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第四話 すれ違いの縁?②
しおりを挟む「昼鳴かず、なぜ夜に鳴くホトトギス」
ハギちゃんが昼過ぎに帰ったあと、特にすることがないカヤコは何気なくベランダに出て川柳を詠んでみた。そして深夜に鳴き声が聞こえてくる山の方を見つめる。
(本当に昼間はぜんぜん鳴かないくせに、何で決まって二十五時から鳴くんだか。去年は鳴いてなかったから新入りのホトトギスなのかな)
スマホでホトトギスについて、もう一度くわしく調べようとしていると、メールアプリにハギちゃんからのメッセージが届いた。
それを読んだカヤコは、少しだけゲンナリした表情になる。
(三回くらい同じこと聞かれてる気がする。お隣さんが恋愛的にアリかナシかって……。何でそこまで気になるんだか。それに恋人がいる可能性だってあるわけなのに)
ハア~とため息をつくと、ほとんど話したことがない相手だから分からない的な内容をパパっと返信してホトトギスの情報検索に戻る。
(ええと、オスがメスを呼んだり縄張りを主張したり、少しでも繁殖のチャンスを得るため夜通し鳴き声をあげることがある。……この間と同じような情報しかない。まあ、二十五時ピッタリに鳴き始める理由なんて書いてあるわけないか)
ホトトギスについて思案していると、再びハギちゃんからメッセージが届いて内容を確認したカヤコが訝しげに首をひねった。
(焼き菓子のお返しをするべきだって? 私も食べたから一緒にお返しするって……。昨日は、お礼返しはキリがないからやめとけって言ってたのに。でも、たしかに高めの焼き菓子だったしな~)
カヤコがベランダで色々と考え込んでいると、駐車場の方から声が聞こえてきた。聞き覚えがある声だったので、思わず外から見えないようにしゃがみ込む。
(隠れる必要ないのに何やってんの私!? ……お隣さんも友達が来てたのか)
お隣さんと友人が話している内容が気になり、カヤコは悪いと思いつつも、ついつい二人の会話に耳を傾けてしまう。
「“アオキ”わるいな。家すぐ近くなのに車で送ってもらって」
「……いやだって、目の下のクマがすごいことになってるし、さすがに心配というか」
「けっきょく、一睡もできなくて。鳥も鳴いたり鳴きやんだりと明け方まで繰り返して鳴いてたし」
「あ、朝まで、ずっと拝んでたのか!?」
「別に、ずっと拝み続けてたわけじゃないんだけどさ。……なあ」
「ん?」
「あ、いや、やっぱり何でもない。……今日も泊まろうかな」
お隣さんの友人は、そう言いながらカヤコの部屋のベランダをチラ見する。
「はあ!? ぜったいにイヤなんだけど。気持ち良く眠ってただけなのに、何で急に背中をぶったたいてきたんだよ? ……とにかく今のお前はヤバい気がする。自分の家に帰って寝てくれ」
お隣さんと友人の男性が車で出発したことを確認すると、ベランダで隠れるように身を屈めていたカヤコがゆっくりと立ち上がる。
(お隣さん、“アオキ”さんって名字なんだ。よく考えたら名前も知らなかったな。表札ないんだよね。まあ、うちもプライバシー的なアレで表札は出してないけど……)
「それにしても、まさかの“アオキ”とは」
カヤコは、部屋の中に入ると壁掛け時計を見つめた。チクタクと静かに音をたてて、秒針が時を刻み続けている。
「……縁か」
ぼそっと、そう呟くと少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
再び夜が更けて、時計の針が深夜一時を指した頃だった。
『ホッチョンカケタカ』
ホトトギスの声に目が覚め、カヤコがガバッと起き上がり頭をかかえた。
「昨日は気付かず熟睡できたのに~」
(お隣さんも起こされてたりして……)
ほんの少しだけ好奇心がわいて、ベランダに出てみた時だった。隣の部屋のベランダから、ほぼ同時に男性が出てきた。
「…………」
「…………」
二人とも何ともいえない表情でフリーズしていたが、すぐに引きつった笑顔で互いに会釈した。
すぐに男性が部屋に戻ろうとした様子を見て、カヤコが慌てて声をかけた。
「“アオキ”さん! お菓子すごく美味しかったです。ありがとうございました」
「えっ!? なんで俺の名前を?」
(しまった。つい……)
男性のあきらかに動揺している様子に、カヤコの顔が青くなる。
「ご、ごめんなさい。ベランダで偶然つい聞いちゃって。そ、その個人情報なのに、すみませんでした」
「ち、違うんですよ。そういうことじゃなくて、“アオキ”って、その名前なんですよ」
「えっ? ……はい、お友達が呼んでいるのを聞いちゃって」
「あ、いや。えっと、そうじゃなくて“アオキ”って名字ではなく名前なんです」
「へっ?」
「あはは……。よく間違えられます。友達にも名字が“アオキ”ってヤツがいますし、紛らわしいですよね」
「な、名前でしたか……」
「は、はい。アオは下の方に石が入っている漢字の、碧に輝くって書いて碧輝です」
「すごく綺麗な名前ですね。なんか澄んだ青空とか輝いているように見える海の色みたいで」
カヤコの言葉は、お世辞ではなく本心である素直な感想だった。それが伝わったのかアオキがうれしそうな表情を浮かべる。
「実際、そういう意味で両親が名付けてくれたみたいです。名字みたいで変わってると言われることもあるけど俺は気に入ってるんですよ」
「それを聞いたら、きっとご両親が喜ばれますね。名前って親からの最初の贈り物みたいなものだし。私も自分の名前が茅子って言うんですが、穏やかで豊かな人生を送ってほしいみたいな意味らしくて気に入ってます」
「親からの贈り物か……。カヤコさんのご両親こそ、うれしいでしょうね。そんな素敵な言い方をしてもらえたら」
そう話したアオキは、少しだけ間があいた後、何かに気付いた様子で急に焦り始めた。
「す、すみません。俺こそ、名前を慣れ慣れしく呼んじゃって」
それを聞いてカヤコは、少しだけアオキとの距離が近づいたように感じた。それが、なぜだか嬉しくなり思わず言ってしまった。
「私も呼んじゃったし、お互いさまですよ。よかったら、このままカヤコで大丈夫です!」
そう話したカヤコが少し間をあけた後、次第に余計なことを言ったかもと顔色が悪くなるような感じで焦り出した。
カヤコのそんな様子が、薄暗い中でも見て取れたアオキは思わず吹き出した。そして笑顔で言った。
「俺のこともアオキって呼んで下さい。改めてよろしくお願いします。カヤコさん」
アオキの笑顔につられて、カヤコにも笑顔が戻る。
「こちらこそ改めてよろしくお願いします。アオキさん」
『テッペンカケタカキョキョキョ』
ホトトギスの鳴き声がする夜の時間のなか、二人はそこそこ長い会話を楽しんだ。
どちらも、このままだと寝不足だと思いつつも、もっと話したいという気持ちでいっぱいになっていた。
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