二十五時の来訪者

木野もくば

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第五話 すれ違いの縁?③

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「カヤちゃん、もしかして何かあった?」

「何かって?」

「さっきからスマホの画面ばかり見てるよ」

「……えっ、そうかな?」

「そうだよ」

 一週間ぶりに遊びに来たハギちゃんは、スマホを確認してソワソワしているカヤコの様子が気になってしょうがなかった。

「誰かからの連絡待ち?」

「うん。新しいゲーム友達ができてね」

 ゲームという言葉にピンときたハギちゃんは、ほんの少しだけ胸がドキドキして息苦しい感じがした。

「……ゲーム友達。もしかして例のおとなりさんだったりして?」

 カヤコは図星ずぼしだと丸わかりの表情をした後、照れくさそうにうなずいた。
 ハギちゃんは、暗くしずむような気持ちになる自分に言い聞かせるように心の中でつぶやいた。

(いやいや、ショックを受けるようなことじゃないでしょ。お見合いパーティで偶然ぐうぜん知り合って、たまたま友達の部屋のベランダで会っただけだし)

「よかったじゃん、カヤちゃん! ゲームの話をしたいって言ってたもんね。」

「うん。思ってた以上にゲームのことで盛り上がったよ。その流れで連絡先を交換して……」

「なるほど、それで今も返信を待ってるとこ?」

「当たり。つい気になってスマホばかり見てたかも。……ごめんね」

あやまんないでよ~。そういうことならガンガンながめてていいから。それに気になるってことは、やっぱり恋愛的にアリってことでしょ?」

「……ハギちゃん。この間から、ずっと聞いてくるよねソレ。そんなに気になる?」

「えっ!?」

「だって私が相談しないかぎり、そういうことグイグイ聞いてくることって今まであんまりなかったじゃない? 何かハギちゃんらしくないというか……」

「えっと、その……」

 ハギちゃんは、カヤコの追求ついきゅうに思わず目をらして言葉を探す。

(どうする!? やっぱり話すべき? でもお見合いパーティの第四の男がお隣さんだったって言いづらい。“アオキ”さんだってカヤちゃんに婚活してること知られたくない可能性もあるわけだし)

「……ええとええと、ほら恋愛経験がないじゃん私。でも婚活してるわけですよ。だから友達の恋愛事情が気になるというか、参考にしたいの!」

「……でも恋愛に発展するかなんて考えるには早すぎるって。車のルームライトのことも、ついこの間の話だよ」

「それは分かってるけど今の段階の気持ちでいいから恋愛的にアリかナシか、どうしても知りたいの。できれば早めに!」

 カヤコは、今までにないハギちゃんの真剣な表情に根負こんまけした気分になり、少しだけずかしそうにしながら答える。

「……そりゃあ、アリですよ。だから連絡先交換もしたわけだし」

「そっか、教えてくれてありがとう。……やっぱりカヤちゃんがうらやましいな」

 なんとかせいいっぱいの笑顔をカヤコに向けながらも、内心、複雑な気持ちでいっぱいのハギちゃんは心の中で思った。

(ベランダで“アオキ”さんと会った時、なんで不覚ふかくにも胸が高鳴っちゃったの。お見合いパーティでは四番目に選んでたクセに。何でなの自分!?)

 そして自嘲気味じちょうぎみに笑うと覚悟を決めた様子で心の中でさけんだ。

(決めた! 今夜、ホトトギスが鳴いたらベランダに出てみよう。それでキッパリ、“アオキ”さんを忘れる。カヤちゃんと連絡先を交換したなら、わざわざベランダに出る理由もないだろうし……。でも奇跡的きせきてきに会えたとしたら)

「……なんてわれながら未練みれんがましい」

 ハギちゃんの心の声が、うっかりれたためカヤコが心配そうにする。

「……ハギちゃん。やっぱり何かあったんでしょ。本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫、大丈夫。あのさ、カヤちゃん。今日も泊まってもいい?」

「へっ? もちろんいいけど」

「ありがとう~カヤちゃん。お礼に夕飯おごるから好きなもの何でも食べて」

「おごる必要ないから話を聞かせてよ。ぜったい何か悩んでる顔だもん」

「本当に何でもないってば。そ、それより例の焼き菓子のお礼はどうする? 私も半分くらい食べたから気になってて……」

「あ~、それなら気にしなくて大丈夫かな……」

「えっ?」

「お隣りさん、えっとアオキさんって言うんだけど、このあいだ会社帰りに一緒に食事したときに……」

 “アオキ”という名前に、ハギちゃんが露骨ろこつ動揺どうようした。

(分かってたけど、やっぱり“アオキ”さんか。……というか本当の名字みょうじだったんだ。お見合いパーティだと本名ほんみょうつかわない人もいるし、まあ私も“カヤコ”で本名を使ってるけど)

「ハギちゃん?」

「ごめん! 何でもない、何でもないから。……もう一緒に食事に行ったの?」

「えっと、ベランダだと少し話しづらくて。ちょうど、おたがいの会社の帰り道がかぶるところにレストランがあるから行きませんかてきな流れで……」

「そうだよね。すぐ隣に住んではいるけど、どっちかの部屋で二人きりは少しアレだよね。食事に行くしかないか……」

「そういうこと。それで焼き菓子のお礼の話をしたらアオキさんが最初は必要ないって遠慮えんりょしてたけど、めいの誕生日プレゼント選びに悩んでたみたいで、お礼代わりに相談にのってほしいって」

めいっ子がいるんだ」

「うん。年が離れたお姉さんがいるみたいでめいっ子ちゃんは、もう中学生だって」

「中学生の女の子か~。たしかに難しい年頃としごろだもんね。プレゼントに悩む気持ちが分かるかも」

「……アオキさん、お姉さんへの気の使い方が、うちの弟とソックリなんだよね。それでほっとけない感じがして、よかったら買い物に付き合いますよってメッセージをつい送っちゃった」

「あ~なるほど、それでソワソワして返信を待ってたのね」

「そうです。メッセージに既読きどくはついたけど返信がまだなくて、迷惑めいわくだったかもって送ったこと後悔こうかい中……」

 そう話したカヤコが、テーブルに顔をした時だった。スマホから受信音が鳴ったため、恐る恐る内容を確認する。そしてメッセージを読む表情がパッと明るくなった。

 そんなカヤコの様子を見て、ハギちゃんはホッとした気持ちの他に、ガッカリする気持ちが少しだけあることに自己嫌悪じこけんおした。

 しばらくしてカヤコとハギちゃんが外食に出かけた後、入れ替わるようにして友人と釣りに出かけていたアオキが隣の部屋に帰ってきた。

「あんまりれなかったな」

 友人はクーラーボックスの中の魚をながめながらアオキに声をかける。

「……そうだな」

 アオキは、スマホの画面をながめながら空返事からへんじをした。

「……お前、せっかく釣りにいったのに、途中からスマホばっかりいじってただろ?」

「……そうだな」

「お前な~」

 話を全く聞いていないアオキに、あきれている友人のスマホに着信が入った。

「はい。もしもし“アオキ”です」

「えっ!? 呼んだ?」

『バカ! 俺のことだよ。電話中だ』

 友人は、人差し指を口にあてながら静かにしろとジェスチャーしていたので、アオキは電話がおわるまでベランダで待つことにした。

(そう言えば、ユウスケの名字みょうじも“アオキ”だったな)

 友人のユウスケの名字で、この間のカヤコとのやり取りを思い出して隣の部屋のベランダを見た。
 あの時、素直に自分の名前を綺麗きれいだと言ってくれたカヤコに胸がときめいてしまっていた。

(わざわざ買い物に付き合ってくれるなんて、これは期待きたいしていいのか? いやでも、カヤコさんが面倒見めんどうみが良い人なだけかもしれないし)

 アオキがベランダで、あれこれ悩んでいると、電話を終えた友人がやってきた。 

「アオキ、ごめんな。会社の先輩からだった。……って、お前またボーとして」

「……なあ、ユウスケ。お前、女友達と買い物に行ったことあるか?」

「何だイヤミか? そんな相手がいるなら婚活してねえよ」

「まあ、そうだよな。ハア~、役に立たないヤツ」

「おいっ! いきなりけなすな。なんか今日のお前、色々と腹立つな」

「じゃあ、とっとと帰れ」

「帰らない! 今日も泊まる!」

「だから泊まる必要ないくらい家が近いだろ。先週から何なんだよ。まさか、またホトトギスか?」

「え、えーとな。……まあ、とにかく魚もさばくし酒もおごるから。頼む!泊まらせてくれ」

「わ、分かったよ。でも酒はいいや。……明日の午前中、出かける予定があるから飲まない」

「明日、日曜日だし仕事関連じゃないよな。大事な用なのか?」

「大事な用……かもしれない」

「まさか彼女ができたのか!?」

「か、彼女ではない。その、ゲーム友達だよ」

 そう話したアオキは赤くなった顔を隠すように、そっぽを向くと部屋着へやぎに着替えはじめた。

「……ゲーム友達」

 ユウスケは、着替え終えたアオキのゲームキャラのTシャツを見ながら何かをさっしたようにつぶやいた。



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