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枝話

最強魔法の代償 後 「Golden Trio:AEG」

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 ローセンダールの町に着く前、絶景休憩で立ち寄った湖の後、
 ……気になったお方はいるだろうか。
「北島康介ごっこ」、「遊び過ぎた」、「はしゃいでた」、という ??? な匂わせが流し読めず
 気になってしまったお方はいるだろうか。
 そうか……、いよいよ……説明する時が来てしまったようだ……。
 
 当初俺たちは、湖で休憩した後、ローセンダールの町へ下りて昼飯の予定だった。
 そのまま魔法戦士の家へ訪問し、そこに一泊させて貰うか、即ベルゲンへ転移するか相談して決めるつもりだったんだよな。
 それが、ご存知のとおり、その日の予定はすっかり変更された。
 ジトレフと仲良くなったらしいアセウスが、湖で遊んでいこうと提案したからだ。
 なんでも? ジトレフが俺らの旅の楽しみ方を教えて欲しいとアセウスにおねだりしたらしい。
 
 
「昔ここで良く水遊びしたんだよ! 18にもなって水遊びってのはちょっと子どもっぽいかもしれないけど、そう言ってたらジトレフは一生水遊びできないだろ?」
 
 
 なんと! 分隊長様は水遊びをしたことがないらしい。
 オッダには川がなかったんだっけ? と驚いたけど、毎日風呂に入りたい俺は二つ返事でOKした。
 この世界には風呂がない。
 日本と違って乾いているから、ベタベタした体を流したい、てことはそうは感じない。
 けど、なんつーか、やっぱり水に浸りたくなるんだな(笑)。
 清水が流れ込む川や湖なら入るだけでもサッパリする。
 サッと服を脱いでふんどし替わりの布切れで尻周りを巻くと、俺はアセウスに教わった湖の浅瀬にダイブした。
 ザァプゥゥゥンッッ
 ゴブォブォボボボボ……
 
 っっっっっ気持ちいいっっっ!
 
 ザパァァンッッ
 水面に顔を出して思わず文字にならない雄叫びを上げる俺。
 アセウスの大笑いに気恥ずかしくなって水辺を見ると、ビックリしてるジトレフと目があった。
 チッ
 見なかったことにしよ。
 
 布の巻き方とか、湖の危険とか、水遊びする時の注意事項とか、
 事前に知っとかなきゃならないことは面倒見のいいアセウスが教えるだろう。
 こどもの頃とは違う。いい歳した男が裸で三人遊ぶ・・なんて、
 せいぜい投げ落とすとか、泳ぎ競争するとか、飛び込み技挑戦するとか、そんなもんだろ。
 昼前までの限られた時間だ、満喫しなくちゃなっ。
 俺は湖をあちこち泳いで堪能した後、岩肌から湧き水が注ぎ込むエリアを眺めながら浮かんでいた。
 キャニオニングしたら気持ち良さそうだけど、裸じゃさすがに怪我するよなぁ……
 
 
「エルドフィィィン!!」
 
 
 あれ? アセウスが呼んでる。なんだろ。
 もう撤収?
 
 
「どしたー?」
 
 
 答えながら二人のいる浅瀬に近付く。
 
 
「エルドフィン! お前なに?! 凄いじゃん!! 魚かよ」
 
「え??? もしかして……アセウス泳げないの?」
 
「あ?! なにその言い方! 腹立つ! 教えろ! すぐ覚える。ジトレフも一緒に覚えちまおーぜ」
 
 
 ということになって。
 二人がそこそこ泳げるようになるまで水泳講師をする羽目になったんだ。
 
 俺はめんどくせぇのが嫌いなので、得手不得手があるかな、どれか一つで泳げればよいだろう、とクロール、平泳ぎ、なんちゃってバタフライをサラッと教えてみた。それが失敗だった。
 あいつら全部マスターするまで止めないって言いやがって。
 半日近く付き合わされた。
 身体ふやふやのぐたぐただよ。
 あいつらは泳ぐってゆー目標があるからいいかもしんねぇ。
 でも俺は、ただ付き合わされて半日も、好きでもねぇ泳ぎをレクチャーしなきゃなんなくて。
 正直すぐ飽きた(笑)。
 つまんねぇので、こいつらで・・・・・遊ぶことにした・・・・・・・
 始まりはこんな感じだった。
 
 
「ど? これが一番簡単じゃねぇかな。手と足を同じタイミングでこう……」
 
「ぶぶっそれ、なんか一番だっせぇな。他の2つが水しぶき上げてかっこいいのにさー」
 
「戦いには向かなそうだな」
 
「おっ前らなー、平泳ぎは日本の得意種目なんだぞっ北島康介舐めんな!」
 
「ヒラー?」
 
「ジマコースケ?」
 
「……そうか、難しいかと思って教えなかったけど、そう言うなら教えてやるよ、本当のこの泳ぎ方をな……っっ」
 
 
 ザバァっ 
「きもちいいぃぃぃっっ」
 ザバァっ 
「ちょーきもちいいぃっっ」
 ザバァッ
「なんもいえねぇっっ」
 
 数回水をかくごとに、アセウスもジトレフもガッツポーズで水面から顔を出すや、かの名言を叫ぶ。
 いや、面白すぎるだろ! おかしいとおもわねぇのかよ(大爆笑)!!
 真剣にやってるからまた腹に来る。
 
 それがさ、あいつらが素直に北島康介ごっこを続けてたのには理由があったんだよ。
 実感できる程の上達効果があったみたいなんだ……まぢかよ。
 平泳ぎ、クロール、なんちゃってバタフライ、
 それぞれの泳法で湖往復が泳げるようになって、俺たちは湖から上がったんだが、
 平泳ぎだけはアセウスもジトレフも俺を遥か凌駕する素人離れしたレベルに到達していた。
 
 とまぁ、そんな感じで半日が過ぎてしまって。
 今日はローセンダールに泊まろうってなったわけなんだ。
 え? なんだこの話、ショボいってか?
 しょーがねぇーだろ、本編カットされたおまけなんだから。
 どんな冒険譚だって漫画みてぇな活劇は2~3割あれば派手な方で
 残りは地味などぉーってことない日常なんだと思う。
 はそれを要らない・・・・とは思えないけど。
 他の誰かにとって、どぉーってことない、くだらねぇ日常な時間でも、
 俺にとっては二つとない印象深い時間だったんだ!
 
 ジトレフの魔法でボディボード風波乗りもしたし、(結構楽しかった!!)
 バカみたいなあいつら見ててそれなりに楽しかったし、
 あんな絶景の湖貸し切りとか最高だったし、
 全身サッパリしたよね!! (乳酸すごい溜まってるけどね!!)
 え? 聞いてないって? はしゃぐなうぜぇ?
 テンション高くなんてねぇよーっっ ぜんっぜんっ
 
 だからさぁ、
 あの化粧女に油断したのも疲れてたからなんだよな。
 あー! せっかくサッパリしたのに、変な匂いつけられちゃってないかな!
 香水強い女ってどーかと思わね? 俺は苦手!! 
 匂いの強い洗濯洗剤とかも苦手だったーっっ!!
 未開文明ばんざーいっっ!
 え?! だからテンション高過ぎてうぜぇんだってって?
 意味わからんっ! テンション高くなんてねぇしよーっ ぜんっぜんっ
 ぜぇーんっぜんっっ
 
 
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