ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

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枝話

震える男 後 「ジトレフと師」

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「ぃやだっっ止めてくれ……もぅ俺無理だっ……いやっっゆるして…………っっ」


 身体中を震わせて、目の前の少年おとこは潤んだ目で懇願した。
 見下ろす黒い瞳はただただ黒く、夜の闇のように。
 ジトレフ・ランドヴィーク、10歳。
 ランドヴィーク家の至宝と呼び声高く『冷たいグズル青布ブラール』を手にした彼は、入団したその時点でオッダ部隊訓練生が誰一人として敵わない剣技を身につけていた。


「なんで……もぅ丸腰なのに……っっ」


 地面に座り込んで半べそをかきながら訴える少年に、ジトレフは剣を振り上げた。
 ジトレフの訓練相手・・・・は、ひっっ、と両腕を上げ身を庇う。


「ジトレフ、止め。実技訓練は終わりにする。ついてきなさい」

「分かりました」


 ジトレフは声をかけた青年おとこの後についていく。
 認定審査の時に、オッダ部隊第二分隊長……と紹介された記憶がよみがえる。
 10歳にしては長身のジトレフと、そう変わらない小柄な体躯。
 頼りない外見とは裏腹に、認定審査で対戦した時は、時間いっぱいかけても倒せなかった。


「……さっきの実技訓練、相手は剣を落として戦意を喪失していたのに、何故攻撃を続けた?」


 責めるでもなく、淡々とした口調で分隊長はジトレフを見た。
 ジトレフは臆すことなく即答する。


「武器を失ったらただ死を待つのですか? 剣がなくても戦意がなくても、戦いが終わるとは限りません」

「……だから、攻撃を続けたと?」

「はい、戦士たるものそのような状況こそ戦い続けなければなりません。訓練するべきことです」


 なぜそんな当然のことを聞くのだろう、なにかの試験だろうか、と怪訝けげんさを隠せずも淡々と答えるジトレフに、分隊長は驚いたようだった。


「なるほどね。それで、ジトレフは今日の対戦相手をどう思った?」

「?? どう、ですか? ……未熟、ということですか?」

「未熟、ね。がっかりした?」

「?? がっかり、されたのならすみません。でも、彼も私も・・・・入隊したばかりの訓練生です。今未熟なことは仕方のないことでは……」


 ジトレフがあどけなさの残る顔を少し悔しそうに歪めた時、分隊長は彼を一つの部屋に促した。
 分隊長の執務室兼居室だ。
 居室の割には物が少ない部屋だな、とジトレフは感じた。
 促されて椅子に座るジトレフと低めのテーブルを挟んで、分隊長もその向かいに座った。
 スッと左足首を右膝の上に乗せてゆったりと座る姿は、小柄な身体が大きく見えた。
 醸し出される威圧感と風格が、「王」とはこんな感じなのではないか、とジトレフに思わせた。


「ジトレフ、残念だがオッダ部隊ではキミに提供できる実技訓練はない。キミは自分自身を未熟と言ったが、未熟なキミに敵う者がオッダ部隊ここには居ないんだ」

「……私は……ランドヴィーク家の後継者です。代々オッダ部隊の要職を務めてきた先代や一族に、幼少期から英才教育を受けています。訓練生とは実力差があって当然です。許されるならば、正規の部隊員と訓練する機会をいただけませんか」

「それは私も考えたよ。週に一度くらいは許容範囲かもしれない、キミにどれほど学ぶことがあるかは予想も出来ないけれどね。でも、変な期待はさせたくないから初めに言っておこう。正規の部隊員でも純粋な剣技でキミに敵う者は居ないよ」

「? 分隊長には敵いませんでした」

「どうだろうね。私はキミに倒されなかっただけで、キミを倒したわけじゃない」

「??」

「お陰でキミに恐れをなした奴らからキミの指導係を専任するように決められてね。これからは、私が必要と判断した内容以外は他の訓練生とは訓練過程カリキュラムを別にする」

「別訓練過程カリキュラム、ですか」

「そう。キミと、私、マンツーマン。私は光栄だけど、キミの正直な気持ちは?」

「もったいない待遇だと思います。……しかし、それで私は立派な・・・部隊員になれるのですか? 私は訓練過程修了後は正規のオッダ部隊員として、要職を務め貢献しなければなりません」


 ジトレフは曇りもなく真っ直ぐな瞳でそう答えた。


「なかなか手厳しいね。キミの目標に添えるように善処しよう。ではこれで決まりだね。今後の実技訓練は全て別訓練過程カリキュラムにする。何回かは正規部隊員との対戦演習を入れるけれど、他は全部教養に回すから、その分は自主訓練でまかなって貰うよ」

「全部教養ですか」

「そう、キミは教えがいがありそうだから、こっち・・・を教えようと思う」


 分隊長は左手の指で二度ほど、自分の頭を指し示しながら言った。
 小柄な身体に見合った小さな顔が笑った、ジトレフはただ、そう感じていた。

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