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4話 チワワ御殿のお楽しみ
しおりを挟む鳴海さんのチワワ御殿でのチワワやチワ友との優雅で楽しい日々が始まった。日帰りで帰宅してしまう人もいたが、大抵はゆっくりと滞在するつもりでやってきたようだ。まずは鳴海さんお勧めの温泉に入って疲れを癒し、夕食の席についた。夕食はチワワたちにも犬用のコースが出されて、
「これ、本当に犬用?」
と思うほどの豪華さだった。飼い主たちのほうは和洋折衷のバイキング形式。やはり色んな人と話したい、というゲストの気持ちを考慮した形になっていた。席は決めず、お茶の時と同じように歓談しながら楽しい夕食になった。料理は一流に美味しい。
「この料理はどうしたの?鳴海さんが作ったの?」
と恵理子さんが聞くと、夕食時には私たちと席を一緒にした鳴海さんが笑いながら、
「まさか!一時的にコックさんに来てもらっただけよ。普段は自分が作ったり、執事やメイドが作ってくれたりかな。」
「ふーん。」
ケータリングにしては量がすごいし、みんなの食欲に合わせて追加されるのでビックリしていたが、なるほどコックさんに来てもらうとはビックリだ。私はサーモンのグラタンを食べながら周囲を見回してみた。チワワも満足そうだし、人間の方もみんなの好き嫌いを網羅しているせいか満足そうだ。
「ワンちゃんのほうは、アレルギーがある子もいるから、事前にアンケート取らしてもらったの。でも人間は自己責任。それもあってビュッフェスタイルにしたの。」
とカラカラと笑っている。
「チワネットで話しているそのまんまの鳴海さんの雰囲気だわ。本当にチワネットのアイコンの招き犬の着ぐるみ着ても似合いそう!シロコやクロコのチワワーズは?」
恵理子さんは鳴海さんと会えて楽しそうだし、片手にシャンパンを持っていて、更にご機嫌な感じ。夕食時の恵理子さんはちょっとドレスアップして綺麗だ。鳴海さんはチワワの輪を指差しながら、
「あそこにいるよ。シロコとクロコとチャコとクロチャタン、全員元気に夕食にありついてるわ。」
と微笑んだ。数え切れないほどのチワワが集まったが、我が家のガリレオコンビの横に鳴海さんちのチワワーズがいたのですぐに分かった。写真を撮るのが上手な鳴海さんだけど、その写真に吹き出しをつけて面白いコメントをつけたりするのが絶妙に上手だ。そんな画像を見るのも私の一つの楽しみでもある。
「鳴海さんの画像にコメントがすごく面白いよね。本当にチワワーズがそう話しているみたいに思えてくるもの。」
と私が言うと、鳴海さんは嬉しそうに、
「本当にそんなふうにしゃべっているような雰囲気なの。そのまんま載せただけよぉ。」
と手をひらひら顔の前で振っている。
「夕食後はすぐ休んでしまう?お茶でもする?明日は屋外のドックランで遊びましょうよ。遊具もあるからチワワたちはきっと楽しんでくれると思うの。」
鳴海さんも楽しそうだ。
「それから、トリマーさんも呼んでいるの。シャンプーやカットなんかも頼めるから言ってね。」
楠木さんはそれを聞いて、
「わぁ、トリマーさんも呼んでくれたの?カットはいつものトリマーさんが癖を知っているからいいけど、屋外のドックランの後だと、シャンプーくらいはしっかりして欲しいものね。嬉しいわ。さすが鳴海さんは気が利いてる!」
と感歎している。私はいったいこの集まりのために鳴海さんは何人のスタッフを用意したのかと思っていた。
「だって、遠方からもせっかく来てくれるのに、楽しみが半減したらつまらないじゃない?ここはどうしてもお店があるところからは離れているから、スタッフや資材・食材は充分集めておいたの。もちろん知り合いだけど獣医さんも呼んであるわ。半分スタッフ、半分お客さんだけどね。小型犬は環境が変わると体調崩しがちだから、何かあったら診てもらえるわよ。」
獣医さんまで・・・私と恵理子さんと楠木さんは口が開いたまま閉じるのを忘れてしまった。そこへ写真攻めになっていた雷子さんの飼い主がやってきた。
「さすが鳴海さんはやることがケタが違う。豪快なのは写真だけじゃないね。」
と席にドカッと座った。鳴海さんはちょっと睨むようにしていたが、すぐに笑顔に戻って、
「だって約束したもの、宝くじがあたったらチワワ御殿を建てて皆を呼ぶって。優さんだって恵理子さんだって夢だったものね。誰が当たってもきっと実現していたわよ。もちろん趣向をどんな風にするかはそれぞれのアイデアだけどね。」
鳴海さんは私に向かってウィンクした。鳴海さんがみんなから色々聞いて悩みながらもこの御殿の趣向を考えたのは知っている。ここまで来るのは宝くじが当たったとしても大変なことなのだ。
「あとね、プールも作ったの。実はうちのチワワーズも老齢化を考えて体力増進しなくちゃって思って、チワワ用のプールを作って、チワワ用の浮き輪も作って、チワワの水中アクアビクスができるようにしたの。水の抵抗で筋力が増すし、浮力で膝とかの関節が痛まないから、適していると思うのよ。人間にもそれは言えてて、泳がなくても水中散歩するだけで筋力アップするわ。」
プールもあったらね!とは言っていたが、チワワ用のプールとは驚いた。でも確かに犬も高齢まで生きられるようになり、チワワたちの老齢化を気にする人たちが多いので、これは嬉しいところだ。
「プール!私も泳ごうかしら!私、実は競泳もやっていたのよ」
楠木さんが言った。
「楠木さん水着になるの?その横には居たくないわぁ、泳ぐ前にスタイルに差がありすぎ!」
と私が言うと、みんな大きな声で笑った。
「楽しいことをたくさん考えておいたの。明日も明後日も、みんなで楽しもう!」
鳴海さんが杯を高く掲げて言うと、みんなも歓声をあげて杯を高く上げた。
「明日が楽しみね!」
恵理子さんがウットリと言った。
次の日には朝からまた豪華な朝食が並べられ、チワワたちにもそれぞれ豪華な朝食が振る舞われた。遊びすぎや興奮しすぎて疲れてしまったチワワは食欲が落ちているようだが、喜びいさんで食べているチワワがほとんどだ。飼い主の方は、たくさんいるゲストと話しきれなくて、まだ賑わいは衰えをみせない。
今日は北海道の元祖アイドルチワワニールちゃんと飼い主に会った。最初画像を見たときには「置物?」と思うくらい整った目鼻立ちと毛並みで驚いたものだ。何しろ写真栄えする容姿で、カメラレンズのアップに耐えられるチワワだ。小さなチワワサイズのニールちゃん団扇を作ってもらったこともある。飼い主は若い女性のルルさんで、アイデア料理が上手。こちらの画像も非常に上手に美味しそうに撮られる。非常に残念なのは、北海道という遠いところにお住まいでまずなかなか会えないところだ。
一方、今日話すことができたのは九州のチワ友、こちらも女の子チワワだが、顔を見るとすぐに「女の子だなぁ」と感心してしまうくらい女子力のあるお顔。実はチワワも全員似ているわけではなくて、わりと特徴的なのである。こちらの女子力チワワはチハナちゃん。飼い主は大学生のお子さんがいる女性だ。女子力のあるチワワの飼い主は、実は飼い主も女子力があって、ネイルの画像がとても可愛かったり素敵だったりする。飼い主は幸子さん。関東圏内にいる私としては、北や南のチワ友と会えるこの機会は非常に貴重だと思う。鳴海さんのチワワ御殿に感謝である。ネットの中では日本中のチワ友が同時に会話できたりするけれど、実際に会って話すというのは難しい。これが本当のチワワ御殿なのだとしみじみ感じる。
鳴海さんが今日一日のスケジュールや見所や楽しみを壁にスクリーンを出して説明しだした。こんな風景を見ていると、どこかの一流企業の催しみたいだ。
「ということで、今日は屋外ドックランや、ピクニック、プールなんかの体力面でのお楽しみが中心になります。チワワ・飼い主共に体力面では自信がない方は、少し調整しながら参加してください。」
鳴海さんが笑顔で説明すると、おお!という歓声が起こった。実は皆美味しいものを食べ過ぎてお腹がいっぱいすぎて、少し運動しないとなどと思い始めていたところなのだった。ドックランへの草原系へ行くグループと、プールへ行くグループ、それから両方クリアしようというトライアスロン系?というグループに分かれた。私と娘は水着を借りて、チワワのアクアビクスへ参加。恵理子さんも同じくプールだった。何しろチワワのアクアビクスなんて、通常ではなかなかお目にかかれない。草原のようなドックランへ行くグループもいた。ピクニック形式でお弁当付という、まるで「ここはアメリカ?」という広大なドックランで過ごす。
「鳴海さん、すごいわね。ドックランにプールに温泉に、美味しいもの食べて過ごして。もう大満足で帰るのを忘れそうよ。本当にありがとう。」
私が鳴海さんにお礼を言った。鳴海さんは遠くドックランを仰ぎながら、
「いえいえ、チワワ御殿の発案は優さんじゃない。チワワ御殿を建てて、日本中のチワ友と会いたいって。自分が仕事から引退してチワ友めぐりをする頃には、今のチワワたちがいなくなってしまう可能性が高いから、それより前に実現したいよねって。私もそう思うから、そうしたんだよ。私も楽しい。みんなと会えて本当にうれしい。仕事で日本を離れることもあったりするけど、日本に帰ればチワワーズたちとチワ友たちがいるんだと思うと、僻地に行っても寂しくないのよ。」
そうだね。本当にその通りだ。私と鳴海さんはお互い視線は草原に向けたまま半分涙ぐんでいた。
「ねぇ、ところで明日なんだけど。ここまで滞在してくれた方は明日もいてくれるよね。」
鳴海さんが聞いてきた。
「そうだと思うわよ。ゆっくり休暇を過ごすつもりできたっていう遠方の人が中心かな?」
と私が言うと、鳴海さんは安心したようにニッコリした。
「良かったー!明日はもっとすごいのを用意してあるの。」
「へぇ!今よりすごいのを?」
「そうそう、全然すごいの。夢のアバター。」
鳴海さんが急に小声になった。私の耳に近づいて、
「夢のアバター、チワバターよ。」
私の思考回路がグルグルと回って停止した。
次の日の朝は、前の日の疲れもあってか、少し落ち着いたゲストの様子だった。チワワたちも慣れてきたのか、まるで我が家かのようにくつろいでいるチワワもいる。
「今日のお楽しみは、このチワワ御殿の最大で夢の催しです。これはきっと日本中どこにもないと思いますよ。」
朝食時に鳴海さんが発表した。周囲は昨日の疲れもあるのに、それでも「次は何か?」という好奇心の目でいっぱいだった。
「次は?チワワにコスプレして撮影会とか?」
「いやいや、もっとすごいはずだ。チワワの遊園地でも出てくるとか?チワワンダーランドとか!」
口々に勝手なことを言っている。鳴海さんはそのどれの意見にも動じず、フッと笑って一言言った。
「チワバターです。」
みんな狐につままれたような顔をしているが、私にも実はサッパリ分からない。チワバターって?
分からないながらも、これが私たちとチワワたちのとんでもない悪夢に繋がるとは、誰も想像もしていなかった。
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