囁く方法でクリアしようとしてたら、白い目で却下されてこの方法を教えられた。
 あるなら早く言えっ! なんかガッカリ感と恥ずかしい感が凄いわっっ!
 
 
「シノヴァと名乗ったのなら、ガンバトルの異母妹です。エルドフィンを見たことは忘れるよう促しましたから、ガンバトルに伝わることはないと思いますが……エルドフィンが彼女と再度あいまみえることがあればそれも難しいでしょう」
 
「異母妹? 良さげなもの身に付けてるし親族かなとは思ったけど。それなら、あの肌も納得かぁ」
 
「ガンバトルには異母弟妹が何人もいるのです」
 
「ふぅん、タクミさんの例があるから別に驚かねぇけど。エネルギュシュな当主様だったんだろ? 息子ガンバトルを見てるから、普通に想像つくわ。異母妹いもうとまとも・・・そうで助かったなぁ~。あんな方法で上手くいくとはねぇ、ヴァルキュリャってチート過ぎんだろ」
 
 
 シノヴァは俺が消えてもまるで動揺してなかった。
 しばらく呆然と俺の方を見ていたけど、すぐに何事もなかったように夜空を眺め始めた。
 むしろ、あわあわしたのは俺だ。
 ソグンに「助けて」コールの理由を問い詰められて、しどろもどろ経緯を説明した。
 よくよく考えれば、シノヴァに騒ぎ立てる気がないのは分かりそうなもんだよな。
 異母妹殿は、屋敷内に知らねぇ奴がいても、即敵って思考回路ではないらしい。
 完っ全に俺の空回りだ。
 とはいえ、名乗ったら軟禁から抜け出したことがバレちまう。
 信用を得なきゃならんのに、アセウスの足をひっぱるなんて絶っっ対イヤだった!
 
 
「……『どうしよぉ、どぉしよぉぉ~、アセウスの足ひっぱる訳にはいかねぇよぉ~』って泣きついてきた人は誰でしたか。あんな風に直接人間に関わることなんて、わたしはしたことがありませんっ。わたしだって不本意なのに、エルドフィンか泣きつくから仕方なくしたというのに、その言い方」
 
「えっ?」
 
 
 ソグンが頬を膨らませて俺を睨んでいる。
 お、怒ってる?!
 俺、なんか、マズいこと言ったらしい?!
 
 
「だ、だから感謝してるって。言わなかった? あ、あれ? ナイス機転だったよー。俺の姿がパッと消えてさ、で頭に直接声が響いてくるわけだろ? 『お前は見てはならぬものを見た、忘れろ』ってさ! そりゃあ、人知を超えた何かだと信じちゃうよな。シノヴァも俺達に答えるように言ってたし。『わたしが見たのは幻、他言はしません』だっけ? 完璧な対応だったじゃん、ソグン賢いっ、良かったよー、最高だよー」
 
 
 おかしい。
 人を褒め慣れてないせいか、言葉を並べれば並べるほど胡散臭いカメラマンみたいになっている。
 こんなんでついつい脱いじゃうとか嘘だろ。
 イケメンカメラマン限定だな。
 普通の男フツメンが言っても、事務のに消耗品一つ融通して貰えそうにない。
 テメェ馬鹿にしてんのかって逆にシメられ……
 身構えようとソグンに目をやると、頬を染めたソグンと目があった。
 え?
 
 
「ですがっ、エルドフィンが何者か分かってしまえば、部屋を抜け出したと疑われてしまいます。その時はシラを切り通してください」
 
 
 パッと顔を逸らして、照れを隠している、よな、これ。
 えー! なに? これは本当なの?
 俺は心のメモに刻み込む、『女の子は、褒め言葉に弱い』。
 大事なことだ、二回書こう。『女の子は、褒め言葉に弱い』。
 
 
「いいですかっ? 何を言われても、知らない、部屋にずっといた、そう言い張れば、見られたのは幻になります。寝てる間に魂が迷い出たとでもなんとでも言えます。アセウス・エイケンに迷惑はかかりません」
 
「うん。分かったよ。ソグン、やさしー」
 
 
 おっ。
 まためっちゃ照れてる。
 これ、結構オモロイかも。
 胡散臭くならない褒め言葉の語彙力増やしとこう!
 
 
 *
 *
 *
 
  
 出た時と同じ手順で、監視兵を眠らせ、扉の見張り兵に憑依したソグンに扉を開けさせ、俺は難なく監獄部屋へと戻った。
 ヴァルキュリャさまさまだ。
 ちょろっと聞いたら、ある一定の振動波を与えると人間は眠りに落ち易いんだと。
 憑依は生物なら大概できるらしいが、生物によって抵抗力に差があり、もともとの意識を抑え込むのにも物凄く魔力を使うらしい。
 腕輪ブレスレットオンラインも、常時魔力を要するらしく、ずっとしててよ、と頼んだらすげぇ冷たく断られた。
 結界も同じように魔力消費が高いようだ。
 今日、いつもより感情豊かに見えたのは、魔力を使いまくって疲れてたのかもしれないな。
 俺は疲れると素が出るから、ソグンのことも勝手にそう推測した。
 
 しかし、困ったぞ。
 ヴァルキュリャ無しだと、俺、ほんとに何にもすることがない。
 ヨルダール家のヴァルキュリャ、どうやって会えばいいんだ?
 というか、ヨルダール家に限らずこれからのヴァルキュリャ一族訪問すべてに言える。
 これはやっぱりソグンに協力して貰わなきゃ無理じゃねぇ?
 頭を悩ませ考えているうちに、俺はひさびさの屋内での睡眠に落ちていった。
 ……ベッド最高……。
 
  
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...