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第十話 初夏の終わりに②
しおりを挟む「飲み物とか色いろ買ってきたので、ここに置いておきますね」
「アオキさん、本当に本当にありがとうございます。本当に本当に助かります」
「そ、そんなにかしこまらないで下さいよ。お世話させてくれるのがお礼でいいって言ったじゃないですか」
それを聞いて、カヤコの目からポロポロと涙がこぼれた。
「ど、どうしました?」
「自分でも分かりません。こんなに優しくされると涙が勝手に。……それに最近、アオキさんに避けられているような気がしてて、今日もまた迷惑かけちゃったし」
「ええ!? ぜんぜん避けてないですよ。な、何でそう思ったんですか?」
「何度か一緒にゲームをしようってお誘いしてるのに、ずっと断られているから」
「そ、それは!」
「あの時のベランダでは、いいよって言ってくれたのに」
「いいよとは言ってませんよ。……正直に言います。あの時、少しだけ下心があると言いましたが、本当は半分、いやもっとあります」
「えっ!?」
「でもカヤコさんが好きだから、絶対に傷つけることはしたくなくて簡単に部屋に上がれなかっただけです」
「………………」
アオキの急な告白に、カヤコが顔を赤くして戸惑った。
同じように顔を赤くしたアオキは、カヤコが横になっているベッドの側までくると、目線を合わせるようにしゃがんだ。
「こんな時に言うことじゃないのかもしれませんが、俺、カヤコさんが好きです。だから一緒にいられるだけでいいというか、今の状況が充分お礼になっているんですよ」
「え、えっと……」
カヤコは返事を探しながら、無意識に毛布を引っ張ると自分の体の線が見えないように隠すような素振りをしてしまった。
「け、警戒しなくても大丈夫ですよ。絶対に何もしません。それにカヤコさんの気持ちは今ので分かりましたから。……でも治るまで心配なので、お世話させて下さいね。貴重なゲーム友達ですし」
アオキが、少しだけ落胆しながらもカヤコに笑顔を見せた時だった。カヤコが何かを決心したような表情をすると、側から離れようとしたアオキに声をかける。
「……アオキさん。起き上がりたいので手伝ってもらえますか?」
「えっ? ……はい」
手伝ってもらいながら体を起こすと、カヤコは自分の体を支えてくれていたアオキの手に自分の手をそっと添えて言った。
「私にも下心ありますよ」
「へっ?」
「だから私も下心がなければ部屋に誘ったりしません。私も二十代半ばだし男の下心くらい分かります。好きでもない男の人を部屋に上げるわけないじゃないですか」
「で、でも、話したいだけだって……」
「だって、それも本心でしたから。本当は、もっと時間をかけて仲良くなりたかったのに。……アオキさんがいけないんですよ!」
「ええ!? 何でですか?」
「私に貢ぐような真似するから! モノで釣ろうとするなんてヒドいです」
「そんなつもりはなかったんですよ。俺だって、もう少し時間をかけて仲良くなりたかったです。でも、ユウスケたちの勘違いのせいで、こうなったとしか……」
「……たしかにハギちゃんも何も教えてくれなかったし。でも当の本人たちは順調みたいですよね。あんなに幸せそうな顔みたら文句が言えないです」
「そうそう、あんなに人を振り回しておいて。ユウスケのヤツ、ハギノさんにゾッコンで毎日幸せそうですよ。そう遠くないうちに結婚するかもしれませんね」
「そうですね。結婚願望が強い二人だから早そうかも。ハギちゃんも、最近は“アオキ”さんのことばかり話してますよ。この間も、きっかけを作ったホトトギスにお礼を言いたくて二人でバードウォッチングに行ったみたいだし」
「その話、俺も聞きました。でも見つからなかったみたいですね」
『トッキョキョカキョク』
「あっ! また、タイミングよく鳴きましたね」
「な、なんか俺たち、ホトトギスに監視されてて遊ばれてるわけじゃないですよね?」
「ねー。本当に不思議ですよね。仲人してくれてるようにも感じます。ハギちゃんたちを見ていると」
そんな冗談を言いながら二人で笑い合ったあと、アオキは自分の手に添えられたままのカヤコの手を見つめた。
「……あの、話ズレちゃいましたけど、カヤコさんの返事を聞いてもいいですか?」
「……はい。私も好きです」
それを聞いたアオキが思わず、カヤコの手に自分の指を絡ませた。しかし、ビクッと震えたカヤコの様子を見て、パッと手を離した。
「ご、ごめんなさい。私も下心があると言ったものの男性経験がなくて、その……」
「俺こそ、すいません。……あのでも、これで一応、彼氏彼女になったわけだし、遠慮なく甘えて下さいね。カヤコさん」
その言葉に、また瞳に涙を浮かばせながら、カヤコはゆっくり頷いた。そんな様子を見てホッとした表情をしたアオキが、カヤコの部屋の掛け時計を見ながら言った。
「もう夕方ですね。夕飯、何がいいですか? 買ってきますので」
「夕飯……。 あのそれなら、えっとアオキさん、料理は得意ですか?」
「得意ではないですが、一人暮らしは長いので簡単な物くらいなら」
「よかった! 叔父からもらったジャガイモとタマネギがいっぱいあって、冷蔵庫にある消費期限が今日までのお肉を使いたいんですが……」
「了解です! たしか俺の部屋にカレールウがあったから、カレーライスにしましょうか?」
「はい! 私も、野菜の皮むきくらいなら出来ますし」
「カヤコさんは、ゆっくり休んでて下さい。出来たら持っていきますから」
申し訳なさそうなカヤコをなだめて、アオキは自分の部屋にもどると料理を作り始めた。完成する頃には、外はすっかり暗くなっていた。
「カヤコさん! 出来ましたよ。一緒に……」
カヤコの部屋に鍋をかかえて戻ったアオキは、そこまで言いかけると静かにほほ笑んだ。優しく見つめる先にはスヤスヤ眠るカヤコがいた。
(朝、早く起きたって言ってたし、色々ありすぎたからな……。起きたら一緒に食べよう)
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