上 下
63 / 64

2−5−12 集めても龍は出てこない

しおりを挟む
 うん、ますます訳がわからないぞ?

「情報とはなんでござろうか、拙者たちにもわかるように教えていただけると助かるのでござるが」

「うーん、そうだね。カゲ、勇者は知ってるよね」

「もちろん有名な方でござるよね」

 ほう、勇者もどこかにいるらしいな。
 だけど、そんなのがいるなら世界の滅びを勇者に防いでもらえばいいと思うんだが。

「同時期に、2人いたことある?」

「拙者が知る限りではいないでござるが……殿はどうでござるか?」

 その問いにラスターさんは首を横に振る。

「私も2人いたなどということは聞いたことがないな」

「魔王を倒した時もですか?」

「いいや、そもそも勇者は魔王討伐には参加していなかったよ」

「あ、そうなんですね」

「その事が、まおうとやらを復活できないのに関係あるのかい?」

「うん、あるよ。勇者も、巡りの記録を持ってるから」

「勇者が2人いるか聞いてきたってことは、それと関係がある話なんだね」

「うん、今の勇者が死ぬとするよ。そうなると、次の選ばれた誰かに巡りの記録が移って勇者になるよ。それで新しい勇者、強さ全部引き継ぐ」

 ゲームを始めたらレベルマックスでスタートみたいなものか。
 まさにチートじゃないか。

「その代わりに、同時に2人は現れない」

「なるほどね。だから出現直後のまおうでもあの強さだったのか」

 ラスターさんはそう言って1人で納得しているようだ。
 まあ、他にまおうと戦った人がここにはいないから、仕方ないとは思うが。

「でもカゲが持ってる1つだけじゃ、欠片だから強さの情報は不完全。そのせいで、まおうが復活しない」

 欠片?
 見た限り綺麗な球体をしているが。

「でも欠けているようには見えないぞ?」

「見た目はね、中の記録は1部分しかないから」

「つまり、他にも同じ物を探さないといけないでござるか?」

「あと4個か、5個ぐらい? 不足分的に、そのぐらい」

 つまり、それを全部探せということか……。

「先は長いでござるね……。して、この巡りの記録の欠片はいかがなさるのでござるか?」

「クロノスのいる、あっちで保管かな」

 そう言ったリーフが、カゲマルに向かって両手を伸ばす。
 カゲマルはそこに持っていた茶色い玉を差し出すと、抱きかかえるようにして受け取っていた。

「あのコタツのある空間でござるか?」

「あそこが、一番安全」

「確かに、普通の人は行くことはできないもんね」

 精霊域に行くには白い端末がないと駄目みたいだしな。

「それで、魔王に関して他には?」

「ごめん、思い出せたのは今話したことだけ」

 どうやらまおうの復活方法だけしか思い出せなかったみたいだ。
 もしかして別の玉を見つければ他のことも思い出せるのか?

「それじゃ、持ってくね。そうだ、コハク」

「なんだ?」

「クロノスが呼んでる、コハクだけでいいって」

 どうやらお呼ばれらしい。
 そういえばこの件が解決したら何か教えてくれるって話だったか。

「そういうことらしいから、ちょっと行ってくる」

 白い端末が入っているポケットからリィンと音が鳴って、空間に黒い穴が出来上がる。

「む、これは……」

「こりゃ驚いたね……!」

「あ、せんせーとマキナさんは見るの初めてでしたよね。精霊域っていう所に繋がってるみたいです」

「行き帰りはなんだか不思議な感覚でござるよね……あ!」

 カゲマルがそう言った瞬間、マキナさんが走り出してその穴に飛び込んた。
 マキナさんが穴の先に消えたが、すぐに飛び込んだままの体勢で穴から飛び出てきた。

「あれ? この中に入れば精霊域とやらに行けるんじゃなかったのかい?」

「招いた人だけね、マキナはだめ」

「そりゃないよ!」

 しかし、いくらあの穴について聞いたからからと言って、よく初見で躊躇なく飛び込めるな……。
 興味を持ったら止まれない性格なのか。
 まあさっさと行くとしよう。

「みんなは先に解散しててくれ、多分遅くなるだろうし」

 前に時間の流れが早いって言ってたからな。
 下手すると朝になってそうだ。

「うんわかった。それじゃあコハクまた後でね」

「いってらっしゃいでござるよ」

「ああ」

 穴へと飛び込んで精霊域へ。
 そうして、すぐにリーフと共に畳の部屋に到着する。

「戻ってきたかの」

「うん、クロノスこれ」

 来て早々、リーフがクロノスに巡りの記録の欠片を手渡した。
 するとクロノスが短い間目をつぶり、ため息をついた。

「おお、思い出したわい。確かにこれじゃな。ふむ、しかしこれは一部か」

「うん、そうみたい」

 どうやらクロノスも記憶が戻ったらしい。

「他のことは思い出せんか」

「うん、ボクも同じみたい」

 そうして2人が確認を終えたからか、こっちを向いてくる。

「さて、コハク。この度はご苦労じゃった。まだ2日あるが、少なくとも精霊兵器による世界の滅びの回避は間違いなく出来たであろう」

「1発で成功して良かったよ。まあ、1人じゃかなり無理がありそうな内容だったが」

「そうじゃのう。お主が1人ならば滅びを回避せにゃならんかったしの」

 は?
 おいおい、ちょっと待て。

「それってどういうことだよ?」

「さっき、勇者の話したよね」

 勇者は巡りの記録のこともあって1度に1人しかいないって話だよな。

「ああ、それがどうしたんだよリーフ」

「滅びのもう片方は、勇者が防いだの」

 なんで勇者がいるのに俺にやらせたのかと思ったが。
 どうやら、勇者にエルヴンヘッドで起こる滅びを防ぐのを頼まかったんじゃなくて、単純に手が足りなかったってことなのか。

「つまりこっちは俺、他の所は勇者に任せたと」

「そういうことになるの」

 というか俺が来る前にもリースが世界の滅びを防いだんだよな。

「なあ、この世界滅ぶのが趣味なの?」

「そういう訳ではないのじゃが……。まあそれで、コハクを呼んだ理由なんじゃが。実はお主に会いたいという者がいての」

 俺に会わせたい人?
 いや、ここで会わせるぐらいなんだから精霊か。

「そこで、少しの間目をつぶっていてもらってもいいかの?」

 目をつぶる理由が分からないが、俺に会いたいっていう人物は恥ずかしがり屋か何かなのか?
 でもまあそのぐらいならいいか。

「わかった」

 目を閉じて待つことにする。
 それから少しして……。

 俺はクロノスの部屋の畳の上に横に寝ている状態で目を開く事になるのだった。
しおりを挟む

処理中です...