犬友

有馬 優

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3話 チワワ御殿に招かれた人々

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 チワワ御殿の初めてのお茶会が催された。

 御殿に招かれた人々は各自部屋に荷物を置くと、愛犬のチワワや小型犬と一緒に広間に集合して、このチワワ御殿での初めてのお茶会に参加した。広間にはビュッフェスタイルでお茶とスイーツが用意されており、自由にチョイスして座って話しながらお茶できるようになっていた。ちょっと普通と違うのは、この広間にはドックランスペースがあって、人間のお茶には参加しないチワワたちが遊んでいる。もちろん見知らぬところに来て恐々というチワワもいるので、飼い主がお茶する足元で座っているのも自由だ。

「素敵ね。外で寒いとか暑いとかなくて、チワワも一緒にお茶できるなんてね。」

私がケーキを頬張りながら言うと、恵理子さんが、

「そうよね。こういうのが欲しかった!って感じよね。犬可でも大体テラス席だから、夏は暑いし冬は寒いし。」

と紅茶を飲みながらしみじみ言う。恵理子さんのところのリリーちゃんは、しっかり恵理子さんの足元にいた。他のチワワとはまだ遊べない感じだ。うちのガリ・レオコンビは喜び勇んでチワワの遊びの輪に飛び込んでいっている。楽しそうな様子を見ると、不思議なくらい幸福感が湧き上がる。動物をわが子のように感じる人には、不思議なことに娘が喜ぶ姿を見るのも、チワワが喜ぶ姿を見るのも同じく幸福感が湧き上がるようだ。これは私がガリとレオを仔犬の時から面倒を見て、人間でいったらオムツ、動物で言ったらおしっこシートを替えつつ湧き上がった母性のようなものなのかもしれない。

「やっほ!沖縄のルカだよ。うちのジョーはこの通り人見知り・・じゃなくて、犬見知りでべったりなんだけどね。」

沖縄のルカさんだ。チョコとドーナッツを両手に持ってやってきた。なかなか会えそうも無いというチワ友の一人だ。動画でしか会えなかったジョー君もいる。ルカさんにべったりくっついているが、小さくて機敏な感じがする。

「ここはすごいね。みんなそれぞれに理想のチワワ御殿ってあると思うんだけど、かなり理想に近いんじゃない?宝くじだけじゃきっと無理よー。」

ルカさんはドーナッツを口に押し込むように食べた。

「え?チワワに母性?私はジョーに対しては弟って感じかな。」

ルカさんは今度はチョコを一口に放り込んでカラカラと笑っていた。娘のほうを振り返ると、

「娘さんの麻耶ちゃん?こんにちは!今日はお母さんとガリレオコンビの付き添い?」

と、握手を求めた。娘の麻耶はまた恥ずかしそうに笑った。

「ねぇ、うちのジョーがこんなベッタリで言うのもなんだけど、あのチワワの輪に私たちも加わって遊べたら楽しそうだよね。」

ルカさんは室内ドックランで走り回るチワワを眺めながら言った。そして、恵理子さんの足元にいるリリーちゃんを見て、

「あ、リリーちゃんもこっち組なんだね。分かるわぁ、リリーちゃんはあの中にいきなり入れないよね。」

と笑った。話が弾んできたところで、そこへまた一人お茶を手にこちらに歩いてきた。

「あ、優さんお久しぶり!恵理子さんも!」

こちらは東京在住の楠木さんだ。チワワはミー君という。ミー君が見当たらないということは、あのドックランの走り回る輪の中なのだろう。楠木さんは恵理子さんと同様、比較的リアルに会えるチワ友だ。

「あら、沖縄のルカさんね。お久しぶりね。」

楠木さんがルカさんに言った。お久しぶり?会ったことがあるの?

「ええ、去年沖縄に撮影に行った時。そういう時でもないと会えないと思って。撮影の合間に会いに行っちゃったの。」

楠木さんがコーヒーを片手にしながらキャッキャと笑った。楠木さんは現役モデルで、時にはテレビの仕事もするらしい。スタイルもいいし、顔はエキゾチックな美女だ。彼女自身も良いところのお嬢さんという感じだが、実は大手企業エリートの奥様。実は一番チワワ御殿実現に近い人かと思っていた。

「さすがに一般市民にはこれほどのチワワ御殿は無理よー。うちの特注のベンツとか何台売っても無理無理。」

特注のベンツとか何台・・・時々楠木さんの経済は私たち「一般市民」とは違うなぁと思う。でも、それでもこのチワワ御殿は実現できないのか。

「お、集まってるね。うちの雷子さんもベッタリ派だよ。」

すごくおなじみのチワワが登場した。チワ友の間では「アイドル雷子さん」と呼ばれている女の子のチワワだ。カメラを向けるとなかなか良い表情とポーズで撮らせてくれる。もちろん一番良い写真を撮らせてくれるのは、男性飼い主の写真家の関根さんだ。本業の写真もすごいらしいけれど、実は雷子さんの写真集やグッズの売り上げのほうがすごいのではという噂だ。

「初めまして。アイドル雷子さん。やっと会えたね。私のデスクにはあなたのカレンダーが置いてあるのよ。」

私は雷子さんに手を差し出した。雷子さんは私の手にそっと「お手」をしてくれた。私はなんだかくすぐったい気分になって笑ってしまった。娘も雷子さんのファンなので、

「雷子さん、私は写真集持っているの。私にもお手してちょうだい。」

と手を差し出した。人間のアイドルだったら握手会という感じだろうか?他のテーブルで歓談していた時も写真撮影会みたいだったと関根さんが笑っている。

 私たちの他にも多数のチワワとその飼い主がいて、それぞれが盛り上がっている。話し声がすごすぎて他の人の声も聞こえづらいくらいだが、他にもチワネットで知っているチワワと人が居そうだ。この滞在はその数を考えても想像を超える楽しみがありそうで心臓がドキドキしている。

 話が頂点に達しようかという頃、鳴海さんがやってきた。そういえば、鳴海さんとももっと話がしたい。ゲストが多いから、順次というところは仕方ないか。

「さぁ、みんな、遠路疲れたと思うので、温泉にでも浸かって疲れをとってください。それから夕食にしましょう。」

チワワと人間が大騒ぎの中、鳴海さんがニコニコしながら叫んだ。なるほど、温泉も実現したんだ。

「温泉!うれしいわぁ!」

私は飛び上がりそうな勢いで喜んでしまった。が、横で娘の麻耶は、

「温泉は入りたいけど、他の人の前で裸で入るのはちょっと抵抗があるの・・・。」

と俯いた。さすがにお年頃なのだ。抵抗があるのは恵理子さんも同じみたいだ。すると鳴海さんがその様子を見て、

「初めましてってことが多いチワ友の集いだから、そういうこともあって湯浴み着を用意したの。それを着て入ることができるわ。それに、チワワとも一緒に入れる家族風呂的なものも用意してみたの。他ではなかなか無いチャンスよ。」

と、ちょっとウィンクして言った。麻耶は喜んで手を叩いて、

「私は湯浴み着着ていいかしら!温泉楽しみ!」

と笑顔満載だ。私はチワワ家族風呂にしようかどうしようか悩んでいた。他の人もどちらも魅力的なので悩んでおしゃべりが止まってしまうほどだ。すると鳴海さんがフフっと笑って、

「この建物の横にある中庭の噴水、実は温泉が引いてあるの。深さは浅いし、温度は適温よ。チワワちゃんだけになるけど、お湯で遊んで毛艶もよくなるわよ。」

と、また魅力的なことを言ったものだから、座はワァともオオッっともつかない声でいっぱいになった。チワワ御殿とはいえ個人の家で噴水に温泉とは。

「温泉に入ったら夕食ですからねー!」

鳴海さんが叫んだ。そして、

「お楽しみはこれからなんだけどね。」

と、つぶやいたのを私は見逃さなかった。



 チワワ御殿の滞在は、これからである。

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