二十五時の来訪者

木野もくば

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第十一話 初夏の終わりに③

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『トッキョキョカキョクテッペンカケタカ』

 カヤコはホトトギスの鳴き声で、パッと目を覚ました。

(あれ? 私、たしかアオキさんがカレーを作ってくれるのを待ってて……)

 そんなことを思いながら、部屋の壁掛け時計を見てみると時刻は深夜一時を指していた。

「二十五時!? な、なんで?」

 おどろいて周りを見渡すと、部屋のすみっこの方で、体育座りの姿勢で壁にもたれかかり眠っているアオキの姿が目に入った。

「……アオキさん」

 気持ちよさそうに寝息ねいきをたてている様子に、カヤコが起こすことをためらっていると再び鳴き声が聞こえた。

『キョキョキョキョキョキョ』

「ん?」

 今度はアオキがパッと目を覚まして、ゆっくりと起き上がった瞬間しゅんかん、カヤコと目が合った。

「……あれ何で!?」

 すぐに状況じょうきょうを理解したアオキの顔がになる。

「すみません。気付いたら俺もてたみたいで」

 そう言いながら部屋の壁掛け時計を見た後に、呆然ぼうぜんとした表情になる。

「……二十五時? というか、まだ鳴くの?」

 アオキが、そうつぶやくと、カヤコが思わず吹き出してしまった。

「ぷっ、あはは。あっ、ごめんなさい。私たち、どれだけ二十五時のホトトギスとえんがあるんだろうって思っちゃって」

「本当にそうですね…。くっ、あははは」

 カヤコにつられてアオキも笑い出す。しばらく笑い合った後に、アオキが外の方を見てあることに気付く。

「なんか、深夜のわりには、外が明るくないですか?」

「たしかに……」

 不思議に思い、スマホの時刻を確認してみると朝の六時と表示されていた。

「えっ!? じゃあ、時計が……」

「……止まっちゃったみたいですね」 

 アオキが壁掛け時計を確認しながら、カヤコにたずねた。

「けっこう年代物ねんだいものの時計ですね。修理に出してみますか?」

「…………いいえ、大丈夫です。だいぶ古い時計だから休ませる時期が来たんだと思います」

 カヤコは静かに答えると、二十五時ちょうどで止まったままの時計をしばらく見つめていた。 

 時を刻まなくなった時計の前でも、変わらず二人の時間は過ぎていく。

 二人はカレーライスを朝食に食べながら会話を楽しんだ。
 昼前にハギちゃんとユウスケが、カヤコのケガを心配してやってくる。 
 続いてカヤコの大叔父おおおじもお見舞いにやって来た。なぜか、ユウスケと大叔父おおおじが意気投合して盛り上がる。
 そのあとも色々あり、あっという間に一日が過ぎていって、再び夜になった。

「何だかんだで楽しい一日でしたね」

「そうですね。でもアオキさんは、叔父おじさんとお友達の“アオキ”さんの相手で大変そうでしたね。何だかすみません」

「な、なんか似ている二人でしたね。パワフルというか元気先行せんこうというか。何でケガ人の部屋で焼肉をするっていう発想になるんだか。止められなくてすみませんでした」

「いえいえそんな、私も楽しめましたので。ただ、アオキさんとハギちゃんが叔父おじさんに振り回されてるのが少し申し訳なかったです」

「ハハハ……。でも良いお肉を皆に、ご馳走ちそうしてくれたし、すごく明るくて気さくで裏表のない感じのいい人ですね。それにカヤコさんの大叔父おおおじさんという割には、だいぶ若くて話しやすかったですし」

「お祖母ばあちゃんの弟で、二十歳ちかく年が離れているんです。だから、まだ六十代で、うちの父との方が年が近いんですよ」

「へー。俺も姉とは十五歳くらい年が離れてるから、何だか親近感がわきます」

「実は私も、年が十二歳はなれた弟と、さらに二十歳はなれた妹がいます」

「じゃあ、弟さんが十三歳で、妹さんの方が、まだ五歳ですか?」

「そうなんですよ。すごく可愛かわいいです。そこの壁に貼ってある写真に写ってますよ」

 アオキが、動かなくなった壁掛け時計のとなりに飾ってある写真を眺めながら言った。

「どちらもカヤコさんのことが大好きなんですね。写真からでも伝わります。俺、弟とか妹がいないので少しうらやましいです」

「私も弟と妹が大好きです。…………だからなのかな」

「えっ?」

「あっ! いいえ、何でもないです。そ、それより、ハギちゃんが作ってくれた夕ご飯をいただきましょうか。すごく美味おいしいですよ。ハギちゃんのご飯」

「なんか俺の分まで申し訳ないです。それに、今日から骨折が治るまで、ハギノさんが泊まりでカヤコさんの側にいてくれることになったわけで……。俺は、お役御免やくごめんですね」

「ご、ごめんなさい。だって、お風呂とか着替えとか、アオキさんに手伝ってもらうわけには……」

「……そ、そうでした。でも、俺にできることなら何でも言ってくださいね」

「ありがとうございます。そういえば、アオキさんの部屋にも、お友達の“アオキ”さんが泊まるんですよね。その、私の骨折が治るまで……」

「なんで、アイツまで泊まる必要があるのかなぞですけどね」

「あははは……。でも今、ハギちゃんと買い出しに行ってくれて本当に助かります。明日は仕事が終わった後に、みんなに自慢じまんさけ料理を作ってくれるみたいですね」

「そう言えば、ユウスケの見舞いの品が丸々一匹のさけでしたね……。骨によさそうだったからとか言ってたけど、何か本当にすみません」

「いえいえ、そんな。実は、ハギちゃんからコッソリ聞いたんですけど、そのさけ時鮭ときしらずっていう名前で、さけのなかでも特に美味おいしいそうです。“アオキ”さんは自分へのご褒美ほうび用として、けっこう前から予約注文してたみたいで今日ちょうど届いたそうなんです」

「……なるほど、ユウスケらしい」

「自分が楽しみにしていたものを迷いなく人に食べてほしいって理由でアッサリ渡せるところを見て、ハギちゃんは、もっと好きになったみたいですよ」

「……ユウスケが理解ある人にめぐりあえて本当に良かったなと思います。……あと俺も」

『テッペンカケタカ』

「あら? また鳴きましたね」

「ホトトギス、まさかお前は、まだ巡り合ってないから鳴くのか!?」

『トッキョキョカキョク』

「ガンバレ! まだ間に合う。お前なら大丈夫だ」

『キョキョ……』

「ふふふ…。なんか、友情が芽生えてませんか?」
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